最近,大気中の微小粒子状物質PM2.5が大きな関心を集めている.NO2やSO2など単一の化学成分からなる大気汚染物質と異なり,PM2.5の多くは複数の化学成分で構成されており,その定義は成分ではなく,粒径(2.5 μm以下の粒子)により定められている.ディーゼル排気粒子(DEP)の粒径はおよそ100 nmであり,PM2.5のひとつとして含まれている.
PM2.5は非常に小さい粒子であるため肺の奥深くまで入り込み,呼吸器系や循環器系に影響をおよぼすことが指摘されている.大気粒子やDEPによる呼吸器・循環器系への影響として,炎症の誘発あるいは増悪作用が重要視されている.炎症の誘発・増悪には,生体における酸化ストレスの誘導が重要であることはよく知られている.粒子による酸化ストレスの誘導には,粒子の酸化能が強く係わっていると考えられている.これらのことから,様々な粒子の生体影響を簡便に予測・比較することを目的に,粒子の酸化能の解析法であるDTTアッセイが広く用いられるようになった.
前述の通り,PM2.5は複数の化学成分で構成されており,季節,地域,天候,時間帯によってその成分や組成比は大きく変化する.また,DEPもエンジンの年代,型式,運転条件などにより,その組成が変わる.粒子に含まれる化学成分の種類や量によって酸化能は変わるため,粒子の生体影響を理解する上で化学成分の把握は必須である.しかし,粒子に含まれている化学成分のうち酸化能に寄与する成分はひとつとは限らず,むしろ活性の異なる複数の成分が混在する場合もあることから,粒子中の酸化能に寄与している成分を,化学分析による含有量の情報だけで理解することはできない.
ディーゼル排気に関するこれまでの知見から,DEPに含まれる化学成分のうち,酸化能に係わる主要な成分として,金属類やキノン類が指摘されている.これまで我々は,粒子の金属成分の酸化能への寄与を評価する手法として金属キレート剤を用いた方法を検討した.その結果,金属キレート剤を用いることで粒子中の金属成分の作用が抑制されることが示された.その一方で,粒子の酸化能におけるキノン類の寄与を評価する手法も求められている.その方法のひとつとして熱処理によりキノンを含む炭化水素成分を揮発させる手法が知られている.しかし,熱処理はキノンを揮発させるのみならず,不揮発性成分を変性させる恐れがある.そこで,熱処理法だけでなく,加熱の必要のない方法として,炭化水素成分を吸着するC18カートリッジカラムを活用する手法がキノンの関与を検討するうえで有効であると考えた.
本研究では,酸化能における粒子中の炭化水素成分の寄与を評価する手法を確立することを目的に,1)熱処理法の有効性の確認(熱処理DEPの酸化能の解析),2)C18カートリッジカラム処置法の検討(カラム処置したキノンと金属の酸化能の予備解析),3)C18カートリッジカラム処置の有効性の確認(カラム処理したDEPの酸化能の解析),について検討した.
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