燃料電池自動車の世界統一基準で規定される炭素繊維複合容器(CFRP複合容器) では,水素を充填することができる容器の最高充填圧力は,環境温度15°Cを基準とした内圧が示される.また,容器の最高使用温度は85°Cである1).容器の内圧は環境温度により変化するので,たとえば,環境温度が15°Cから最高使用温度の85°Cへ変化すると,内圧は約1.25倍に増加する.故に,CFRP複合容器には,環境温度に配慮した耐熱性能と,その温度変化に伴う容器の内圧に配慮した耐圧性能を兼ね備える必要がある.
そこで,車両火災が発生した際のCFRP複合容器の状態を考えてみたい.CFRP複合容器には,火災時の容器の破裂を避けるため,火災時の熱を検知し,容器内のガスを放出させる熱作動式安全弁(Thermally-activated Pressure Relief Device:TPRD)が装着される.しかし,消火活動などでTPRDが作動する前に鎮火すると,CFRP複合容器には高圧の水素ガスが残された状態になる.さらに,容器が消火放水の掛かりにくい箇所に搭載されていた場合など,状況によっては,容器はガスが充填された状態で,数時間,使用温度以上の環境に放置されることも想定される.このような火災車両を,安全に移動・保管するには,鎮火後の容器の健全性を判断し,迅速にガスを抜くなどの処置が必要である.しかし,鎮火後のCFRP複合容器の取扱い方法に関する知見は,ほとんどない.この知見を得るには,容器が使用温度以上に加熱され,破裂や漏れが発生して容器の機能が失われた時の温度(以下,限界温度という)と,その限界に至るまでの状況を知る必要がある.
CFRP複合容器の限界温度は,実際に調べられたことはなく,CFRP材料の限界温度とみなされる炭素繊維に含浸したレジン(エポキシ樹脂)の熱分解温度と同じである1)2)と推定されている.
本研究では,使用最大圧力でフル充填した2種類のCFRP複合容器を加熱し,火災時の耐熱および耐圧性能を考慮した自動車用CFRP複合容器の限界温度と限界時の内圧を調べた.また,限界温度未満の容器については,鎮火後も容器の耐圧性能が失われていないかを確認するため,容器の破裂強度を調べるとともに,得られた限界温度と容器の観察から,TPRDが作動していない鎮火後のCFRP複合容器の取扱い方法について考察した.
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