2014年に市販が開始された燃料電池自動車(FCV)の本格普及に向け,低コストでかつ一定の品質要件を満たした水素供給が重要な課題となっている.水素燃料コスト低減のためには,水素の大量かつ長距離輸送,貯蔵技術の開発が必要である.その有望なプロセスとして,有機ハイドライドによる水素供給技術が検討されており,2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおける実証を目標に開発されている.有機ハイドライドはトルエン等をはじめとする有機化合物の水素化・脱水素化反応により水素貯蔵が可能な媒体である.有機ハイドライドは,水素を液体で輸送可能であり,タンカーや備蓄タンクなど既存のインフラを活用することもできる.トルエン(C7H8)-メチルシクロヘキサン(C7H14)系の場合の水素化・脱水素化反応を式(1)に示す.
C7H8 + 3H2 ⇔ C7H14 (1)
このプロセスを利用して水素を供給するとき,トルエン,メチルシクロヘキサンおよび他の炭化水素類が水素燃料中に混入する可能性が考えられる.現行のFCV用水素品質規格(ISO 14687-2: 2012)において,炭化水素はC1換算として2 ppm/C1以下と規定されている.
炭化水素類が燃料電池アノードに混入したときの発電性能に及ぼす影響については,WangやDornらによりトルエン,Wangや辰巳らによりベンゼンの結果が報告されている.しかしこれらの条件は白金担持量が多いことや,燃料電池の作動温度が80℃のみの評価であるなど,現状のFCV技術や運転条件を十分に反映できていない.そこで本研究では,有機ハイドライド由来の不純物による影響をスクリーニング調査し,セル電圧への影響の有無を明らかにすることを目的とした.また,有機ハイドライド不純物として最も混入可能性が高いトルエンについては反応機構を解明するため,燃料電池アノード排出ガスを分析した.
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