JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
2021 巻, 10 号
JARI Research Journal 2021年10月号
選択された号の論文の1件中1~1を表示しています
研究速報
  • 早崎 将光
    原稿種別: 研究速報
    2021 年2021 巻10 号 論文ID: JRJ20211001
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/16
    研究報告書・技術報告書 フリー
     無人航空機 (Unmanned Aerial Vehicle: UAV) 、一般的にはドローンと呼称される飛行体は、近年の技術発展に伴う性能向上 (機体・搭載カメラなどの両方) や機体販売価格の低下などにより、世界的に急速に普及しつつある。日本国内でも官邸・経産省・国交省などが主導し、物流・災害対応・医療・農林水産業・測量・監視 (インフラ維持管理・警備業) など様々な業務でドローンの利活用を進めるべくロードマップを設定している。ロードマップで示されるドローンの利用計画を見ると、2022年度内にレベル4 (有人地帯での目視外飛行) の飛行実現を目標としており、将来的には人口密度の高い都市域での運用をも視野に入れた利活用を想定している。  様々な分野でのドローン利活用が推進されている中、近年では大気環境科学分野にも利用されつつある。国外の研究例では、港湾部におけるオゾン (O3) センサを搭載したドローン観測から、船舶排煙の一酸化窒素 (NO) による船舶航路上空での明瞭なO3消失が報告されている。また、複数の大気汚染物質計測用ドローンの自律飛行観測から、地域スケールの大気質指数を得る試みなども報告されている3)。日本国内においても、埼玉県における上空O3観測や淡路島でのPM2.5・O3計測などが実施されている。  大気汚染研究の歴史的背景を見ると、1960年代から70年代にかけての「公害問題」が顕在化した時代では、自動車や固定発生源 (工場、発電所、燃焼施設等) を起源とする高濃度の大気汚染物質排出が主に問題視されていた。特に高濃度となる季節や対象物質としては、盛夏期のオゾン (O3) や晩秋?初冬期の窒素酸化物 (NOx) や浮遊粒子状物質 (Suspended Particulate Matter: SPM) などが挙げられ。大気環境改善のための排出規制の適用・強化が進展し、年平均濃度などで見れば大気汚染物質の濃度は大幅に低減したが、近年でも短時間の高濃度イベントはたびたび発生している。従来研究で寒候期における短期の高濃度汚染の原因として挙げられているのが、地表付近の安定成層の形成、すなわち気温逆転層の形成である。気温逆転層では安定成層状態となるため鉛直方向の運動が生じにくく、地上近傍から排出された大気汚染物質の多くは逆転層内やその下層側に閉じ込められやすくなる。したがって、現代でも気温逆転層が形成されていると思われる場合に高濃度大気汚染イベントが発生する場合がある。  高濃度大気汚染の要因の一つである気温逆転層に関しては、実態把握のための観測的研究もおこなわれてきた。例えば、気象研究所 (茨城県つくば市) に建設された気象観測鉄塔 (高さ213 m) では、7高度 (10、 25、 50、 100、 150、 200、 213 m) に気温・湿度・風向風速などのセンサを設置し、長期測定 (1975?2009年)が実施されていた。観測開始初期段階での報告では、高度100 m程度までの気温逆転層の存在とその時間発展に関する事例も紹介されている。ただし、同鉄塔は老朽化が著しかったこと、維持管理に多額の費用がかかること、新しい観測技術 (ウィンドプロファイラなどのリモートセンシング技術) の導入で一部データは代替できたこと、など多くの理由が重なり、2011年6月に解体された。気象要素鉛直分布の直接観測は途絶えたが、鉛直観測の意義が失われたわけではない。実際に、ヒートアイランド関連研究や筑波山の斜面温暖帯研究などでも、気温逆転層の動態やその影響範囲に関する研究がおこなわれてきた。ただし、いずれも短期かつイベント的事象の研究であるうえに、大気汚染物質濃度の測定はない。  したがって、気象学・大気環境科学の両分野で気温逆転層という現象に対する学術的関心は近年でもあるものの、気象要素や大気汚染物質濃度の地上近傍 (地上?高度100 m程度) における鉛直分布の観測資料が十分とは言えない。人間社会にとって身近な領域でありながら、既存の大気汚染常時監視測定局だけでは汚染物質動態の全容を把握しきれていない可能性がある。  ドローンの技術発展・普及に加え、小型かつ安価なセンサ類が開発・販売されていることから、本研究ではこれら汎用製品から気象要素・大気汚染物質濃度の鉛直分布を測定するドローンシステム (以下、「環境計測用ドローン」という) を構築し、現実大気での運用結果とその観測値の初期的な解析結果を報告する。
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