本邦において、大学生が性暴力被害者となる事件が問題となり、大学での被害学生に対する支援が必要とされている。本研究は性暴力被害を受けた学生の「回復」を促す支援を明らかにすることを目的とし、性暴力被害学生の対応経験がある学生相談機関の支援者10名に対し、2021年3~9月にインタビュー調査を実施した。インタビューの逐語データを①時期別、②支援を行う上で困難だったこと、③被害からの回復に有効だったことのサブデータセットに分け、計量的テキスト分析により分析を行った。被害からの回復に有効だったこととして【被害学生の心理を理解した教員の対応】【被害学生対応と加害者対応がスムーズに進む】【支援者全員で対応できる環境】【適切な支援者への紹介と連携】【支援者のアウトリーチを含む支援】【教務・学生課による支援】のカテゴリが生成された。支援者が部署内の他の支援者と話し合いや役割分担ができる良好な関係にあること、学内の教職員が被害学生を理解し支援すること、支援者が学内外の相談機関やワンストップ支援センター等の情報を被害者に提示し被害者自らが支援を選べること、が支援者にとって支援を行う上で有効であった。
学生相談における心理面接の効果を測定する尺度開発の資料とするために、学生相談カウンセラーのとらえる心理面接の効果および大学生の心理的成長についてアンケート調査を実施した。35名から回答を得て自由記述の意味内容について質的分析を行った。心理面接の効果では23の小カテゴリから、13の中カテゴリが生成され、《主訴・症状の変化》《学生生活の変化》《学生個人の変化》《面接場面におけるCl-Co関係の変化》の4つの大カテゴリに大別された。心理的成長についての回答では22の小カテゴリから8つの中カテゴリが生成され、《学生個人の変化》《社会適応》《面接場面での変化》の3つの大カテゴリに大別された。心理面接の効果の指標には、大学生の心理的成長に関する質問で得た回答と同じものが含まれていることから、カウンセラーは心理的成長を面接場面でのクライエントの変化の重要な指標としてとらえていることが示された。本研究ではカウンセラー側からの評価について検討したが、心理的成長など内面的変化は来談学生には自覚しにくいものもあり、心理面接の効果や心理的成長をカウンセラー側から測定することに意義があると考えられた。
本研究の目的は、台湾における学生相談・学生支援に関する研究のレビューを行い、台湾における最近の研究課題に関する基礎的資料を得ることにより、日本における研究に資する知見を得ることであった。文献データベースから選択された43編の研究論文のレビューを行ったところ、これらは、(1)大学生の学生生活の状況に関する研究、(2)大学生の精神的健康に関連する諸要因に関する研究、(3)学生相談機関の利用促進及び相談・支援の質的向上に関する研究、(4)大学生の家族関係に関する研究、(5)大学生を取り巻く社会的問題に関する研究、の5つの研究課題に整理された。また台湾において大学生の学生生活への適応や学生相談機関の利用促進に関する研究が多いことは日本との共通点と考えられたが、発達障害学生支援に関する研究課題が見出されないこと、社会的・文化的背景が大学生に及ぼす影響を意識した研究が多く行われていることは日本との相違点と考えられた。さらに大学生を取り巻く社会的問題に焦点を当てた研究は、日本における学生相談・学生支援に示唆を与えうることを指摘し、今後の課題として、台湾と日本の研究の相違をさらに精査することを挙げた。
本稿では、日本学生相談学会および学生相談関連の全国的な会合を中心に、2022年度における学生相談界の動向を報告し、今後の展望について考察を行った。2022年度の学生相談界の最も大きなトピックは日本学生相談学会の法人化である。実践を重ねるだけではなく、専門家以外にもわかる言葉にして学内外の人々に向けて情報発信をし、いかに社会に貢献していけるかについて改めて考えることが求められている。また、今年度も新型コロナウイルス感染症に関するテーマが多く取り上げられており、研究と実践の積み重ねによって支援の幅が広がっていることがうかがわれた。今後、学生たちはコロナ禍の自粛生活を終えてリアルなキャンパスライフへの適応を求められることになる。学生相談に携わる者は学内外の関係者とのつながりをより強固にし、多様な問題を抱える学生たちに寄り添い、支援するための連携体制を確立していく必要があるだろう。
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