私の学生相談活動は日本学生相談学会との関わりなしではできなかったが、私も学会も上位の社会制度である日本社会や大学教育の潮流の影響を常に受けてきた。そこで本稿では1990年代の半ばか ら2020年頃までの間の社会や大学教育の変化、学会がその変化をどう受けとめてきたのか、そして当時の私の実践について振り返った。2000年頃から大学教育の一環としての学生相談が注目されてカウンセラーの配置が進んだが、2010年代の後半からは大学の財政悪化により教職員による学生相談は後退したと考えられる。この間、学会は社会や大学が求める学生相談のニーズに応えながら、教職員が連携する学生相談および専門職・学問としての学生相談を社会と大学に向けて発信を続けてきた。今後も学会が時代の流れを受けとめつつ、教育の一環としての学生相談の理念、学生相談の現場に即した多様な援助方法とコミュニケーションの尊重、そしてすべての高等教育機関に向けての学生相談機関のあるべき姿の発信の3つを守っていくことを私は願う。
本報告は、2020年3月にオーストラリア国立大学(以下、ANU)内のカウンセリングセンター (以下、CC)を視察した内容をまとめたものである。CCには、各カウンセラーの個別の面談室など設備が充実しており、定例ミーティングやグループスーパービジョン、個別スーパービジョンがカウンセラー業務の一部として取り入れられていた。増加する相談ニーズに対応するための施策として、面談回数制限、当日予約枠、特定の集団を対象としたグループプログラム、全学生がアクセス可能な音声クリップ付きオンライン・メンタルヘルス教材など、多層的な支援を導入し、多様な学生が利用できる環境を整えていた。また、キャンパス内の他部署や学生主導の団体などの学内支援ネットワークの存在からも、ANUが大学全体として学生のウェルビーイングを重視していることがうかがえた。今回の視察は5年前のものであるが、得られた示唆は、日本の大学における学生相談室が、個別面談のみならず、より包括的でキャンパス全体を対象とした多層的支援を取り入れていく重要性を示しており、とりわけコロナ禍以降の相談需要の増大という状況下で、その意義は一層高まっていると考える。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら