大学における発達障害学生への支援は、学生相談機関が中心であったが、差別解消法の施行後、社会モデルに基づく「障害学生支援」の要素が新たに加わったことで、大学がどのように体制を整備し、組織化するのか、発達障害学生への個別支援をどのように実施するのかが喫緊な課題となっている。そこで、中規模大学の支援組織における約8年間の発達障害学生への支援に関する実践事例に基づいて、発達障害学生支援の充実化のプロセスを分析し、発達障害学生支援のあり方について検討した。その結果、支援組織が、大学組織の中で社会モデルに基づく支援の制度化に関与し、大学構成員に対して教育活動・啓発活動・情報発信活動を実施し、支援ネットワークを構築し、組織間連携を強化することで、発達障害学生への支援体制は、支援組織が中心となる体制から、大学組織として全学的に支援する体制へ至った。また、発達障害学生の修学環境が整備されていったことで、発達障害学生の支援では、支援組織が「カウンセリング機能」と「コーディネート機能」を組み合わせ、全学的に対応していく重層的支援が可能となった。
大学生は精神疾患の好発期であり、特に大学院生においては一般の人に比べて約6 倍不安やうつを経験しているとされている。しかしながら、大学をはじめとした高等教育現場においては心理教育の場は少なく、大学生をモデルとしたメンタルヘルス研修もあまりない。そこで本研究では大学生および大学院生をモデルとした事例を作成し、実際にケア行動を生じさせるようなメンタルヘルスケア・リテラシーに焦点を当てた教育コンテンツによる研修を実施することで、有用性を検討した。結果、大学生および大学院生の双方で、受講した学生のメンタルヘルスの「自分事化」を促し、受診意図・相談意図を促進できた。しかし一方で、メンタルヘルスに問題を抱える人をサポートする役割を自分事化することは困難であったことが窺われ、支援する立場としてのリテラシーを高めるには至らなかったことも判明した。
日本学生相談学会第41回大会では、AUCCCD(アメリカを中心とした大学学生相談センターの代表者会議)会長のMarcus Hotaling氏、事務局長のThomas Coté氏、次期会長のAesha Uqdah氏による特別講演を開催した。当日ご覧いただいた方も多いだろうが、今回、学会誌において講演を載録することができた。当日通訳の任に当たっていただいた松本寿弥先生(名古屋大学)、佐々木清子先生(上智大学)に感謝申し上げるとともに、当日の司会に加えて今回翻訳の労を取って頂いた鈴木健一先生(名古屋大学)にお礼申し上げたい。また、この講演を学会誌に載録するために労をおとりいただいた前編集委員長の斉藤美香先生(札幌学院大学)にも感謝の意を表明したい。今回をきっかけに、これからますます活発な交流が拡がることを期待する。(編集委員長:山川裕樹)
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら