発達障害研究
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42 巻, 2 号
神経発達障害の医療─現状とこれから─
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • 小林 潤一郎
    2020 年42 巻2 号 p. 83-84
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
  • 子どもの学校生活を中心にすえた発達障害医療と特別支援教育の連携システム化
    岩佐 光章
    2020 年42 巻2 号 p. 85-93
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    地域療育センター(以下,療育C)は,そこで生活する子どもの10%に到達しうる発達障害支援ニーズの増大・多様化に対して,医療と福祉がそれぞれの立場を堅持しつつ,協同してサービスを展開していくという大きな有利性がある.加えて,学齢期以降を見すえた継続的な地域ケアを体現するためには,療育Cと教育との地域連携システムを構築することは必須である.横浜市では療育Cと通級指導教室の連携が脈々と展開されてきた.2019年に行われた横浜市の全通級と全療育C等の各職員約200名に対し行った,互いに対する連携の意識調査では,「療育Cとの連携がとれている」と感じる通級教師が,10年前の38%から82%へと増加する等,連携の意識が一定の水準に達していた.今後は,子どもの学校生活を起点として,そこにいかにして発達障害医療や通級の専門性を生かしていくかという,学校(生活)─通級(特別支援教育)─療育(医療, 福祉)のトライアングルの連携を構築していく必要性が確認された.
  • 小林 穂高
    2020 年42 巻2 号 p. 94-102
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    病気の診断をすることと薬物療法を行うことは医師にしかできない医療行為であるが,神経発達障害の場合,診断が即問題の解決につながらないことは周知のことであろう.では医療は発達障害の子どもとその保護者に対して何ができるのだろうか.小児科医は児童・思春期精神科医と 比較して予防接種や健診等でかかりつけ医であることも多く,保護者にとって相談の門をくぐるう えではいくぶん敷居が低いのが特徴であると考えられる.筆者は三重県名張市で小児科医の立場で,市の保健師,教員,保育士,福祉職と日常的に文字通り行き来しやすいシステムのなかで連携を取り合い,医療の立場で神経発達障害の子どもへの支援を行っている.本稿では名張市の「切れ目のない支援」を行うためのシステム(名張版ネウボラ)についても触れながら,小児科医のこれ からについて考察する.また新型コロナウイルスのパンデミック下における小児科医の役割についても述べてみたい.
  • 大瀧 和男
    2020 年42 巻2 号 p. 103-112
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    当院では,精神保健福祉士の一人を学校コーディネーターとして配置し,教育,福祉,保健行政,司法機関等との連携を積極的に行ってきた.また,研修会や勉強会を立ち上げ,各機関に声をかけて子どもをめぐる顔の見える地域のネットワークづくりを進めてきた.そうした連携を通して,診察場面ではうかがい知れない患児の学校での状況や家族の生活状況等について情報収集できることで,治療や支援の方向づけがしやすくなった.また,研修会や勉強会を継続し,実際の連携を協働するなかで,関係者の中にケースを多面的,重層的に理解して支援にあたる様子が見えて きた.幼児期や児童期早期に医療から離れてしまい,二次障害が進展して再受診として戻ってくるケースが毎年目につく.こうしたケースが支援のネットワークから溢れ落ちず,二次障害への進展 を予防できる工夫が今後必要である.地域に根ざした児童精神科クリニックであるからこそ,連携の旗振り役を担うことができると自負している.
  • 杉村 共英
    2020 年42 巻2 号 p. 113-119
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    わが国の学校医制度は明治31年に始まり,社会情勢や学校環境の変化に応じて運用されてきた.平成19年に特別支援教育が学校教育法に位置づけられると,学校においても神経発達障害への支援が求められるようになった.しかし神経発達障害をもつ児童・生徒を正確に見立てて支援するためには専門的な知識が不可欠なため,学校現場の負担は大きく困惑や混乱も見られる.神経発達障害は,スペクトラム概念が採用されていることからも明らかなように個性の一部としての側面があり,また環境の影響も強く受ける.保護的かつ教育的(成長促進的)にかかわることが必要であるため,従来の学校健診や学校医のシステムでは十分な支援が行えないのである.本稿では,公立中学校,特別支援学校,私立大学で精神科校医を務める筆者が,自身の経験をもとに学校精神保健の現状と課題を考察する.
  • 永田 昌子
    2020 年42 巻2 号 p. 120-124
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    産業医および産業看護職が職場で発達障害を有する労働者に対応する事例が増えている. 事例はときに職場での対応困難事例となっていることもある.その要因として,“ 一般雇用で求め られる職務の難しさ ” 等が挙げられる.主治医等専門家と連携して,産業医は発達障害者が継続的 に働いていくために職場で必要な配慮を検討し,職場の支援を得るべくコーディネートすることが できる可能性がある.主治医と産業医の役割,思考パターンの違いを理解したうえで連携することが必要なため,本稿では産業医の思考パターンと産業医ができること,専門家との連携の期待について言及する.
  • 地域に根差した幼児期における支援システム
    小野 尚香
    2020 年42 巻2 号 p. 125-134
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    スウェーデンにおける神経発達障害の範疇にある幼児の困難な状況に対応する医療的支援の一例として,有用であるとの評価が高く,支援の在り方に示唆を与えたBrygganチームの活動に注目し,主にインタビューと参与観察により支援の構成要素と社会的役割について検討した. チームの特徴は,1エビデンスに基づく神経発達障害に関する高い専門性,2医療職中心に教育や心理との多領域専門職チーム,3アクセスから支援までの待機期間の短さ,4子どもの困難な状態 だけではなく全体を対象にすること,また,5親とラポールを築き,親を支援者として巻き込むこと,6就学前学校との連携と教員の対応力醸成,7義務教育への橋渡し,8神経発達障害に起因する健康問題の予防,9地域でのネットワーク形成と啓発等である.医療機関という特別な場所にお いてだけではなく,家庭や地域の就学前学校に届くBrygganの医療的支援は子どもの生活に根差したものであった.
  • 6歳から15歳の児童生徒を中心とした医療的対応も含めて
    小野 次朗
    2020 年42 巻2 号 p. 135-144
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    教育システムや医療システムが日本とは異なるスウェーデンにおける,学童期から思春期にかけての神経発達障害が疑われる児童生徒への支援のあり方について言及した.そのなかでも医 療,特にスクールドクターが果たす役割について述べた.特筆する点として,スウェーデンのス クールドクターは,多くの場合100%のエフォート率で勤務していることであり,機能的側面も含め日本の学校医とは制度的にもまったく異なる.学校における常勤の医療関係者として,医師以外にも,看護師・心理師・ソーシャルワーカーがいる.さらに教育の専門職であるスペシャルペダゴー グ(特別支援教育指導教員)らと連携しながら,児童生徒の課題を検討していくためのイレーブヘルサチームを構成している.このチームでは定期的に教育的・心理的支援について検討し,継続して支援が行われるが,神経発達障害等について支援がうまくいかない場合には,メンバーとして参加しているスクールドクターが学校内で診断まで行えるシステムである.ただし投薬に関しては学校外の医療機関に紹介する必要がある.一部,日本の現状とも比較しながら述べた.
  • 基礎学校および学校教育課への訪問をふまえて
    神山 努, 涌井 恵
    2020 年42 巻2 号 p. 145-152
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    フィンランドでは3段階の教育的支援により,特別なニーズのある児童生徒を含め,個々の児童生徒の教育的ニーズに柔軟に対応している.本稿では2017年に行った,フィンランドのヴィヒティ市とエスポー市にある基礎学校における,特別なニーズのある児童生徒に対する教育に関しての訪問調査について報告した.基礎学校2校と,それぞれの学校がある市の学校教育課2か所を訪問し,授業見学と特別教育担当者に対する聞き取りを行った.その結果,フィンランドにおいて特別なニーズのある児童生徒の教育は,原則は少人数クラスで本人に合った環境調整を行って 教育効果を高めることをまずねらい,そのうえで障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が同じ教室で学ぶことが検討されていた.また,国により提示されたナショナルコアカリキュラムについ て,市の教育委員会がその枠組みを示しており,各学校のカリキュラムはその枠組みに基づき編成されていた.さらに,特別教育の担当教員は授業研究や教員間の情報交換を主に,専門性向上に務めていた.
  • 由谷 るみ子
    2020 年42 巻2 号 p. 153-163
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    特別支援学校で医療的ケアは看護師と資格のある教員が実施している.事故防止のためヒヤリハット・アクシデント報告を校内で振り返り,自治体で集計分析しているが,同じことが繰り 返されているとの指摘がある.そこで,特別支援学校1校の1年間のヒヤリハット・アクシデントの実態と振り返りの効果,教員間の協力を検討した.ヒヤリハットは給食中の経管栄養等で多く, 手技ミスや実施手順ミス等があったが危険度は低かった.呼吸器具のケアでは件数は少ないが,授業中に起こり,危険度が高かった.同じ児童生徒,同じ教員,同じヒヤリハットが繰り返されたのは1件だったことから,振り返りには効果があり,教員間の協力のよって安全が支えられていると考えられた.同じミスが繰り返されていていないのに報告数が減少しないのは,児童生徒の実態と医療器具の多様さ,体調の不安定さ,家庭ごとのケア手法や器具管理といった個別性が影響すると推察された.
  • 10年間継続して実施した作業療法の取組み内容から
    濱田 匠
    2020 年42 巻2 号 p. 164-173
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
    幼児期後半に事物を動かす活動が限局していた手のリーチ動作が可能な重症心身障害児 (以下,重症児)を対象に,事物操作の学習を目的とした作業療法を10年間継続して実施した.本研究では,10年間で計25回のリハビリテーション入院で作成された情報提供書を対象とし,作業療法の取組み内容や重症児の行動変容について後方視的に分析した.その結果,事物操作の学習では,手の探索行動を活性化することに着目した指導が有用であると考えられた.また,事物に対する一連の行動における手の随意運動に着目することは,重症児の意思を推測する視点の1つになる可能性が示唆された.そして,さまざまな事物を動かす活動を継続的に経験できる機会が保障されたうえで,重症児が能動的に取り組むことができる活動をみいだすことは,事物操作の学習における長期的な支援方略の1つであると考えられた.
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