災害情報
Online ISSN : 2433-7382
Print ISSN : 1348-3609
14 巻
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廣井賞記念論文
  • 矢守 克也
    2016 年14 巻 p. 1-10
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本論文は、災害情報に関する近年の具体的課題を言語行為論の立場から理論的に位置づけ、課題の解決へ向けた方向性について考察するとともに、実践的な解決方法を提起したものである。言語行為論における基本的な考えの一つに、「記述文」と「遂行文」の区別がある。「記述文」(たとえば、「これは鉛筆です」)では、世界が基準であり、言語は基準とすべき世界に合わせてそれを記述する役割を果たす。他方で、「遂行文」(たとえば、「窓を閉めてください」)では、言語が基準であり、基準とすべき言語に合わせて世界の方が変化する。災害情報のうち、台風情報や津波情報など、気象庁が発表する災害情報の多くは、形式的には「記述文」であり、自治体が発令する避難指示・勧告は、形式的には「遂行文」である。災害情報の究極的な目標が被害軽減であるならば、「遂行文」の実効性を高めることが重要であるが、実際には、「記述文」の精度向上の試みばかりが目立ち、低調な避難、情報待ちなど、災害情報に関わる諸問題は解決には至っていない。ここで、「宣言文」(たとえば、「これで会議を終わります」)と呼ばれる、「記述文」と「遂行文」の中間的な性質をもつ文が課題解決への糸口になる。実際、避難する地域住民らが、専門家の助言を得つつも自ら避難基準を事前に設定し、それに見合う事態が生じたときに、「××地区避難情報」といった情報(「宣言文」)を自ら発しつつ、実際に避難する試み(「避難宣言型アプローチ」)が高い効果をもつことが示されている。

  • 辻 大介
    2016 年14 巻 p. 11-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は言語行為論の観点から、矢守(2016)の立論構成に大きく3つの問題点があることを指摘する。第1に、「記述文」と「遂行文」の区別を基礎に据えて考察を進めていることである。この区別はオースティン(Austin 1960=1978)が妥当ではないと最終的に結論づけたものであり、言語行為の分析をミスリードしかねない。実際、それによって矢守の議論には第2の問題点、すなわち発語内行為と発語媒介行為の混同が生じてしまっている。第3に、「宣言文」(宣言型の発語内行為)のとらえ方に誤解があり、その命題内容としうるのは「制度的事実」のみであって、避難行動のような「なまの事実」ではありえないことを見落としている。これらの問題点の検討をとおして、本稿は、矢守の提示する「避難宣言型アプローチ」を別の観点から――発話者自らが避難行動にコミットする行為拘束型の発語内行為として――とらえ直し、そのアプローチの有効性を再評価する。

特集 東京電力福島第一原子力発電所事故から5年―放射線災害と情報―
  • 関谷 直也
    2016 年14 巻 p. 17-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本論では、現在進行形である福島原発事故という放射線災害について、津波・地震被害と放射線による被害、区域区分・地域毎での違い、農業や漁業などにおける産業再生の課題、内部被曝の心理と外部被曝の心理、報道・情報の課題などにわけ、その被害と復興の全体像を捉えることを試み、災害情報論としてこの課題に取り組む重要性を論じる。

  • 越山 健治
    2016 年14 巻 p. 27-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災では、津波激甚被害だけでなく原子力発電所事故に伴う広域避難という現象を生み出した。直後の避難に伴う混乱は、その情報による混乱と捉えることができるが、実はその後の避難生活に対しても長期的・間接的に影響を及ぼしている。

    本稿では、被災から1年後の避難生活実態を質問紙調査した結果を用いて、現在の住居、仕事、災害による家計の状況の分析部分をとりまとめた。その結果。広域避難における場所の選択に対しては、リスク情報に対する認識の確度が関係していること、雇用に関する困難性が存在すること、家計においてさまざまな出費があり、特に復興過程における情報取得や手続きの費用が生まれていること、などが明らかになった。

  • 桶田 敦
    2016 年14 巻 p. 33-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東京電力福島第一原発事故(以下、第一原発事故と略記)は、災害報道における取材と報道姿勢において多くの教訓を残した。本稿では、キー局であるTBSと系列のテレビユー福島(以下、TUFと略記)における「ニュース番組」の構造分析を行い、原発事故取材における「議題設定」がどうニュース番組に表象したのか検討を行った。

    その結果、第一原発事故以降のおよそ1年間の、福島のローカル局TUFの夕方ニュース(スイッチ!)においては、年間を通じた原発事故関連のニュースは41.3%を占めたことがわかった。その内、被災住民の動向や被ばくリスクに関するニュースの割合が高く、年間総放送時間のそれぞれ、17.0%、19.3%となった。一方で、福島第一原発そのものや東京電力(以下、東電と略記)の動向を扱ったニュースは3.7%と低いことも明らかとなった。

    それに対して、全国ニュースであるTBS「Nスタ」における第一原発事故関連のニュースは、1年間の総放送時間の16.5%で、その内、83.8%をTBSが出稿し、TUFの出稿はわずか9.5%に過ぎないことが明らかとなった。TBSは社会部を中心にした発取材チームを結成し、「東電・原子力安全保安院(以下、保安院と略記)などの大本営発表に頼らない取材を行う」方針で取材に臨み、TUFのニュース編集長は「原発のニュースがTBSに任せる。TUFとしてやることは、それ以外の県民に寄り添う取材、被災者の立場を打ち出す」と述べた。こうしたTBSとTUFの第一原発事故取材における議題設定の差異が、それぞれのニュース報道の差となって表象した、と考えられる。

  • 大崎 要一郎
    2016 年14 巻 p. 41-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、原発事故と報道に関して、NHK記者として筆者が経験し、そこで得た課題について議論する。

    事故発生時に初報が遅れた原因はどこにあるのか、緊急時に情報の正確性が確認し難い状況の中でメディアがいかに視聴者にメッセージを投げかけられるのか、記者会見などで発表される情報をどのように伝えられるのか、放射性物質の拡散を予測するSPEEDIシステムの情報をいかに扱うのか、放射線量の数値や低線量被爆の影響などをどのように伝えるのかなどについて論じた。

    事故が起きるまで、原発事故のリスクを国やメディアが実際には直視できておらず、視聴者に「安全に絶対はない」ことをこれまで伝えきれてこなかった。現在、メディアに課された使命は、原発をめぐる規制、避難、賠償、除染など、正解のないテーマに向き合い、次なる災害に活かせるよう伝え続けていくことであると考えている。住民や専門家、行政など、さまざまな立場の方々に取材をし、多角的にとらえ、伝え方を探り続けていかなければならない。

  • 除本 理史
    2016 年14 巻 p. 50-55
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、福島原発災害における損害賠償と情報の問題を取り扱う。まず第1節では、この問題をめぐるいくつかの論点――①福島原発の津波対策をめぐる責任と情報公開、②事故当初の避難に関する情報伝達と初期被曝の慰謝料、③放射線被曝のリスクとその認知に関連する被害の賠償、④損害賠償の和解解決に関する情報の共有、を概観する。本稿ではこのうち③、とくに「自主避難者」への賠償についてみていく。第2節では、原発事故賠償の仕組みと、「自主避難者」賠償の経緯および到達点について説明する。そこでは、避難指示区域外(政府指示の目安は年間20mSv)の住民が低線量被曝に対して抱く恐怖・不安の合理性について、議論が曖昧なまま残されていることを指摘する。第3節ではこの論点について、①「予防原則」、②市民のリスク認知、という2つの角度から論じる。また、最近出された「自主避難者」訴訟の京都地裁判決を取り上げ、「欠如モデル」や年間20mSv基準の問題点などを検討する。

    現在、事故被害者の集団訴訟が全国に広がっている。これは、東京電力と国に対して損害賠償を求める訴訟だが、それだけでなく「被曝を避ける権利」の確立をめざす狙いもある。低線量被曝のリスクをめぐって、司法は、政府・東京電力と住民との双方向的なリスクコミュニケーションの場として機能しうる。今後の司法判断のゆくえが注目される。

  • 丹波 史紀
    2016 年14 巻 p. 56-62
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害時の情報提供は、災害時は一時的な避難だけを想定し危機管理対応を考えがちであるが、今回のような長期間にわたる避難生活をふまえた対応方法を検討する必要がある。復旧・復興過程における復興政策に対し、被災当事者に十分な情報が提供されているか重要である。

    原子力発電所事故による被災者の多くは、ふるさとを追われ、避難する過程で家族や地域がバラバラになった。避難を余儀なくされた自治体は、住民に対し基本的な行政サービスを提供することすら困難になるほど広範囲に住民が離散している。被災自治体の多くは、広報誌の発行やタブレット端末による情報提供サービスも行われている。

    福島大学では、2011年9月に双葉郡の8町村に済んでいたすべての世帯を対象にした住民実態調査(以下、「双葉8町村調査」)を実施し、「広域避難」や「家族離散」の実態を明らかにした。さらに、震災以降の新たな二次的な被害が、健康や仕事などにも現れている。

    通常の自然災害に越えた被害の事態に、新たな被災者支援の法制度を必要としていた。また、地域の復興に関わっては、長期避難者の生活拠点(町外コミュニティ)の整備をはかる計画が被災自治体のいくつかで計画された。

    住民の生活復興は、「帰る」「帰らない」という単一的な復興の道筋ではなく、被災者の生活再建を何よりも最優先し、「帰還」「再定住」「再統合」の何れもが選択できる「複線型復興」という視点が必要である。

  • 小山 良太
    2016 年14 巻 p. 63-70
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、農産物検査体制を詳述し、今後の風評対策の在り方について議論する。事故から5年が経過した現在、福島県の農産物の安全性は回復したが、風評被害の問題はなくなっていない。そこには、国からの原子力災害の総合的な報告書が出されていないこと、法律に基づく生産段階からの管理制度に課題があることが確認できる。

    また、風評被害がなくならない理由として、(1)消費者には、影響評価を行う前提になる基準値が明確でないと受け取られていること、(2)個別の評価や判断を行うための調査精度の水準が地域によって異なることがあげられる。情報に関しては、基準値超えの農作物がなくなったことの結果は報道されるものの、それに至る経過や理由が人々に認識されていない可能性がある。

    農業復興のためには、こうした諸問題を克服することが必要である。また、それを一つの機会と捉えられるのならば、豊かな農業地帯である福島は、放射能汚染を超えて世界随一の管理体制のもと、安全でおいしい生産物を担う県であると打ち出していける可能性もある。

  • 首藤 由紀
    2016 年14 巻 p. 71-76
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故により、福島県内の12市町村で避難指示が出され、約10万人を超える住民等が避難生活を余儀なくされた。これら被災地域の復興には、原子力防災も重要な課題である。

    事故後、新たに設置された原子力規制委員会の定める「原子力災害対策指針」により、原子力災害対策重点区域の拡大、緊急事態区分や緊急時活動レベル(EAL)・運用上の介入レベル(OIL)の導入、30km以遠への広域避難など、我が国の原子力防災体制は大きく変化した。

    全域避難となった8町村の中で最初に避難指示が解除された楢葉町では、避難指示解除までの間、帰町計画の中で「除染の効果」や「原子力発電所の安全確保」などを帰町判断の考慮要件として、学識者からなる委員会での検討・評価を踏まえて、帰町の判断に活用した。また、これら委員会の提言に基づいて、町独自の判断で原子力災害対策重点区域を定めた地域防災計画の修正を行うなど、事故後の原子力防災体制の変化に合わせつつも、被災を経験した地域としての教訓を反映した原子力防災体制の構築が進められている。

    政府方針で平成29年3月までとされている避難指示解除に向けて、現在、各町村で帰還後に向けた原子力防災体制の検討等が進められているが、今後長期にわたる廃炉作業のリスクは不透明な部分もあり、被災を経験した地域としての原子力防災体制の構築が課題となっている。

  • 小松 理虔
    2016 年14 巻 p. 77-82
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本論文では、海洋調査を行う市民活動から得てきた原子力災害における情報発信のよりよい方法について論じる。メーカーでは、風評被害を打破するための情報チャネルの少なさの問題に直面し、広報体制の充実化をはかった。単に安全性を主張するだけではなく、ヒット商品を企画することによって県産品が売れ、それを機に安全性や自社のこだわりが伝えられるようになった。

    また2013年から取り組んでいる民間の海洋調査チーム、いわき海洋調べ隊「うみラボ」で調査を行ってきた結果、福島の海は全体として回復傾向にあることが確認できた。現場で訪問者とともに海洋の回復状況を確認し、海釣り体験することによって、センセーショナルなニュースに対する冷静な判断力も養える。自治体が正しい情報を発信することを前提として、生産者やメーカーが人の心を動かす商品づくりをすること、市民がイベントなどを通して場づくりをすることが重要である。科学と、科学的な正しさでは動かない人の情緒、その間をつなぐことが重要である。

投稿
[論文]
  • 倉田 和己, 福和 伸夫
    2016 年14 巻 p. 83-92
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    個人の防災・減災対策において、住宅の耐震化および室内の安全性確保は極めて重要である。個人が様々な心理的ハードルを乗り越えてこれらを実行するために、耐震・安全化対策の必要性に関する多様な防災・減災啓発の取り組みが行われている。その代表的な方策は、地震の揺れの体感による意識啓発であるが、そこには「啓発効果を高めるために揺れのリアリティを向上させると、体感する行為自体が危険になり利用できなくなる」というジレンマが存在する。

    本研究は、このような課題に対して新たなソフトウェア技術と既存のハードウェア技術の組み合わせでアプローチするものである。任意地点・任意建物の揺れを地震応答計算により算出しネットワーク配信することのできる分散相互運用サーバ技術を核に、三次元バーチャルリアリティの「揺れの可視化」映像と、震動体感ハードウェア環境を組み合わせた防災・減災啓発ツールを開発した。本研究の特色として、ソフトウェアとハードウェアの連携による揺れ体感の「安全性と現実感・対策の必要性に対する納得感の、高い次元での両立」があげられる。さらに仮想現実ソフトウェアを汎用的に構築しているため、既存の震動体感環境に容易に後付(アドオン)することが可能であり、全国に存在する啓発拠点の有効性向上のための技術として活用できる。

  • 及川 康, 片田 敏孝
    2016 年14 巻 p. 93-104
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    避難勧告等の見逃し・空振りに関する問題の基本構造は、「災害情報を生産する上での技術的制約が大きく、見逃しも空振りも避けることはできない。見逃しを避けるには空振りが多くなり、空振りを恐れると見逃しが発生するという災害情報のジレンマが付随する」という点にある。ここで、空振りを避けて避難勧告等の発表に慎重になる傾向のことを“低頻度戦略”、見逃しの回避を優先する傾向のことを“高頻度戦略”と呼称することにする。この点に関して国は、「(平成26年9月版)避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」において「空振りをおそれず、早めに出す」べきであるとする基本方針(すなわち“高頻度戦略”)を提示するに至っている。このような現状において、避難勧告等が今後は更に高頻度に発表されてゆくとの見通しに立つなら、その背景としての“空振り許容論”および“低頻度戦略・高頻度戦略”の功罪に関して更なる議論・検討を深めておくことは決して無駄ではないと言える。本稿では、避難勧告等の発表に際して自治体が採り得る“高頻度戦略”および“低頻度戦略”の違いが住民の避難行動の意思決定に及ぼす影響について、簡便な実験データに基づき考察を行った結果、総じて「“高頻度戦略”の避難勧告は短期的には意義があるが、それ以外のケースでの意義は認めにくい」と総括される結果を得た。

  • 鈴木 猛康, 宮本 崇, 秦 康範
    2016 年14 巻 p. 105-115
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    大規模河川の氾濫が予測されると、市町村内全域に避難勧告や避難指示が発令されるケースがある。盆地のように洪水が滞留し、さらに浸水深が3mを超えるような地域における人命確保には、建物の二階等へ避難することによる屋内安全確保ではなく、事前の立退き避難が必要である。とくに要配慮者は、早期に市町村外の安全な福祉施設へ避難させることが望ましい場合がある。市町村境界を超えた避難を可能とするには、当該市町村はもとより、近隣市町村、都道府県、国土交通省、消防、警察等、河川管理者や防災関係機関による連携を前提とした広域避難計画を事前に立案することが不可欠である。また、機関間の情報共有が必要である。そこで、①被災基礎自治体、それを支援する②近隣基礎自治体、そして③県の防災部局、建設部局、県警本部、国土交通省河川管理者、広域消防本部等の支援機関による3つのグループに分類し、筆者の提案するBECAUSEモデルを適用した広域連携体制作りを行った。まず事前の信頼関係づくりにBE-Cのプロセスを実施し、つぎに大規模河川氾濫に対する広域避難を実現する効率的な広域連携体制構築に、A-U-Sの各プロセスを適用した。そして最後に、構築した広域避難体制の有効性検証のための災害図上訓練を、BECAUSEモデルのEのプロセスとして実施した。また、機関内、機関間の情報共有を支援するため、広域連携機能を有する情報共有システムを適用した。災害図上訓練の結果、BECAUSEモデルを用いた研修の主テーマとしていた要配慮者の市町村外への避難、浸水地域への車の流入規制、自動車専用道路への住民避難について広域連携が行われ、また参加者が広域連携に情報共有が不可欠であることを確認した。

  • 田口 仁, 李 泰榮, 水井 良暢, 佐野 浩彬, 臼田 裕一郎
    2016 年14 巻 p. 116-127
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害対応においては空間的な状況認識・把握の統一が基本であり、地理情報システム(GIS)を使用した地理空間情報の利活用が重要である。被災地の復旧や復興を担う重要な主体の一つである災害ボランティアセンター(災害VC)において、GISを用いて地理空間情報の利活用を行うことができれば、効果的な復旧や復興に貢献できる可能性がある。そこで筆者らは災害発生後に被災地に入って支援を行い、実際に現場でGISを使用した事例を通じて、災害VCにおける地理空間情報の利活用方法を検討した。対象災害は2012年5月6日に発生した竜巻災害(茨城県つくば市)、2014年11月に発生した長野県北部の地震(長野県白馬村)、平成27年9月関東・東北豪雨(茨城県常総市)である。これらの事例から、災害VCにおける地理空間情報の利活用方法として、作成する情報、取得する情報、発信・共有する情報を整理し、4つのマップを提案した。また、今後の課題や展望として、提案した地理空間情報の利活用方法の改善や新たな利活用方法の追加、災害VCの情報の利活用方法の標準化とGISを含めた支援ツールの確立、地理空間情報の共有体制の構築を指摘した。

  • 平川 雄太, 佐藤 翔輔, 鹿島 七洋, 今村 文彦
    2016 年14 巻 p. 128-139
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    津波災害を受けて命名された地名は、津波の経験や教訓を後世に伝える媒体となることが期待される。本稿では、東日本大震災の被災地である岩手・宮城・福島の東北3県を対象に、刊行書籍から、「津波由来である」または「津波由来である可能性が高い」と記述されている地名を抽出した。これらをKJ法によって分類し、津波由来地名の空間分布を考察した。本研究の結論は次のとおりである。1)東北3県に存在する110個の地名が、津波に由来する可能性がある。2)津波由来地名は、「津波来襲に関するエピソードに由来する地名」と「津波痕跡を示す音に由来する地名」の大きく2つに分類され、さらに「津波来襲に関するエピソードに由来する地名」は、「モノが流れてきたことに由来する地名」、「津波の挙動に由来する地名」、「念仏を唱えたことに由来する地名」などに分類された。3)「津波来襲に関するエピソードに由来する地名」の多くは石巻市牡鹿半島以北の「リアス部(津波の常襲地域)」に位置しており、過去の大津波の経験が地名に残された可能性を示唆している。4)津波由来地名が存在している町・大字は全て東北地方太平洋沖地震津波の浸水域内に位置しているが、それらは浸水域全体の町・大字の約10%に過ぎず、津波由来地名が災害伝承に寄与しうる範囲は、東日本大震災のような極めて大きな津波に対しては限定的であると言える。

  • 岩堀 卓弥, 矢守 克也, 城下 英行, 飯尾 能久, 米田 格
    2016 年14 巻 p. 140-153
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    防災教育の理念と方式は、知識・技術の「伝達型」と実践「参加型」の2種類に大別できる。しかし、大半の防災教育が両者の性質を併せ持つために、目指すべき指針として掲げた理想と現実に行われる活動との間にねじれが生じる場合がある。本研究では、「伝達型」の基盤となっているサイエンスコミュニケーション理論の欠如モデルと、「参加型」の基盤となっている正統的周辺参加理論との対応関係を整理し、現実の防災教育の過程分析に適用するとともに、実践が向かうべき方向性を示すガイドとしての機能について考察し、理論の適用条件と実践的な意義についての整理を行う。

    具体的には、最先端の地震観測研究に小学生が参加する「満点計画学習プログラム」を実践する2つの小学校を検討対象とした。まず、正統的周辺参加理論に基づいて、参加した生徒が地震観測研究の一員としてのアイデンティティを獲得したことを指摘した。この結果として、一つの小学校では地域の防災に関する知識が定着する傾向が見られ、近年被災経験を持つもう一つの小学校では地域の将来に対する悲観的な見通しを変える傾向が見られた。

    また、「満点計画学習プログラム」において、正統的周辺参加理論が示唆するアイデンティティの獲得という方向に向けた実践上の変化が起こる条件を、欠如モデルの観点から位置づければ、プログラムに参加する多様な関係者(地震学の専門家、小学校の教員、生徒など)が、どの程度の知識・技術であれば伝達可能なのかを相互に了解することであることがわかった。

  • 橋冨 彰吾, 河田 惠昭
    2016 年14 巻 p. 154-163
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災では、製油所が津波や火災によって大きな被害を受けた。その結果、最大451万6,424B/Dあった国内原油処理能力が、被災直後には300万3,924B/Dまで落ち込んだ。南海トラフ巨大地震で被災する地域は東日本大震災で被災した地域よりもさらに多くの製油所があり、その影響が懸念される。本研究では、南海トラフ巨大地震発災後の地域毎の原油処理能力の推移を東日本大震災の被害実績をもとに推定を行った。その結果、南海トラフ巨大地震が発生した場合、最悪のケースでは我が国の原油処理能力が被災前の16.8%(65万7,500B/D)まで低下することが明らかとなった。人的被害が最大となるケースと原油処理能力の観点からの最悪のケースは異なることが明らかとなった。地方別に見ると、関東地方は比較的早期に原油処理能力が回復する。近畿地方や中国地方はケースによって原油処理能力の推移に差があった。一方で、中部、四国、九州の各地方のすべてのケースで原油処理能力が同じ推移を辿ることが明らかとなった。

  • 塩崎 竜哉, 牛山 素行
    2016 年14 巻 p. 164-173
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    豪雨時における市町村の重要な業務の一つは、管内の災害危険度を適切に把握し、必要に応じて、住民に注意を促すことである。様々な情報を取得し、それに基づく判断が求められる中で、事態の進行に伴い増大する住民からの電話通報は、重要な情報の把握を阻害し、判断を遅らせる要因の一つと考えられてきた。しかし見方を変えれば、電話通報は「事態の進行に伴って、数が増大する」という特性を持つ災害情報と捉えることができ、活用方法によっては管内の状況把握に有効な情報となる可能性がある。そこで、本研究では実際に発生した豪雨災害を事例として取り上げ、市役所への電話通報記録を時系列的に集計し、管内に設置した雨量計での降水量や、罹災証明のために行った調査で把握した被害箇所との関係を明らかにすることを目的とした。

    通報があった近傍で被害の多くが発生していることを明らかにしたうえで、災害の原因となる外力としての降水量と実被害、降水量と通報数の間にそれぞれ一定の関係が示されることを、管内をいくつかの地域に区分することで検証した。

    その結果、非常に激しい降雨となった地域からの通報は増大し、通報が増大した地域では実際の被害も多数発生していることが明らかになった。こうしたことから、電話通報数を集計することは、災害危険度が高まっている地域を把握する上で有効な手法となることが示された。

  • 陸川 貴之, 河田 惠昭
    2016 年14 巻 p. 174-185
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    全国の自治体を対象にしたアンケート調査結果を基に、基礎自治体における災害時の業務継続にかかる事前対策や業務継続計画の実態を把握した。業務継続にかかる事前対策の実施状況を把握するため、10分野での具体的な対策内容(33項目)を設定し、取組状況の評価を得たが、小規模自治体ほど取組が進んでいない傾向や、「応援・受援の考え方の確立」、「執務室の安全対策」、「電力の確保」、「飲料水・食料等の確保」など、取組が十分でない項目があることがわかった。また、業務継続計画を策定済みの自治体では、業務継続マネジメントを推進するための仕組みづくりに取り組んでいる自治体もあるが、多くの自治体ではその必要性の認識にとどまっている状況であった。今後は、小規模自治体の取組体制が大規模自治体に比べて、総じて十分でない実態を踏まえると、それぞれの体制に応じ、最大限に効果が生じる対策を検討する視点が必要になると考えられる。

  • 竹之内 健介, 矢守 克也, 河田 慈人
    2016 年14 巻 p. 186-198
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2013年に国が実施した「防災気象情報の改善に関する検討会」において、防災気象情報のレベル化について議論が行われた。これを踏まえ、気象庁において、このレベル化に向けた検討が行われている。一方で、防災気象情報については、同年特別警報が導入されるなど、ここ数年を見ても大きな変化が生じており、現在の情報に対して利用者側の理解が追いついていないことやレベル化が実施された場合に適切な利用が可能かといった点が課題となっている。

    このような状況を踏まえ、著者らは、防災気象情報のレベル化を想定し、レベル化が実施された場合の啓発ツールとして、「セルフウェザーゲーム」を開発している。これは、ゲーミングの手法によりレベル化について学習するとともに、気象情報の発表を単に知るだけでなく、自身の災害リスクと照らし合わせ災害対応に利用する意識を高めるツールとしても開発を進めているものである。また参加者の対話を通じて、参加者間の気象情報に対する意識を交換する役割も果たす。

    本研究では、3箇所で実施したセルフウェザーゲームの試行を通して、防災気象情報に対する利用者の危険認識の現状やゲームの有効性を確認するとともに、ゲーム参加後の情報に対する利用意識の変化を確認した。

    結果、防災気象情報が示す危険度と利用者の実際の危機意識に乖離があること、ゲームを通じて防災気象情報を利用する意識が向上することを確認した。

[調査報告]
活動報告
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