災害情報
Online ISSN : 2433-7382
Print ISSN : 1348-3609
15 巻, 1 号
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[論文]
  • 及川 康, 片田 敏孝
    2017 年 15 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    津波や河川洪水など、その発生までに時間的猶予が存在する災害において、今が避難するほどの災害時なのか否かの判断ができず、情報検索行動に走る結果として「避難していない」状態に留まる住民は多く観測されることである。本稿は、このような住民をそのまま「避難していない」状態にとどめておくのではなく、結果として「避難している」状態に誘導するための方策について考察・検討を試みるものである。

    従来にも同様の問題意識のもとでの多くの検討や提言はあるが、「情報検索行動が避難行動を阻害する」という個人内の負の心理作用の存在は不可避として扱い、それ以外の条件を整えることに主眼を置くものが多くを占めている。これに対して本稿では、その心理プロセスの存在を「不可避」として考察の対象から除外するのではなく、いまいちどそのロジックの記述を試みるとともに、そこにおける政策的に操作可能な変数・要因を探索・抽出することにより、新たな「結果として“避難している”状態に誘導するための方策の方向性」を見出したい、ということが主たる問題意識である。ここではまず、簡便な数理モデルによる記述を試み、そのうえで、たとえば住民の情報検索欲求を十分に満たすような避難所の整備などが可能であるならば、従前ならば「避難しない」状態に留まっていた住民の多くを「避難する」状態へと誘導できる可能性について言及する。

  • 小笠原 奈保美, 大藤 建太
    2017 年 15 巻 1 号 p. 17-27
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は、56の自治体の水害・土砂災害避難伝達文を集め、避難準備文・避難勧告文・避難指示文に分類し、文と文節の数、依頼文・命令文、単文・重文・複文・名詞修飾節・受動態の数、伝達文に含まれる情報の種類について分析した結果をまとめたものである。調査の結果、以下の点が明らかになった。1)平均5文、30~34文節で1つの伝達文を構成する。2)準備から勧告・指示へと緊急性が増すにつれて、重文・複文の平均数が多くなり、緊急性と構文の複雑さに相関関係が見られる。津波避難伝達文と比較すると水害・土砂災害避難伝達文の方が言語量が多く、統語的にもより複雑である。3)「避難してください」「警戒してください」など聞き手に期待する避難行動を、ほとんどの場合「~てください」という依頼文で表現する場合が多く、「~せよ」や「~指示する」などの命令文の表現は少ない。4)発信元、受信者、緊急性を示す用語、避難場所、災害の危険性、期待される避難行動などの情報が伝達文に含まれている。これらの結果を踏まえ、冗長な表現を削除し、複文や重文は単文に代えるなど、聞き手にとって理解しやすい文を主眼にした提案を行った。また、災害時の切迫した状況では、迅速な避難を促すよう命令表現を使用する、地域や避難所を特定する表現を使う、地域のニーズに合った情報の取捨選択など、伝達文の内容に関しても提言を行った。

  • 赤石 一英
    2017 年 15 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    緊急地震速報や津波警報は、迅速な対応が求められる情報である。一方、来日外国人や在日外国人は文化や環境、言語の違いにより、これらの情報に対して、迅速に理解し行動をとることは困難である。そのため、これらの防災情報について多言語での情報提供が望まれるが、それを実現するためにはそのための翻訳辞書が必要となる。本稿では、緊急地震速報の多言語辞書を作成するときの手順について記述している。具体的には、①最初に単語リストを作成、②次に平明な日本語表現への翻訳、③英語表現の収集、④平明な日本語表現と実際に英語圏で使われている英語表現をもとに英語版を作成、⑤④で作成された英語版をもとに各国語版を作成という手順である。また、注意した点などを紹介し、同様の防災情報の多言語辞書作成の参考となることを期待している。

  • 佐藤 翔輔, 今村 文彦
    2017 年 15 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災を契機にして,災害デジタルアーカイブは数多く構築されるようになってきた.昨今では,災害デジタルアーカイブの利活用が徐々に進められている.本稿では,災害デジタルアーカイブ中のコンテンツを利用して作成された多賀城市防災教育副読本資料集の作成過程を整理するとともに,作成過程の関係者へのインタビュー調査を通して,災害デジタルアーカイブの利活用の実践にもとづいて,災害デジタルアーカイブの効果や課題を考察した.本稿の主な分析結果は,次のようにまとめられる.1)作成メンバーだけでは集めることのできなかった豊富な写真の情報源として,市が構築した東日本大震災に関するアーカイブが存在していたこと,2)アーカイブだけではなく,当該アーカイブを運営・管理するアーキビストに相当する人物が存在していたことによって,アーカイブからの写真の選定が効果的に行われたことの2 点が実証的に確認された.

  • 宇田川 真之, 三船 恒裕, 磯打 千雅子, 黄 欣悦, 定池 祐季, 田中 淳
    2017 年 15 巻 1 号 p. 53-63
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害危険時の避難に対して、災害前の平常時における避難行動の意図が影響するものと想定し、その規定要因を考察した。その際、避難行動に類似する健康予防行動や環境配慮行動の分野で用いられている計画的行動理論や修正防護行動理論などの社会心理学的なフレームにおいて、リスク回避行動に寄与すると想定されている心理要因を整理考察した。そして、平常時の避難行動意図の規定要因として「リスク認知」「効果評価」「実行可能性(自己効力感)」「主観的規範」「記述的規範」「コスト」の6つの認知要因が寄与するものと仮定した。

    仮定した心理要因の、平常時における避難行動意図に対する寄与の有無等を検証するため、災害事例や地域特性などに依らない汎用性の高い心理的な設問項目を津波避難行動意図の場合を例に作成した。また、こうした心理要因を規定する、個々の地域特性や回答者属性に依存する先行要因を測定する項目も作成し調査票を構成した。これらの設問項目を用いて、高知県南国市で質問紙調査を実施し、仮定した6要因の構造を分析した。その結果では、「効果評価」「実行可能性」と解釈される要因は確認されたが、「主観的規範」と「記述的規範」、および、「リスク認知」と「コスト」の分別が困難であった。

    今後、明らかになった設問等の留意点を踏まえて、提案した避難行動意図の決定過程のフレームを改善し、避難というリスク回避行動を特徴づける共通性を把握するとともに、個々の災害事例や地域特性ごとの避難行動の特徴を明瞭にするための手法を確立することをめざしていく。

  • 竹田 宜人
    2017 年 15 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    環境法の一つである化学物質管理促進法では、平常時における化学物質の環境への排出による周辺住民へのリスク低減のため、事業者の自主管理の促進と地域住民とのリスクコミュニケーションの重要性が示されている。東日本大震災後、同法を上位とする条例や事故対策マニュアルに漏えい事故等への対応が盛り込まれた。そこには、化学物質が係る災害における住民避難の判断、避難の指示、情報提供における地方自治体や事業者の役割が記載され、さらに平常時のリスクコミュニケーションの重要性が指摘されている。東日本大震災後は、地域住民において事業所の震災対策への関心が高まっていることから、リスクコミュニケーションにおいて、その事業所が使用する化学物質のリスク(爆発火災、健康被害等)を住民に伝達し、事故時の情報伝達、避難経路等の対応が事前に策定され、住民を交えた避難訓練等が行われるとすれば、実際の災害時に避難等が円滑に進み、被害の軽減に役立つ可能性がある。本論文では、化学物質管理制度における住民への事故情報提供の現状について紹介し、地域防災計画など他法令の規定も踏まえ、その課題について検討する。

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