災害情報
Online ISSN : 2433-7382
Print ISSN : 1348-3609
16 巻, 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
投稿
[論文]
  • 古林 智宏
    2018 年 16 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    米国ハリケーン・サンディ災害では時間軸に沿った防災行動計画(タイムライン)が事前に策定され、被害を最小限に止める工夫が実施された。この成功事例を踏まえ、日本国内でも台風を想定し、水害に対し主に氾濫発生前までの期間を対象にタイムラインが作成されつつある。この手法は、地震・津波による被害の軽減にも有効であるが、まだ一般的ではない。

    本稿では、都道府県レベルのタイムラインである兵庫県(2015)の「兵庫県応急対応行動シナリオ」のアクションリサーチを通して、地震発生から津波到達まで及び津波到達後を対象期間とするタイムラインの策定過程及びその効果について報告・検証する。過去の地震・津波災害対応記録を基礎にして構築された同シナリオでは、全体像を俯瞰的に見る視点と、個々のフェーズ毎に各部署の役割を見る視点が組み合わされている。FEMAのESFの取組みを参照した10の業務分野と、津波の到達時刻と災害対策本部会議を基準とした9の時間区分(フェーズ)とで構成され、異なる職員参集率を考慮して昼間発災版と夜間発災版の2種類が存在する。業務分野の設定では、ICSを参照して職員の安全に対する配慮も行われた。策定時の精査では、阪神・淡路大震災経験者が有する経験知の形式知化が行われ、策定後の訓練では、フェーズ毎の達成目標の一覧が積極的な情報取得や情報トリアージに有効であることも確認された。

  • 曽篠 恭裕, 宮田 昭
    2018 年 16 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    南海トラフ地震や首都直下地震のような大規模災害時において、海外からの医療支援の受入は被災者救援の選択肢の一つとして検討が求められる。国際医療救援チームの受入に際して課題となるのが、仮設診療所、野外病院を設置するための大規模な救援資機材の輸送である。海外での災害対応においては、国際医療チームの資機材輸送が困難だった事例が報告されている。その理由の一つが、資機材を輸送するうえで求められる物流情報の不足である。このため、本研究の目的は、国際医療救援資機材の、被災地までの輸送に求められる物流情報のチェックリストの提案である。日本赤十字社による過去の国際医療救援資機材の輸送をレビューした結果、資機材輸送のフェーズを(1)被災国空港への到着、(2)通関、(3)一次集積倉庫への搬入、(4)被災地への輸送計画の策定、(5)被災地への輸送、(6)被災地での荷下ろし作業の6つに分類し、各フェーズまでに収集すべき物流情報として全46項目を抽出した。そのうえで、国際医療救援資機材の輸送への支援が想定される民間物流事業者スタッフによる、抽出した物流情報の重要性に関する4段階評価を行った。一連の分析により、大規模災害時、限られた時間の中で、到着した国際医療救援資機材の輸送に求められる物流情報を収集するうえで、本研究が提案するチェックリストの活用は有効であることを確認した。

  • 片田 敏孝, 桑沢 敬行, 多田 直人, 吉松 直貴
    2018 年 16 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    大都市における大規模水害時の避難対応のあり方を検討することを目的として、広域避難誘導時の地域の様相や課題を具体的に把握するために、東京都の東部低地帯に位置する江東5区の住民を対象に大規模水害時の行動意向などに関するアンケート調査を実施した。この結果、①大規模水害時における自宅外への避難意向を持つ人は半数程度である。ただし、大規模水害の危険性や広域避難の必要性を認識している人は半数にも満たず、適切な情報を与える事によって避難意向を持つ人が増加する可能性があること。②自主的に広域避難先を確保できる住民が半数程度存在すること。③3日未満の浸水継続を前提に屋内安全確保を要請した場合、約7割の人が受け入れる意向を持つこと。④高齢者・障害者などの要配慮者を持つ世帯は、移動そのもの、あるいは避難先での生活を送ることが困難である割合が高いことが考えられ、特別な対応が求められる。一方、幼児や子供などの要配慮者を持つ世帯は、積極的な広域避難が行われる可能性があること。そして、⑤広域避難の促進には、避難先を具体的に指定することに加えて、自宅を離れることや会社や学校を休むことに対する不安を解消する支援が求められていることなどが把握された。

  • 加治屋 秋実, 赤石 一英, 横田 崇, 草野 富二雄, 関谷 直也, 高橋 義徳
    2018 年 16 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2013年10月16日、伊豆大島において、台風第26号の接近に伴う記録的な大雨により、死者・行方不明者39名の土砂災害が発生した。大島町は、この災害を契機として、土砂災害に対する警戒避難体制の改善を行った。主な改善の内容は、土砂災害警戒判定メッシュ情報を利用しての避難対象地域の限定、土砂災害警戒情報等による避難情報の発令の定式化である。併せて、住民向けに土砂災害に対する防災知識の普及啓発を繰り返し実施した。

    このような改善が実施されているなかで、大島町は、土砂災害後3年間の大雨時等に6回の避難勧告の発令を行った。ところが、避難率は、土砂災害直後は40%であったものの、半年後には約5%に低下した。

    土砂災害後の3年間に実施したアンケートとヒアリング調査によると、避難率が低いことの原因は、避難勧告の空振り、避難所の環境、時間の経過による危機意識の薄れ、避難行動が困難な高齢者の存在などである。したがって、これらに関する改善が避難率の向上につながると考えられる。避難所の環境改善や高齢者対策は、費用などの問題はあるものの実現可能である。一方、避難勧告の空振りの改善は、土砂災害警戒情報の精度に依存しており、精度向上が求められる。

  • 塩崎 竜哉, 本間 基寛, 牛山 素行
    2018 年 16 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害時の避難勧告等は、適切な時期と範囲に対して発令する必要がある。そのため、国は避難勧告等に関するマニュアルの作成や運用を求めるなど、市町村に災害時の対応の強化を促している。しかし、災害危険度を示す指標として用いられている情報の大半は対象範囲が広く、市町村内のどの地域で危険度が高まっているかを把握することは難しいなどの課題も多い。こうした課題に対応する一手法として、筆者らは行政機関に寄せられる電話通報数を地域ごとに集計したものが活用できるのではないかと考えている。豪雨災害への対応を検証した報告書では、住民からの電話通報が災害対応を阻害する要因の一つと見られていることが多い。しかし、災害時の電話通報は意図して抑制できるものではない以上、負の側面の対策を検討するばかりではなく、防災情報の一つとして積極的に活用することも、災害対応を強化する上では重要なことであり、そのためにはさらなる事例解析が必要である。本研究では、2014年8月に広島市で発生した豪雨災害を対象に、住民からの電話通報と降雨の状況、被害の発生の関係について、先行研究で解析した岐阜県多治見市での事例を踏まえて検討した。

    激しい降雨と通報の増大、実被害が発生した地域はいずれもほぼ一致することとなり、先行研究と同様の傾向であった。また、通報が増大した時期は、人的被害が多発する直前であったことが示された。これにより、地域ごとに電話通報数を集計した結果は、豪雨時に真に災害危険度が高まった地域を的確に推定するための重要な災害情報の一つであると考えられる。

  • 橋冨 彰吾, 河田 惠昭
    2018 年 16 巻 1 号 p. 61-72
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    南海トラフでは、歴史上、9回にわたってM8クラスの地震が約100~150年間隔で発生してきたと言われている。これらの地震は、東海地震や東南海地震の領域が活動する広域東海地震と南海地震が別々に発生することもあった。巨大地震が時間差をもって発生すると、最初の被災から最終的に被害が回復するまでの期間は、巨大地震が単体で発生するよりも延びる恐れがある。本研究は、広域東海地震発生後、任意の時間差で南海地震が発生した場合、原油処理能力が不足する期間を明らかにするために行った。被災後の毎日の原油処理能力の推移と平常時の原油処理要求量を比較し、不足する日数や最終的に不足する日を調べた。その結果、広域東海地震と南海地震の発生間隔が短くなるほど、全国的に原油処理能力の不足する日が多くなることが明らかになった。また、原油処理能力の最終不足日が最も遅いケースは、すべての製油所がフル生産を再開する前日に必ず発生することが明らかになった。

  • 竹之内 健介, 矢守 克也, 河田 慈人
    2018 年 16 巻 1 号 p. 73-84
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    現在、主に事前予測がある程度可能な台風等の風水害を対象に、時系列の災害対応を規定するタイムライン(防災行動計画)の考え方が普及してきている。これまで、タイムラインの多くは行政や関係機関における事前の災害対応の確認と組織内外の連携を促進することが主となっており、住民参加については十分に議論されていない。一方で、少しずつ住民によるタイムラインへの参加の取組も実施されつつある。このような状況を踏まえ、本研究では、住民のタイムラインへの参加について、現状を把握するとともに、日常と防災を分離しない生活防災の考え方を組み込んだ生活防災タイムラインの取組を通じて、時系列の災害対応に対する住民意識を確認した。

    生活防災タイムラインの取組の結果として、事前の行動意識が高まることが確認される一方、今後の災害に対する住民の注意意識の時間変化は約52%で変化が見られないとともに、住民の災害への対応行動に対する意識が多くのタイムラインが想定する72時間前からの対応には十分でないなど、タイムラインの枠組みを作るだけでは住民に一層の事前の災害対応を促すためには、課題があることが確認された。一方で、生活防災タイムラインにより日常の中で災害を意識することで、事前対応の促進と日頃からタイムラインを意識する習慣形成につながる可能性も確認された。

  • 鈴木 猛康, 郝 暁陽
    2018 年 16 巻 1 号 p. 85-93
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    スマートフォンの普及によって現地から被害状況を位置情報と写真付きで伝達、共有することが容易になった。写真、テキストに加えて緯度経度が現地から送信されて共有されるスマートフォンを用いた被害報告が、災害対応に有効であることは疑う余地がない。しかし、自治体や河川管理者等の災害対応におけるスマートフォンの有効性が、実験による科学的データによって証明された例はない。筆者は複数の基礎自治体の防災情報システムならびにこれと情報連携できるスマートフォン・アプリを開発し、職員や消防団による現地巡視実務のために提供している。そこで本研究では、スマートフォン・アプリが自治体の災害対応業務の効率化に寄与する効果について、筆者が開発した防災情報システム、スマートフォン・アプリを既に導入している山梨県甲府市、市川三郷町、南アルプス市の参加のもと、河川巡視実験、防災訓練(被害報告実験)を実施し、時間、業務ステップの削減効果を検証することとした。河川巡視実験では、アプリを用いて1~2分で被害登録が可能なこと、関係機関との連携を含む自治体の災害対応に有効であること、ならびにスマートフォン・アプリのシームレスな情報共有が可能な運用環境が重要であることを示した。一方、被害報告実験では、2つの同種ならびに同規模の住宅倒壊の状況付与に対して、地域防災職員がスマートフォン・アプリを用いるケースと用いないケースを設定し、被害確認から災害対策本部による担当部局への指示に至る時間ならびに作業プロセス数の削減について分析し、スマートフォン・アプリ導入による災害対応業務の効率化を明らかにした。

  • 佐藤 翔輔, 岡元 徹, 今村 文彦
    2018 年 16 巻 1 号 p. 95-104
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    著者らは,研究者から東日本大震災に関する「教訓」の情報提供を受け,これをデータベース化して,ウェブ上に公開する「3.11からの学びデータベース」と,震災に関連する論文や報告書における記述をもとに「教訓」に関する情報を整理して,公開する「震災教訓文献データベース」という2つのウェブデータベースを実装・公開している.本稿では,公開から約2年間経過した時点におけるアクセス件数の解析とモニター調査によって,両データベースの有用性と課題を検証するシステム評価を行った.その結果は,次のようにまとめられる.1)両データベースは,1日当たり200~500件程度のアクセスがあり,継続的に利用されていることが確認された.2)データベースのモニター調査においては,「3.11からの学びデータベース」は,興味や関心,内容の分かりやすさの観点から良好な評価を得た.3)両データベースにおいて,カテゴリや災害名といった検索語の候補を提示したことで,検索が容易に行えていたことが分かった.4)「3.11からの学びデータベース」では,見出しが適度に要約されていて分かりやすい,「震災教訓文献データベース」では,情報が多くてよいという感想が多く,前者では「質」を後者では「量」を相互補完する機能を果たしていた.5)両データベースにおいて,文章の表現やレイアウトにおいてネガティブな評価があったことから,今後の改善を要する.

  • 陸川 貴之, 河田 惠昭
    2018 年 16 巻 1 号 p. 105-116
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害時要配慮者への避難支援の仕組みづくりは、近年の災害教訓から、基礎自治体にとって極めて重要な取組課題となっている。本研究は、アンケート調査により得られたデータに基づき、2013年の災害対策基本法(以下、「災対法」という)の改正以後の避難行動要支援者名簿を活用した制度の構築プロセスの実態把握を目的としている。アンケート調査は、全国の市町村を対象に郵送配布・郵送回収により実施し、422市町村より回答を得た。調査項目は、内閣府の「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(以下、「取組指針」という)に沿ったものとし、「名簿の作成方針の策定及び見直し」、「対象者情報の集約」、「同意確認」、「平常時における地域への名簿提供」、「共助力の向上に向けた施策」、「発災時等における名簿の活用」のプロセスごとに分析を行った。

    調査結果では、避難支援を必要とする方の把握など対象者を絞り込むプロセスに課題や工夫が見られた点を考察した。また、情報管理のための措置や、共助力の向上に向けた施策、避難支援者等の安全確保のための取組、不同意者への避難支援の取り決めなどが不十分な実態を考察した。これらは、「取組指針」(2013)でも例示される事項もあるが、詳細は実施機関である市町村に委ねられている事項である。市町村は義務化された避難行動要支援者名簿の作成のみならず、地域を中心とした平時からの自助・共助による避難支援の仕組みづくりを目指した効果的な施策を検討することが求められる。

feedback
Top