災害情報
Online ISSN : 2433-7382
Print ISSN : 1348-3609
17 巻, 1 号
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[論文]
  • 中谷内 一也
    2019 年 17 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、ある社会的な地震対策が実施されているという情報提供が、地震に関連する各種リスク認知や地震とは無関係のリスク認知、さらに、提示された地震対策とは別側面の地震対策や他の災害対策についての準備意図にどのような影響をもたらすのかを検討するものであった。保険効果や単一行動バイアスなどのモデルは、社会的対策情報の提供によって個人の不安感が低下し、その結果として、リスク認知や災害準備意図が減少すると予想する。しかし一方、Out of sight, out of mindと呼ばれるモデルからは、災害対策実施の情報に触れることで、個人は災害リスクの高さを再認識する機会を得ることになり、リスク認知や準備意図は高まることが予想される。本研究は新耐震基準を材料として実験を実施し、この問題を検討した。分析の結果は後者を支持するものであり、新耐震基準について情報を与えられそれを理解した人は、情報を与えられなかった人に比べて地震関連リスクをより高く認知し、準備意図を高めることが明らかにされた。また、情報提供の影響はあくまで地震関連のリスク認知や準備意図に留まっており、他種のハザードにまで波及することはなかった。以上の知見から、社会的に災害対策が進められているという情報は、個人的な災害準備の促進という観点からも積極的に告知されることが望ましい可能性が示唆された。最後に本研究の制約について考察した。

  • 廣尾 智彰, 池内 幸司, 渡部 哲史
    2019 年 17 巻 1 号 p. 9-19
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    我が国は水害常襲地であり、気候変動によって今後、カスリーン台風のような大水害に見舞われる可能性は増大する。大規模水害が起きた場合、ハリケーンカトリーナ時と同様に病院内で患者が生命の危機に瀕する恐れがある。既往研究において大規模水害時における病院内のリスクの抽出は十分ではなく、病院に着目したリスクの推計は行われていない。そこで本研究において既往研究やヒアリングをもとに大規模水害時における病院内でのリスクを抽出したところ、透析患者、特別室内で治療を受けている患者、医療機器による管理が必須な患者、呼吸器疾患を抱える患者、妊婦・新生児が特に生命の危機に瀕する恐れのあることが明らかとなった。また、生命維持に不可欠な外部電源供給の停止の可能性、非常用発電設備の水害に対する脆弱性、さらに事前避難の困難さが明らかとなった。

    また、水害条件として5つの荒川破堤パターンを設定し、上記患者数を定量的に推計した。東京都ではパターンごとに浸水の影響を受ける病院を抱える自治体が異なるため、生命の危機に瀕する患者種別やそれらの合算数の時間変化はパターンによって特徴が異なり、パターンにより発現するリスクが異なることが判明した。一方埼玉県の場合、浸水の影響を受ける病院を抱える自治体はどのパターンも同じ傾向を示し、生命の危機に瀕する患者種別はパターンによる差は少なく、リスク発現にかかる時間のみ異なる特徴を示した。

  • 宇田川 真之, 三船 恒裕, 定池 祐季, 磯打 千雅子, 黄 欣悦, 田中 淳
    2019 年 17 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害危険時の避難行動に対して、平常時における避難行動の意図が影響するものと想定し、その規定要因として、健康予防行動や環境配慮行動の分野で用いられている計画的行動理論や修正防護行動理論など参照し、「リスク認知」「効果評価」「実行可能性」「主観的規範」「記述的規範」「コスト」の6つの認知要因を仮定した。この心理モデルを適用した既往の住民調査の因子分析の結果では「効果評価」と「実行可能性」は独立した要因として抽出されていたが、他の要因の分別が十分ではなかった。本調査では、同じ6要因の心理モデルを用いて、設問項目の改善などを行い再調査した結果、「リスク認知」「主観的規範」「記述的規範」「コスト」、および「効果評価」「実行可能性」の合併した「避難の安全性評価」の5因子が抽出され、避難意図に対しては「リスク認知」「効果評価」「主観的規範」が有意な影響を及ぼしていた。因子分析で「効果評価」と「実行可能性」が分別されなかった原因は、モデルの不適切さによるものではなく、調査地域の地理環境が反映されたためと解釈できたことから、6要因に基づく調査フレームは、他地域にも適用し得る汎用性の高い調査フレームと考えられる。こうした汎用的な心理モデルの有用性として、地域間の比較や同一地区の時間変化の数量的な把握、効果の高いと期待される防災対策への示唆が得られることを整理した。

  • 小林 亘
    2019 年 17 巻 1 号 p. 31-40
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    発災時には、道路管理者は被災した道路上の場所を収集し、その情報を集約して通行の規制、迂回路の設定、被害の拡大の防止や復旧対応等の処理をしなければならない。そして、道路の被災場所の情報は、移動や輸送の為に他の機関や道路利用者にも利用される。しかしながら、あらゆる道路上の場所を安定して表現でき、分かりやすく、伝達しやすい方法が無いため、しかも、災害時には極めて限られた時間内に(時には場所に不案内な応援の人員の助けを借りて)場所情報を整理しなければならないといった制約も加わり、道路上の場所の表現には、路線と多様な場所の目印(地理識別子)が用いられている。

    文字列で表現された場所から座標を算出するための情報技術としてジオコーディングがあるが、これまでのジオコーディングは道路上の場所を対象としたものではない。このため、路線と地理識別子から道路上の場所を割り出すには目視による処理が必要であり、場合によっては、複数の地図を見比べるといった作業が必要であった。本研究では路線と地理識別子を関連付けて道路上の場所を特定するために開発した道路ジオコーダを使用し、平成29年7月九州北部豪雨災害による道路災害の日田市内の国道・県道の規制情報を例にその評価を行った。道路ジオコーダは入力データの86%から道路上の座標を出力することが可能であった。さらに、その所要時間は1件当たり1秒以下であり、有用なシステムと考えられる。

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