災害情報
Online ISSN : 2433-7382
Print ISSN : 1348-3609
20 巻, 1 号
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査読原稿
  • − 事例情報と統計情報の組み合わせ効果 −
    中谷内 一也
    2022 年20 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    災害の被害を伝える情報に統計情報と事例情報がある。統計情報の代表はある災害による死亡者数や負傷者数、避難者数などである。事例情報の代表は個人に焦点化してその被害経験を描写する体験談である。両者のうち、統計情報はあまり受け手に影響を与えないといわれる。しかし、事例情報によってある個人の被害を知り、加えて、統計情報によってそのような被害が多くの人に起こっていることを把握すれば、事態が深刻であるという認識が一層強まってもおかしくはない。災害避難に当てはめると、避難生活の厳しさを伝える事例情報と、そのような経験をした人が実際に何十万人もいるという統計的情報とが合わせて示されると、単に一方だけ伝えられるよりも災害避難の深刻さをより強く認知する可能性が考えられる。本研究では、地震による避難所への避難を材料として実験を行い(N = 360)、統計情報条件、事例情報条件、事例+統計情報条件の3条件を設け、リスク認知や災害準備への姿勢を条件間で比較することでこの問題を検討した。分析の結果、事例+統計条件は事例条件よりも自分が避難者となる可能性を高く評価し、災害準備に対して促進的な姿勢を示すことが認められた。この結果は、災害情報として事例情報に統計情報を組み合わせることの有効性を示唆するものであった。

  • 小林 秀行
    2022 年20 巻1 号 p. 9-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本稿は近年、日本の地理的特性を示す言葉として用いられる「災害大国」という言説が、古代における天譴論の導入から始まる、日本社会と災害との関わりのなかで歴史的に構築されてきたものであることを、その歴史を紐解くことによって明らかにしたものである。「災害大国」という言葉が用いられ始めたのは 1970 年代、科学主義が頂点に達しつつある時代であり、1990 年代頃からは「災害大国」が本来、有していた”Disaster prone country”という意味に加え、その地理的特性が”A country known for its disaster risk reduction”としての「防災・減災大国」という特性を日本社会にもたらしてきたという理解が広がった。さらに、そうした日本の先端的な知見を国家のソフト・パワーとみなし、国際貢献や輸出戦略の柱として積極的に位置付けていこうとする動きも確認された。しかし、このような動きは近年になって初めて現れたものではなく、その背景には、日本では古来から災害対策が国家と為政者の責務として理解されていたこと、近代化以降の地震学が政治との関わりを強く有していたこと、そして近年、防災・減災をソフト・パワーとして利用する傾向が進展していることといった歴史的要因があることが明らかとされた。

  • 小林 秀行
    2022 年20 巻1 号 p. 21-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本稿は、被害の原因究明に用いられることも多い「責任」という概念が、災害研究という領域においてどのような意味を有しているのかという点について検討を行ったものである。その目的は、現代日本社会が災害における責任、とりわけ自己責任をどのように捉えており、また、それは歴史的にどのような経緯のなかで構築されてきたものであるのかということを明らかにするという点にある。日本では、社会的な危機に対して「絆」「連帯」「国難」といった言葉を用いて「想像上の一体感」を構築する。このような「虚構」はそれを信じることで救援を期待し、また支援の契機にもなるなど、人びとへ危機への対応をともかく取り始めさせることができる。反面、それは中央主権体制のもとで責任の所在をあいまいにし、弱者へと負担を強いるものでもある。そうした中での自然災害をめぐる「責任」の問題とは、災害による被害に対して結果責任を問うという単純なものではなく、日本という社会が培ってきた災害への向き合い方に深くかかわる問いである。本稿が明らかとしたものは、そこで問題にされるのは自己責任論の是非ではなく、「結果責任としての責任」と「義務としての責任」の狭間で葛藤を続けてきたという日本における責任の引き受け方の歴史が忘れ去られ、その後の社会変化のなかで「結果責任としての責任」のみが肥大しているということにこそある、という点にある。

  • 岸本 優輝, 中谷 洋明
    2022 年20 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    土砂災害警戒情報は、土石流もしくは集中的に発生するがけ崩れを対象として作られており、気象警報と災害警報(土砂災害警報)の二面性を持っている。したがって、土砂災害警戒情報を評価するにあたっては、予測される降水量に基づく気象警報としての評価と、その後に報告される事象の発生状況に基づく土砂災害警報としての評価の両方を行う必要がある。気象警報としての評価は、気象庁が行っている。 しかし、土砂災害警報としての評価は、主に土砂災害の発生率に基づいて行われており、これは全国的な災害事象の登録方法に大きく影響される。本稿では、土砂災害データベースに登録された災害のデータを調査し、土砂災害警戒情報の運用結果を評価した。性能指標として、土砂災害警戒情報の発表下での災害の発生・非発生について、2014 年から 2018 年までの全国の集計を行った。指標は全国的にばらつきがあったが、精度よく、発生・非発生を分離できた都道府県もあった。他方で、現行の土砂災害警戒情報では事象の多発性が十分に考慮されていないことがわかった。

  • 矢守 克也
    2022 年20 巻1 号 p. 41-50
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本論文は、ナラティヴ論の視点に立って、防災・減災研究と復旧・復興研究とをこれまで以上に有機的に融合することを試みたものである。特に、これまで相互に関連づけられることなく実施されてきた複数の取り組みが、特殊な形式のナラティヴ(語り)を通して、防災・減災研究と復旧・復興研究とを巧みに両立させていることを理論的かつ実践的に指摘した。具体的には、第 1 に、「もうをまだとして」という形式、言いかえれば、本来既定的であるはずの過去をあえて未定的なものとして語るスタイルとその効果について論じた。第 2 に、「デイズ・ビフォー」という形式、すなわち、破局的な災害が起こる前の日々について語ること、および、それとは対照的に、「デイズ・アフター」という形式、すなわち、まだ起きていない災害を先どりして被災後の日々について語ること、これら 2 つの形式をとるナラティヴとその効果について指摘した。第 3 に、災害の体験者による過去の災害に関する語り(「センス・メイキング」に資する語り)と、未体験者による未来の災害に関する語り(「ディシジョン・メイキング」に資する語り)とを接続するツールとしての防災教材「クロスロード」とその効果について考察した。

  • —平成 30 年 7 月豪雨・令和元年東日本台風の実証分析—
    永松 伸吾, 牛山 素行, 関谷 直也, 鈴木 進吾
    2022 年20 巻1 号 p. 51-61
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本稿は市町村長の発する避難情報について、その人的被害軽減効果を定量的に明らかにする手法を提案し、その手法を用いて、近年の二つの巨大災害である、平成 30 年 7 月豪雨および令和元年東

    日本台風(台風 19 号)を事例として分析する。得られた主要な結果は以下の通りである。

    第一に避難情報のうち、避難勧告および避難指示は、制度が想定するように災害の切迫性によって使い分けられていた。また、避難勧告は高頻度戦略、避難指示が低頻度戦略にそれぞれ基づく避難情報であるという実態も明らかになった。第二に、避難情報はそれが無いときと比べて人的被害の軽減に貢献していることが明らかとなった。第三に、少なくとも東日本台風については、複数の種類の避難情報が発せられることによって、より人的被害の軽減に貢献している可能性が明らかとなった。

  • 倉田 和己, 穴井 英之, 荒木 裕子, 新井 伸夫
    2022 年20 巻1 号 p. 63-73
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    南海トラフ地震臨時情報は、不確実性を伴う情報を用いて、命を守るとともに社会活動の維持をはかるためのものとされている。しかしその活用の前提には、住民による臨時情報の正しい理解と、基本的な地震対策の徹底が不可欠である。本研究では愛知県岡崎市を対象に住民の臨時情報に対する意識を調査し、内閣府の防災対応検討ガイドラインに記載された「とるべき対応」と、現状で想定される住民行動とのギャップについて考察した。岡崎市は臨時情報での事前避難対象地域を有さないため、本来は社会活動の積極的な維持に努めるべきであるが、現状では約 4 割の住民が自主避難意向を示した。また、同市中心部を流れる一級河川矢作川による水害を想定した場合の避難意向と、臨時情報での避難意向が連動している傾向が見られた。これらのことから、現状では臨時情報に関する住民意識は「命を守る」ことに傾倒しており、「社会活動の維持」への意識がほとんど見られないと考えられる。海岸部を有する岡崎市の隣接自治体ではより多くの事前避難が発生しうるため、現状のままでは当該地域一帯の社会経済活動の維持は極めて困難となる。臨時情報を被害軽減に役立てるためには、「とるべき行動」としてガイドラインに定められた望ましい行動と、実際の住民意識とのギャップを埋めることが先決である。

  • 増田 慧樹, 池内 幸司
    2022 年20 巻1 号 p. 75-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    近年,浸水により孤立した病院から入院患者が救助される事例が相次いでいる.首都圏で大規模水害が発生した場合,病院が長期間孤立し入院患者が生命の危機に瀕する危険性がある.しかし患者の避難には長時間を要するため,現在の洪水予測精度では患者を事前に浸水域外へ避難させることは難しい.そのため大規模水害時に孤立した病院からの患者の救助について検討する必要があるが,詳細な検討はなされていない.

    本研究では,まず災害時の病院の孤立事例を参考に,大規模水害時に生命の危機に瀕する恐れのある患者について何日以内に救助する必要があるかを検討し,患者の症状に応じて目標救助時間を浸水から 1 日以内,2 日以内,3 日以内と設定した.次に荒川の氾濫を対象にボートによる救助シミュレーションモデルを構築し,目標時間内での救助の実現可能性を検証した.その結果,重症患者が 50 人以上入院している 8 つの大病院において乗船やボート係留に時間がかかり,救助隊の活動時

    間が 1 日 12 時間の場合,浸水域の全患者が救助されるまでに浸水から約 7 日を要することがわかっ

    た.目標時間内に患者を救助するには,大病院において乗船箇所を最大 8 箇所まで追加し,周辺の 前進拠点数と一つの前進拠点で同時に活動できるボート数を増やす必要があることを明らかにした.

  • 鈴木 進吾, 永松 伸吾, 李 泰榮
    2022 年20 巻1 号 p. 87-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    個人が災害を安全に乗り越えるための行動を事前に検討することは重要である。この検討には、ハザードマップをはじめ、ハザードの想定、避難行動に関する知見、緊急時の情報、IT を活用したアプリなどの情報が提供されている。しかしながら、この検討が一連の問題解決プロセスであるにもかかわらず、これらの情報は個別に提供されていることから、個人や地域での検討において有機的に結合されておらず、科学的根拠に基づく意思決定がなされていない。

    本研究では、安全確保行動の検討過程を問題解決プロセスとして捉え、プロセスに沿って情報や機能を結合して提供することにより、地域における安全確保行動の検討を支援しようとする情報ツール「YOU@RISK」を開発した。そして、ツールの開発とツールを用いた安全確保行動の検討を兵庫県尼崎市の尼崎鉄工団地において実施し、このようなツールの有効性を検証した。

    具体的には、ツールを利用して、リスクとそれに対する行動選択肢の探索、選んだ選択肢の実行可能性のシミュレーション、訓練結果の分析が実施された。実施を通して、問題を発見し目標を設定する、モデルプランを作成する、訓練において検証する、目標とモデルプランを修正するという問題解決プロセスを実行することができた。

  • 西野 瑛彦, 小高 暁, 中島 円, 神武 直彦
    2022 年20 巻1 号 p. 99-110
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、筆者らが設計した測位衛星と公共交通機関の車両を連携させた災害情報の音声配信システムの有効性を、情報伝達のエリア網羅性の観点から評価した。設計したシステムでは、地震や津波などの大規模災害の発生直後、準天頂衛星システムを始めとする衛星測位システムから配信された災害情報を、地上で運行を停止した公共交通機関の車両が受信し、音声情報に変換して車両に搭載された拡声器から自動で配信することで、防災行政無線の可聴範囲外における情報伝達のエリア網羅性の向上を実現させた。大規模災害の被害想定地域として東京駅周辺および和歌山市を選定し、平日日中のバスの車両の位置情報を GTFS リアルタイム形式で取得し、地理情報システムを用いたシミュレーションにより公共交通車両からの音声情報配信に伴う情報伝達の網羅率の時系列変化を算出した。その結果、東京駅周辺においてはバスを防災行政無線の代替手段として利用することで、情報伝達の網羅率が 50%以上向上することを確認した。一方、和歌山市においては網羅率が 10%までしか向上せず、システムの有効性を高める時間帯や地理空間の特徴、対象地域の範囲が判明した。

  • 川西 勝, 阪本 真由美, 森 津太子
    2022 年20 巻1 号 p. 111-121
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    予報や警報、避難指示、ハザードマップなど避難行動の促進や危機意識の喚起を目的に出される防災情報は重要な役割を担っているが、近年は効用の逓減に加えて弊害や逆機能も懸念され、抜本的な見直しが迫られている。防災情報のあり方に関する議論の深化に寄与することを目的として、豪雨災害を取り扱った新聞社説を対象に、メディア・フレーム論に依拠して内容分析を行った。報道に着目したのは、災害や防災に関するマス・メディアの主張が、人々の避難行動から防災対策の立案まで広い範囲に影響を及ぼし得るためである。対象は 1990 年から 2019 年まで 30 年間の全国紙2 紙である。豪雨災害に関連する防災情報を取り上げた社説が、どのような枠組み・視点(メディア・フレーム)で主張を行っているのかを分析した結果、「本体改善」「情報受容」「検証要請」「共同実践」「自主判断」の 5 フレームが抽出され、「本体改善」と「情報受容」の合計が 8 割を占めることが明らかになった。「本体改善」と「情報受容」の両フレームは「行政が懸命に情報を作って出し、住民はそれを待った上で行動する」という<能動(主体)/受動(客体)>の一方向的な関係性で結ばれている。これら両フレームが支配的であったことから、マス・メディアは防災情報を「送り手/受け手」の二項対立的な構図で捉えていること、その視点は長期にわたり維持されたまま現在に至っていることが示された。

  • -パネル調査を用いたドラマ「パラレル東京」の効果分析-
    安本 真也, 河井 大介, 齋藤 さやか, 関谷 直也
    2022 年20 巻1 号 p. 123-135
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、内閣府の被害想定を基に制作されたドラマ「パラレル東京」による防災に関する認知面での効果の分析を行ったものである。このドラマの視聴者は、首都直下地震で自身が被害にあう可能性があると考えるように変化し、特にその効果は番組視聴直後が最大であると考え、ドラマのテーマとして使われていた具体的な被害事象ごとに検討した。

    その結果、第一に、「パラレル東京」はそもそも、首都直下地震への危険度の認識が高い人が視聴していた。第二に、ドラマのテーマとして設定されていた、首都直下地震が起こったときに生じるとされる想定事象、9 つすべてについて、視聴直後に最も、自分自身が被害にあう可能性があると考えるように変化していた。さらに、火災に巻き込まれることなどの 4 つの事象については、3 か月が経過しても番組視聴前よりも、自分自身が被害にあう可能性が高いと考えるようになった。こうして、映像が視聴者に防災の認知面で効果をもたらしていたことが明らかとなった。

  • 平山 修久, 市岡 宗詢, 荒木 裕子
    2022 年20 巻1 号 p. 137-145
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、給水拠点、給水所、道路情報を GIS 上の地域メッシュデータとして、セルオートマトン法による災害時の給水車シミュレーションモデルを構築することを目的とする。2016 年熊本地震での熊本市を解析対象として、セルオートマトン法による応急給水数値解析モデルを適用し、災害後の応急給水活動シミュレーションを実施した。その結果、構築した応急給水数値解析モデルにより、地理情報システム上で災害時の応急給水について表現することができ、応急給水バルーンなどの応急給水資機材の整備、応急給水拠点の整備による災害時の応急給水量確保や応急給水活動の効率向上を評価できた。また,セルオートマトン法による応急給水数値解析モデルは、防災情報共有システムと連携することで、災害時の応急給水戦略策定に有用なツールとなりうるといえた。

特集1
  • ―参加生徒の事前・事後アンケート分析を中心に—
    上田 啓瑚, 藤井 基貴, 上地 香杜
    2022 年20 巻1 号 p. 147-157
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究は静岡県中部の公立高校において、高校、大学、幼稚園等が連携して実施した防災教育プログラムの成果と課題を検討するものである。同プログラムは静岡県東部の公立高校において 2019年より継続的に実施され、本研究の対象校においては 2021 年度から導入された。同校では、第 1 学年において「保育体験実習」が行われている。本プログラムでは「保育体験実習」の時間枠を活用して、高校生が主体となって幼稚園等で独自の防災講座を企画・実施した。同プログラムは、まず事前学習として防災を学ぶ大学生たちによる対面及びオンラインを併用した指導が行われ、続いて生徒自身による企画・実施へと進む。2021 年度の実践にあっては新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の状況に鑑みて、高校の近隣にある 6 カ所の幼稚園等において、生徒が制作したオンデマンド動画による防災講座が提供された。本論文では同プログラムに参加した高校生 244 名に対して、事前及び事後にアンケート調査を実施し、参加した生徒において防災意識や学習意欲の向上などが認められ、ハザードマップの確認といった防災行動にもつながっていることが明らかとなった。

  • 〜3 河川のケーススタディ〜
    香焼 一輝, 廣井 悠, 大津山 堅介, 加藤 孝明
    2022 年20 巻1 号 p. 159-169
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    北陸扇状地をはじめとして,日本には多くの急流河川が存在しており,歴史的に繰り返し河川の氾濫の被害を受けてきた地域は少なくない.これらの河川の流域には,独自の伝統的な治水方法が発展している地域も多い.霞堤もその一つであり,全国的に広く存在している.しかしながら,霞堤が本格的に活用されていた時代と比較して,治水技術が発展したことで,破堤リスクが格段に減少した結果,堤防に開口部を設けずとも河川の水をコントロールすることが可能となった.そのため,今日に至るまで,霞堤の閉鎖が続いている地域が多い.本論文では,このような社会的背景を踏まえ,霞堤周辺の土地利用が経年的にどのように変化してきたかについて三河川を対象に考察し,地域特性ごとの霞堤の利用方法の変化の傾向と,現状の霞堤における機能不全の可能性を明らかにした.

  • 杉山 高志, 矢守 克也
    2022 年20 巻1 号 p. 171-182
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、防災実践の水平展開のメカニズムについて考察したものである。水平展開とは、防災活動を推進する際に頻繁に用いられる用語だが、この概念を理論的に検討した先行研究は僅少である。本研究では、高知県四万十町・興津地区と高知県黒潮町・熊野浦地区などで行われている家具固定の防災活動を例に分析し、水平展開が起こるメカニズムを明らかにした。その結果、熊野浦地区の住民は、興津地区の住民が行った家具固定の事例の写真を見たことをきっかけに、家具固定を推進したことがわかった。つまり、家具固定を促進するためには、家具固定についての科学的な必要性を説明するだけではなく、地域特性が似ている地区の防災活動を共有することが重要であることが明らかになった。本研究の結果をふまえて、水平展開はエミュレーション学習と威光模倣によって駆動していることがわかった。

  • 高原 耕平
    2022 年20 巻1 号 p. 183-196
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    避難という出来事の本質はなにか。その研究は科学的であるべきか。国内の避難研究史をたどると、1960 年代の建物火災避難研究、1970 年代の水害避難研究、1980 年代の情報処理研究、そして現在の多くの避難研究が「情報・判断・行動」という認知行動モデルを前提に避難を検討している。そこには適切/不適切な情報が判断を準備し、正しい/間違った行動をもたらし、良い/悪い結果に至るという「鼓型モデル」が見いだされる。だが科学的に実際に観測できるのは鼓の両端部分のみである。「判断」は事後的に構成したものであり、実在するとは言えない。さらに鼓型モデルは偶然性および死者との関係をめぐって解決の難しい問題を抱える。災害に投げ込まれた人間の能力と必然性を重視する科学的研究のみでは、避難の本質を捉え得ない。そこで本稿は避難研究のもう一つの立場として、物語的な研究の可能性を検討する。物語的な研究は、研究者と住民が偶然性を織り込んだ共同の物語行為を通じて未来をかたちづくる営みである。

  • ―津波避難経験者のデプスインタビュー調査から—
    福本 晋悟, 近藤 誠司
    2022 年20 巻1 号 p. 197-207
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災では、大津波が到達するまでに猶予時間があったにもかかわらず、多数の住民が適切な避難行動をとることができずに命を落とした。自治体や放送局から避難の呼びかけが一斉に行われ、その情報を受信した人が多かったことをふまえると、危機の切迫を知らせるはずの情報が住民の避難を“後押し”するものにはなり得なかった可能性を示唆している。この課題を克服するため、東日本大震災以降、各放送局では「避難呼びかけ手法」(キャスターコメントやアナウンスメントの仕方、画面表示のデザインなど)に着目した改善策を施している。そのいくつかは、すでに実際に放送で使用されてもいるが、それをどのように住民が受け止めたかを実証的に調査した分析はほとんど行われていない。

    本研究では、新たなキャスターコメントやアナウンスメントに対して、人々がどのような観点に重きを置いて評価するのかを確かめるため、東日本大震災時の津波避難経験者を対象とした定性的な調査(デプスインタビュー)を行った。その結果、地域の実情や個々人の経験によって多種多様な受け止め方があること、しかしそのなかでも適不適の評価に関しては、一定の傾向が見られることが分かった。こうした結果をふまえて、避難呼びかけのありかた自体を住民とオープンに議論することが、情報の感受性を高め、避難呼びかけの効果を高めることにつながる可能性を提起した。

特集2
  • 岡田 夏美
    2022 年20 巻1 号 p. 209-218
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    近年の学校防災教育では、知識の習得、他の活動主体との連携、そして主体性の育成などの多くの役目が求められ、その実践に期待が寄せられている。しかしながら、そのような学校防災教育においては、大きく 2 つの課題がある。①「主体性」と「知識」はどのような関係で学習されるべきか、②「主体性」は、学校教育のみで育成できるのか、という課題である。本稿では、学校教育のみでは、防災教育に求められているすべての役目を果たしきれる機能を持っていないと論じる。なぜなら、学校教育のみの学習では、本来、実社会に結びついて理解されるはずの「知識」が脱文脈化してしまい、「生活や実社会」と結び付けることが難しく、そのために「主体性」が育まれる機会が喪失してしまうからである。

    そこで、学校教育のみが防災教育で求められるすべてを行うのではなく、学校外教育や日常的教育と協調することで、学校教育における防災教育の学習環境を再構築し、「知識」と「生活や実社会」がリンクすることを目指したアクションリサーチを展開した。その結果、「主体性」が育まれる道筋を構築することができた事例について取り上げて、学校防災教育の新たなフレームワークについて論じる。

  • ―校内防災放送プロジェクトを題材として—
    近藤 誠司
    2022 年20 巻1 号 p. 219-228
    発行日: 2022年
    公開日: 2026/05/01
    ジャーナル フリー

    本稿は、近年、注目されながらも誤解されがちなアクションリサーチという研究上の身構え(stance)に関して、ごく初歩的な理解を促すために編まれている。まず、アクションリサーチとは「何であ るか」を確認するために、「すくなくとも~ではないものである」というアングルから再整理を行っ た。次に、筆者が神戸市の公立小学校で 8 年度間に渡って実施してきている「防災学習支援プロジ ェクト(校内防災放送プロジェクト)」を題材として、アクションリサーチの身構えを保持すること の意義を、幾つかのエビデンスを示しながら紹介した。最後にまとめとして、アクションリサーチ の可能性の中心には、アクションリサーチのみならず、科学コミュニティ全般がはまり込みやすい 陥穽からの脱出路があることを指摘した。

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