災害情報
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特集原稿
  • 安本 真也
    2025 年23 巻2 号 p. 165-168
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    本特集は 2025 年 3 月 15 日(土)に開催された、日本災害情報学会第 30 回学会大会公開シンポジウムを受けて企画されたものである。2024 年 8 月 8 日に、運用開始以来、初めて南海トラフ地震臨時情報が発表された。この情報に対する社会の反応は様々であり、活用には課題がみられた。そこで、この情報は防災の観点からどのように活用できるのか、としてシンポジウムを開催した。制度設計に関わった方々をお招きして講演いただいたうえで、その整理をふまえ、メディアや自治体など多様な視点を交えながら、この情報の活用方法についてパネルディスカッションで議論を行った。本論文はその概要を記録として残しておく。地震防災に関する情報を被害軽減にいかに結び付けられるか、ということを多様な観点から議論し、共有することが重要かを示せたと考える。

  • -運用と課題-
    平田 直
    2025 年23 巻2 号 p. 169-176
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    2024 年 8 月 8 日に気象庁から「南海トラフ地震臨時情報」が発表された。これは、2019 年に臨時情報の制度が作られてから初めてのことであった。小論では、まず、臨時情報ができた背景をまとめ、次に、実際に発表された経過をまとめる。臨時情報には「調査中」「調査終了」「巨大地震注意」「巨大地震警戒」があり、それぞれの情報に対応した政府からの呼びかけが決められている。2024年 8 月と 2025 年 1 月にどのような情報が発表されたかを解説する。南海トラフ地震が時間差発生を含む多様な形態を取りうることを踏まえ、臨時情報が「予知」ではなく地震発生可能性の「現状認識」を示す点に意義があることを説明する。特に 2024 年 8 月 8 日に発生した日向灘地震に伴う臨時情報(巨大地震注意)の発表について、その運用と防災対応への社会的な影響について議論する。自治体、鉄道、学校、病院等の個別分野における防災対応留意事項にも触れ、情報の円滑な伝達と地域・個人の自律的な行動を促す上での課題を明らかにする。臨時情報への理解を深め、効果的な防災対策の検討に資することを期待する。

  • 横田 崇
    2025 年23 巻2 号 p. 177-182
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    南海トラフ沿いの地震・津波対策は、2001 年の省庁再編後の中央防災会議において設置された「東海地震に関する専門調査会」に端を発する。2004 年には、東海地震と東南海・南海地震の 2 本柱で対策が推進されることとなり、いずれも突発する地震への対策が基本となるが、東海地震については、大規模地震対策特別措置法(以下、「大震法」という)による地震予知による対応も定められていた。しかし、2011 年東北地方太平洋沖地震を教訓とした南海トラフでの最大クラスの地震・津波対策の検討過程において、東海地震も含め、現状の科学技術では確度の高い地震の予測は困難と評価され、大震法に基づく防災体制を改めることとなった。異常現象観測時に、必ずしも地震が発生するとは限らない不確実性の高い状況であったとしても、社会的な混乱を回避し一層の被害の軽減を図るため、緊急的に実施する防災対応について検討されることとなった。この検討により、南海トラフ地震臨時情報が制度化された。これは、予知・予測対応型からリスク対応型への防災対応の変換を象徴するものである。

  • 岩田 孝仁
    2025 年23 巻2 号 p. 183-188
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    南海トラフにおいて大地震の発生の可能性が高まった場合には、気象庁が南海トラフ地震臨時情報を発表する運用が 2019 年 5 月から始まった。しかし、情報を出す事態は稀にしか起きないことや、対応は自主的判断であることから十分に周知されていなかった。2024 年 8 月に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が出された際には、様々な機関の対応には戸惑いと混乱が見られた。この情報の運用に関する課題はまだ多いと考える。課題を解決するため、静岡県のこれまでの取組みを参考に、大規模地震対策特別措置法の枠組みを使って地震防災対策の徹底を図ることを提案する。

    1 点目は、財源を確保して南海トラフ巨大地震への事前の防災対策事業の推進である。2 点目は、現在は運用を停止している地震予知情報に替えて、新たに南海トラフ地震臨時情報を枠組みに入れ、地震発生の可能性が高まった段階において、一定期間は地震防災対策の再確認や強化策の実施を位置付けることである。こうした対応により、社会活動の混乱を最小限にすることができると考える。

  • 林 能成
    2025 年23 巻2 号 p. 189-194
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    2024 年 8 月 8 日にはじめて発表された南海トラフ地震臨時情報は社会で好意的に受け止められたという評価が一般的である。この情報は地震予知が否定されてつくられた歴史があり、地震予知ではないことが強調された制度設計がなされていた。しかし、実際の発表プロセスを見ると、いまだ地震予知の影響をひきずっている対応が見られた。本稿では地震予知からの転換という視点にたち南海トラフ地震臨時情報に残されている課題を検討した。

  • 平山 修久, 千葉 啓広, 木作 尚子
    2025 年23 巻2 号 p. 195-202
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿では、文部科学省科学技術試験研究委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」において実施した南海トラフ地震臨時情報発表時の社会様相シナリオの構築に関する取り組みについて論述する。2024 年 8 月 8 日日向灘の地震時に発表された臨時情報(巨大地震注意)に関する新聞記事データベースを作成した。テキストマイニングを行った結果、8 月 8 日の臨時情報(巨大地震注意)発表時には、社会の混乱、パニック、極端な活動萎縮などネガティブな社会とはならなかったものと考えられる。そのうえで、南海トラフ地震に対する理解に努めるとともに、南海トラフ地震への備えを国民自らが実践していくことが必要であることを示した。

    臨時情報発表時の社会福祉施設の状況把握を目的として社会調査を行った。その結果、今回の調査対象となった社会福祉施設においては、南海トラフ地震による被災リスクを強く感じていることを明らかにした。臨時情報ワークショップ、勉強会ツールを活用したワークショップでの成果物を活用し、臨時情報発表時の事態想定シナリオデータを構築した。そのうえで、構築した事態想定シナリオデータを南海トラフ地震臨時情報机上演習に状況付与として活用し、南海トラフ地震対策や BCP の見直しに結実していくことが必要不可欠である。

査読原稿
  • 森本 翔太, 豊開 翔太, 及川 康
    2025 年23 巻2 号 p. 203-213
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    避難三原則の第一原則「想定にとらわれるな」の含意に関する一般的理解が「想定に関する『下振れ期待』を徹底的に避けて『上振れ想定』を目指すべき」というものであるならば、そこに「それでは限定的に過ぎる」との補足を付すことを試みるのが本稿の論点 1 である。第二原則「最善を尽くせ」を遂行しようとするとき、おのずと想定の「下振れ」を懇願しなければならない場面は必ず存在する。にもかかわらず、上記のような第一原則に対する限定的な理解のままでは、最善を尽くすことを諦めてしまう可能性がある。そのような事態を避けるために、第一原則が「下振れ」をも許容する概念であることの理解が大きな役割を担う場面が存在することを確認するものである。

    一方、本稿の論点 2 は、第三原則「率先避難者たれ」を遂行しようとするときに立ち上がってくる「カッコ悪さ」の感情は、実は思い込み(取り越し苦労、杞憂、幻想)に過ぎないかもしれない点を指摘するものである。それが思い込みに過ぎないのなら、率先避難しても「カッコ悪さ」を感じないで済む社会を創ることもじゅうぶんに可能なはずである。論点 2 では、そのような社会を第三原則とは別の方法によって予め整えておくことの可能性も示唆された。そのような社会は、そうでない社会と比べて、第三原則を唱えることによってより一層たくさんの率先避難者を増やすことが可能な社会でもあるはずである。

  • 山﨑 真梨子, 武田 文男
    2025 年23 巻2 号 p. 215-223
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究は、これまでの高齢者福祉施設における防災研修に係る先行研究等をレビューするとともに、筆者が実施した、高齢者福祉施設の職員が自施設の災害時の影響と対策を考えるワークショップの効果検証を行うことを目的とした。

    先行研究においては、計画作成や専門職養成における手法が明らかにされているが、高齢者福祉施設の職員が自施設の災害時の影響と対策を考え、施設の防災・減災に係る計画に職員の意見を反映・共有する研究は見あたらなかった。

    ワークショップからは、ワールドカフェ方式でのグループワークが、多様な視点や意見の共有及び意識啓発や職員の相互理解・コミュニケーションの場となることが示唆された。また、職員による話し合いの結果は施設の防災計画の啓発や見直しの契機となる可能性がある。加えて、高齢者福祉施設において想定される災害対応の課題が抽出され、災害対策・計画のチェックリストを作成することができた。このチェックリストの項目は、今後、このようなワークショップを重ねることで、高齢者福祉施設の標準的な災害対策・計画のチェックリストを作成できる可能性がある。

    今後は、これらをもとに試案した防災研修企画案の実施及びその効果の検証を行いたい。

  • 松原 悠, 曹 婉瑩, 矢守 克也, 上米良 秀行
    2025 年23 巻2 号 p. 225-234
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    災害現象の顕在化や被害発生の可能性があったものの、結果的には災害現象が顕在化しなかった事例である「ポテンシャル事例」の存在は、一部の専門家を除き、社会で十分に意識されていない。本研究では、一般に公開されている河川の水位データを用いて、外水氾濫が顕在化する可能性があったヒヤリハット事例、すなわち、「ポテンシャル事例」が、ある地点において過去に発生していた程度を簡易的に表現するために導入した指標(切迫率)を用いた分析を行った。結果、近年外水氾濫が発生した地点においては、発生していない地点と比べて、外水氾濫の発生前年までの切迫率の平均値が高い傾向や、切迫率の標準偏差が相対的に小さい傾向がみられた。本分析の結果は、外水氾濫発生の背後に存在する「ポテンシャル事例」に注目していく有用性を示唆するものである。

  • 三上 雄大, 佐藤 翔輔, 成田 峻之輔, 千葉 智史, 岡元 徹, 今村 文彦
    2025 年23 巻2 号 p. 235-243
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究は,VR(バーチャルリアリティ)を活用した津波避難行動の体験において,操作デバイスの特徴を比較し,その有用性を検証した.比較対象としたデバイスは,ハンドコントローラ,トレッドミル歩行型デバイス,ウェアラブル歩行型デバイスの 3 種類である.神奈川県鎌倉市沿岸部を再現した VR シミュレーションを構築し,実験参加者による津波避難行動を分析した.

    4 カテゴリー(51 問)の質問紙調査を実施した結果,酔いの程度は全デバイスで軽度にとどまった.操作性において,ハンドコントローラは高い評価を得た一方,トレッドミル歩行型デバイスは扱いづらさがあった.ウェアラブル歩行型デバイスは,操作性における明確な強みや弱みは示されなかった.臨場感の観点では,ウェアラブル歩行型デバイスが優れた評価を得たが,一部で現実空間への注意が臨場感を損ねる要因となった.また,意識変化においては全デバイス間で有意差は見られなかった.各デバイスはそれぞれ異なる利点と欠点を有しており,目的に応じた適切なデバイス選択が重要であり,本結果が参考になると考える.

  • 安本 真也, 荒木 優弥, 石橋 真帆, 作間 敦, 関谷 直也, 三宅 真太郎, 横田 崇
    2025 年23 巻2 号 p. 245-256
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    2024 年 8 月 8 日 19 時 15 分に、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が運用開始後初めて、気象庁から発表された。1 週間程度、「日頃からの地震への備えを再確認すること」などの防災対応の呼びかけが行われた。お盆の直前というタイミングであったが、この情報に対して住民はどのような防災行動をとったのか。また、臨時情報の特性を踏まえると、今後も発表される可能性が高い。そのため、次に情報が発表されたときの行動意図を明らかにすることで、今後の情報活用につなげていく必要がある。そこで本研究では、今回の情報の効果ならびに、次の情報発表時に住民がどのように考え、行動するのかを明らかにすることを目的とした。南海トラフ地震臨時情報の運用に至る歴史的背景を述べ、情報発表の 3 か月後に実施したアンケート調査の結果を基に論じた。結果として、第一に、元々、防災に対する意識が高い層には情報の効果がみられたこと、第二に、特に、海に行く予定は変更・キャンセルが多くなされたこと、第三に、今回、防災行動をとった人たちは、次の情報発表時にも防災に関する行動意図が高かったこと、第四に、情報に対する評価は防災に関する行動意図とは関係がないことが明らかとなった。

  • -在京キー局特番の内容分析-
    福本 晋悟
    2025 年23 巻2 号 p. 257-267
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    2024 年の元日に発生した能登半島地震では地震発生の 2 分後に津波警報が発表され、各テレビ局は災害特別番組を放送した。本研究は、災害特別番組に出演したニュースキャスターがどのようなキャスターコメントを用いて住民に津波からの避難を呼びかけたのかを分析したものである。

    5 番組を分析した結果、「高台に逃げてください」などの「高所避難の呼びかけ」の回数は、東日本大震災時より多い傾向だと分かった。また、「今すぐ逃げてください」のような早期避難を促すキャスターコメントも頻出していた。一方で、新聞報道で注目された「命令調」(命令口調)の手法は、 NHK だけが使用していた。

    次に、避難を促す意図で「東日本大震災」をキーワードとして引用するキャスターコメントの登場回数は、各局でばらつきがあった。また、「津波避難ビル」や「津波避難タワー」というキャスターコメントはほとんど使われなかった。

    さらに、「津波予報区」の登場回数を分析したところ、津波警報発表段階では「石川県能登」の登場回数は最多ではなく、最多となるのは大津波警報発表以降だった。

    これらの対応は、事前の想定もしくはその時の判断によるものかは録画した番組からは判断できないが、今後、南海トラフ地震などの津波災害に備え、それぞれの津波避難キャスターコメントを使用する目的や意図について 1 つ 1 つ議論を進めていくことが求められる。

  • -地震前後のアンケート調査から-
    井上 能行, 山本 竜大, 西尾 述志, 城石 愛麻, 澁谷 輝
    2025 年23 巻2 号 p. 269-279
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    2024 年 1 月の能登半島地震の 1 年前と地震 2 カ月後にアンケートを行い、約 2000 人から 2 回の回答を得た。地震前のアンケートは、一般的な防災アンケートで、地震や風水害への備えを問い、風水害で出される避難情報を避難意図の指標とした。避難意図への影響は「災害に対する心配度」や「災害発生時には近所に声をかけて避難する」が比較的、高く、避難困難者がいると避難にプラスに働き、ペットがいると避難にマイナスに働く、避難訓練は影響力が小さく、ハザードマップや避難場所の認知度、備蓄は有意差がなかった。地震後のアンケートで、「命を守る行動」に最も影響したのは「揺れの強さ」だった。体感震度 4 以上の人 960 人について、風水害に対する避難意図と地震発生時の行動との関係を調べると、風水害の避難意図と地震発生時の行動には関連がみられた。これは風水害の避難意図は他の災害でも防災意識と関連しており、災害発生時の行動に影響することを示唆している。また、「備蓄」「避難訓練に参加」は避難意図では影響力が弱かったり、なかったりしたが、地震発生時には命を守る行動をとる確率が高かった。さらに、発災直後に起きる、頭の中が真っ白になって適切な行動をとれないという「凍りつき症候群」は、避難意図とは関係なく起きていた。命を守る行動以外では、テレビやスマホを使って情報収集をしている人が多かった。情報の伝え方次第では適切な行動につなげられる可能性がある。

  • 竹 順哉, 矢守 克也
    2025 年23 巻2 号 p. 281-291
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究では、複数機関における「防災」(防災について発信されている情報の内容)の異同、及び、異同の前提になっている「防災」に関する各機関の考え方について調査することで、異同が生じる要因を分析するとともに、インタビューを通じて異同によって生じる影響を分析し、改善の方向性について整理することを目的とする。様々な場面でコミュニケーションの用語として使用されている「防災」の中身は主に「①理念やコンセプトとしての防災」と「②より具体的な施策や行動としての防災」の 2 つが含まれると整理している。国・都道府県・市町村等の行政機関を「防災」の「作成者」、一般の住民を「防災」の「受信者」、作成者から提供された情報も踏まえつつ、受信者へ「防災」を伝える役割を担っている事業者や個人等を「送信者」と位置付け、今回は「作成者」と「送信者」にインタビューを実施することで、各機関の「防災」の前提となっている考え方の把握と、「防災」の異同がもたらしている影響について分析した。その結果、各機関の「使命・理念」、「施策の取組」、「普及啓発・情報発信」、の 3 つの観点における違いにより「防災」の異同が生じ、「作成者」、「送信者」、「受信者」ともに影響が生じていることが見いだされ、これらに対する改善検討の方向性を整理した。

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