災害情報
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8 巻
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特集 災害情報を防災教育にどう活かすか?
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[論文]
  • ―非避難行動の心理的メカニズム―
    加藤 健
    2010 年 8 巻 p. 42-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害時において、再三にわたる避難情報の提供や呼びかけにも関わらず、適切な避難行動がおこなわれないことがこれまで多くの先行研究によって指摘されている。こうした避難しない住民の実態は、「正常化の偏見」や「経験の逆機能」、あるいは「オオカミ少年効果」などの概念で説明されている。しかしながら、こうした住民の非避難行動に関する個別事例の研究が蓄積されていく一方で、なぜ住民は適切な避難行動をとらないのか、その心理的メカニズムについての研究蓄積は十分であるとは言い難い。本稿では、リスク知覚の形成において、二種類の知覚の不均衡が避難行動もしくは非避難行動をもたらすという「知覚均衡モデル」を提示している。このモデルによって避難しない住民の心理的メカニズムを統一的に解釈することを試みると同時に、これまで明確にされてこなかった住民の非避難行動に関する概念間の関係性についての整理をおこなっている。

  • 中村 真弓, 田中 健次, 稲葉 緑
    2010 年 8 巻 p. 55-64
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害時には、多くの住民が被害を回避し生活の基盤や情報を求めて避難所へ集まる。人口密度が過度で偏りのある都市部で災害が発生した場合、特定の避難所に多数の住民が集中し、大きな偏りが発生する恐れがある。入所不可能な避難所へ向かう人が増加すれば、避難完了に多くの時間を要することが懸念される。そこで本研究では、人口密度に偏りがある地域において、住民に距離情報を提供した場合とさらに避難所の入所率情報を提供した場合における避難所の入所人数の変化をシミュレーションにより比較分析し、偏りの少ない迅速な避難行動を促進するために住民に提供すべき情報を明らかにした。その結果、入所人数の偏りの軽減、避難完了時間の短縮に効果的な情報は、地域内の避難所の位置により異なり、地域内の避難所が互いに近い場合には距離と入所率情報を、遠い場合には情報量の少ない距離情報のみを住民に提供することが望ましいことが明らかとなった。本研究の結果は、避難所選択の方針や避難所位置などの設定条件に依存するが、住民を避難所へ素早く誘導するためには、住民に与える情報を取捨選択する必要があることが明らかとなった。

  • ―静岡県富士宮市におけるケーススタディ―
    池田 浩敬
    2010 年 8 巻 p. 65-74
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    阪神・淡路大震災以降、多くの地方公共団体が1981年以前の木造住宅の耐震診断、耐震改修等への補助制度等を創設し、住宅耐震化の促進に努めているが、その活用数は目標を下回っている。一方、阪神・淡路大震災以降、国や地方公共団体は、被災者の住宅再建支援制度を新たに設け、被災者に直接補助を出すようになった。しかし、こうした地震後の手厚い支援は、モラルハザードを生じさせ、事前段階でのリスク軽減のための対策推進の障害ともなりかねない、といった指摘もなされている。そこで本研究では、災害後の住宅再建支援制度の存在や各世帯の持つ様々な条件の違いなどの各種要因が居住者の住宅耐震化や建替えに関する意識に与えている影響を分析するとともに、耐震診断実施世帯と未実施世帯の違いについても分析し、耐震化支援制度の改善方策や有効な運用方法の検討に資することを目的とした。本研究では、木造住宅耐震化支援の補助制度を先駆的に実施している地方公共団体の一つである静岡県の富士宮市をケーススタディの対象地区とした。震災後の住宅再建支援制度の存在は事前段階での住宅の建替えや耐震補強の実施意向に対してプラスに影響すると考えられる事、耐震診断結果が耐震補強実施の意思決定のための重要な指標になっている事、建替え、耐震補強実施意向には世帯年収が影響を与えている一方で高額のリフォーム工事を実施している世帯が少なくない事などが明らかとなった。

  • ~鹿児島県垂水市の事例をもとに~
    亀田 晃一
    2010 年 8 巻 p. 75-85
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    行政組織やマス・メディアは,地域における災害情報伝達と避難に関し,情報を発すれば必然的に住民に伝わり,住民は情報を十分受容できる合理的存在であるという前提で情報を伝えてきた.しかし住民は,そのような機械的に発せられた情報を十分受け取り,活用してはおらず,日常の地域社会に存在する住民の社会的ネットワークの中で交換される情報こそが,避難行動への契機として大きく影響していると考えられる.しかし昨今の地域社会の現状をみると,住民の対面性が希薄になっており,地域の社会的ネットワーク,相互信頼の維持・構築が難しくなっている.そして,このような自治体のマニュアル化された機械的な情報の発し方と,地域住民の社会的関係の希薄化が,地域防災の機能不全を招いており,被害の拡大につながっていると考えられる.

    本論文は,鹿児島県垂水市の事例研究をもとに,実効的な地域防災システムを構築するためには,災害情報伝達および避難に関して,地域住民の社会的関係を重視した社会学的視点から地域防災のあり方を見直すことが必要で,社会的ネットワークや信頼,互酬性の規範を協調的社会の特徴としたソーシャル・キャピタルの観点から地域防災を考察した.その結果,住民は,地域の社会関係にもとづく社会的判断によって災害情報を受容・活用していること.また,地域の日常の社会的結合を強化することによって,集団的避難を促す「社会的装置」の駆動が可能であることが示唆された.

  • 豊増 伸治, 曽我 真人
    2010 年 8 巻 p. 86-95
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    財政的に厳しい地方の状況の中で、防災対策としての非常時の情報発信については、地域性に合わせ、電源の確保から人的スキルの習得に至るまで、さまざまな技術を無駄なく生かし、自分たちでできることを非常時にも使えるように準備しておくことが求められる。このような状況の中で、ヘリコプターを中継点とするアドホック無線LANシステムを開発し、草刈り機発電を考案した。そして、町内5学校を拠点とする地域防災訓練を行った。その結果、災害時の無線LAN通信の有用性が確認され、適切にシステムとアプリケーションを開発することによって、防災意識の向上や、既存の防災体制を補う体制作りのためのひとつの可能性となることが確かめられた。また、防災教育の可能性として、学校と地域を結ぶだけでなく、科学を身近に感じ、科学をリアルに活かすためのモチベーションとなることが示唆された。平常時においても本システムを活用することで、防災意識やスキルを維持し、地域間交流や観光資源の整備と絡めた地域の活性化が期待される。

  • 大原 美保, 地引 泰人, 関谷 直也, 須見 徹太郎, 目黒 公郎, 田中 淳
    2010 年 8 巻 p. 96-104
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2007年10月1日から緊急地震速報の一般提供が開始され、2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震ではテレビ・ラジオ等で緊急地震速報が伝達された。J-ALERT(全国瞬時警報システム)を介した防災行政無線による放送も、緊急地震速報の伝達手段の一つである。岩手・宮城内陸地震は、主要動の到達の前に緊急地震速報が発表された初めての地震であるとともに、J-ALERTを介して防災行政無線から緊急地震速報が放送された初めての事例でもあった。本研究では、J-ALERTにより緊急地震速報が放送された山形県東田川郡庄内町を対象として、緊急地震速報の聞き取り状況、聞き取り後の行動に関するアンケート調査を行った。調査票は町内の約800世帯に配布し、591の回答を得た(回収率73.9%)。防災行政無線放送で緊急地震速報を聞いた人は、テレビで見聞きした人の2倍以上となり、広く情報を伝えるには防災行政無線が有効であることが確認された。しかし、放送後にはテレビ・ラジオで情報収集をしようとした人が最も多く、身を守る・周囲に声をかけるなどの行動は促進されておらず、今後は望ましい行動についての周知が必要であると考えられた。

  • 臼田 裕一郎, 長坂 俊成
    2010 年 8 巻 p. 105-119
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    ハザードマップをはじめとした災害リスク情報の作成・提供が進み、これらを活用して個人や地域が防災行動をより高度化することが期待されている。しかし、災害リスク情報の活用はハザード・リスクの認知や理解に留まり、行動にまで結びついていないのが現状である。本研究では、防災行動に災害リスク情報を活用するという観点から、その情報を利用する環境に必要な基礎的要件として、①災害リスク情報の相互運用性、②行動判定基準の個別設定可能性、③災害リスク情報の行動密着性の3つを提案する。これを実証するために、地域住民ボランティアが主体となって行う要援護者避難支援という防災行動を事例に、その防災行動を支援する情報システムとして「地域要援護者避難支援システム」を開発し、実証実験を行った。その結果、地域住民ボランティアが、①相互運用性が確保された情報提供システムから災害リスク情報を動的に入手でき、②要援護者ごとに設定した行動判定基準に基づいて救助行動を開始し、③行動に密着する携帯電話を使用して得た情報に基づいて自らの安全を確保しながら的確に救助活動を行うことができた。また、地域住民ボランティア、地域災害救援NPO職員、自治体職員、要援護者支援団体職員に事後インタビューを行った結果、提案する3つの要件について賛同が得られ、その必要性が確認された。

  • 金井 昌信, 細井 教平, 片田 敏孝
    2010 年 8 巻 p. 120-130
    発行日: 2010年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    ゲリラ豪雨のような局所的集中豪雨については,その発生予測技術に限界があるため,適切なタイミングで避難情報を発表することができない可能性が高い.その一方で,それらの避難情報を住民に伝える手段は,被災地が局所的であるが故に広域向けのテレビ,ラジオなどのマスメディアによる報道には限界がある,激しい雨音により屋外拡声器が聞こえないなどの理由により限定的になってしまうことが懸念される.そこで本稿では,そのような災害時において,住民に災害情報や避難情報を伝達する手段として,地域コミュニティ単位の情報伝達体制に着目する.そして,地域防災活動の一環として,地域住民が望ましい情報伝達体制を検討する際に活用することのできる検討支援ツールを,既存の情報伝達シミュレーションを改良することによって開発することを試みた.

    ため池決壊による洪水災害を事例に,全住民に情報が伝達される想定のもとで伝わりにくさを表現することを目的に構築したシミュレーションの感度分析を行った結果,災害時に住民間で電話連絡を行うことの必要性の周知や,複数名の情報連絡員からなる連絡体制の構築などの対策を行うことで,地域の全住民に情報が効率的に伝わることを表現することが可能であることを確認した.また,開発したモデルの活用事例として,構築した情報伝達シミュレーションを筆者らの研究グループが開発した災害総合シナリオ・シミュレータに実装し,それを実際に地域住民に提供し,地域の望ましい情報伝達体制の検討した事例を紹介した.

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