ゲリラ豪雨のような局所的集中豪雨については,その発生予測技術に限界があるため,適切なタイミングで避難情報を発表することができない可能性が高い.その一方で,それらの避難情報を住民に伝える手段は,被災地が局所的であるが故に広域向けのテレビ,ラジオなどのマスメディアによる報道には限界がある,激しい雨音により屋外拡声器が聞こえないなどの理由により限定的になってしまうことが懸念される.そこで本稿では,そのような災害時において,住民に災害情報や避難情報を伝達する手段として,地域コミュニティ単位の情報伝達体制に着目する.そして,地域防災活動の一環として,地域住民が望ましい情報伝達体制を検討する際に活用することのできる検討支援ツールを,既存の情報伝達シミュレーションを改良することによって開発することを試みた.
ため池決壊による洪水災害を事例に,全住民に情報が伝達される想定のもとで伝わりにくさを表現することを目的に構築したシミュレーションの感度分析を行った結果,災害時に住民間で電話連絡を行うことの必要性の周知や,複数名の情報連絡員からなる連絡体制の構築などの対策を行うことで,地域の全住民に情報が効率的に伝わることを表現することが可能であることを確認した.また,開発したモデルの活用事例として,構築した情報伝達シミュレーションを筆者らの研究グループが開発した災害総合シナリオ・シミュレータに実装し,それを実際に地域住民に提供し,地域の望ましい情報伝達体制の検討した事例を紹介した.
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