ピアノ演奏の熟達度評価に関する研究が多数行われているが,演奏経験の有無が熟達度評価に与える影響については議論されていない。この研究では,多数のピアノ演奏を「経験者及び未経験者が熟達と評価」「経験者のみが熟達と評価」「未経験者のみが熟達と評価」「経験者及び未経験者が未熟と評価」の計4群に分類し,各群の演奏データの固有成分「Eigenperformance」を抽出し,演奏群間で比較している。その結果,経験者は未経験者よりも楽節の終止に向けて長い時間をかけて緩やかかつダイナミックにテンポを変化させている演奏を高く評価し,楽曲の構造を意識した演奏表現に対して高く評価するといった経験による評価基準の多様性が示されている。
音源定位や音源分離などの音響処理に実測したインパルス応答を用いる場合,システムの制約によってインパルス応答を短く切り出す必要がある。この切り出しは,手動で行うのが一般的であるが,切り出しにより大きな誤差が発生したり,労力がかかるという欠点がある。本研究では,切り出しにより生じる振幅スペクトルの相対誤差が最小となる規範で自動的に測定したインパルス応答を切り出す手法を提案する。実験の結果,提案法による切り出し誤差は,他の切り出し手法に比べ,平均的な位相誤差が少なく,広い帯域で位相変化が少ない切り出しが可能であることが確認された。
本論文では,解析対象の形状は軸対称であるが,その音場が非軸対称となる開領域問題を効率的に有限要素解析するため,フーリエ級数展開されたハイブリッド型無限要素を構築する。構築した無限要素によれば,解析対象が3次元の無限空間であっても,その回転断面の,しかも一部分のみを2次元の有限要素で切ればよく,更に回転角方向の音場の変化は,フーリエ級数展開によって表現されることから,非軸対称の音場も解析できる。構築した無限要素による数値解析の妥当性を確認するため,理論解析解が得られる条件における3次元半無限空間の音場について,2次元有限領域のみのメッシュによって音圧分布を計算した。理論解析解との対応は良好であった。
多くの実用的なシステムの開発では様々な調整作業が必要となる。調整の対象となるシステムの変数と調整の結果としてのシステムの性能の関係は関数として捉えることができるが,数式としての定式化が困難な場合や,数式として表すことができても解析的な最適化が困難な場合も多い。従来はそのような場合,専門家の職人的なノウハウに頼ることが一般的であった。これに対し近年,システムの調整をブラックボックス最適化問題として捉え,メタヒューリスティックな手法を応用することで自動化することが幾つかの分野で行われるようになりつつある。アルゴリズムに基づき最適化を行うことで,専門家のノウハウに頼ることなくより容易に高度なシステムを実現できる利点がある。近年実用化が進みつつある音声認識も高い性能を得るために複雑な調整が必要となるシステムであり,ブラックボックス最適化が有用と期待される分野である。本論文ではブラックボックス最適化の代表的なアルゴリズムについて解説すると共に,音声認識システムの構築においてそれらがどのように役立てられるのかについて説明を行う。