本研究では,1)心理・社会的適応及び不適応と関連のある「自己志向的完全主義」と「社会規定的完全主義」の要素を含んだ,大学生特有のperfectionismの認知及び行動傾向を多次元的にアセスメントする指標を作成し,その信頼性と妥当性を検討すること,2)大学生の集団適応を媒介変数とした,perfectionismとメンタルヘルスの関係性を検討することを目的とした。調査対象者は,首都圏内の4年制私立大学に在籍する大学生240名(男性82名,女性158名,平均年齢=19.79歳,SD=1.07)であった。調査内容として,フェイスシート,大学生版Perfectionism Scale(Multidimensional Perfectionism Scale for University Students;以後MPSUSと略),集団適応効力感尺度(具志堅・清水,2007),精神的健康パターン(橋本・徳永,2000)に回答を求めた。探索的因子分析の結果,5因子各5項目で構成される大学生特有のperfectionismをアセスメントするMPSUSの構造が明らかになった。各因子のα係数は,0.772から0.854の値であり,検証的因子分析の適合度指標は十分な値を示した(GFI=0.907,AGFI=0.877,CFI=0.971,RMSEA=0.036)。さらに,共分散構造分析による階層的重回帰モデルを検討した結果,「Afraid of Mistakes」に関する完全性の傾向が高いほど,メンタルヘルスが悪化するという直接的な影響性が示された。また,「Objective Evaluation」,「Higher Purposes」から集団適応効力感への直接的な影響性と,集団適応効力感を介してメンタルヘルスに与える間接的な影響性とが認められた。本研究の結果,5因子各5項目で構成され,信頼性と妥当性を有するMPSUSが開発された。また,集団適応効力感がperfectionismとメンタルヘルスの調整変数となることが示唆されたため,今後は,集団適応効力感を高める心理的介入を実践し,perfectionism及びメンタルヘルスに与える影響を検討したい。
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