学校メンタルヘルス
Online ISSN : 2433-1937
Print ISSN : 1344-5944
16 巻, 2 号
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原著論文
  • 片桐 由紀子, 山村 礎
    2013 年 16 巻 2 号 p. 129-139
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,学校精神保健における抜毛癖の二次予防の観点から,抜毛癖の子どもに対する養護教諭の関与の実態を明らかにし,支援のあり方を検討することを目的とした。

    【方法】東京都の小中高等学校を無作為抽出し,そこに勤務する養護教諭140名を対象に,郵送法にて自記式質問紙調査を行った。質問紙は抜毛癖の子どもの基本属性に加え,養護教諭の関与の契機,関与内容,関与後の抜毛状況の変化,及び子どもの情緒行動特性評価のための「教師用子どもの行動チェックリスト(CBCL : TRF)」で構成した。

    【結果】調査の結果得られた68名の抜毛癖の子どもの属性は,男子21名女子46名(未記入1名),平均年齢は11.7歳であった。抜毛癖の子どもの約8割は,TRFで境界域あるいは臨床域に該当しており,同年代の子どもよりも情緒面,行動面で不安定な状態であった。また,抜毛癖の子どもの多くは,自分の抜毛行為やその結果生じた脱毛巣に対し気にしておらず,自ら相談行動をとらない傾向があったが,養護教諭は本人の訴えの有無に関わらず,本人へ積極的に直接的支援を行っていた。養護教諭の関与を通じて,7割以上の抜毛癖の子どもに改善が期待できる変化が認められており,その予測因子を探索した結果,担任及び保護者への関与順位が影響していた。

    【考察】抜毛癖の子どもの早期発見には,養護教諭だけではなく全ての教職員の抜毛癖に対する問題意識の向上と気づきの視点を養うことが必要である。抜毛癖の子どもは深刻な問題行動を呈していることが多く,メンタルヘルスを中心とした専門的支援が必要となる可能性が高い。抜毛癖の改善には,担任を介した保護者との連携を積極的且つ迅速に行う必要があると考えられる。

  • 佐野 和規, 加藤 哲文
    2013 年 16 巻 2 号 p. 140-151
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】本研究は,学校現場での自傷行為への対応方法を探るため,青年期の自傷行為とスピリチュアリティ及び死生観との関連を追究したものである。自傷行為とスピリチュアリティ・死生観との関係についての研究はこれまでほとんどなされていない。また,学校現場での自傷行為への対応方法もまだ明確になっていない。特に,定時制高校では,自傷行為の経験率が高く,方法論の早急な確立が求められている。

    【方法】定時制高校の生徒266名(男子130名,女子136名)に対して質問紙による調査を行った。高校生用スピリチュアリティ尺度と死生観尺度を用い,因子分析,高次因子分析,共分散構造分析を用いて自傷行為との関連を検討した。

    【結果】スピリチュアリティの1つである「超越的意義づけ」因子と死生観に関わる「死への防衛」因子が自傷行為の抑制要因として働いていた。反対に,もう1 つのスピリチュアリティ因子である「情動的つながり」と死生観に関する「死への肯定的関心」因子が,自傷行為の促進要因と関連していることが確認された。

    【考察】このことは,学校現場で自傷行為の予防改善に関する教育を行っていく場合,生徒の死への防衛意識を尊重することの必要性,健康的なスピリチュアリティを活用することの有効性を示唆している。

原著論文〔実践研究〕
  • 菅野 恵, 藤井 靖
    2013 年 16 巻 2 号 p. 152-160
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】子どものあらゆる問題に対応しなければならない学校現場では,初期対応を含めた子どもや保護者対応の困難さから,支援の行き詰まりを生じさせ,深刻な事態に発展することもある。本研究では,学校現場で起きた支援の行き詰まりに対しスクールカウンセラーが介入した複数事例を報告し,支援の行き詰まりの要因を質的に検討した上で,スクールカウンセラーの役割について論考することを目的とする。

    【方法】公立小学校及び中学校,高等学校に通学する児童・生徒,保護者,教師を対象とし,支援の行き詰まりに陥った顕著な事例を複数抽出し,概要を述べた。

    【結果】5つの事例を通して,支援の行き詰まりを生じさせたきっかけは,子どもの拒否的・反抗的要因,保護者の消極的・非協力的要因,学校側の要因として示された。また,支援の行き詰まりを脱したきっかけは,問題の顕在化,スクールカウンセラーなどの第三者の介入であった。

    【考察】拒否,反抗といった子どもの行動の背後にある心の葛藤を検討できないほどネガティブな感情を高まらせる教師は,支援の行き詰まりのリスクをより高めることを示唆した。そのため,対応の難しい保護者には,チーム支援の観点を持ち,柔軟に対応する必要性について言及した。また,学校組織の疲弊が,支援の行き詰まりを導きやすくさせることを示唆した。さらに,スクールカウンセラーが,支援の行き詰まりを客観的に評価することで,事態を好転させる心の支援のあり方を検討した。

  • 大森 美湖, 矢嶋 昭雄, 櫻井 眞治, 大西 建, 石井 彰
    2013 年 16 巻 2 号 p. 161-169
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【目的】A大学では,教育実習での辞退や失格を防ぐため,2007年度より教育実習生へのメンタルヘルス支援プログラムを開始した。今回その取り組みを呈示し,成果と課題を検討した。

    【方法】対象は,A大学で2003~2010年に基礎実習を志望した学生8,043名である。2007年より,支援委員会が支援対象学生を選別し,支援活動を開始した。支援開始前4年間と開始後4年間の失格辞退者数を比較,またメンタルヘルス支援対象学生の分析も行った。

    【結果】支援開始前4年間の失格辞退者は178名(4.4%)であったが,支援開始後4年間は68名(1.7%)と有意に減少していた。実習を行った支援対象学生48 名は全員無事に実習を終了できた。

    【考察】支援開始後の失格辞退者の減少要因として,①失格辞退の可能性の高い学生を支援することができた,②支援体制を周知させることで,学生も教員もメンタルヘルスへの意識が高まり,情報共有をし易くなった,③問題発生後の段階的支援があること等が考えられた。失格辞退者が減少したこと,実習を行った支援対象学生は全員実習を終了できたこと等から支援は有効と考えられる。今後は,この支援体制で拾えなかったメンタルヘルスの問題をもつ学生をいかに発見するかが課題である。

資料論文
ショートレポート
  • 飯村 周平, 上野 雄己, 清水 安夫
    2013 年 16 巻 2 号 p. 190-195
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    本研究では,自己成長を意図したストレス対処方略である中学生用プロアクティブ・コーピング・インベントリーを構成する項目を検討し,尺度の作成を試みることを目的とする。

    調査対象者は,首都圏内のA中学校に在籍する生徒424人(有効回答率69.9%,男性236人,女性188人,平均年齢13.68歳,SD=0.94)であり,留置調査法による質問紙調査を実施した。調査内容として,基本的属性と中学生用プロアクティブ・コーピング・インベントリーの原案30項目について回答を求めた。得られたデータは,探索的因子分析(最尤法,Promax回転),Cronbach’s αの算出,再検査信頼性の検討(Pearsonの積率相関係数の算出),検証的因子分析(最尤法)を用いて分析を行った。

    分析の結果,中学生用プロアクティブ・コーピング・インベントリーを構成する「ソーシャル・サポート模索」,「内省的コーピング」,「予防的コーピング」,「計画的コーピング」,「能動的コーピング」の5因子25項目が抽出され,一定水準の信頼性と妥当性が確認された。

    本研究の結果から,中学生を対象とした自己成長的なストレス対処方略であるプロアクティブ・コーピング・インベントリーの項目が検討された。今後は,中学生におけるストレス関連成長のプロセスを明らかにするため,本研究で作成された尺度と諸変数との関連の検討が期待される。

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