学校メンタルヘルス
Online ISSN : 2433-1937
Print ISSN : 1344-5944
19 巻 , 1 号
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原著論文〔実践研究〕
  • 齊藤 勇紀, 土居 正城
    2016 年 19 巻 1 号 p. 28-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】保育現場においては,特別な配慮を要する子どもの保育や発達支援が課題となっている。しかし,保育者養成校(以下,養成校)においては,学生指導における発達支援の実践力に対する客観的な評価が行われていない。そこで本研究では,保育士や幼稚園教諭を目指している学生に対して行動理論に基づく講義と演習を行い,学生の指導スキルと省察記録の変化を客観的に評価することで,養成校における効果的な講義と演習の在り方について検討を行った。

    【方法】学生2名が,行動理論に基づく講義とVTRフィードバックによる演習を受講した。その後,幼稚園で不適切行動を示す幼児1名(以下,対象児)を対象として,不適切行動の改善を目指した個別指導を行った。そして,シングル・ケース実験計画法に基づき,介入前後の対象児の標的行動と学生の指導スキル,省察記録の変化について効果量を算定し,査定を行った。

    【結果】対象児の標的行動は増加が認められた。しかし,不適切行動は変化が認められなかった。また,学生の指導スキルは7つのカテゴリーのうち3つのカテゴリーで肯定的対応の増加が認められた。省察記録では4つのカテゴリーのうち3つのカテゴリーで肯定的な変化が認められた。

    【考察】行動理論に基づく講義と演習は,幼児の不適切行動に対する学生の指導スキル向上と肯定的省察を増加させた。一方,学生は,対象児の不適切行動の先行刺激に対する指導スキルの獲得と機能分析の理解に基づく支援が困難であった。したがって,講義と演習による学生指導においては,内容に対する段階的な評価方法の構築が必要であることが示唆された。

資料論文
  • 吉川 修司
    2016 年 19 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】精神分析を教育に応用する試みは,エビデンスベースドな風潮の中でほとんど顧みられてこなかった。しかし,近年英国を中心として,教育における精神力動的な見方や,関係性を重視したアプローチが再び注目されるようになってきている。そこで本稿では,精神分析が教育に応用されてきた歴史を振り返ったうえで,クライン(Klein, M.)の「投影同一視(projective identification)」の概念を援用しながら実際の事例を考察し,教師が精神分析的な視点を持つことの可能性について論じた。その結果,精神分析の概念は,事例で起きている現象を理解するのに有効であると考えられた。今後,実際の指導場面で教師が行う生徒理解に,精神分析学をはじめとする深層的な概念や理論を援用する研究が進められることで,より多面的な理解が可能になると思われ,生徒支援の新たな視座が開ける可能性が示唆された。

  • 鎌倉 利光
    2016 年 19 巻 1 号 p. 48-59
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,大学生を対象とした短期間の縦断調査により,大学生のソーシャルサポートと自尊感情との時系列的な関連性について検討することを目的とした。

    【方法】大学生184名を調査対象とし,ソーシャルサポート尺度(父親,母親,きょうだい,学校の先生,友人・知人からのソーシャルサポートに対する期待感をそれぞれ測定)と自尊感情尺度を用いて,約3カ月の間隔における追跡調査(第1回目の調査をTime 1,第2回目の調査をTime 2とする)を実施した。

    【結果】Time 1及びTime 2において,父親,母親,きょうだい,友人・知人からのソーシャルサポートと自尊感情との間に有意な正の相関が見出された。また,交差時差遅れモデルを用いた分析の結果,Time 1における自尊感情がTime 2における母親,友人・知人からのソーシャルサポートに対してそれぞれ時系列的に有意な正の影響を与えている一方,父親,きょうだい,学校の先生からのソーシャルサポートと自尊感情との時系列的な関連性に関しては有意ではなかった。

    【考察】大学生における自尊感情は約3カ月後の母親や友人・知人からのソーシャルサポートに対して有意な正の影響を与えている,という新たな知見が得られた。本研究は,これまでにほとんど検討されてこなかった大学生のソーシャルサポートと自尊感情との時系列的な関連性について明らかにした一方,本研究の結果を一般化するためには長期間の縦断調査を用いた研究が今後必要とされよう。

  • 山田 早織, 長谷川 智子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 60-72
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では,小学校教員のワーク・エンゲイジメントに影響を与える要因についての影響過程を探索的に検討すること,さらにはワーク・エンゲイジメント及びそれに関連する要因に関する地域差を検討した。

    【方法】複合市街地域である東京都内の一区(以下,A区)と,農山漁村地域である長野県内の一市(以下,B市)の小学校教員139名を対象に,ワーク・エンゲイジメント,周囲との人間関係,雑務の煩雑さ,子どもとその保護者の家庭での状況に関する質問紙調査を実施した。その後,12名の教員を対象に半構造化面接法による面接調査を実施した。

    【結果】ワーク・エンゲイジメントに直接影響を与えていたのは,雑務感,保護者や地域からの協力感,教員としての勤務年数,学校より習い事や塾を優先している家庭での状況であり,同僚からのサポートは間接的に影響を与えていることが示された。また,A区の方がB市よりも保護者や地域からの協力感が低いこと,習い事や塾を優先している子ども,朝食をとらない子どもが多いことが示された。一方で,ワーク・エンゲイジメント,保護者や子どもからのサポート,雑務感,同僚からのサポートは,地域差がみられなかった。

    【考察】ワーク・エンゲイジメントに直接的に影響を与えた習い事や塾を優先する家庭の状況は,授業内において大きな影響を与えると考えられる。具体的には,習い事や塾を優先する子どもは学校の授業に対する意欲が低く,それがクラス全体の意欲低下,教員の授業に対する意欲低下に繋がることが示唆された。一方,教員にとっての雑務感には精神的・物理的負担感があり,両方の負担感を軽減することがより高いワーク・エンゲイジメントに繋がると推察された。今後の展望として,ワーク・エンゲイジメントが低い教員へのサポート体制づくり,教員のメンタルヘルス従事者の地域特性を考慮した助言の有効性の検討,教員が他地域の取り組みを取り入れることの3点を検討していくことが望まれる。

  • 鈴木 真吾
    2016 年 19 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】本研究の目的は,中学生において,自尊心が高く被受容感が低い,自尊心が低く被受容感が高いという,自尊心と被受容感のアンバランスな者について,葛藤対処との関連を検討することであった。仮説として,自尊心と被受容感がともに高い者に比べ,自尊心と被受容感がアンバランスな者は自分の欠点や問題に適切に向き合えず,葛藤対処がうまくできていないことを想定した。

    【方法】541名の中学生を対象に,無記名の質問紙調査を実施した。質問紙は自尊心尺度と被受容感尺度,葛藤への対処方略尺度で構成した。

    【結果】自尊心および被受容感尺度の得点の高低によって,調査対象者を4群に分類し,各群の特徴を検討した。その結果,自尊心と被受容感の高低がアンバランスな2群のうち,自尊心が高く被受容感が低い群は自分の欠点や問題に向き合うことを避けていることが示唆された。また自尊心が低く被受容感が高い者は自分の欠点や問題への向き合い方で,直面する傾向と回避する傾向の両方を行っていることが示唆された。

    【考察】自尊心と被受容感がアンバランスな中学生は葛藤対処がうまくできず不適応状態にあり,さらに心理的援助が必要な可能性がある。

  • 山口 正寛
    2016 年 19 巻 1 号 p. 81-90
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】本研究では,感情調整と社会性に困難を抱える学生を対象にした,認知行動療法的アプローチ(以下,CBTプログラム)とソーシャル・スキルズ・トレーニング(以下,SSTプログラム)に基づく心理教育による集団介入の実践報告を通して,これらのプログラムの有効性とその運用上の課題を検討した。

    【方法】9名の大学生が全10回のCBTプログラムに参加し,そのうち7名が引き続き全13回のSSTプログラムに参加した。CBTプログラムは,リラクゼーション,自他の感情理解に関する練習を中心に構成し,自尊感情とストレス・コーピングを効果測定の指標とした。SSTプログラムは,話の聴き方や対人葛藤場面における対処法などを中心とするスキル練習から構成し,ソーシャル・スキルと自己効力感,大学への適応感,精神的健康度を効果測定の指標とした。

    【結果】CBTプログラム実施後には,参加者の自尊心の向上が示唆され,SSTプログラム実施後では,ソーシャル・スキルの向上が示された。一方で,両プログラム実施後の参加者のストレス・コーピング,自己効力感,適応感及び精神的健康には改善が認められなかった。

    【考察】CBTプログラムを通して,客観的な自己理解の視点が得られたことや,リラクゼーションなどを活用して感情をコントロールするスキルを獲得することが自尊心の向上につながったと考えられた。また,SSTプログラムは対人関係上のソーシャル・スキルの改善に有効と考えられた。本研究の結果から,感情調整と社会性に困難さを抱える大学生を対象にした心理教育による集団介入は,一般大学生を対象とした心理教育と同様の効果が得られると考えられた。また,大学内における心理教育を運用する際の課題として,参加者のアセスメント,集団介入による否定的作用,介入効果の妥当性について検討する必要について考察された。

ショートレポート
  • 山田 達人, 桂川 泰典, 藤井 靖, 菅野 純
    2016 年 19 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/04/08
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】応用行動分析では,子どもが正の強化を受ける頻度を高め,自発的に行動することを目的に介入を行う。この目的と精神的充足の概念は関連があると考えられる。しかし,精神的充足の概念は,統計的な根拠について検討の余地がある。そこで本研究では,安定した精神的充足の概念を抽出するための予備的研究として,構成概念の範囲について仮説生成を行うことを目的とした。

    【方法】小学6年生3名,および,大学生2名にインタビュー調査(半構造化面接)を実施した。インタビューの内容は「自分の力を発揮した出来事」であった。その後,インタビューデータから自分の力を発揮した出来事に関する項目を大学院生3名と大学教員1名で生成した。次にインタビュー対象者とは別の小学生11名に,生成された各項目に当てはまる感情を,感情カテゴリー(「達成感・充実感」「喜んだ」「ホッとした」)から2件法で評価してもらった。

    【結果】生成された項目における感情カテゴリーごとの再評価得点の合計を変数としたクラスター分析(Ward法)を行った。その結果,生成された項目は,3つのクラスターに分類された。

    【考察】本研究では,精神的充足を構成する3つの概念の中で,「安心感」に関する概念は抽出されなかった。その理由については2つの仮説が想定された。1つ目は,「安心感」が,「楽しい体験」や「認められる体験」と構成概念の範囲を共有する概念であるためである。2つ目は,インタビューにおけるサンプルサイズが小さかったため,「安心感」の概念が抽出されなかった可能性である。今後は,これら2つの仮説に対して妥当な判断を行うため,さらなる検討が必要となるだろう。

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