【問題と目的】知的障害のある児童生徒は,他者から発信された情報を理解し的確な対応をとることが難しく,円滑に対人関係を維持するソーシャルスキル(以下,対人コミュニケーションスキル)が不足している場合が多いことが指摘されている。学校あるいは学級単位の支援は行われてきているが,日常生活への般化を視野に含めた対人コミュニケーションスキルを身につけるための取り組みは限られている。本研究では,知的障害のある児童生徒を対象とした対人コミュニケーション支援方略の課題と改善点を提言することを目的として,対人コミュニケーション支援の介入を行っている実践研究の過去15年間の展望を行った。
【方法】2016年5月にCiNiiを用いて,「知的障害」,「コミュニケーション」,「ソーシャルスキル」,「対人関係」,「交流」,「介入」,「集団随伴性」,「認知行動療法」,「SST」,「心理教育」,「アセスメント」,「行動分析」,「モデリング」をキーワードとして文献検索を行った。
【結果】選別した結果,5件の論文が抽出された。これらの論文は,小学生を対象としたものが3件,中学生を対象としたものが2件だった。介入手続きは,集団随伴性による相互交渉を通して仲間同士のコミュニケーションの促進を扱った論文が2件,SSTを実施し,仲間とのコミュニケーションを促進させることをねらった論文が3件であった。
【考察】本研究の結果,SSTで獲得した標的行動の生起頻度が時間の経過に伴って減少するという課題が明らかになった。また,対人コミュニケーション支援方略に必要な要素として,機能的アセスメント,機能的なフィードバック,繰り返しの支援の提供,標的行動の選定,学校文化を考慮したトークンの設定,対象者の能力や理解度に沿った介入構造などが抽出された。さらに,時間的な制約や人的資源の制約などを考慮したうえで,介入の要素をどのように組み合わせていくのかも重要な観点であった。
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