学校メンタルヘルス
Online ISSN : 2433-1937
Print ISSN : 1344-5944
20 巻, 2 号
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原著論文
  • 大門 秀司, 宮下 敏恵
    2017 年 20 巻 2 号 p. 148-159
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】本研究は,動的学校画の描画特徴と学校適応との関連を調べることを目的とした。

    【方法】小学校3校の600名を対象として動的学校画,学級満足度尺度,児童用メンタルヘルスチェックリストのストレス症状尺度を実施し,低・中・高学年ごとに分析を行った。

    【結果】低・中・高学年ともに適応群は明るい印象の絵を描き,絵のその後の物語はポジティブで統合性は高かった。低学年と高学年の適応群では先生像の表情が親しい・楽しいものが多く,中学年の適応群では自己像の顔の向きが正面向きのものが多かった。高学年の適応群では先生像が大きく描かれた。不適応群では,低・中・高学年ともに暗い印象や明るいとも暗いとも判断のつきかねる絵が多く,絵のその後の物語はネガティブで統合性は低かった。低学年の不適応群の先生像・顔の描画では眼・鼻・口あり絵が少なく,友達像では表情なしが多かった。中学年の不適応群では後向きの自己像が多く,先生像や友達像そのものが描かれない絵も多かった。また,自己像と先生像が近くに描かれた。高学年の不適応群では自己像や先生像に中立の表情が多く,友達像では横向きの顔が多かった。

    【考察】本研究では,低学年における適応・不適応の指標が示された。また,全体的印象や人物像の描かれ方,人物像の表情など,新たな適応・不適応の指標が明らかとなった。

原著論文〔実践研究〕
  • 塚原 望
    2017 年 20 巻 2 号 p. 160-169
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】「感情の言語化」は攻撃的な行動の抑制につながっている。そのような力を育てる方法として注目されている教育方法のひとつにフィンランド・メソッドがある。そこで本研究では,フィンランド・メソッドを取り入れた表現力トレーニングができるプログラムの開発・実践について報告し,それが生徒の自己表現にどのような効果を与えたのかを考察する。

    【方法】中学3年生の学級に対して全5回の表現力トレーニングのプログラムを実施し,それが生徒の自己表現にどのような効果をもたらすのかを検討した。自己表現の変化はPFスタディのスコアの変化と,ワークシートの記述から検討した。効果の検討に際し,まず担任教師へのヒアリングをもとに自己表現に関する力で学級を3層に分け,各層の特徴を最も表わしている3名の生徒を選んだ。

    【結果】トレーニングの結果,3名ともPFスタディの「自我防衛」と「要求固執」の値が同世代の平均値に近づくという変化が見られた。またワークシートの記述の変化では,上位層,下位層の生徒の変化が少なかった一方で,中間層の生徒の変化が顕著に表れ,話し方の型を教えた第3回を境に記述量が増加した。

    【考察】表現力トレーニングの結果,3つの層に共通した変化をもたらすことはできなかった。しかし,自己表現の型を教え,自分で考え表現する課題に取り組むことで,各層の欲求不満場面における反応のバランスが変化したことが示唆された。また,特に中間層の生徒は,トラブルにすぐに反応するのではなく,問題解決に意識が向くようになった。トレーニングの中で自分の考えを表現するやり方を学び実践することで,余裕をもってトラブルに対応することができるようになったと考えられる。

資料論文
  • 安達 知郎
    2017 年 20 巻 2 号 p. 170-179
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】少子高齢化は今後,学校現場に大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では,心理的支援に対する学校のニーズと少子高齢化,および,先行研究でニーズとの関連が統計的に明らかにされてこなかったニーズ内容,学校種との関連を明らかにすることを目的とした。

    【方法】青森県内の幼稚園115園,小学校312校,中学校168校,高等学校96校の相談業務をとりまとめている教員を対象として,質問紙法(郵送法)で悉皆調査を行った。質問紙では,心理的支援が行われる場面(学習面12場面,心理・社会面13場面,進路面10場面)を挙げ,各場面での支援に対するニーズを5件法で尋ねた。そして,各場面での支援に対するニーズを因子分析した上で,ニーズを従属変数,ニーズ内容(因子),学校所在地の老年化指数(高低),学校種を独立変数とした3要因分散分析を行った。

    【結果】幼稚園52園,小学校203校,中学校102校,高等学校75校から回答を得た。因子分析の結果,ニーズについて,「心理・社会面への支援」,「学習面,集団活動への支援」,「進路面への支援」,「複合的な問題への支援」の4因子が得られた。分散分析の結果,ニーズ内容に関しては,全学校種において,心理・社会面,複合的な問題への支援がその他の支援よりもニーズが高かった。少子高齢化に関しては,高等学校において,少子高齢化が進んでいない地域が進んでいる地域よりもニーズが高かった。学校種に関しては,心理・社会面への支援において小学校,中学校が幼稚園よりもニーズが高かった。

    【考察】ニーズ内容に関しては,スクールカウンセラー(主に臨床心理士)の専門性が,少子高齢化に関しては,少子高齢化が進んでいない地域における教員の負担と高等学校における教員の専門性の高さが,学校種に関しては,幼稚園における心理的支援に対する認知度の低さが重要な要因であると考えられた。

  • 松岡 伸子, 大塚 泰正, 石田 弓, 川人 潤子
    2017 年 20 巻 2 号 p. 180-187
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】本研究の目的は,小・中・高等学校教師のストレッサーとワーカホリズムとの関連を検討することであった。

    【方法】2014年8月に,A県の小中学校・高等学校教師78名(男性24名,女性53名,性別無回答1名;平均年齢45.0歳,SD=8.4歳)を対象にストレッサーとワーカホリズムを測定した。

    【結果】一元配置分散分析の結果,心理的な仕事の質的負担に関して小学校と高等学校との間に有意差が確認され,強迫的な働き方に関して小学校と高等学校との間や中学校と高等学校との間に有意差が確認された。さらに,相関分析の結果,小学校教師では働きすぎは心理的な仕事の量的負担と強い正の,心理的な仕事の質的負担と中程度の正の,強迫的な働き方は心理的な仕事の量的負担と中程度の正の,心理的な仕事の質的負担や仕事のコントロールの低さと弱い正の関連を示した。中学校教師では働きすぎは心理的な仕事の量的負担と中程度の正の関連を示した。高等学校教師では働きすぎは対人葛藤と中程度の正の関連を示した。

    【考察】本研究結果から,校種によって教師のストレッサーとワーカリズムとの関連は異なる可能性が示唆された。今後は,より多くのサンプルを用いた検討が必要である。

  • 小野 はるか, 尾曲 敏三, 曽我部 裕介, 小関 俊祐
    2017 年 20 巻 2 号 p. 188-196
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】知的障害のある児童生徒は,他者から発信された情報を理解し的確な対応をとることが難しく,円滑に対人関係を維持するソーシャルスキル(以下,対人コミュニケーションスキル)が不足している場合が多いことが指摘されている。学校あるいは学級単位の支援は行われてきているが,日常生活への般化を視野に含めた対人コミュニケーションスキルを身につけるための取り組みは限られている。本研究では,知的障害のある児童生徒を対象とした対人コミュニケーション支援方略の課題と改善点を提言することを目的として,対人コミュニケーション支援の介入を行っている実践研究の過去15年間の展望を行った。

    【方法】2016年5月にCiNiiを用いて,「知的障害」,「コミュニケーション」,「ソーシャルスキル」,「対人関係」,「交流」,「介入」,「集団随伴性」,「認知行動療法」,「SST」,「心理教育」,「アセスメント」,「行動分析」,「モデリング」をキーワードとして文献検索を行った。

    【結果】選別した結果,5件の論文が抽出された。これらの論文は,小学生を対象としたものが3件,中学生を対象としたものが2件だった。介入手続きは,集団随伴性による相互交渉を通して仲間同士のコミュニケーションの促進を扱った論文が2件,SSTを実施し,仲間とのコミュニケーションを促進させることをねらった論文が3件であった。

    【考察】本研究の結果,SSTで獲得した標的行動の生起頻度が時間の経過に伴って減少するという課題が明らかになった。また,対人コミュニケーション支援方略に必要な要素として,機能的アセスメント,機能的なフィードバック,繰り返しの支援の提供,標的行動の選定,学校文化を考慮したトークンの設定,対象者の能力や理解度に沿った介入構造などが抽出された。さらに,時間的な制約や人的資源の制約などを考慮したうえで,介入の要素をどのように組み合わせていくのかも重要な観点であった。

ショートレポート
  • 板倉 憲政
    2017 年 20 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】本研究の目的は,親子間での担任教師に関するコミュニケーションと高校生の教師に対する信頼感および登校回避感情との関連を検討することであった。

    【方法】インターネット調査会社MELLINKSに登録している対象者の中で,本調査への協力同意が得られた高校生250名(男子125名,女子125名)を対象に質問紙調査を実施した。調査内容は,親子間での担任教師に関するコミュニケーション,教師に対する信頼感,登校回避感情であった。

    【結果】親子間での担任教師に関する肯定的コミュニケーションと生徒の教師に対する安心感および役割遂行評価の間に正の関連が示された。また,親子間での担任教師に関する否定的コミュニケーションと生徒の教師に対する不信および登校回避感情の間に正の関連が示された。

    【考察】本研究の結果から,生徒の認知する保護者の教師に対する信頼感が,生徒の教師に対する信頼感の規定要因になっている可能性が示唆された。高校における不登校支援では,母親の担任教師への評価を肯定的に変化させる支援が有効であると考えられる。

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