学校メンタルヘルス
Online ISSN : 2433-1937
Print ISSN : 1344-5944
26 巻, 2 号
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原著論文
  • ―種目経験に着目した検討―
    藤原 和政, 川俣 理恵
    原稿種別: 原著論文
    2023 年26 巻2 号 p. 181-188
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】近年,部活動顧問教師の心身の負担に留意した活動のあり方に関する議論が続いている。顧問教師の心身の負担について,部活動指導に対する負担感とバーンアウトとの関連や,顧問をしている部活動種目経験の有無などが関連していることが明らかにされてきた。一方で,縦断調査を用いて,文化部顧問教師と部活動指導に対するやりがい感を考慮した上での検討が必要であると指摘できる。そこで,本研究では,部活動指導に対するやりがい感,負担感,約半年後のバーンアウトとの関連について,部活動の種類,種目経験の有無を考慮し検討することを目的とした。

    【方法】中学校部活動顧問教師137名(運動部顧問教師: 男性38名,女性26名,文化部顧問教師: 男性29名,女性44名)を対象に,部活動指導に対するやりがい感と負担感,バーンアウトを測定する尺度を用いて検討した。なお,バーンアウトについては約半年後に調査を行った。

    【結果】まず,2要因分散分析において,部活動指導に対する負担感は運動部が文化部よりも得点が高く,部活動指導に対するやりがい感は専門的指導群が最も得点が高く,負担感とバーンアウトは経験なし群が専門的経験群,個人的経験群よりも得点が高いことも示された。次に,多母集団同時分析の結果,種目経験の有無によって各変数間の関連には差異があることが明らかになった。

    【考察】本研究の結果,運動部,文化部ともに,部活動顧問を担当することで心身の負担が増加するわけではなく,種目経験の有無によってその様相には差異があることが示された。一方で,種目経験のない部活動の顧問を担当する場合,バーンアウトのリスクが高いことに留意する必要がある。以上のことから,部活動指導に対するやりがいを感じる機会を増やし,負担を感じる機会を少なくすることが,部活動顧問教師の心身の負担の軽減に寄与するため,このような部活動運営のあり方について議論された。

総説
  • ―日本と海外における方法,内容,効果評価に関する文献的比較―
    田中 生弥子, 影山 隆之
    原稿種別: 総説
    2023 年26 巻2 号 p. 189-199
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    【背景】日本の児童生徒の自殺対策は喫緊の課題で,その対策の一つに教職員対象ゲートキーパ―(以下,GK)研修があるが,その方法,内容,効果評価に関する報告は少ない。そこで,日本の教職員向けGK研修の方法,内容,効果評価に関する国内文献を整理し,これを海外文献と比較して,日本の現状を明らかにした。

    【方法】国内文献は医学中央雑誌とCiNiiで,「自殺&ゲートキーパー」「自殺&学校&危機介入」「自殺&研修&教員」をキーワードに12件を抽出した。海外文献はPubMedで「suicide & gatekeeper &(school OR teacher)」をキーワードに11件を抽出した。

    【結果】国内では,一部教職員対象に児童精神科医・大学教員・研究者等が自作のプログラムで実施したGK研修が多く,対照群の設定や中長期評価はほとんどなく,主に自由記述で評価していた。海外では学校ごとに学校スタッフ全員を対象に訓練を受けたトレーナーがQPR等の標準化プログラムで先行研究の尺度や質問で,対照群を設定し中長期評価やRCT評価もあった。知識・スキル・自己効力感は長期的に維持され,態度・行動への効果検証が課題とされていた。

    【考察】日本の教職員向けGK研修では,学校ごとの全教職員向けGK校内研修の普及を目指し,その現状把握と,職種・経験別の役割の明確化をした上で,実践演習を含む研修プログラムの開発や知識・スキル・自己効力感・態度・行動変容・遭遇機会数等への中長期的評価を,適切な方法で行うことが今後の課題である。

資料論文
  • 栗田 智未
    原稿種別: 資料論文
    2023 年26 巻2 号 p. 200-208
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    【問題・目的】本研究の目的は,カウンセラー交代が起こりやすい学生相談において,カウンセラーが体験する引継ぎ時の困難や悩み,思いを明らかにすることであった。

    【方法】前任者と後任者の両方を経験したカウンセラー6名に面接調査を行った。得られた発言データから,引継ぎ時の困難や悩み,思いに関する発言を抽出しカテゴリ化した。

    【結果】216個の発言が抽出され,「学生への対応」,「カウンセラー間の関係」,「引継ぎ時の手続き」の3カテゴリが得られた。

    【考察】「学生への対応」では,カウンセラーは中断の危惧や後ろめたさを抱えながら,引継ぎによって生じる学生の反応へのケアに困難さを感じていることが示された。「カウンセラー間の関係」では,カウンセラー双方の心理的関係性が引継ぎという行為の背後にある困難さや悩みを表していると考えられた。「引継ぎ時の手続き」では,継続の判断,顔合わせ,情報共有,記録の作成管理,時間の確保のひとつひとつの手続きに困難さがあった。例えば,対面で顔合わせをしたくても前任者と後任者のスケジュールが合わないことや,先入観なく引継ぎたいと考える前任者がいる一方,丁寧な情報共有を求める後任者がいるように,カウンセラーが必要と考える引継ぎの手続きが踏めないことによるものと考えられた。このような引継ぎ時にカウンセラーが体験する困難を踏まえ,引継ぎ時の工夫や留意点について考察した。

  • ―困難を乗り越えるプロセスについての質的な研究―
    本田 淳子, 田村 節子, 石隈 利紀
    原稿種別: 資料論文
    2023 年26 巻2 号 p. 209-218
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】スクールカウンセラー(以下SC)が遭遇する困難と,困難を乗り越えるプロセスを明らかにすることは,SCがどのように職業的に発達していくのか,そのための指標を示す足掛かりとなり得ると考える。そこで本研究では,SCが遭遇する具体的な困難の内容とそれをどう乗り越えたかの変容プロセスを明らかすることを目的とした。

    【方法】24名のSCに半構造化面接でインタビューを実施し,経験年数をもとに1~5年は初期,6~10年は中期,11年目以降はベテラン期という3つの段階に分け修正版グランデット・セオリー・アプローチで分析した。

    【結果】分析の結果《なりたての頃や慣れない時期に自覚する無力感や不安,とまどい》,《自信ややりがいを感じ始める時》,《頼られ過ぎて忙殺される仕事量の多さ》,《考えが一致しない同僚と協働・連携する困惑》,《勤務中に相談できる人がそばにいない心細さと孤独感》,《愚痴を吐き出せるSCの仲間や心を許せる昔からの友人の存在》という6つのカテゴリーと18の概念からなるSCの困難の変容過程が結果図に表された。

    【考察】SCの困難を乗り越えるプロセスは,経験年数で分けた3つの段階ごとに困難の特徴があり,その困難を乗り越えるために必要なスキルが示唆された。必要なスキルとして,初期には相談内容の情報共有や学校のニーズに合わせて動きを修正するスキル,中期には協働する相手である教員の職務を理解しSCの役割を明確に伝えるスキル・協働をする中で自分自身を振り返り内省するスキルが必要になることが示された。ベテラン期のSCは,困難に遭遇している最中であり困難を乗り越えた語りはなかったが,結果からセルフマネージメントのスキルが必要となることが推察された。

  • 近藤 和也, 石隈 利紀
    原稿種別: 資料論文
    2023 年26 巻2 号 p. 219-227
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】好ましくない結果が予期されるにもかかわらず学習課題の遂行を自ら遅延させる行動を,学習課題先延ばし行動と呼ぶが,こういった先延ばしは,学業上のパフォーマンスを低下させ,精神的健康に悪影響を及ぼすと考えられる。主に大学生を対象とした先延ばし研究はこれまでにも行われているが,日常的に受験勉強主体の生活の中でストレスフルな状況下にある高卒予備校生を対象とした研究は少ない。そこで本研究では,高卒予備校生の学習課題先延ばし行動を測定する尺度を作成し,その信頼性・妥当性を検討することを目的とする。

    【方法】東北地方のA予備校において,高卒予備校生の行いがちな先延ばし行動の項目を作成するために,生徒295名を対象に自由記述による予備調査を行った。次に,生徒560名を対象に「暫定版予備校生課題先延ばし尺度」の因子分析を行い,信頼性と妥当性を検討した。

    【結果と考察】予備調査で得られた「暫定版予備校生課題先延ばし尺度」15項目について,本調査において探索的因子分析を行った結果,第1因子「随意的課題の遅延」6項目と,第2因子「時限的必須的課題の遅延」5項目の2因子構造からなる「予備校生版課題先延ばし行動尺度」が作成された。確認的因子分析の結果,まずまずの適合度が得られた。Cronbachのα係数は第1因子が.83,第2因子が.80であった。また,GPS日本語版との間で相関分析を行った結果,第1因子,第2因子ともに中程度の相関が見られた。以上より,本尺度の信頼性(内的整合性)及び妥当性(因子的妥当性,併存的妥当性)が確認された。

    【結論】本尺度は,高卒予備校生の学習課題先延ばし行動を測定することを可能にし,学業及び受験生活支援の計画立案に寄与すると考えられる。

  • ―実施状況と校長の意識に関する調査―
    田中 生弥子, 影山 隆之
    原稿種別: 資料論文
    2023 年26 巻2 号 p. 228-234
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/03/25
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】日本の児童生徒の自殺対策は喫緊の課題で,対策の一つに教職員向けゲートキーパ―(GK)研修があるが,実施状況は明らかになっていない。そこで,中学生の自殺予防のための,学校ごとに行う全教職員向けGK研修(GK校内研修)の現状と,校長の意識について調査した。

    【方法】全国の公立中学校9230校から1300校を無作為抽出して校長を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,399校(30.7%)の回答が得られた。質問は1)生徒の自殺対策に関する研修会の受講の有無,2)自殺対策GKの認知度,3)GK校内研修の実施の有無・回数,4)GK校内研修の詳細,5)GK校内研修の実施のために校長が特に重要と思うこと,6)GK校内研修の実施後の職場の変化である。

    【結果】GK校内研修実施校は16.2%にとどまり,企画・運営者や講師は主に校長・生徒指導主事・養護教諭・スクールカウンセラー(SC)であった。実施形態は主に講義で,ロールプレイの実施は17.1%にとどまった。系統的な効果評価はされていなかったが,多くの校長は研修後に校内連携が増加したと認識していた。GK校内研修を実施してない学校と比較して,実施している学校の校長は,GK校内研修実施のために重要な条件として「管理職のリーダーシップ」「教職員の研修意欲」「企画・運営する教職員の意欲」を挙げていた。

    【考察】中学校におけるGK校内研修の普及には,1)教育委員会等がGK校内研修企画者(校長・生徒指導主事・養護教諭等)研修と校内人材講師養成研修(養護教諭・SC等)を行うこと,2)文科省資料や先行研究を参考に,ロールプレイや自傷行為に関する内容を含む,1.5時間以内のプログラムの開発,及び3)適切な方法による研修の多角的評価が必要である。

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