家畜生産とそれを取り巻く環境問題、家畜生産モデルおよび育種システムの構築の3つのレベルの課題についてシステム思考の点から取り纏めた。最近の畜産の専業化・大規模化に伴い、過剰になった家畜排泄物を畜産経営内でリサイクルすることが困難になっており、このことが畜産による環境負荷を大きくする主要な原因になっている。窒素などのフローを定量的に明らかにし、モデル化することで、環境負荷低減の方策を検討することが可能となる。一方、農業の多面的機能に関心が高まる中で、畜産においても地球温暖化、酸性化、富栄養化、オゾン層破壊といった比較的定量化可能なものから、生物種の多様性、景観などの定量化が困難なものまでさまざまな環境影響を考慮していくことが求められている。ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いることで、家畜飼養の現場での環境影響のみではなく、使用する飼料の生産段階や輸送段階でのさまざまな環境影響などを含めて評価することが可能となる。次に、家畜生産モデルとして、成長曲線モデル、自由摂取と成長モデルおよびシステムシミュレーションモデルの3タイプのモデルが示された。成長曲線モデルとは、最も単純なモデルで、時間と体重の関係のみが表され、家畜は産出のみのブラックボックスと考えられている。自由摂取と成長のモデルでは、体重のみならず摂取量が考慮されているが、家畜は投入と産出を持つブラックボックスとされている。システムシミュレーションモデルにおいては、家畜は内部関係が既知のホワイトボックスと考えられており、通常、よく知られたエネルギーシステムをベースに構築されてきた。これらのモデルの中には、体構成成分や枝肉組成を推定できるものもあり、また、経済変数を考慮してバイオエコノミックモデルに拡張されたものもある。ここでは肉用牛の生産システムを対象としたあるバイオエコノミックモデルのモデル化に関する発展過程とその応用が示された。家畜の場合は世代間隔が長く、1個体の価値が高く、しかも産子数が少ないので、家畜育種では生産集団全体の能力を遺伝的に変えていくことが重要である。そのためには、能力検定、選抜方法、生産システムなどの全体を網羅した育種システムとしての最適化が求められる。ここでは、能力検定をステーション方式とするか、フィールド方式とするかについて、集団としての遺伝的改良速度を指標に比較検討した。その結果、遺伝的改良が容易でないと考えられている枝肉形質の改良に対して、フィールド方式の後代検定いわゆる現場後代検定が有効であることが実証された。さらに、育種システムを構成する他のファクターについても最適化を図り、トータルとしての最適システムの構築に向けて研究を進めている。以上のように、システム分析は畜産業における多くの問題にアプローチできる有効なツールと考えられ、その役割は今後益々高まることが予想される。
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