システム農学
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20 巻, 2 号
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招待論文
  • 北村 貞太郎
    2004 年 20 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    本学会が設立されて、20年が早くも経過した。誠にご同慶の至りである。会員とともに、この20周年を心から喜びたい。本論文は、設立20周年記念大会の冒頭講演である。その様な機会であったため、余り紹介されていないシステム農学会設立の経緯が中心に述べられる。まず、システム農学会の設立と切っても切れない関係にあるIIASA(International Institute for Applied Systems Analysis、国際応用システム解析研究所)の説明から入る。まず、IIASAのFAP(Food and Agriculture Program)への日本人研究者の派遣と、IIASAの研究環境が述べられる。続いて、日本IIASA委員会での活動と、そこでのシステム農学会の設立構想が生まれたことが、論じられる。システム農学会は、そうした日本IIASA委員会が、本学会の設立準備会となって、1983年秋にその設立論議を始め、1984年4月に設立された。設立準備が半年にも満たない短期間内で設立された。最後に、システム農学の研究分野について、考える時期に来ているとの認識から、簡単なコメントが加えられる。まず、システム農学の特性が、述べられる。続いて、今日までの発表論文を参照しながら、研究分野を検討してみると、それは技術、経営及び環境に大別されるのではないかと、論じられる。また一方では、システム農学は、今日人類が直面している「地球環境問題」に関して、最も大切な学術分野であることが強調されている。そして最後に、システム農学は、地球環境研究プロジェクトの1つであるLUCC(Land Use/Cover Change、土地利用・被覆変化)との関連性が、深いこと述べられている。

  • 嘉田 良平
    2004 年 20 巻 2 号 p. 116-124
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    論文では、農林水産業と環境との関わりに着目しつつ、世界の食料安全保障問題、農林水産業の環境影響、そして食品安全問題などを中心に検討する。農林水産業と環境との関わりについては、農林水産業の営みが環境に対してどのような影響を及ぼすのか、そして、地球温暖化などの環境変動が農林水産業にどんな影響をもたらしてきたのかという2つの側面から論じなければならない。実際、20世紀後半の農林水産業の技術進歩は人類に豊かさとともに、さまざまな負の遺産としての環境問題をもたらしてきた。とくに発展途上国における農林水産業では、貧困に起因する資源の劣化や環境の悪化は深刻であり、各地でその影響は顕在化しつつある。環境問題は長期的には食料不安につながる新たな制約条件として無視できなくなっているのである。さらに、農林水産資源の劣化と環境の悪化は食品の安全性を脅かす要因の1つとなっている。そこで、農林水産業のもたらす環境への負荷を減らし、自然環境あるいは生態系と調和させつつ、経済的・社会的にも持続可能で循環型のシステムをどのように構築するのか、つまり、人と自然にやさしい「環境保全型農(林水産)業」への転換が求められている。環境と調和する持続可能な農林水産業の構築のためには、法制度面、技術面、社会システム面からの見直しが不可欠なのである。

  • 佐々木 義之, 広岡 博之, 築城 幹典
    2004 年 20 巻 2 号 p. 125-137
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    家畜生産とそれを取り巻く環境問題、家畜生産モデルおよび育種システムの構築の3つのレベルの課題についてシステム思考の点から取り纏めた。最近の畜産の専業化・大規模化に伴い、過剰になった家畜排泄物を畜産経営内でリサイクルすることが困難になっており、このことが畜産による環境負荷を大きくする主要な原因になっている。窒素などのフローを定量的に明らかにし、モデル化することで、環境負荷低減の方策を検討することが可能となる。一方、農業の多面的機能に関心が高まる中で、畜産においても地球温暖化、酸性化、富栄養化、オゾン層破壊といった比較的定量化可能なものから、生物種の多様性、景観などの定量化が困難なものまでさまざまな環境影響を考慮していくことが求められている。ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いることで、家畜飼養の現場での環境影響のみではなく、使用する飼料の生産段階や輸送段階でのさまざまな環境影響などを含めて評価することが可能となる。次に、家畜生産モデルとして、成長曲線モデル、自由摂取と成長モデルおよびシステムシミュレーションモデルの3タイプのモデルが示された。成長曲線モデルとは、最も単純なモデルで、時間と体重の関係のみが表され、家畜は産出のみのブラックボックスと考えられている。自由摂取と成長のモデルでは、体重のみならず摂取量が考慮されているが、家畜は投入と産出を持つブラックボックスとされている。システムシミュレーションモデルにおいては、家畜は内部関係が既知のホワイトボックスと考えられており、通常、よく知られたエネルギーシステムをベースに構築されてきた。これらのモデルの中には、体構成成分や枝肉組成を推定できるものもあり、また、経済変数を考慮してバイオエコノミックモデルに拡張されたものもある。ここでは肉用牛の生産システムを対象としたあるバイオエコノミックモデルのモデル化に関する発展過程とその応用が示された。家畜の場合は世代間隔が長く、1個体の価値が高く、しかも産子数が少ないので、家畜育種では生産集団全体の能力を遺伝的に変えていくことが重要である。そのためには、能力検定、選抜方法、生産システムなどの全体を網羅した育種システムとしての最適化が求められる。ここでは、能力検定をステーション方式とするか、フィールド方式とするかについて、集団としての遺伝的改良速度を指標に比較検討した。その結果、遺伝的改良が容易でないと考えられている枝肉形質の改良に対して、フィールド方式の後代検定いわゆる現場後代検定が有効であることが実証された。さらに、育種システムを構成する他のファクターについても最適化を図り、トータルとしての最適システムの構築に向けて研究を進めている。以上のように、システム分析は畜産業における多くの問題にアプローチできる有効なツールと考えられ、その役割は今後益々高まることが予想される。

  • 荒井 修亮
    2004 年 20 巻 2 号 p. 138-145
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    近年、マイクロエレクトロニクスの発達に伴って、水圏生物の生態を遠隔で計測する手法であるバイオテレメトリーが急速に普及してきている。特に高密度な電子回路と大容量メモリーとの組み合わせでより多様なデータをより大量に得ることが可能となっている。我々はバイオテレメトリーを用いて様々な水圏生物の生態を計測している。本稿ではタイ国をフィールドに調査を行ってきたウミガメ類、メコンオオナマズならびにジュゴンの調査結果について紹介する。

  • -GPSとPDAによる環境教育支援システム-
    守屋 和幸
    2004 年 20 巻 2 号 p. 146-152
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    2002(平成14)年度より小学校に導入された「総合的な学習の時間」の中で行われている環境教育を支援するためのシステムの開発を行った。このシステムでは、野外での自然観察と、教室内での学習を支援することを目的としている。開発したシステムでは、野外での自然観察で収集・作成した観察記録やデジタルカメラの画像に観察した場所の位置情報を付加することにより、Geograhpic Information System(GIS)としての機能を与えている。このシステムは、1)野外での自然観察を促すために、Gloval Positioning System(GPS)と携帯端末(PDA)を用いて特定の場所で情報を提供することと(教材提示システム)、学習者が興味をもった対象物について、その場で観察記録を簡単に作成・保存する機能(観察記録収集システム)、2)野外観察で作成した観察記録やデジタルカメラの画像を、教室内でクラス全員が自由に閲覧し、情報の共有を図る機能(情報共有システム)、3)位置情報付の観察記録やデジタルカメラ画像を素材として、児童がHTML文書を作成するための機能(教材作成システム)、などを備えている。このシステムの特徴は、1)自然観察を行う者が、自発的に位置情報付きで自由に観察記録を作成することができること、2)作成した観察記録や撮影した画像にメタ情報として位置情報が付加されているのでGISデータとしてそのまま利用できること、3)自然観察会等において、過去に収集・作成された情報を特定の場所でPDAに提示することができ、学習者への対象物に対する関心の惹起ならびに対象物への観察を促すことなどが挙げられる。

  • 秋山 侃, 川村 健介, 賈 書剛
    2004 年 20 巻 2 号 p. 153-159
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

    リモートセンシング生態学とは、衛星リモートセンシング技術と生態プロセス研究を、システム化手法などを使って融合することによって創生する新たなパラダイムである。衛星リモートセンシングはセンサ開発やコンピュータ科学の革新、あるいは地理情報システム(Geographical Information System: GIS)、全球測位システム(Global Positioning System: GPS)の普及など周辺環境の整備に伴い、地球規模の環境問題の解析や広域農業情報の収集などの面で大きな成果を挙げてきた。しかし小地域で生じている物質の動態や生理・生態的な反応を観測することはできなかった。これに対して生態学研究では対象地点の詳細な機能や動態の計測は可能であっても、これを面的に拡大することが困難で、リモートセンシング情報と生態プロセス研究のすりあわせが必要であった。21世紀に入る頃から、衛星センサの空間・時間・波長それぞれの分解能が格段に向上し、従来の地上被覆情報にとどまらず、小領域内で生じる機能の計測や物質循環の追跡が可能になった。ここではリモートセンシングと生態プロセス研究を同じフィールドに適用し、同一スケールで観測し、一連のシステムモデルとして解析する「リモートセンシング生態学」を提案し、これを用いた新たな研究の可能性について例を挙げて紹介した。

研究論文
  • 烏云梛 , 程 雲湘, 岡本 勝男, 谷山 一郎
    2004 年 20 巻 2 号 p. 160-167
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    中国内蒙古自治区の半乾燥草原では、植生が退行遷移し、草原の生産力が急激に低下している。本研究は、植生を指標として、放牧という人為作用が草原に及ぼす影響の評価を目的とし、異なる放牧圧下における草原の状態を調査した。その結果、放牧撹乱によって、群落の退行遷移が起こり、自然群落を構成している原植生の優占種とみられる羊草(Aneurolepidium chinensis)、大針茅(Stipa grandis)の優占度が低下して、退行植生の指標種である冷蒿(Artemisia frigida)と星毛委陵菜(Potentilla acaulis)の優占度が増加した。土壌表層の物理性は、放牧圧の増加に伴って変化し、土壌孔隙率が減少し土壌の硬化と土壌容積重の増大をもたらした。したがって、この土壌物理性の変化は、草原の退行遷移指標になり得る。外部環境条件の変化が植物の生理的特性に影響を及ぼし、それが植物の生長に影響する。放牧強度が強くなるに伴って、群落の草丈が短くなり、バイオマスが減少したが、種組成は変化しなかった。しかし、群落内では種個体群の現存量の変わり方が異なった。異なる放牧圧下で、さまざまな生活型で構成されているシヌシア(synusia)では、冷蒿(Artemisia frigida)で構成される半灌木シヌシアが、最も耐放牧性のシヌシアであると認められた。植物の耐乾燥性類型から見れば、強乾生植物は群落の優占種であり、放牧圧が増すと、中乾生植物と補完しながら生長した。中生植物と弱耐乾燥生植物は放牧の影響を受けやすく、放牧強度が高くなるにつれて、そのバイオマスと多様性が減少した。

  • 3.特定土層に基づく土壌炭素貯留量の簡便調査・推定法
    賈 書剛, 秋山 侃
    2004 年 20 巻 2 号 p. 168-175
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    土壌は陸域最大の炭素の貯留プールであるため、各生態系で炭素貯留量を計測する必要がある。しかし、これを測るには土壌の容積比重と土層別の炭素含有率を測定する必要があり、多くの困難を伴う。そこで今回、ある特定の土層に注目し、これに基づく土壌炭素貯留量の簡便推定法、いわゆる「特定土層推定法」を提案した。この方法は、前報の冷温帯林生態系で行った100区の詳細な調査結果から導いた。特定土層の概念は、ある土層に土壌性質の一部が強く反映されることを利用している。Stepwise法による重回帰分析の結果、本試験地の場合、50~60 cm 土層中の炭素量が100区の詳細な土壌断面の調査結果による全土層中の炭素貯留量を77.2%の精度で反映することが判った。特定土層法により推定した炭素貯留推定モデルはy=5.298a + 1670.839 で表された。ここで、y は全土層中の推定炭素貯留量(kgC/ha)、a は50~60 cm 土層中の炭素量(kgC/ha)である。この結果を前報の結果で、50~60 cm 土層を任意の20地点で採取することにより、他の80地点の炭素貯留量を検討すると、76.7%の精度で推定できることが判った。対象域における土層中の炭素貯留を推定するためには多数の土壌サンプルを必要とするため、従来の伝統的な調査―試坑掘りによる土壌断面調査は多くの時間と労力を要した。しかし、改良型土壌サンプラーは任意の深さの土柱を原状態のままで採取できるため、特定土層推定法と組み合わせることにより、土壌調査を容易にし、モデルやリモートセンシングなど他の手法による結果との比較にあたって威力を発揮する可能性をもつと思われる。

  • 稲冨 素子, 戸田 任重, 小泉 博
    2004 年 20 巻 2 号 p. 176-184
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    近年、酸性雨研究において問題となっている窒素沈着量の増加について、土壌圏への直接的および間接的影響を検討するため、人為的に窒素負荷量を増加させて、土壌呼吸速度に対する影響を調査した。窒素負荷実験区として広葉樹ササ有り区、広葉樹ササ無し区、針葉樹区の3サイトを設置した。それぞれの実験区において、窒素負荷量を0 kg N ha-1 yr-1、20 kg N ha-1 yr-1、40 kg N ha-1 yr-1 とした処理区を設けた。窒素負荷は1999年より3年間行い、土壌呼吸速度は2000年と2001年に測定した。その結果、窒素負荷の強弱に関わらず、2年間とも土壌呼吸速度は明瞭な季節変化を示した。また、2000年の土壌呼吸速度はすべての実験区において0 kg区よりも20 kg区のほうが高い値を示した。しかし2001年になると針葉樹区の土壌呼吸速度のみがこの傾向を示し、広葉樹両区では20 kg 区よりも0 kg区のほうが高い土壌呼吸速度を示した。各処理区における土壌呼吸速度の温度-呼吸曲線を作成し、回帰式の傾きを比較することにより、各実験区・処理区の土壌呼吸に対する温度依存性を検討した。すべての実験区において20 kg区の傾きが最も大きな値を示し、0kg区が最も小さな値を示した。このことは窒素負荷処理により、土壌呼吸速度の温度依存性が強まることを示唆している。また、将来の地球環境問題として懸念されている地球温暖化(気温の上昇)と窒素沈着量の増加を考慮した場合の、各実験区の土壌からの二酸化炭素放出量の違いについて予測を試みた。その結果、地温が現状よりも3℃上昇すると、二酸化炭素放出量は33%~47%の増加の可能性があることが示唆された。また、温暖化の影響は植生や窒素負荷量の違いにより異なることも予測された。

  • -茨城県を事例とした地域診断モデルの開発-
    宮竹 史仁, 椎名 武夫, 田坂 行男
    2004 年 20 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2004/10/10
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    地域における食料資源の流通を診断するモデルを開発するために、原重量、窒素、炭素を指標とした食品産業の物質フローを調査した。この物質フローを簡易に作成することができるように、官庁統計ならびに各種調査報告書、文献等のみを用いてフロー量を推計した。本研究では、物質フロー・モデルの対象として茨城県を取り上げ、1990年と1995年の統計を使用して食料資源の投入から廃棄に至るまでのフローを解析した。この結果、茨城県の食品産業は食料自給率、食品廃棄物、外食産業に関連した3つの特徴が見られた。原重量ベースによる食料自給率は、1990年で約24%であったが、1995 年では約14%まで減少した。原重量ベースによる食品廃棄物量は、1990年で63.8万トン、1995年では69.3万トンとほぼ横ばいに推移していたが、同年とも茨城県内で消費される食料の約30%が食品廃棄物として発生しており、発生抑制に向けた取り組みが不可欠であった。外食産業では、県外からの食料流通量の増加率が最も高く、食の外部化が進んでいると考えられた。本研究で開発された物質フロー・モデルにより、地域レベルにおける食料資源フローの実態が明らかになった。また、本手法は基本的に既存統計のみを使用しており、比較的簡易に作成することができるため、地域を一次的に診断するモデルとして有効である。

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