システム農学
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21 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
招待論文
  • 中野 和弘
    2005 年 21 巻 3 号 p. 143-147
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    「農業に関する技術の研究開発の促進に関する特別措置法」(1994~1999(平成6~11)年度)に基づき、生物系特定産業技術研究推進機構(生研機構)が主体となって、生産現場で緊急度の高い課題に対して革新的農業技術の研究開発を推進させた。米どころ新潟県からは、ソリマチ株式会社が「大区画水田における水管理の高度化に関する研究開発」を受託した。その研究成果は、「水田水管理自動化システム」として、現在でも新潟県刈谷田川土地改良区の水田で実稼働していることに集約される。このシステムの導入効果として、水管理時間の大幅削減、水位の精密制御、気象災害への予防的対応、水管理一元化の可能性など、多くの利点が挙げられる。一方、導入時の障害として安くない経費が挙げられるが、広域水田水管理モニタリングシステムへ展開することで、地域農業情報ネットワークサービスの一翼を担える可能性がある。

  • -生産者の顔の見える流通販売戦略・トレーサビリティヘの発展-
    杉山 純一
    2005 年 21 巻 3 号 p. 149-155
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    工業製品と違って、農産物の場合、日本の流通システムが複雑なせいもあって、誰がどんなふうに作っているのかこれまであまり見えてこなかった。しかし、輸入野菜の残留農薬問題や産地の虚偽表示などを背景に、安心できる食を選びたいと考える消費者が増えている現在、情報公開こそが問題を解決する鍵を握っているといっていい。果たして、青果ネットカタログ「SEICA」はこうした消費者の不信感をぬぐい、青果物流通を改革する救世主となり得るか?

  • 牛腸 奈緒子
    2005 年 21 巻 3 号 p. 157-163
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    消費者側からも生産者側からも、実用的なトレーサビリティシステムの確立が求められている。Webを使って、産地独自の情報とSEICAを活用した生産情報を組み合わせて情報提供し、アドレスを表示した商品を流通させ、その商品を購入した消費者が情報を閲覧するシステムで、生産情報を開示した。新潟県内のJAがこのシステムの実証を行ったところ、2年間で14,000件のアクセスがあり、消費者はこのシステムに対し安心を感じられることをWebアンケートにより検証した。効率的にこのシステムを運用するには、農産物へのアドレス表示方法、情報内容の充実等の工夫が重要である。このシステムは、消費者に情報を届けるだけでなく、マーケティングリサーチやコミュニケーションの手段として活用することもできる。拡張性の高いデータベースであるSEICAを利用すると、生産者はコストを抑えながら多様なマーケティング戦略の策定が可能になる。

研究論文
  • 宗村 広昭, 吉田 貢士, 樋口 克宏, 戸田 修, 丹治 肇
    2005 年 21 巻 3 号 p. 167-176
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    乾季の水田において水稲栽培に使用した水量と乾季の降水量との差を数年間推定し、その値から各県における水田への供給可能水量の推定を試みた。対象地域には乾季において灌漑水田と非灌漑水田とに区別された米生産量データが存在する東北タイを選定した。アジアモンスーン地帯では季節が雨季と乾季に明瞭に分かれ、年降水量の約7割が雨季に集中するため、乾季に直接水田へ入る降水量だけを使用して作付けを行うことは不可能である。つまり、乾季に水稲を栽培する場合にはどこからか水を供給する必要がある。灌漑水田ではダム貯水池から水が供給され、非灌漑水田では水田群に隣在する小溜池や水路の溜まり水から水が供給される。数年間における水田への供給水量および県毎の供給可能水量を推定するにあたり、米生産量データ、単位収量あたりの必要水量および乾季の降水量を用いた。非灌漑水田の水源と考えられる小溜池の規模や水路の溜まり水のデータを広域で把握することは不可能なので、最初に灌漑水田の米生産量データを用いて推定された供給可能水量と王立灌漑局の大・中規模貯水池データから算出した供給可能水量との比較を行い、灌漑水田の米生産量データから推定した値の妥当性を検討した。その結果、灌漑水田の収穫面積の集計値が小さい県において両者の供給可能水量の差が1 mm 以下となる傾向が見られた。乾季の灌漑水田において集計された収穫面積が小さい県は、農業統計上で灌漑水田と区分されてはいても、水利用の実態は非灌漑水田のように自由に水田へ水を供給できない状況にあると考えられるので、同様の計算方法で非灌漑水田についても推定できると推察された。その結果、東北タイの中ではチー川が流下する県とムン川上流の県において供給可能水量が高い傾向にあった。
  • 吉野 章
    2005 年 21 巻 3 号 p. 177-198
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    本稿では,青果物産地の計画主体が自らの手で市場動向を分析し販売戦略の策定に活かせるような簡易で有用な分析指標と分析手順を提案している.販売戦略のあり方は様々な社会経済の変化に左右されるが,最終的にそれらは,需要,商品価値競争力,並びにコスト競争力の変化として産地の経済目標を左右する.このため,この3つの動きを把握することは,産地にとって,市場競争に影響する社会経済的な変化を見落とさず,遅滞のない対応策を打つために有効な手段である.しかし,個々の青果物品目の市場動向を分析するために利用できるデータは,卸売市場の取引データ程度であり,行政や研究者からの情報提供も限られている.本稿では,このような現状をふまえて,卸売市場における取引データだけを用いて青果物産地自らが市場動向を分析できるような分析指標の提案を行った.すなわち,需要の変化は需要曲線のシフトとして,商品価値競争力の変化は,吉野による関係曲線のシフトとして(吉野 1997),さらにコスト競争力の変化は供給反応のシフトの産地間の差として把握し,それぞれの変化の有無は統計学的有意性で判定することにした.ただし,前二者は,曲線推定に失敗する場合があるので,価格と数量の変化からその動きを把握するための補助的判別指標を加え,分析システムの利用可能性を高めた.また,コスト競争力の変化はデータの制約により特定の市場における補助的判別に限定した.さらに,この分析方法の簡易性と有用性を示すために普及度の高い表計算ソフトMicrosoft社Excelによる分析システム作成事例を紹介し,若干の分析例を紹介した.
  • PÉREZ Juan Miguel, 小林 一, 松村 一善
    2005 年 21 巻 3 号 p. 199-208
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    本稿では、中南米のホンジェラスのコマヤグア地域を対象にして、リモートセンシング、現地実態調査データを活用し、1987から2001年の14年間における農業的土地利用の変化について解析した。その際、ホンジェラスでは土地利用の変化を把握するための統計データが不足しているため、Landsat TM及びLandsat ETM+のデータを利用して、1987、1994、2001年の3時期のデータにより14年間の変化を画像解析した。そして、検出された土地利用変化に着目しながら、農家や農業関係機関を対象にした現地実態調査を実施し、土地利用変化の要因解析を行った。結果によると、1987から2001年の期間中に、コマヤグア地域では農業政策の転換等により、農耕地が拡大し、トウモロコシや豆類、牧草等の自給的作物から野菜を中心とした商品作物への作付転換が進んだ。同時に、他地域から流入してきた小作農民による、焼畑農業による森林伐採や耕作放棄地が増大し、社会問題となってきた。農耕地では、中小規模階層農家における輸出用農産物を基幹にした土地利用高度化の促進、周辺部では森林破壊や耕作放棄地の拡大防止のための資源管理、環境保全に重点をおいた政策の強化が必要とされている。
  • 鈴木 研二, 山本 由紀代, 安藤 益夫, 小倉 力
    2005 年 21 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    東北タイ・天水農業地域において、水・土地資源の評価のためのGISデータベースを構築し、個別農家の所有する小規模溜池と水田の立地に関する空間解析を行った。はじめに、高解像度衛星画像を用いてベースマップを作成し、農家所有区画や溜池の利用に関する聞き取り調査の結果をGISデータベースに格納した。これらのデータを元に、個別農家を対象に溜池の立地配置の格差を定量化した。具体的には、溜池の貯留容量と分散度を指標化し、溜池と水田の立地関係における利水度の評価を行った。溜池からの距離をもとにバッファを作成し、水田領域をカバーする面積割合を分散度(Dp)として0~1に指標化した。また、溜池貯留容量の指標(Cp)として、水田面積に対する溜池貯留容量を0~1に指標化した。これら両者の幾何平均を個別農家の利水度(Awu)とした上で、この評価指標を対象地域内の10戸の個別農家に適用した。評価の結果、農家の利水度は0.1~0.5の範囲でばらつき、少なくともDpCpのどちらかにおいて改善の余地があることが示された。また、利水度の高い農家の所有する水田では、移植時に溜池の利用が活発に行われていたことが認められた。
  • 小邨 孝明, 広岡 博之, 守屋 和幸
    2005 年 21 巻 3 号 p. 217-224
    発行日: 2005/12/10
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    近年、大規模で複雑なモデルを最適化する手法として、Differential Evolution(DE)アルゴリズムが提案されている。本研究では、DEを用いて肉牛肥育・飼料生産に関するエネルギー消費モデルの最適化を行った。補助エネルギー効率に影響を与える5つの変数(粗飼料割合、飼養密度(頭/ha)、1日あたりの増体量、肥育終了時体重、粗飼料のTDN含有量)を最適化することで、これらの変数の最適水準を決定した。その結果、補助エネルギー効率を高くするには、より多くの良質の粗飼料を給与し、成長速度の速い個体を短期間の肥育で終了させれば良いことが確認できた。さらに、Storn and Price が提示したDEの戦略のうち、 DE/best/1/expとDE/rand/1/binの2つについて、制御変数(交叉率(CR)と突然変異時に適用される重み係数(F))が最適化に与える影響について検討を行った。評価基準は収束の速さと最適解の検出の安定性とした。その結果、CRとFはそれぞれ、DE/best/1/exp では、0.75 と0.5 が、DE/rand/1/bin では、0.5 と0.5 が最も良い組み合わせであることが示唆された。
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