システム農学
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23 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
招待論文
  • 山本 勝利, 楠本 良延, 椎名 政博, 井手 任, 奥島 修二
    2007 年 23 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2017/04/17
    ジャーナル フリー
    農村空間において、生物の生息に大きな影響を及ぼす景観構造の指標を見いだすことを目的に、多様な景観構成要素が混在している谷津環境に着目して生物生息空間としての評価を試みた。茨城県南部筑波稲敷台地の全ての谷津を対象にした過去約50 年間の景観構造の変化に関する解析及び6 地区の谷津を対象にした水系網の改変や水田周辺の管理の違いがチョウ類の生息に及ぼす影響の調査・解析からチョウ類の生息に影響を及ぼす景観構造を抽出し、調査・情報システムを用いて利根川流域の谷津環境におけるチョウ類の生息ポテンシャルの評価を試みた。その結果、地形による水田水稲作、転作、耕作放棄の進展度合いの違いという谷津景観の変化が顕著であること、水田整備を中心とする水系網の改変による直接的影響というよりも、整備程度の違いがもたらす水田周辺の管理方法の違いが草本植物やチョウ類の生育・生息に影響を及ぼしていることが示唆された。これらのことから谷津景観が有していた複合環境としての特性を維持することが重要であると考えられ、その指標として水田と森林の境界長に着目して利根川下流域台地谷津田景観のチョウ類生息ポテンシャルを評価した結果、最近の25 年間で、チョウ類の生息に適した景観が顕著に減少していることがわかった。
  • 栗田 英治
    2007 年 23 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2017/04/17
    ジャーナル フリー
    本稿では、農業・農村地域の景観の変容と、人為的な利用・管理、住民の関わりの変遷について、地形・立地条件の異なる2 つの地域の事例をもとに検討を行った。谷津田を含む台地域を対象とした事例では、1947 年、1974 年、2000 年の3 年次の空中写真を用いた土地利用・土地被覆の把握にもとづく景観の変容と、年次、土地被覆ごとの作業内容、作業時間などの把握による管理状況の変遷について述べる。棚田を中心とした山地域の事例では、棚田の区画、畦畔木・樹林地などの棚田景観の構成要素、空間的な特徴に着目した2 年次の景観の変容と、メッシュを用いた景観変化パターンの解析、変化要因の把握をもとづく棚田景観の形成過程の解明の結果について述べる。
  • 長谷川 裕之
    2007 年 23 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2017/04/17
    ジャーナル フリー
    本研究では、GIS 技術を利用した過去の景観の忠実な再現を試みた。景観再現の資料としては、米軍写真、東京都地形図、国土地理院地形図を利用した。はじめにそれぞれの資料の位置精度を明らかにし、グリッドDEMを作成した。DEM を地形図から作成した場合、河川堤防や小さな起伏は表現できず、米軍写真から作成した場合最も精密なDEM が得られることが明らかになった。しかし米軍写真からのDEM 作成は最も人員・費用のかかる方法であり、必要とされるDEM の精度・正確度を勘案した上でDEM 作成手法を決定することが望ましいと考えられる。次に、オルソ画像の作成方法として空中三角測量成果を利用した厳密な手法と幾何補正のみによる簡易な手法の2通りの方法を試み、それぞれの方法により作成したデータの位置精度を明らかにした。この結果、対象地域の起伏が小さかったため、簡易な手法で作成してもそれほど大きな位置ずれは見られなかった。最後に、オルソ画像を彩色したカラー化オルソ画像とグリッド DEM を組み合わせ、鳥瞰図を作成した。この結果、遠方から俯瞰した場合、どの鳥瞰図でも違いはあまり明確でなかった。しかし、近距離からの眺めを視覚化した場合、グリッドDEM の情報源の違いにより鳥瞰図の良否に違いが生じた。米軍写真の空中三角測量により作成したDEM と厳密手法によりオルソ化したカラー化オルソ画像を組み合わせた場合には、地形の凹凸とオルソ画像上の地形境界が正確に重なり合う。このため、DEM による地形表現とオルソ画像による現実感があいまって実際の鳥瞰写真に近い視覚化が可能であった。ただし、位置精度が高いデータほど、作業時間・費用がかかるため、どのような目的で景観再現をするのか考慮した上でデータ作成手法を選択する必要がある。
  • SPRAGUE David S., 岩崎 亘典
    2007 年 23 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2017/04/17
    ジャーナル フリー
    近世が終焉を迎え近代化が始まる直前における明治10 年代に測量された迅速測図は、日本の農業的土地利用の研究にとって極めて重要な時期に作図された。迅速測図はGIS で定量的な解析に使用できるが、緯度経度は付されておらず、不規則に歪んでいるので、通常の地形図以上に幾何補正に注意が必要である。本研究では迅速測図をコンピュータに取り込み、幾何補正する方法を解説した後に、茨城県南部の図幅を対象に行ったGIS 解析から得られる土地利用変化の傾向を報告する。明治初期の茨城県南部の村落では樹林地と草地が面積の約60%を占めていた。1980 年代の現存植生図と比較すると、水田の継続性は他の土地利用に比べて高かったが、地目として認識される広い草地はほぼ消滅していた。
  • 合崎 英男
    2007 年 23 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2017/04/17
    ジャーナル フリー
    本稿では、表明選好法を利用した農業・農村の持つ多面的機能の経済評価(環境便益評価)事例を紹介した。1つは、仮想評価法を利用して、日本全体の農業・農村の持つ多面的機能を経済評価した事例である。もう1 つは、選択実験を利用して、ホタルの生息に配慮した水路整備計画が有する環境価値を経済評価した事例である。本研究領域の今後の課題の1 つは、質問に際して多面的機能を説明するために使用する具体的な指標の検討である。具体的な指標は,回答者からみた分かりやすさという点と,評価結果の転用可能性(便益移転)という点が求められ、経済学のみならず心理学や生態学など関連するさまざまな学問領域の知見が必要とされる。
  • 林 岳
    2007 年 23 巻 1 号 p. 47-55
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2017/04/17
    ジャーナル フリー
    マクロ環境会計は、国または地域を対象とし、経済活動と環境の関係を体系的に記述する環境評価ツールで、海外を含め各国において開発が進められている。マクロ環境会計を農林業に適用することで、貨幣単位もしくは物量単位で国または地域における農林業と環境の関係を包括的に捉えることができ、対象地域における環境情報を体系的に記述し、国民や地域住民さらには農林業経営者にわかりやすく農林業の生産活動と環境の関係を示すことができる。しかしながら、マクロ環境会計は未だ開発途上の段階にあり、実際に数値を計上し、分析ツールとして利用するためには、未だいくつかの課題が残されている。また、農林業への適用に関しても、同様に解決しなければならない課題がある。例えば、農林業独特の機能である多面的機能の存在は、それまでマクロ環境会計が対象としてきた環境負荷の計測という領域を越え、環境便益の計測も必要となる。したがって、農林業にマクロ環境会計を適用するためには、会計フレームワークを改良し、農林業向けの環境会計を新たに構築する必要がある。マクロ環境会計を農林業に適用する研究事例は、これまでにいくつかあり、それぞれの分析目的に応じて会計フレームワークを改良し利用しやすくしている。本稿では、マクロ環境会計の仕組みを解説し、農林業と環境の影響を評価した研究事例を紹介する。
研究論文
  • 李 錦東, 白武 義治
    2007 年 23 巻 1 号 p. 57-70
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    日本農業は、グローバル化の中で全般的に生産減少、販売価格低迷などの厳しい環境におかれている。日本農産物は高価格という認識の下で、守勢的な議論が中心になっている。しかし、日本農業の環境悪化の中でも輸出され続けてきた農産物がある。その作目を対象に、持続的に輸出できた背景と要因、残されている課題を検討し、日本農産物輸出の可能性を模索した。そこで、本論文は、積極的に海外輸出を行い、県出荷量の18%まで輸出した経験がある鳥取県梨産地の調査を行った。その調査をもとに、画期別に鳥取県の二十世紀梨輸出システム構築の過程及び輸出環境への対応などを検討した。さらに、1997 年以降の輸出量の減少要因を変化した輸出環境と産地のマーケティング戦略の2 視点で検討した。 日本における海外輸出は、生産者にとって、縮小している国内市場での需給調整及び販路確保という重大な意味をもっている。生産者・JA 全農とっとり・関連機関は、輸出が困難な時期にも、輸出の利点を共に理解し、そのリスクを共に負担し、輸出が継続できるシステムを構築した。二十世紀梨の輸出に対する認識及び対応は、出荷単位となる梨選果場別に異なる。輸出に積極的な梨選果場では、輸出により20%の所得増がみられた。輸出に消極的な梨選果場でも、輸出の有効性は、認識されている。梨生産農家は、梨選果場別及びJA 全農とっとりの積極的な取組による輸出システムの構築・維持によって、輸出効果を享受できた。鳥取県の二十世紀梨輸出は、県レベルの産地努力で、海外輸出システムを構築することによって、県内の生産基盤を維持する1 つの方策を示しており、今日の日本農業へ1 つのインセンティブを与えている。
  • 山本 由紀代, 古家 淳, 鈴木 研二, 越智 士郎
    2007 年 23 巻 1 号 p. 71-86
    発行日: 2007/01/10
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    インドシナ半島内陸部に位置するラオスでは天水田や灌漑水田、焼き畑における稲作が広く行われている。メコン川平原を中心に灌漑開発が進められているが、コメ生産量の8 割は天水に依存している。南西モンスーンの影響を受け、5 月から10 月が雨期となり、この間に天水による稲作が行われるが、雨期の開始時期や降水量の年変動が大きく、旱ばつや洪水が生産を不安定化させる大きな要因になっている。そこでまず降水量の地域分布を把握するため、1991 年から2002年の5 月から10 月の日別降水量と緯度・経度情報を有する72 カ所の観測データを用いてそれぞれの月ごとにセミバリオグラムを反映したクリギングによる空間補間を行い、1km メッシュでの月別降水量分布図を作成した。推定された月別降水量を県別に集計し、主成分分析を行った結果、降水量の多寡と季節性を表す第1・第2 主成分が得られ、ラオス中部は多雨前期型、南部は多雨後期型、北部は少雨前期型、西部は少雨後期型に区分された。一方、1991~2002 年の統計データから抽出した雨期作水稲(天水田)・乾期作水稲(灌漑)・陸稲の生産量とそれぞれの対前年比平均値を変量とする主成分分析からはコメの栽培体系と生産の拡大傾向を示す地域区分がなされた。コメの生産量と時期別降水量との相関分析を行い、5・6 月降水量は水稲に対しては正、陸稲に対しては負の相関を示す場合が多い、水稲主産地では9・10 月降水量が多いほど収量は減少する、などの特徴を見出した。さらに、月別降水量から水稲の収穫面積を推定する重回帰式(自由度調整済みR 2=0.9470)を作成し、これを地図演算式として適用することにより、1991 年から2002 年の降雨条件から期待される一人あたりの収穫面積推定図を作成した。
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