大気−生態系間のCO
2交換を左右する炭素循環のプロセスと炭素収支変動のメカニズムの解明など、炭素循環研究において安定同位体を用いた新しい手法が利用されるようになってきた。これは、CO
2とその起源物質の炭素安定同位体比(δ
13C)を用いることで、CO
2の発生起源の推定や、炭素のプール間あるいはプール内での炭素循環プロセスの理解や各フラックスの評価が可能になったためである。たとえば、呼吸によって放出されたCO
2が光合成によって生態系に取り込まれる再固定過程(CO
2 recycling)は、炭素安定同位体を用いることにより初めて評価することが可能になった循環過程である。また、このCO
2 recyclingは、渦相関法によるCO
2フラックス観測に同位体フラックス観測を組み合わせ、光合成と生態系呼吸を別々に評価する際、推定に誤差を生む原因として注目され、ここ数年の間にこの問題に取り組む研究例が蓄積されつつある。そこで、本稿では、CO
2 recyclingに関する研究の現状、これらの研究で用いられている手法、ならびに今後の課題について整理した。さらに、様々な生態系においてCO
2 recyclingの定量的評価が進むことにより、炭素収支を左右する個々のフラックスがより正確に評価され、気候変動に伴う炭素収支の変動メカニズムの解明につながることを解説した。
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