飼料中の粗タンパク質(CP)含量を減らし、不足分の必須アミノ酸を補足した飼料はアミノ酸バランス改善飼料(バランス飼料)と称されており、ニワトリに給与することで、生産性を維持しながら排せつ物中の窒素量を低減できることが知られている。バランス飼料を産卵期間の採卵鶏に給与することで、鶏卵生産性に大きな影響を及ぼすことなく堆肥化過程で排出される温室効果ガスおよびアンモニアが低減することを、近年著者らは報告した。しかし、実際の畜産現場における採卵鶏へのバランス飼料給与が及ぼす影響についての報告は少なく、畜産現場におけるバランス飼料給与が鶏卵生産や窒素排せつ量、堆肥品質へ及ぼす影響は明らかになっていない。そこで、採卵鶏農家において農家慣行飼料よりCP含量を2ポイント下げたバランス飼料を産卵期間の採卵鶏(ボリスブラウン)に給与し、鶏卵生産性、窒素排せつ量および鶏ふん堆肥の品質に及ぼす影響を検討した。鶏卵生産性は毎日の産卵数と羽数から産卵率を算出し、卵重や卵殻強度等の卵質を測定した。窒素排せつ量は排せつ物全量を採取し、算出した。また、鶏ふん堆肥の品質は堆肥成分およびコマツナの発芽率、生育を測定した。その結果、産卵率および卵質に慣行区、試験区間で大きな差は認められなかった。しかし、窒素排せつ量(産卵前期:1.85 g/羽/日 vs. 1.54 g/羽/日、産卵後期:1.19 g/羽/日 vs. 0.77 g/羽/日)および排せつ物乾物重量は試験区で有意に低い値を示した。また、試験区の排せつ物で製造した堆肥と農家で製造された慣行堆肥を分析した結果、窒素全量に大きな差はなく、コマツナ種子発芽試験では発芽率が90%を超え、コマツナポット試験でも両区間で差はなかった。これらから、今回の鶏卵生産システム全体を対象とした農家実証試験では、慣行飼料よりCPを2ポイント低下させたバランス飼料は、鶏卵生産性に影響なく窒素排せつ量を低減し、製造された堆肥の肥効等にも影響を及ぼさないことが示された。