本研究では、肉用牛の個体ごとの健康管理をより効率的かつ細やかに実施するため、心弾動(BCG: ballistocardiography 、以下、BCGとする)を用いた心拍数および心拍間隔の自動計測システムが構築可能か検証した。ピエゾコンタクトマイクを黒毛和種繁殖雌牛の左胸深部および右側体側部の体表に密着させることで体表振動を電圧に変換し、サンプリング周波数500 Hzにて時系列データの収集を行った。同時に計測した心電図(ECG: electrocardiography、以下、ECGとする)とピエゾコンタクトマイクにより得られた信号を比較した結果、それぞれの計測部位において心拍に対応する電圧値の変動を確認した。その後、この電圧値の変動からECGの拍動のピーク波形を示すQRS Complexに対応するピークを検知できるかを検証した。ピエゾコンタクトマイクより得られた波形に対してバタワース特性を持つフィルタ処理を実施した後、ピークを自動検出した結果、左胸深部では20-30 Hz、30-40 Hzおよび40-50 Hz、右側体側部では10-20 Hzおよび30-40 Hzの通過域を設定した際にQRS Complexとピーク数が100±1 %以内で一致した。さらに、得られたピーク間隔とECGから得られる心拍間隔との誤差を評価したところ、左胸深部では30-40 Hzの通過域でフィルタ処理した波形を用いることで3.3 %、右側体側部では15-20 Hzの通過域で5.5 %の誤差率平均となった。なお、ECGのQRS Complexとそれぞれの部位で計測されたピークの遅延時間を評価したところ、左胸深部では33.23 ms、右体側部では264.17 msであった。これは、左胸深部付近が心音を直接取得していることに対して、右側体側部における計測では付近を通る大血管を流れる血流が起こす振動を取得していることを示唆しており、心臓付近に限らない体表から心弾動を計測できることが示された。