日本ベンチャー学会誌
Online ISSN : 2433-8338
Print ISSN : 1883-4949
INCJ 巻
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まえがき
総括
研究論文
  • ―INCJ投資先企業にもとづく実証分析―
    本庄 裕司, 髙橋 秀徳
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 経営学
    2025 年INCJ 巻 p. 19-31
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/04/09
    ジャーナル フリー
    本稿では,INCJの投資先企業(ポートフォリオ企業)のうちアーリーステージおよびベンチャー企業を対象に,投資パフォーマンスを多面的に検証する.具体的には,INCJによる投資回収の方法と期間,投資リターン,投資先企業のIPO(initial public offering)時とIPO後の株価パフォーマンスに関する実証分析を行い,その結果を提示する.まず,投資回収の方法と投資額との関係に関する分析では,投資額が大きい案件ほどIPOを通じた投資回収が発生しやすい一方で,投資額が小さい案件ほどINCJによる支援の打ち切り(支援撤回)を通じて投資回収される傾向が明らかとなった.また,設立間もない若い企業ほどIPOを通じた投資回収の発生確率が低い傾向がみられた.つぎに,INCJ投資先のうち,後に東証マザーズまたはグロース市場に上場した企業に注目し,初期収益率および上場後一定期間にわたるBHAR(buy-and-hold abnormal return)を算出することで,株式市場における評価を検証した.さらに,INCJが保有する投資先企業の株式を他の上場企業へ譲渡した際の譲渡公表日における株価反応をイベントスタディにより累積異常リターンを算出して分析した.しかしながら,いずれの分析においても,投資先企業に対するINCJの関与が統計的に有意なパフォーマンス改善や市場評価の向上に結びついている明確な証拠は得られなかった.
  • ―投資先及び投資担当者による官民ファンドの付加価値活動とシグナリング効果の構造化と評価―
    奥田 聡, 澤谷 由里子, 金井 伸郎
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 経営学
    2025 年INCJ 巻 p. 33-46
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/04/09
    ジャーナル フリー
    本研究は、政府系ベンチャーキャピタル(GVC)が提供する付加価値活動が投資先ベンチャー企業に与える影響を明らかにすることを目的とし、株式会社INCJを対象として、付加価値活動の効果を実証的に検討した。支援内容は、探索的因子分析の結果、研究開発支援、事業成長支援、市場展開支援の3領域に分類され、それぞれが「売上成長・事業成長」「資金調達拡充」「シグナリング効果」といった成果指標にどのように影響を及ぼすかを分析した。分析手法として、INCJの担当者および投資先企業の双方を対象としたサーベイ調査に基づき、構造方程式モデリング(PLS-SEM)を適用した。その結果、付加価値活動の種類ごとに成果の現れ方が異なることが明らかとなった。INCJ投資担当者と投資先企業の間には、支援効果の認識においてギャップが存在することが明らかになった。これらの結果は、GVCによる支援の成果が一様ではなく、付加価値活動の種類と目的に応じた戦略的な設計が必要であることを示唆している。GVCの付加価値活動を構造的に整理し、政策的支援の質と有効性を高めるための実証的基盤を提供する点で、本研究は意義深い貢献を果たすものである。
  • ―日本の官民ファンドにおけるインパクト投資戦略―
    横山 恵子, 大江 秋津, 新藤 晴臣
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 経営学
    2025 年INCJ 巻 p. 47-61
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/04/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,スタートアップに対するベンチャーキャピタルの金銭的・非金銭的支援が投資成果に与える影響のメカニズムを解明することにある。特に,これまで十分に検討されてこなかった投資家側の投資先に対する「愛着」という感情的側面に焦点を当てた点に新規性と独自性がある。我々は,日本の官民ファンドである株式会社INCJの投資行動を対象に,スタートアップへの投資成果に「愛着度」が与える影響を,定性と定量の混合研究アプローチで検討した。まず,4社の事例を対象とした定性的研究から,投資家の愛着が,投資先スタートアップのために多様な関係者を紹介・媒介するといった手厚い非金銭的支援(ネットワーク構築支援)につながるという洞察を得た。次に,この洞察に基づき,INCJの投資先スタートアップのパネルデータを用いた定量的研究を実施した。その結果,①投資家からの「愛着度」が高いほど,スタートアップは自身が持つネットワーク内で情報を媒介するネットワーク位置を築きやすく,②そのようなエゴ媒介中心性は,将来のIPO 確率や特許(グリーン特許含む)創出数に正の影響を与えることを見出した。以上の結果から,投資家の「愛着」が,投資先のネットワーク構造を戦略的に形成させ,それが企業の成長やイノベーションを促進するという2段階のメカニズムの存在が示唆された。
  • 浜松 翔平, 一小路 武安, 中野 剛治, 藤田 真弥
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 経営学
    2025 年INCJ 巻 p. 63-74
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/04/09
    ジャーナル フリー
    近年、社会的な要請の高まりにより、政府系ベンチャーキャピタル(GVC)の活動が広範にみられるようになってきた。しかしながら、その多様な役割から、GVCの投資効果は民間のベンチャーキャピタルに比べて、必ずしも芳しいものではない。そのため、GVCがいかに成果を上げるかは喫緊の課題である。本研究ではEisenhardt (1989) に基づく複数事例研究のアプローチを採用し、定量的には明らかにならないGVCの効果的な投資の在り方について、スタートアップ企業の他のステークホルダーのリレーションシップ構築を対象として分析を行った。結果として、スタートアップ企業とGVC、投資家、顧客、ホスト企業(親会社)の視点から、財務面の支援、事業面の支援、スピンアウトにおける支援という3つのカテゴリーにて、財務面における大規模・柔軟支援、信用力補完、事業面における営業支援、信用力補完、スピンアウトにおける親会社との関係性のマネジメントから、それぞれ仮説を提示した。本研究はGVCの具体的な行動に着目して、その効果を検証している点でこれまでの研究に貢献している。
  • ―株式会社日本電子NMR事業のカーブアウト&カーブインの事例―
    福嶋 路
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 経営学
    2025 年INCJ 巻 p. 75-89
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/04/09
    ジャーナル フリー
    日本企業の課題の一つに、企業の中にある有望なシーズが、組織内で潰され活用できていないという認識は長らく問題視されている。そのような課題を解決する一つの手法がカーブアウトである。本稿の目的は、カーブアウトの成功の要件を事例研究から考察する。本稿ではINCJの支援先で最初のイグジットの成功事例となった日本電子株式会社のNMR 事業部(JEOL RESONANCE)のカーブアウトとカーブインの事例を取り上げ、そこでINCJが果たした役割に着眼する。日本電子は2009年に赤字に陥り、その際に赤字事業部であったNMR事業をINCJに売却を試みた。INCJは1年にわたるデゥーデリジェンスを行い、NMR事業部に15億円を出資すること決定した。NMR事業部はJEOL RESONANCEという独立会社となり、INCJからの経営支援を受けながら再建を目指した。当初は両組織の文化の違いに戸惑ったものの、経営陣の刷新、研究開発への投資、オープンイノベーションの実施、営業の国際化などを次々に実行していった。その結果、JEOL RESONANCEは新製品開発を加速し、利益を上げられる体質に変化を遂げていった。これと並行して親会社である日本電子でも、社長のリーダーシップのもと、組織改革が進められ、組織の縦割りを壊し、全体最適をめざすYOKOGUSHI戦略を実行していった。こうして2013年11月、INCJは、業績が回復したJEOL RESONANCEを日本電子に30億円で売却し、イグジットを果たした。そしてINCJ設立後初めての出口戦略に成功した事例となった。2022年にJEOL RESONANCE は日本電子に吸収され消滅した。
  • ―投資判断プロセスと出口成果に見る構造的要因の検討―
    玉井 由樹, 高橋 陽二
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 経営学
    2025 年INCJ 巻 p. 91-105
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/04/09
    ジャーナル フリー
    本研究は、政府系ベンチャーキャピタル(GVC)の投資プロセスを手掛かりに、地域企業への投資障壁(リージョナル・エクイティ・ギャップ)の再生産メカニズムと克服可能性を検討する。日本のGVCであるINCJの事例比較から、審査制度は形式上は中立でも、地域企業が実質的により高いハードルに直面する構造が示唆された。地域企業は特に、(1)紹介ネットワークへの依存(アクセス段階)、(2)投資家向けに事業を「翻訳」する経営人材の不足(レディネス)、(3)政策的整合性の設計の点で不利が生じやすい。さらに、投資に至るプロセスが出口の質に影響する経路依存性も観察された。内部に翻訳機能を取り込み、計画とガバナンスを再編する「内部形成型」はIPOに結びつきやすい可能性がある一方、特定パートナーに最適化する「外部連携型」は政策変更に脆弱で、支援が非持続的となり得る。以上の分析から、本稿はGVCを単なる資金提供者にとどまらず、ネットワークへの橋渡し、評価基準の翻訳、政策的整合性の設計といった機能面から、地域エコシステムの欠落を補完し得る存在として捉える視点を提示する。
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