保証業務を旨とする財務諸表監査は, 市民が情報(知識)を利用する「自由」を享受する機会を実現することで, 契約自由の原則を支えている。財務諸表監査を基礎づける道徳的価値観は, 市民の正当な権利を保護する近代公益(正義)概念である。本稿では, 財務諸表監査の意義を近代法思想の観点から解釈し, 近年のわが国における独立性をめぐる動向の意義を検討した。
精神的独立性が財務諸表監査の基本原則を果たす一方で, 市民および監査人の正当な権利を保護する観点から, 外観的独立性は財務諸表監査に不可欠な概念であることを確認した。特に, 外観的独立性概念は, 権利侵害の発生を抑止し, 紛争解決における司法手続きとの整合性を保持する上で不可欠な概念である。権利侵害の抑止という正義概念の実現を財務諸表監査が担う以上, 外観的独立性はその実現という観点から積極的に再評価されるべきである。
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