現代監査
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2011 巻, 21 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
  • 日本企業におけるマネジメント・アプローチ
    正司 素子
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 16-26
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/04/07
    ジャーナル フリー
    日本企業がIFRSの導入を考えるにあたり,様々な実務的課題が,会社の経理担当者や監査人において浮き彫りになりつつある。そしてこれらの課題を通じて感じられるのは,IFRSの底を流れている思想と,いわゆる日本的経営における思想との根本的な違いである。これらの背景的相違により,実務家はIFRSを解釈にあたり,大きな違和感を抱くことになる。しかしながらIFRSを適用するということは,会計の国際化のみならず,企業経営の国際化であり,経営を洗練させ透明性を高め,経営者としての説明責任を果たしていくことにつながる。これを可能とするためには,まず情報作成の現場で,経営管理体制を整備していくことが必要となる。監査人としても,個々の会計処理の正確性といった観点よりも,より経営の合理性や全体の整合性という観点に着目して判断を行っていくことになる。本稿では,上記の背景に基づき,IFRS適用にあたり検討すべきマネジメント・アプローチについて,ディスクロージャーおよび監査・保証業務への実務的影響について考察する。
  • 鈴木 一水
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 27-35
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/04/07
    ジャーナル フリー
    2000年前後から国際的共通化に配慮して設定されてきた会計基準には,利益計算の面で市場指向と将来指向という特徴が,また設定アプローチの面で原則主義という特徴がみられる。市場・将来指向的会計基準の下で,業績の良い企業の報告利益の持続性と予測可能性は,業績の悪い企業よりも高い。また,業績の良い企業の報告利益の変動性は低下して利益平準化がみられるのに対して,業績の悪い企業の変動性は反対に拡大している。このような業績の良い企業と悪い企業との間の報告利益の質の相違は,企業価値評価における格差拡大を助長している。こうした財務報告環境の変化が,監査の重要性を増大させる一方で,原則主義に基づく会計基準は,監査人の監査判断の負荷と責任を加重にする。監査人の負担を軽減するためには,監査判断の指針を設定するしかないが,様々な問題がある。会計基準の国際的共通化は,監査業務に対してきわめて厳しい難題を突きつけている。
  • ―ディスクロージャーにおけるIT化の進展による監査・保証業務への影響の視点から
    堀江正之
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 36-47
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/03
    ジャーナル フリー

    今日,ITシステムに対する信頼性保証は,職業会計士によるサービスだけでなく非職業会計士によるものも多数ある。そのなかで職業会計士が提供する保証サービスは,職業会計士に特有の高度な専門性と独自の職業基盤に関連づけられたものでなければならないであろう。IT化の進展だけに目を奪われた無節操な範囲拡張は,職業基盤崩壊の危険性すら孕んでいるといってよい。職業会計士によるIT保証サービスの展開は,ITシステムの信頼性保証とアウトプットとしての情報(とりわけ財務情報)の信頼性保証とを関連づけた,地に足のついた論理に支えられていなければならない。その上で,非職業会計士によるIT保証で浸透しつつある段階保証モデルの援用など,新しいかたちの保証サービスのあり方も視野に入れる必要がある。

  • 吉見 宏
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 48-54
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/03
    ジャーナル フリー

    財務諸表外情報の作成と開示は,制度上も各国で進展している。これらの情報に対する監査人の関わりとしては,保証という形が考えられるが,そのあり方についての理解が定まっているわけではない。本稿では,監査・保証の観点から財務諸表外情報を検討するものであり,その際主としてわが国の会計情報開示,監査制度がどのような状況にあり,今後どのように影響を受ける可能性があるのかを考察する。そこでは特にIASBの動向を中心に,IFRSとのコンバージェンスおよび,2010年12月にIASBにより公表された実務ステートメント「経営者の解説」が,わが国の財務諸表外情報の作成,開示にどのように関連し,監査・保証に対していかなる影響を与える可能性があるかを考察する。

  • 高田 敏文
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 55-64
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    本稿は,2010年7月に開催された日本監査研究学会東日本部会統一論題「国際化の進む会計・監査教育」における私の報告に関連して,会計大学院発足以来,今日(2010年末)に至るまでの会計・監査教育の展開と今後の課題について私見をまとめたものである。最初に,2005

    年の専門職大学院としての会計大学院の本格的な設置以来今日に至るまでの会計・監査教育を簡潔に振り返った後,国際化の進む会計・監査教育について,⑴国際会計士連盟の国際会計教育基準と会計大学院の教育課程,⑵学校教育法に基づく分野別認証評価とその評価基準,⑶文部科学省の教育推進補助金による会計大学院コアカリキュラムの3つの側面から論じた。さらに国際化と密接なかかわりを持つ授業科目である「会計倫理」と「国際財務報告基準」の授業の課題について,その見通しも含めて私見を開陳した。

  • 橋本 尚
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 65-74
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    国際財務報告基準(IFRS)は今後,わが国会計教育の場において,ますます重要な位置を占めるようになるものと予想される。会計教育のグローバル・スタンダードである国際教育基準(IES)は,公共の利益に資するという観点を重視するとともに,コア・コンピタンスとアウトプットを重視することで,高等教育機関と密接にリンクした一定水準の会計教育の質をグローバル・レベルで確保することを目指している。わが国も世界の潮流を正しく見極めて

    IFRS対応の会計教育をこうした方向で展開していく必要がある。とりわけ,原則主義のIFRS

    の導入により,会計プロフェッショナルには,さまざまな場面で適時・的確な判断が求められるケースが増大することが予想されるところであり,こうしたIFRS適用能力を効率的かつ効果的に身につけさせるためにも,わが国会計教育には,大胆な発想の転換と各関係機関との連携強化が強く求められている。

  • 井上 善弘
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 75-83
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    我が国において本格的な導入が予定されている国際財務報告基準は,原則主義にもとづく会計基準であるとされている。原則主義にもとづく会計基準には,中核となる原則ないし会計上の目的が書かれているだけであり,当該基準を実行に移すための詳細な適用指針の提供は予定されていない。このような性格をもつ会計基準の下では,財務諸表監査の担い手たる監査人には,従前にも増して,被監査会社で生起した会計事象や取引が持つ経済的実質とそれに関連する会計基準に関する深い理解の上に立った実質的判断の行使がよりいっそう要求される。また,原則主義にもとづく会計基準の下では,経営者が行った会計判断の根拠を示すとともに被監査会社の経済的実態を表す情報として,注記情報が定量的にも定性的にも大幅に拡充することが予想されるため,注記情報自体の信頼性及び財務諸表本体情報との関連性の評価が監査人の重要な課題となる。

  • 柴 健次
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 84-92
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    本稿は統一論題に対して監査の需給ギャップの発生とその解消という観点から接近する。企業からの開示情報が継続して拡大する傾向が続く中,情報利用者は監査に対する需要を高め続けるが,監査人はこれに対応する監査を十分に供給できないという現象が存在する。これを監査のパラドックスと呼ぶ。IFRS採択が現実化すると,監査対象である財務諸表の背景にある会計及び開示が,細則に基づく会計(開示)から原則に基づく会計(開示)へと重点移行する。これに対して,監査のアプローチである適正性監査と準拠性監査が組み合わさると4つの社会制度が生まれる。加えて細則にも原則にも分類不能な自由開示が拡大すると,監査の受け皿がないので,対象に適合する適切な監査を行うという監査本来のアプローチである「原則主義監査」が必要となる。これとの対比で4つの社会制度の選択を考えることが賢明である。

  • 藤岡 英治
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 93-102
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    わが国監査基準における適正に表示(適正性:fairness)とは,国際監査基準に規定の監査意見の形態のうち,適正表示の枠組みにもとづくものか,それとも準拠の枠組みにもとづくものであるのかは明確ではない。一般的には適正表示の枠組みにもとづき意見表明を行っていると捉えるべきであるが,実務では監査人の責任と絡んで,基準への準拠性のみを考慮した準拠の枠組みと捉えられかねないこともある。そもそも,一般に公正妥当と認められる会計原則

    (以下,GAAP)に準拠すれば適正であるとした見解が示され,後にGAAP準拠のみでは適正性を満たさないGAAP準拠性≠適正性とする見解が出てきた歴史的な経緯がある。そこで本稿では,GAAP準拠性≠適正性に対して,アメリカでは,GAAPの拡大による対応,イギリスでは,

    GAAPの枠組みを超える経営者,監査人の積極的な判断にもとづく対応について検討し,その

    検討にもとづく適正性の位置づけを明らかにする。さらに,わが国の適正性のあり方について若干の示唆を示することにする。

  • 一ノ宮 士郎
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 103-111
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    デジタル分析は,Benfordの法則を応用したデータマイニング手法であり,財務数値のみならず,自然科学分野での実験データの信ぴょう性検証にも使用されている。会計監査分野では,不正検出等のツールとして活用され,海外での研究発表は数多い。知名度は高いにもかかわらず,我が国では先行研究も少なく,比較的なじみが薄い。本稿は,分析的手続きの一環としてのデジタル分析の適用可能性を実験的に検証したものである。数値の上1桁・2桁目を対象とする通例の手順に加え,追加的な分析手順を実施した点も,本稿の特色であろう。デジタル分析には,一定の限界があるものの,手法としての簡易性等を踏まえ,実務での活用を期待したい。

  • 伊藤 公一
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 112-121
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    日本の多くの企業が,CSR報告書を作成し公表している。しかし,それに第三者による信頼性の保証を付して公表することは,まだ一般的ではない。また,報告書の記載内容は,環境情報が中心となる傾向がある。

     現在のところ,まだ日本ではCSR情報の作成とその信頼性の保証の双方に広く一般に適用される規準は存在しない。AA1000シリーズは,CSR情報の作成と保証に特化した基準であり,CSR報告書の信頼性向上のために日本企業による積極的な活用が期待される。また,CSR情報の作成と保証の義務化の必要性に関する議論も今後必要であろう。

  • 上原 優子
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 122-129
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/04
    ジャーナル フリー

    英国のチャリティには監査・検査の2つの外部検査形態が用意されている。監査の目的は財務諸表が「真実かつ公正な概観」を備えていることを保証することであり,簡便法である検査では消極的保証を付すことが求められる。この2つの形態の適用要件は,主としてチャリティの規模によって設定され,要件自体も適切な財務諸表に対する評価が行われるよう,環境の変化等に応じて随時見直されている。

    監査は監査実務審議会が発信する国際監査基準(英国及びアイルランド),実務注釈11改訂版(Practice Note 11 Revised)等に従って実施される。Practice Note 11 Revisedは監査実務の中心的存在となるものであるが,その作成にはチャリティ委員会が助言及び支援をするという形式で関与している。

    わが国の民間非営利法人は,設立根拠法令が異なる数多くの法人形態が存在し,情報開示や外部監査のあり方もそれぞれである。多様な形態がありながら統一的な監査指針を使用し,規模に応じた外部検査形態が適用されるチャリティの監査制度のあり方は,わが国の民間非営利法人の今後の監査制度のあり方を模索する上で,参考となる点が多いと考える。

  • ─監査人のBucket情報による指導・助言機能を視野に入れて
    越智 信仁
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 130-138
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/05
    ジャーナル フリー

    2009年4月に改正されたゴーイング・コンサーン(GC)に関する注記・監査等制度の下で,重要事象等の認識から「重要な不確実性」の評価に至る判断過程には,質的に異なる三つのステップ(①足許のキャッシュ・フロー創出力,②足許のバッファー余力,③先行きの経営改善策の帰趨)を識別可能である。監査人は,経営者のGC開示情報に対する評価軸を形成するに際し,③の領域には見積りの監査の範囲でしか対応できないが,①と②の領域については,経営者の開示・評価情報以外にも,監査過程で監査人の懐に蓄積された独自情報(Bucket情報)をも基礎に置くと考えられる。そこで活用されるBucket情報は,新しい制度の下で経営者への指導・助言機能を通じて,GC注記とともに,GCリスク情報としての開示にも役立てられ得る。監査人は,監査業務の専門性の枠組み・責任限定の中で,開示促進に向けた経営者の意識啓蒙に貢献する余地が広がっている。

  • 島 信夫
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 139-148
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/05
    ジャーナル フリー

    保証業務を旨とする財務諸表監査は, 市民が情報(知識)を利用する「自由」を享受する機会を実現することで, 契約自由の原則を支えている。財務諸表監査を基礎づける道徳的価値観は, 市民の正当な権利を保護する近代公益(正義)概念である。本稿では, 財務諸表監査の意義を近代法思想の観点から解釈し, 近年のわが国における独立性をめぐる動向の意義を検討した。

    精神的独立性が財務諸表監査の基本原則を果たす一方で, 市民および監査人の正当な権利を保護する観点から, 外観的独立性は財務諸表監査に不可欠な概念であることを確認した。特に, 外観的独立性概念は, 権利侵害の発生を抑止し, 紛争解決における司法手続きとの整合性を保持する上で不可欠な概念である。権利侵害の抑止という正義概念の実現を財務諸表監査が担う以上, 外観的独立性はその実現という観点から積極的に再評価されるべきである。

  • 藤森 茂
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 149-158
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/06
    ジャーナル フリー

    近年の総務省(自治省)主導による,地方公共団体の会計と監査は,大きな改革のなかにある。昨年度,奈良県立大学から研究費助成を受け,これらの改革の中心的な課題を明らかにするために,財務書類の作成方法,健全化判断比率等の審査,内部統制,包括外部監査の4つの観点から,全国都道府県,政令指定都市,中核市,特例市を含むその他の都市の計147団体の監査事務局および監査委員事務局を対象に,郵送によるアンケート調査を実施した。結果,合計122団体より回答が寄せられた(回収率83%)。具体的な調査内容は,次の5つの項目に分けて調査票を作成した。1.「地方公共団体の財務書類の作成方法」2.「健全化判断比率等審査」

    3.「内部統制について」4.「包括外部監査」5.「監査調書の作成」。本稿は,回収したアンケート調査票の検討と分析を行ったものである。

  • 藤原 英賢
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 159-168
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/05/06
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,監査法人の規模が監査報酬に対してどのような影響を与えているのかを明らかにすることである。標準監査報酬規定撤廃後,わが国では監査報酬が監査人とクライアント間の交渉で決定されるようになった。わが国では中小規模の監査法人の方が大規模監査法人よりも報酬が低く設定されているとする主張もある。監査法人の規模と監査報酬の決定との関係についての推測は一貫してない。本稿ではわが国の監査報酬の実態を検証した。検証方法として先行諸研究の知見を活かし設定した監査報酬の理論値を示すモデルと実際値との差で表現される期待外報酬を用いた。検証の結果,大規模監査法人の監査を受けている企業の監査報酬から正の期待外報酬を識別できた。追加的な検証からも,わが国では監査法人の規模が監査報酬に影響していることを示す証拠が得られた。今後の課題は期待外報酬を生み出す状況を特定することである。

  • 小松 義明
    2011 年 2011 巻 21 号 p. 169-181
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー
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