行動経済学
Online ISSN : 2185-3568
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12 巻, Special_issue 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
第13回大会プロシーディングス
  • 山口 勝業
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S1-S4
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    「日本人の金融リテラシーは米国人よりも低い」という通説があるが,じつは金融リテラシー調査の質問票の文面や回答者のバイアスによって米国のスコアが日本よりも高めに出ている疑いがある.これらの点を考慮すれば,金融リテラシーの客観的知識では日本人と米国人の違いはほとんどなく,主観的知識では米国人の自信過剰バイアスがスコアを高めていると思われる.

  • Yosuke Hashidate, Keisuke Yoshihara
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S5-S8
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    This paper studies stochastic choice in social contexts, and explores the difference between inequity-averse and image-conscious preferences, in particular, shame aversion. This paper studies a class of additive perturbed utility (APU) introduced in Fudenberg et al. (2015). We find that the general class of inequity-averse preferences correspond to the case of item-invariant APU, and that image-conscious preferences correspond to the case of menu-invariant APU. Under some conditions, the difference between inequity aversion and shame aversion is discussed through the violation of Regularity, one of the most well-known properties of stochastic choice.

  • 髙橋 勇太, 植竹 香織, 津田 広和, 大山 紘平, 佐々木 周作
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S9-S13
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本の地方自治体へのナッジの実装を推進する横浜市行動デザインチーム(YBiT)について,体制構築及び普及戦略の観点から分析することで,地方自治体におけるナッジの展開方法への示唆を得る.まず,体制構築については,先行研究をベースに海外諸都市のナッジ・ユニットとの比較を行った上で,専門性や行政・政治からのサポートなどの必要要素について整理した.地方自治体では,専門的な人材全てを内製化することが困難であるため,外部の専門家との連携が必須であると考えられる.次に,普及戦略については,地方自治体内にナッジを普及させる上での課題とそれへの対策について,独自に検討した普及プロセスモデルに基づき整理した.今後はこれらの実践モデルが理論化され,国内地方自治体でのナッジの実装や,国内のエビデンスが蓄積され,政策効果及び効率が向上されることが期待される.

  • 佐々木 周作, 石原 卓典, 木戸 大道, 北川 透, 依田 高典
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S14-S17
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,日本全国に居住する20–69歳の男女個人8,520名を対象にオンライン実験を行い,その中で2つの寄付先活動(植林活動・被災者支援活動)を設定して,マッチング寄付・社会比較・両者の組合せの介入がそれぞれの活動に対する寄付額選択にどのような影響を及ぼすかを明らかにした.分析から,以下の結果が得られた.まず,平均介入効果は寄付先活動によって大きく異なることが分かった.具体的には,マッチング寄付単体の介入は植林活動では平均的に寄付額を上昇させる正の効果を持つが,被災者支援活動では同様の効果を持たなかった.さらに,機械学習の手法を使用して回答者ごとの介入効果を推定して,介入効果の分布の特徴と寄付先活動による分布の違いを明らかにするとともに,同一個人内で寄付先活動毎の介入効果を比較することにより,寄付先活動の違いによらず同様の介入効果を持つケースと,寄付先活動の違いによって異なる介入効果を持つケースの両方が存在することを明らかにした.

  • 佐々木 周作, 黒川 博文, 大竹 文雄
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S18-S21
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,「寄付金控除」による還付施策と「マッチング寄付」による上乗せ施策が寄付行動に与える影響を,経済実験を使って比較した.インターネット調査会社の回答モニターから,性別と年代(20歳から69歳まで)の割合が均等になるように抽出して,金銭的報酬で動機づける経済実験を行った(N=2,300).分析の結果,たとえ優遇率が同じであっても,寄付するときの自己負担額を還付によって下げる寄付金控除に比べて,第三者の上乗せによって下げるマッチング寄付の方が高額の寄付を誘発する効果が大きいことが分かった.具体的に,50%の寄付金控除の群に割り当てられると,実際の寄付支出額が統制群に比べて約126円下落したのに対して,100%のマッチング寄付の群(優遇率は50%控除と実質的に同じ)に割り当てられると,逆に実際の寄付支出額が約56円上昇した.この結果は,海外の一連の先行研究で観察された結果と一致している.日本でも,マッチング寄付が寄付行動を促進する効果が相対的に大きい可能性が示唆された.

  • 岩崎 雄也
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S22-S24
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本論文は「最低賃金を引き上げることで企業の生産性が向上する」という見解について,日本を対象に実証分析を行った結果を報告するものである.なお,対象業種は小売業および宿泊・飲食サービス業,対象期間は2003年から2017年とし,分析にあたっては企業別のパネルデータを使用した.

    結果として,日本では最低賃金の引き上げによって企業の労働生産性が向上する一方で,雇用は減少し,さらに付加価値額や労働時間には有意な影響はないことがわかった.これはすなわち,最低賃金を引き上げることで企業の労働生産性は向上するものの,それは雇用に対する負の影響によってもたらされた結果である可能性を示唆している.

  • Masahito Yoshida
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S25-S28
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    Bénabou and Tirole (2004) explain that people in the face of self-control problems could commit to rational choices with concern for self-reputation. The key of the mechanism is uncertainty of one's willpower and induced signaling effect of willpower-related actions. We suggest that this mechanism with self-reputation potentially explains a wide range of the decision making under biases. One of the example is procrastination. In a certain situation, procrastination works as a signal of low self-control power and induces precaution of doing the job early in the next time. Conversely, this strategic pretending to be low willpower might be used as an excuse for procrastination and then concern for self-reputation may induce ambivalent effects on one's welfare, contrasted with the result in Bénabou and Tirole (2004). We suggest that patience amid the craving determines the effect on one's welfare and welfare may worsen for strategic but impatient people.

  • 竹内 あい, 福田 恵美子, 曽雌 崇弘, 永岑 光恵
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S29-S31
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    独裁者ゲームにおいて他者に対して正の割合を配分する利他的行動を人が選択する割合や程度は,配分総額の決定過程に依存することが知られている.本研究では配分総額の決定過程として,独裁者と受領者がコミュニケーションを取りながら共同で行う作業を通じて報酬を獲得する場合と,それぞれが個別に行う作業を通じて獲得する場合を比較した.また作業における自分と相手の貢献度をアンケートで測定することで,主観的な貢献度評価が配分額に与える影響を分析した.実験の主要な結果は以下の二点である.(1)共同作業は個別に作業を行った場合よりも均等配分率を増加させるが,この影響は弱く,様々な要因を統制すると統計的な有意性は観察されなかった.(2)独裁者の受領者に対する貢献度評価が自分に対する評価と比べて高まるほど,均等配分率が増加する傾向が観察された.

  • 水野 篤, 平井 啓, 佐々木 周作, 大竹 文雄
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S32-S40
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    日本における乳がん検診受診率は欧米諸国の受診率(60–80%)と比較し低い水準にあり,受診率向上に向けた取り組みが重要と考えられる.本研究では,行動経済学的観点から利得フレーム・損失フレームに基づく受診推奨メッセージが与える影響に関して検討する.乳がん検診の主対象である40・50歳代の女性のうち,自治体検診・主婦検診の乳がん検診の対象者と想定できる者1,047名に対し,インターネット上で検診受診意図に利得フレームと損失フレームが与える影響をランダム化比較試験にて評価した.利得フレームと損失フレームでの実行意図,受診意図を認めた対象者は,それぞれ234 (45.0%) vs 250 (47.4%), 450 (86.5%) vs 477 (90.5%) であり,実行意図は有意ではなかったが,受診意図に対しては有意に損失フレームが影響を与えた.

    乳がんの検診受診においては危険回避度のみではなく,同定確率および治癒率を含めたモデルでより説明が可能であることを実験的環境で示し,本データでも再現性を確認した.

  • 山田 歩
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S41-S44
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    ナッジはしばしば理性ではなく直感に働きかけ意思決定を操作する.本研究は,意思決定者がナッジによる操作をどれほど自覚しているのか,また,ナッジを開示することがナッジによる操作からの離脱を可能にするのか,の2点について検討した.実験1は,デフォルトの影響力を意思決定者の多くが自覚しないことを示した.実験2は,デフォルトを開示しても,意思決定者の多くはデフォルトから受ける影響力を認めないこと,また,意思決定を修正しないことを示した.これらの知見がリバタリアン・パターナリズムにおいて持つ意味について考察した.

  • Manami Tsuruta
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S45-S48
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    In this study of economic decision-making, we conducted a laboratory experiment to investigate the relationship between dishonest behaviors and their reaction times. Dishonest behavior is defined here as the decision to lie to increase own monetary payoff. We divided participants into three groups to examine the heterogeneity of the extent of lying: Group 1= the Honest group, comprising people who always made honest decisions; Group 2= the Big Liars’ group, comprising people who always made dishonest decisions; and Group 3= the Liars’ group, comprising people who sometimes made honest decisions and sometimes made dishonest decisions. The reaction times for all decisions, including honest decisions, were significantly longer in the Liars’ group than in the Honest group, but there was no statistically significant difference between the mean reaction times of the Big liars’ group and Liars’ group. Panel data analysis of each group revealed two results. First, the Honest group made honest decisions even when a dishonest decision would result in a large payoff, but their reaction times for such decisions were long. Second, in the Liars’ group, there was a non-linear relationship between dishonest behaviors and reaction times; that is, the reaction times for honest decisions and those for dishonest decisions receiving maximal payoff were lower than those for dishonest decisions receiving medium payoff.

  • 水門 善之, 内山 朋規
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S49-S52
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,金融市場で取引されるインフレーションスワップ(以下,インフレスワップ)のレートに注目することで,市場参加者の“インフレ期待(インフレ予想,Inflation Expectations)”の計測を行った.日本では,2019年10月に消費税率の8%から10%への引き上げが予定されていることから,現在(2019年7月),金融市場で織り込まれているインフレ期待には,消費増税の影響が反映されている.この点を踏まえ,本研究では,増税の織り込みの影響を除去することで,インフレ期待部分の抽出を行った.加えて,インフレ期待の形成過程を考察するため,市場のインフレ期待と連動性の高いQUICK短観のインフレ期待(見通し)の,調査データを用いて期待の頻度分布の検証を行った.結果,平均値として定義される人々の期待インフレ率の変化を主導していたのは,インフレ期待の分布において,相対的に高いインフレ期待を抱いていた層であることが確認された.

  • 末廣 徹, 武田 浩一, 神津 多可思, 竹村 敏彦
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S53-S56
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,広義の心理会計のバイアスである2つの心理会計バイアスと個人の金融資産残高の関係を分析した.具体的には,2つの異なる心理会計のバイアスである消費の心理会計とセルフコミットメントの特徴をまとめ,インターネットアンケート調査の結果に構造方程式モデリング(SEM)を用いることでこれらのバイアスと個人の金融資産残高の関係を分析した.消費の心理会計とセルフコミットメントはいずれも広義の心理会計のバイアスであるものの,既存の研究では消費の心理会計によって個人は最適な消費を行うことができずに金融資産の形成にマイナスの影響がある可能性がある一方,資産形成時の心理会計バイアスであるセルフコミットメントは消費を軽減・抑制する効果があるために金融資産の形成にプラスの影響があるという,相反する効果がそれぞれ独立に示されてきた.本稿ではSEMを用いてこれら2つのバイアスと金融資産残高の関係を同時に推計し,両者の大小関係を比較した.両者が金融資産残高に与える影響の大きさを比較すると,消費の心理会計によるマイナスの相関よりもセルフコミットメントによるプラスの相関の方が若干大きいものの,両者の絶対値に大きな差はないことが分かった.

  • 顔 菊馨, 小幡 績, 太宰 北斗
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S57-S60
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    本稿では「株式分割バブル」を対象に,バブルがなぜ膨らむのか,その構造を明らかにしようと試みた.分析の結果,新株供給に制限が課せられる当時の制度上の歪みが切っ掛けとなって投資家が値上がり期待を膨らませ,市場の機運が高いときほど投資家が“宝くじ”を追うようにバブルに参加することが示唆された.本稿は,バブルの特定自体が困難だという実証研究上の課題に自然実験的イベントを用いて対処しており,より直接,バブルを検証したものと期待される.

  • Tomohito Aoyama
    2019 年 12 巻 Special_issue 号 p. S61-S64
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/17
    ジャーナル フリー

    Consider a decision-maker who has an opportunity to wait for information before making a choice. He can obtain more information by waiting more, but this is costly. As a result, he endogenously determines the length of time to choose an alternative, which is called response time. The Aoyama (2019) models such a decision-maker as if he solves an optimal stopping problem. The present paper summarizes the main result in that paper. The model incorporates dynamic information structure formalized as evolving information partition, which we call subjective filtration. We axiomatically characterize the model using the behavioral data consisting of choice and response time conditional on choice situations. From the data, we partially identify subjective filtration as well as other parameters, by which we explain the data. This result implies that using response time somewhat helps us understand the human cognitive process.

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