行動経済学
Online ISSN : 2185-3568
ISSN-L : 2185-3568
3 巻
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論文
  • 松村 尚彦
    2010 年 3 巻 p. 1-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    本論文では,日本の株式市場を対象として決算発表後の株価ドリフト(Post Earnings Announcement Drift, 以後PEADと表す)と呼ばれるアノマリーを検出するともに,決算情報に対する投資家およびアナリストの期待形成が合理的であるかという点について分析を行った.その結果,日本市場においてもPEADが存在すること,それはCAPMやFama and Frenchの3ファクター・モデルでは説明できないアノマリーであること,さらにMishkin検定による実証分析によって,投資家は直近の決算情報を過小評価していることと,そしてこの過小評価を時間と共に少しずつ修正していることなどが明らかとなった.こうした検証結果は,投資家とアナリストは将来の企業業績に関する期待形成のプロセスにおいて,アンカリングと調整という行動バイアスの影響を受けており,それがPEADと関連しているという仮説と整合的なものである.
  • 窪田 康平
    2010 年 3 巻 p. 18-38
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,恒常所得のショックに対する消費行動の変化のパターンを尋ねた仮想的質問を用いて,家計の消費行動がどのような理論仮説と整合的かを調べることである.ライフサイクル・恒常所得仮説(LCPIH)によれば,人々は恒常所得の変化というショックに直面するとその時点で消費を変化させる.しかし,LCPIHと整合的な選択をした家計の割合は日本で1.6%,アメリカで3.9%にすぎない.家計が選択した消費のパターンには,家計間で多様性が見られる.多数派の家計は,日米ともに恒常的な所得が増加してもすぐに消費を変化させないと回答している.この消費経路の選択は,資産選好モデルと整合的である.また,恒常所得の変化に対して消費を徐々に変化させるという合理的習慣形成理論とも整合的な家計が多い.さらに,実際に借入制約に直面している家計において,借入制約の理論の予測と仮想的質問の選択結果が整合的であることが明らかとなった.
  • —停電へのWTPとWTAの分析から—
    宮田 史子
    2010 年 3 巻 p. 39-49
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/08
    ジャーナル フリー
    我が国では,2000年より電気事業に小売自由化が導入された.それに伴い,電力価格は大幅に低下した.その結果,これ以上価格を低下させるには,ある程度の品質低下は止むを得ない状況になっている.そこで,本論では,今後の制度設計の方向性を検討するために,電力の品質と価格に対する家庭部門の選好を,停電が解消する場合の支払意思額 (WTP;Willingness to Pay) と,価格低下の代わりに停電の増加を受け入れる受入補償額 (WTA;Willingness to Accept) を用い,プロスペクト理論 (Prospect Theory) に基づいて分析した.
    分析結果にて,我が国の家庭部門には,近年の価格水準であれば,価格低下より品質維持を優先する選好があることを確認した.それは,家庭の意思決定が,停電がほとんど発生しない状況を参照点 (Reference Point) とし,現状の高い供給品質に対する賦存効果 (Endowment Effect) あるいは現状維持バイアス (Status Quo Bias) が存在する中でなされているため,と解釈された.以上から,今後の電気事業制度改革については,我が国の高品質供給の維持を前提として検討することが望ましいと考える.
  • 北村 智紀, 中嶋 邦夫
    2010 年 3 巻 p. 50-69
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/08
    ジャーナル フリー
    本稿は,わが国の典型的な30∼40歳代の男性会社員が労働収入を得ている家計を対象に,老後の生活に備えるための長期的な株式投資(資産保有·配分)の決定要因を独自のデータを利用して実証的に分析した.株式保有の有無に関しては,株式投資に対する期待リターン,年収,金融資産額が関連していたが,これ以外にも,金融や経済に関する基礎的な知識の多寡や主観的な株式投資コストの影響が大きかった.株式保有者の株式配分に関しては,株式期待リターン,主観的な株式投資コスト,基礎知識の多寡が重要な影響を与えていた.株式非保有者が今後に株式投資を行うかについては,株式期待リターンとの関連性が大きかった.特に,株式期待リターンは株式保有の有無,株式保有者の株式配分,株式非保有者の今後の株式保有の何れの意思決定にも大きな影響があったが,株式保有·株式配分については,金融や経済に関する基礎知識及び主観的な株式投資コストといった行動経済学的な要因が,過去の実証研究で重要な決定要因とされた年収や金融資産と同様に大きな影響力があることが確認された.
書評
第3回大会プロシーディングス
  • パネルディスカッション「年金問題と行動経済学」
    小塩 隆士, 臼杵 政治, 鈴木 亘, 野尻 哲史
    2010 年 3 巻 p. 79-95
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/08
    ジャーナル フリー
  • 星野 崇宏
    2010 年 3 巻 p. 96-98
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    マーケティングにおいてこれまで研究されてきたヒューリスティックとしての非補償型意思決定についてレビューする.また,どのようなタイプの消費者がどのような状況でどのようなタイプの非補償型意思決定を行うかを調べるために,複数のコンジョイント測定のデータに対して潜在クラスのあるコンジョイント分析モデルを適用した結果を報告する.
  • — fMRIによる脳機能画像計測実験を用いて—
    竹村 和久, 井出野 尚, 大久保 重孝, 小高 文聰, 高橋 英彦
    2010 年 3 巻 p. 99-102
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,商品呈示時の背景情報と商品との関連が,商品評価と選好判断過程へどのような影響を与えるのかを,脳機能画像を計測する手法を用いて実験的に検討を行った.実験の結果から,商品の背景と商品との関連が一致している場合には,商品評価が高く,報酬系の活動に反映されることが示唆され,この実験結果の実務的なインプリケーションも考察された.
  • —新車売上予測のフィールド実験
    水野 誠
    2010 年 3 巻 p. 103-105
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    消費者がどれだけ正確に未来を予測できるか,そこにどのような個人差があるかは,いくつかのマーケティング現象を理解するうえでより重要になりつつある.本研究では,市場にこれから導入される新製品が(相対的に)どれだけ売れるかを,どれだけ消費者が正確に予測できるかを調べる実験を行い,消費者の「予測能力」を測定する.その結果,比較的コンスタントに予測に成功する消費者が一部に存在し,マーケティング戦略上有意味な特徴を持つことを示す.
  • —オプション価格評価額に基づく実証分析—
    花崎 正晴, 松下 佳菜子
    2010 年 3 巻 p. 106-108
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    近年日本においては,企業経営者や従業員等に対してストック·オプションを導入する企業が増えている.本稿では,ストック·オプションに関して,企業レベル·データを用いた各種の実証分析を実施する.とりわけ,個別企業のオプション価格評価額を,ブラック·ショールズ·モデルおよび二項モデルを用いて算定し,オプション価格評価額自体が企業の収益性にどのような影響を及ぼしているのかを分析している点が,本稿のオリジナリティのある部分である.実証分析の結果,海外法人の株式所有割合が高い企業およびレバレッジが低い企業がストック·オプションを導入する傾向が強いこと,ストック·オプションの導入によって企業の収益性が向上する効果は限定的であること,ストック·オプション導入と経営者による自社株保有とを比較すると,経営者による自社株所有はストック·オプションに比較して,企業の収益性向上に総じて有効であること,などの結果がそれぞれ得られている.
  • 大薗 陽子
    2010 年 3 巻 p. 109-113
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,管理職の能力に関する自己評価(12項目)の男女差が存在するかについて検証を行った.管理職の能力に関する自己評価を個別に検討した結果,「業務遂行能力,実行力」,「責任感,目的達成意識」の2項目に関しては,女性管理職の方が男性管理職よりも有意に自己評価が高かった.また,「幅広い知識·教養」,「判断力」の2項目に関しては,男性管理職の方が女性管理職よりも有意に自己評価が高かった.
  • —投資家の株価トレンド追随行為からの解明
    三輪 宏太郎, 植田 一博
    2010 年 3 巻 p. 114-118
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    個別銘柄レベルにおいて,出来高の上昇は株式リターンの持続を予測すると言われている.この出来高と株価変動の持続性(株価モメンタム)の関係は,株価の新規情報の折り込みの遅れが要因とされてきた.本研究では,この関係が投資家の株価トレンド追随行為によっても引き起こされる可能性が高いことを実データ検証,モデルシミュレーションの両面から示す.
  • 窪田 康平
    2010 年 3 巻 p. 119-123
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,恒常所得のショックに対する消費行動の変化のパターンを尋ねた仮想的質問を用いて,家計の消費行動がどのような理論仮説と整合的かを調べることである.ライフサイクル·恒常所得仮説によれば,人々は恒常所得の変化というショックに直面するとその時点で消費を変化させるが,LCPIHと整合的な選択をした家計の割合は日本1.6%,アメリカ3.9%にすぎないことが明らかとなった.家計が選択した消費のパターンには,家計間で多様性が見られる.
  • 中川 雅央
    2010 年 3 巻 p. 124-127
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    本稿は将来の消費を想像しそれを楽しみとして現在の効用に組み込むような消費者を想定し,このような将来を楽しみにする行動が消費者の時間割引因子に与える影響を分析した.将来を楽しみにする行動は消費者の時間割引因子を高める.しかし,割引因子の上昇度合いは一般的には時間間隔に依存し,双曲割引に代表される現在バイアスや,その逆の将来バイアスを生み出す.このような消費者は将来の消費を重視するため,よりフラットな消費計画を選好することになる.特に,将来バイアスの消費者は右上がりの消費計画を選択する可能性があるということが分かった.本稿では最適消費計画から導出される時間割引因子と実際に消費者がもつ時間割引因子が異なった性質を示すことも明らかにした.
  • 佐々木 俊一郎
    2010 年 3 巻 p. 128-132
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本,米国,中国で実施したインターネット実験を通して,観察的学習が被験者の社会規範意識へ与える影響について分析する.実験結果によれば,他人の行動についての観察的学習を行う場合には,被験者の行動は同調的に変化するだけでなく,非同調的にも変化することが観察された.また,他人への同調行動·非同調行動は,それぞれ異なる要因によって引き起こされることが確認された.
  • Taiki Takahashi, Tarik Hadzibeganovic, Sergio A. Cannas, Takaki Makino ...
    2010 年 3 巻 p. 133-135
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    We first introduce several paradoxical findings in intertemporal choice (i.e., impulsivity and preference reversal over time) and recent findings in the relationship between time-perception and intertemporal choice. Next, we address how a relatively novel temporal discounting function (i.e., the q-exponential function) can parameterize the degree of the impulsivity and deviation from exponential discounting. Based on these considerations and concepts in cultural psychology, it is predicted that Westerners and Easterners may be different in the degrees of impulsivity and decreasing impatience. Future study directions including neurogenetic analysis of the differences in temporal discounting behavior are discussed.
  • Yoshiro Tsutsui, Uri Benzion, Shosh Shahrabani, Gregory Yom Din
    2010 年 3 巻 p. 136-137
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    The aims of this study were to identify predictors regarding people’s willingness to be vaccinated against influenza and to determine how to improve the inoculation rate using our original large-scale survey in the USA in 2005. The main results are (a) a model of bounded rationality explains vaccination behavior fairly well, i.e., people evaluate the costs and benefits of vaccination by applying risk aversion and time preference, while the ‘status quo bias’ of those who received vaccinations in the past affect their decision to be vaccinated in the future, (b) it is recommended to increase people’s knowledge regarding flu vaccination, but not regarding influenza illness, (c) reducing the vaccination fee may be ineffective in raising the rate of vaccination.
  • —花粉症対策事業を題材として—
    川西 諭, 青木 研, 中川 雅之, 浅田 義久, 山崎 福寿
    2010 年 3 巻 p. 138-140
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    花粉症対策事業を題材としてインターネットを利用した大規模経済実験を行い,地方公共財供給方法として募金と税金の2つのメカニズムの比較を行った.結果,税金メカニズムは募金メカニズムの3倍近い回答額となること,被験者の花粉症有病状況などの被験者属性が回答に大きな影響を与えることなどが明らかとなった.
  • 江夏 幾多郎
    2010 年 3 巻 p. 141-145
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    本報告では,処遇に対する公正感の構造を理論的·経験的に解明する.実体が不透明な処遇をも公正と見なす人々の事例からは,公正感が処遇実態の妥当性への非論理的な確信であることが明らかになる.公正感の背景を解明する際には,人々の状況理解の方法や,処遇もその一部である人々の職業生活全般が想定されるべきである.
  • —カレンダー·マーキング法—
    佐伯 政男, 前野 隆司
    2010 年 3 巻 p. 146-152
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/04/26
    ジャーナル フリー
    幸福度を継続的に自己管理するための手法として,カレンダー·マーキング法を開発した.カレンダー·マーキング法は,一日の終わりにその一日を振り返り,主観的な評定を行う手法である.すなわち,評定の結果,その日がよい日であったら「◯」,悪い日であったら「×」,どちらでもない日であったら「△」をカレンダーの日付欄に記録する.心理学部の学部生を対象に,10週間,手法の実施を行った.実施後に測定したThe Satisfaction with life Scale (SWLS)では,手法の実施群と対照群のSWLSに統計的に有意差は見られなかった.SWLSと各被験者の各記号の総数との相関係数は,◯,△,×,それぞれ,0.506,-0.439,-0.237であった.分析の結果,よい日にも悪い日にも△を付ける傾向が見られた.◯を増やし△と×を減らすことによって幸福度を向上させうることが示唆された.また,被験者間,被験者内で各記号の報告には変動性が見られたことから,本手法で得られた結果は,主観的幸福度の測定手法として利用されうることを示した.
  • Charles Yuji Horioka, Akiko Kamesaka, Kohei Kubota, Masao Ogaki, Fumio ...
    2010 年 3 巻 p. 153-155
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/17
    ジャーナル フリー
    This paper presents empirical evidence concerning the tough love model of intergenerational altruism from U.S. and Japanese survey data. Our main finding is that parents' tendencies for tough love behavior depend on different measures of discount factors. We also investigate the hypotheses that parents' tendencies for tough love behavior is affected by their religious affiliations, religiosity, and their worldviews.
  • 山根 承子
    2010 年 3 巻 p. 156-159
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/17
    ジャーナル フリー
    本稿ではリファレンスグループの内生的設定を行う相対所得モデルを作成し,その妥当性を実験室実験によって確認した.本モデルは心理学の知見を利用しており,(1)リファレンスグループはパフォーマンスに影響する,(2)その影響の方向には個人差があると考えていることが特徴である.実験の結果,本モデルの妥当性は支持され,新しい相対所得モデルとしての可能性が見出された.
  • 昭和と平成における日本のヒット曲=流行歌の音程·音域·イクタスと経済状況の関係の分析
    保原 伸弘
    2010 年 3 巻 p. 160-161
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/17
    ジャーナル フリー
    ヒット曲(流行歌)は周囲の経済状況との関連が強い商品(財)と考えられる.去年のヒット曲の調性やテンポと経済状況に関する分析に引き続き,日本の昭和期および平成期に流行ったヒット曲(流行歌)がもつ音域や音程に注目し,それらと経済状況との間の相関について考察する.
第4回大会プロシーディングス
  • パネルディスカッション「累積する国債問題と行動経済学」
    福田 慎一, 櫻川 昌哉, 高田 創, 大垣 昌夫
    2010 年 3 巻 p. 162-177
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
  • 阿部 周造, 守口 剛, 恩蔵 直人, 竹村 和久
    2010 年 3 巻 p. 178-182
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    解釈レベル理論によると,心理的距離の一つである時間について,遠い将来の購買に関しては製品が機能的に優れているような本質的特性が重視され,近い将来の場合には製品の使い易さのような副次的特性が重視されることになる.先行研究では被験者の評価データを中心として経験的研究が報告されているが,本研究では消費者行動という視点から選択を課題とした場合でも同様な結果が得られるかを探る.また,選択肢の比較にあたって,どちらを比較主体とするかによる比較方向性の効果を合わせてテストした.標準的機能の電子辞書と,印刷機能を追加した電子辞書との比較という状況設定で,被験者の認める価格差と,選択データ(ネット調査,n=787)を分析の結果,解釈レベル理論については不支持的結果が,そして比較の方向性効果については部分的な支持的結果が得られた.
  • 亀坂 安紀子, 吉田 恵子, 大竹 文雄
    2010 年 3 巻 p. 183-186
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,結婚や出産といったライフステージの変化が人々の幸福度や充実度に及ぼす影響について,日本と米国のデータを使用したパネルデータ分析によって明らかにすることである.分析の結果,日本と米国のデータで共通して,配偶者の存在は個人の幸福度や充実度に非常に大きな影響を与えており,かつそのような傾向は男女の別にかかわらず観測されることが示される.また,日本と米国のデータで共通して,健康状態も人々の幸福度や充実度に大きな影響を与えており,求職中の人や喫煙者は,幸福度や充実度が低いことも示される.
    しかし,子供の存在に関する推定では,日本の結果と米国の結果に大きな違いが生じている.日本人の場合,子供がいないと幸福度や充実度が低いという結果が得られたが,米国の結果からは,必ずしもそのような事実は観測されない.労働参加に関しても,日米で若干異なる結果が得られている.
  • 木成 勇介, 大竹 文雄, 奥平 寛子, 水谷 徳子
    2010 年 3 巻 p. 187-189
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    個人の生産性に基づいて報酬が支払われる歩合制に対して,他人の生産性と比較して報酬が支払われるトーナメント制の方が,生産性が上昇することが知られている.本稿は歩合制とトーナメント制のもとで,制限時間内にできるだけ多くの迷路を解く実験を実施し,どのような要因がこの生産性の上昇をもたらしているかを明らかにする.分析の結果,直前の実験における被験者の予想順位が下位であればあるほど生産性が上昇することがわかった.さらに,予想に含まれる個人の能力に基づかない部分を自信過剰とし,自信過剰が生産性に与える影響を調べたところ,自信過剰なほど生産性が上昇することがわかった.
  • 久米 功一
    2010 年 3 巻 p. 190-193
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿では個人の選好の異質性が労働供給に与える影響を実証分析した.労働供給関数の推計から相対的危険回避度を計算したところ,先行研究と部分的に整合的であった.また,個人の選好がサービス残業時間に与える影響を分析した結果,有給労働時間が長く,労働強度が強く,男性では,先送りする態度,喫煙,賃金が成果主義的でない,女性では,危険回避度が大きい,優先座席に座らないという選好がサービス残業時間を長くしていた.サービス残業の管理においては、仕事量の調整に加えて、個人の選好も考慮する必要がある.
  • 松葉 敬文, 佐藤 淳, 蔵 研也, 青木 貴子, 村上 弘
    2010 年 3 巻 p. 194-198
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    女子短大の学生を被験者に3週間にわたり,テストステロンの濃度と,リスク選好指標,時間選好などを計測した.リスク選好指標は,選択課題(choice task)と適合課題(matching task)の2種類を用いた.また被験者のT濃度を,グルコース投与によって一時的に低下させて,コントロール群との違いを見た.結果,Tの絶対濃度とリスク選好には選択課題,適合課題ともにはっきりとした関係がなかった.また,30分間隔でのT濃度の変化と,リスク選好の指標である 選択課題の間には有意な正相関があるが,選択課題とでは有意性は示されなかった.T濃度の変化は,確率過程の不明な不確実性(uncertainty)状況では影響を与えるが,確率過程が既知のリスク(risk)状況下では弱い,あるいは与えないことが示唆された.またTは時間選好には影響を与えない.
  • 大薗 陽子
    2010 年 3 巻 p. 199-203
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,仕事満足度について,管理職の男女間の差異,女性管理職と非女性管理職の差異に着目して,実証分析を行った.分析には,労働政策研究·研修機構が2004年12月に実施した調査である「人口減少社会における人事戦略と職業意識に関する調査,2004」の個票データを使用した.分析では,仕事満足度に与える様々な要因について,管理職全体推計,女性全体推計を行った.重回帰分析の結果,管理職全体推計では,「仕事全体」満足度と4つの満足度(「賃金」,「労働時間」,「福利厚生」,「能力開発」)に関して,女性管理職の方が男性管理職よりも満足度が有意に高かった.さらに,女性全体推計では,女性管理職の方が非女性管理職よりも「仕事全体」満足度,「賃金」満足度が高いことが見出された.
  • 呂 潔, 中嶋 幹, 宮井 博
    2010 年 3 巻 p. 204-212
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿は,Bollen (2007)の分析方法に依拠して,近年,わが国の投資信託市場で人気を集めている分配型ファンドの購入売却に関する投資行動について,アディクションのみならず,時間選好の観点から,検証を行うものである.
    分析の結果,一般型ファンドの投資行動が,短期的なファンド·パフォーマンスの影響を受けるのに対して,分配型ファンドは,長期的なファンド·パフォーマンスの影響を受けることが示された.この結果は,分配の頻度が高い場合には,伝統的なフレームワークでは考慮されないような,分配金の効用が存在することを示していると考えられる.さらに,設定日や資産規模の違いを調整したマッチング·サンプルの分析や,分配の程度に注目した分析を行ったところ,整合的な分析結果を得ることが確認された.これらの結果は,分配型ファンドの需要は,時間選好率が一定でないような投資家の効用関数によって説明されることを示唆していると考えられる.
  • —ライフサイクルモデル,利他主義モデル,拡張された利己説—
    矢口 裕一
    2010 年 3 巻 p. 213
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    伝統的な経済学の原理は1930年代以来,経済学における社会的,文化的価値観の役割を無視していた.ロビンズが最初に明示的に論じたように,経済学は価値判断に関わるべきではないのだ(Robbins (1935)).しかし,価値観は消費と貯蓄に関する態度や行動に影響を与え,貯蓄行動は経済に影響を与える.その無視の結果,経済学者は経済的現実について本質的な説明を与えることができないことがある.本論文の目的は,そのような場合,伝統的な経済学の慣行に文化的価値観の議論を組み込んだ慣行が,現実を説明するためには必要になると論証することである.とくに,本論文は,日本経済における過剰貯蓄の問題を,伝統的な利己的ライフサイクルモデルの拡張版であり,経済的には合理的でない文化的要因を持つ仮説を用いて経済学的観点と哲学的観点の両面から説明する.このあたらしい仮説によれば,過剰貯蓄は家族を中心とした日本特有の文化的,法的制度によって経済に対する制約がある場合に成り立つ別種の合理的な行動である.
  • —なぜ規制緩和は賛成されないのか?—
    澤野 孝一朗
    2010 年 3 巻 p. 214-217
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    この論文の目的は,一般用医薬品の販売規制の緩和について,その賛成率がどのような要因から形成されているのかを明らかにすることである.ここで賛成率とは,アンケート調査において,規制緩和に「賛成」を選択した回答者が全サンプルに占める割合である.一般用医薬品の販売規制をめぐる賛成率は,合理的な要因と行動経済学的な要因の合計から影響を受けて形成されている.
  • 大塚 一路, 西成 活裕
    2010 年 3 巻 p. 218-221
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本研究はファイナンス理論の枠組みを用いて「人混みに値段をつける」ことを目標としている.そこで我々は混雑における人の満足度が顧客一人あたりに与えられるパーソナルスペースと同等であると仮定してサービス価値の変化を正味現在価値(NPV)法と呼ばれる資産価値評価理論によって評価した.また,新たな試みとしてサービスの価値(顧客の効用)が待ち時間の増加に伴って割引かれるという概念を導入し,空港の入国管理場で測定したデータに対する実証分析も行った.実証分析の結果から,今回導入した指標は待ち時間の増加やスペースの減少と連動して効用が小さくなる指標であることが確認された.
  • 竹内 幹
    2010 年 3 巻 p. 222-225
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,年金をめぐる個人の認知バイアスを行動経済学の観点から整理する.年金の制度設計は,個人(家計)の長期的な資産形成·消費計画と密接にかかわっている.したがって,今後の年金改革にあたっては,個人の老後の資金計画についての意思決定が含むバイアスを把握することが欠かせない.ここでは特に「終身年金パズル」にまつわるBrown et al. (2008) のアンケート調査に注目した.行動経済学·実験経済学における関連研究にもとづいたそのアンケート実験からは,損失回避や心理会計といったバイアスが終身年金パズルの原因となりうることがわかった.本稿でも同様のアンケートを日本人対象に行い,認知バイアスの存在を確認した.
  • Hiroshi Izawa, Grzegorz Mardyla
    2010 年 3 巻 p. 226-229
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    We investigate experimentally individual random walk perception biases and the existence of decision clustering in a simple interactive prediction task. Our design is quite general and presents a series of sequential choice problems in which the subjects are asked to forecast the subsequent outcome of a discrete binary random process. The data is generated in such a way that observation of other participants' cumulated choices makes it possible to obtain a more precise estimate of the probability distribution governing the outcomes. We are mostly interested in the timing of subjects' decisions, the decision being a binary choice of a single purchase or sale of a security within a finite time sequence based on acquired information. Our data points to some compelling insights into rationality of Bayesian updating. Majority of our subjects display a type of irrational impatience: in tasks where they should optimally learn as much information as possible and wait until the last period to decide, they make their decisions too quickly, incurring excessive decision costs. This happens even when subjects can observe others' choices at no (explicit) cost whatsoever. This finding contrasts with a setting where explicit delay costs are incorporated.
  • 石部 真人, 角田 康夫, 坂巻 敏史
    2010 年 3 巻 p. 230-234
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    ボラティリティの高い銘柄は相対的に低リターンであるというボラティリティ効果の原因を探るために,下方リスクの性質を調べた.下方リスク測定の基準として,平均,ゼロ,相対の3つを調べた結果,この中でプロスペクト理論の損失回避概念と最も整合的なゼロが基準として適していることが分かった.上方リスクの性質も調べた結果,将来リターンとの関係は下方リスクではトレードオフ,上方リスクでは逆トレードオフとなることが確かめられた.結局,リターンリバーサル効果は下方および上方リスクの複合効果として説明可能である.また,これら3つのリスク相互の影響関係を調べると,下方リスクと上方リスクはそれぞれ固有の効果を持つが,ボラティリティはこの2つのリスクの反映に過ぎないという可能性が高まった.
  • 窪田 康平, ホリオカ チャールズ ユウジ, 亀坂 安紀子, 大垣 昌夫, 大竹 文雄
    2010 年 3 巻 p. 235-238
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    この予稿は,アメリカと日本の文化差が親の子に対する態度へ与える影響について,サーベイ·データを使用した分析結果を紹介するものである.これらのデータは大阪大学によって収集されたものであり,世界観や宗教,親の行動に関する仮想質問,社会経済的変数に関する質問を含んでいる.データによれば,アメリカの親は,日本の親に比べて幼い子供たちに対して厳しい態度を取る傾向がある.我々の実証結果によれば,世界観に関するいくつかの質問に対して確信を持って回答している人々ほど自分の子供たちに対して厳しい態度を取る傾向がある.また,親が持っている世界観の信条の内容が,子供に対する態度に影響する.アメリカ人の親は,日本人の親よりも,世界観に関する質問に対してより確信をもって回答しているという文化差があり,この文化差は日米の親の態度の差を説明するのに役立つ.
  • Kohei Daido, Takeshi Murooka
    2010 年 3 巻 p. 239-241
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    This paper studies a multi-agent moral hazard model in which the agents have expectation-based reference-dependent preferences developed by Köszegi and Rabin (2006, 2007). The agents' utilities depend not only on the realized outcomes but also on the comparisons of them with the reference outcomes. Due to loss aversion, the agents dislike wage uncertainty, and reducing it by partially compensating their failure may be beneficial for a principal. We show that when the agents are loss-averse, the optimal contract is based on team incentives (joint performance evaluation or relative performance evaluation) in which the agents partly share their wage uncertainty. Our results provide a new insight that team incentives serve as a loss-sharing device among agents.
  • —仕事に対する「理想」と「現実」を用いて—
    田村 輝之
    2010 年 3 巻 p. 242-245
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,職務満足度に関する従来の先行研究のモデルを踏まえた上で,労働者の仕事に対する「理想」と「現実」のギャップをとらえる新たな変数をモデルに追加し,OECD諸国における職務満足度の決定要因の計量分析を行った.データは,「ISSP1997」を使用し,男女別々にそれぞれ推計を行った.
    主要な結果は,以下の通りである.労働者の仕事に対する「理想」と「現実」をとらえる新たな変数を考慮すると,「年収」は,男性·女性ともに決定要因としての影響が小さくなる.特に,女性の場合は,統計学的に有意な影響を与えなくなる.また,男性と女性では,職務満足度の決定要因に大きな違いがあることが確認できた.このことは,男性と女性では,理想とする「仕事像」が異なることを示唆している.
  • 三輪 宏太郎, 植田 一博
    2010 年 3 巻 p. 246-249
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    アナリストの個別銘柄の長期利益成長率予想は,過去の成長率に引きずられ,投資指標として有用性が低いと報告されている.本研究では,銘柄に対する最も強気な予想と最も弱気な予想も分析し,過去成長率の影響がどのように生じているか,さらなる検証を試みた.影響の仕方としては,過去の高成長が (1) 過度に強気な予想を発生させる,(2) 冷静な予想を減らす,(3) 等しく予想を強気にさせる,の3パターンが考えられる.(1) なら強気な予想ほど過去の成長率の影響が強く,(2) なら弱気な予想ほど影響が強く,(3) なら影響の違いは見られない.分析の結果,弱気予想に過去成長率への強い影響が認められ,かつ,弱気な予想ほど将来の成長率を予想する上で有用性が劣ることが分かった.従い,過去の成長率は冷静な予想を減らしてしまう様に影響を与えており,これは,その銘柄に対する弱気予想が,強気予想に比して,十分な情報·分析が伴っていないことが要因である可能性が高い事が分かった.
  • 杉浦 康之
    2010 年 3 巻 p. 250-261
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,消費者がステークホルダーとして,企業の効果的なガバナンス機能としての役割を果たせるのかを吟味するため,商品·サービスに対する,関心の高さ,消費行動の意識,不祥事に対する反応などについて,アンケートを行った.このアンケートを用いて,不祥事に対する反応がどのような意識から来るのかを検証した.
    本サンプルの結果から,どの商品·サービスに対しても,過剰(過敏な反応や鈍感な反応)な反応を示す割合が低いことが確認された.また,過剰な反応を示すその要因について分析をしたところ,生活環境の悪い状態や生活環境が悪化しているときや,商品·サービスに対する関心が低いときに,不祥事に対して過敏に反応(不祥事を起こした商品·サービスだけでなく関連するものについても購入·利用を控える)する.他方,女性のうち,「安いものほど購入」しようと意識するときや,関心が高いときに,鈍感な反応(不祥事が起きても,購入·利用し続ける)を示すことが分かった.
    さらに,女性については「安全性を意識」することで,男性については「商品名や企業名」を意識することにより,上記の過剰な反応を緩和する可能性がある.従って消費者によるガバナンス機能として,一定の成果を上げる可能性も示唆されるが,不祥事に対する対応が,興味や生活環境などが大きく起因するため,消費者教育によって,これらを克服することが課題となるであろう.
  • —映画は景気を映すか+ヒットは景気を語る(唄うか)III
    保原 伸弘
    2010 年 3 巻 p. 262-265
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    前々回,前回発表した,ヒット曲性質と経済状況の関係に続いて,同じコンテンツ産業に関する分析として,今回は映画のジャンルに注目する.それにより,少なくとも日本に関する限り,ある特定のジャンルと経済状況とが有意な相関があることが確認できた.現実肯定型のアクションとシリアスはDIと正の相関,現実逃避型のSFと恋愛はDIと負の相関であった.さらに今年は単なる事象の記述にとどまらず,企業行動への応用も議論する.すなわち,この相関に則って映画会社が行動した場合,その年の営業成績も好調だし,その法則に則って行動しない場合,その年の営業成績も不調になる.とりわけ,米国からの買い取りの場合,この法則に則って,封切するタイミングが重要となる.以上を論じた後,前々回と前回得られたヒット曲のデータも合わせて,それらを社会心理のあらわれと考えた場合,実際のマクロ経済にどう影響を与えているかまで考察する.
  • Michiyoshi Hirota
    2010 年 3 巻 p. 266-268
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    This presentation is devoted to the study of whether or not a bilateral trading process which is recently proposed by Gintis (2007) can converge to a general equilibrium price as Gintis has asserted in his paper. Gintis assumed to have their private prices initially which are distributed uniformly, and as trading goes on, each agent tries to imitate the private price of some other agent whose utility will be larger than his own utility. His assertion is that according as transactions proceed, the average of distribution of transaction prices tends to approach a general equilibrium price. However, our presentation asserts that his assertion is not necessarily true.
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