日本気管食道科学会会報
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52 巻, 1 号
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原著
  • 三枝 英人, 中溝 宗永, 新美 成二, 八木 聰明
    2001 年 52 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
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    反回神経麻痺や混合性喉頭麻痺,一側のみの頸部手術後に喉頭が左右均等に挙上せず,障害された側に傾いて挙上してしまうことがあると報告されている。この程度がひどい場合には,嚥下に障害をきたすことがある。しかし,その嚥下障害の機序については明らかにされていないのが現状である。 今回,われわれは喉頭挙上の左右差が著しいことに起因する嚥下障害患者4名を経験した。このうち2名は下咽頭部分切除術後,大胸筋皮弁で再建された症例,1名は甲状腺亜全摘,一側のみの拡大頸部郭清術,縦隔郭清術,麻痺側声帯へのコラーゲン注入術後の症例,もう1名は胸部食道摘出,胃管による再建,左側披裂軟骨内転術後の症例であった。4名とも声門閉鎖はほぼ完全であった。バリウムを使用したVTR嚥下透視検査の結果,以下のごとく特異な嚥下障害のパターンを呈していることが分かった。1)喉頭が患側に傾いて挙上する時,ボーラスは主に患側梨状陥凹を通過する。それに対して,健側梨状陥凹を通過するボーラスは比較的少ない。2)喉頭挙上が終了する頃,患側梨状陥凹を通過しきれなかったボーラスが声門,気管にオーバーフロウする。3)この時,健側梨状陥凹にも残留したボーラスが貯留している。4)次の嚥下時に,健側に貯留したボーラスがさらにオーバーフロウする。 これらの症例に,顎引き嚥下を行ってみたが,無効であった。次に患側への頸部回旋を指導してみた。患側梨状陥凹を通過するボーラスは減ったが,健側梨状陥凹へ貯留し,オーバーフロウするボーラスは増えてしまった。そこで,やや患側に頸部回旋した上で,頬杖をつくような頭位を設定してみた(「頬杖位」と仮称した)。その結果,誤嚥は著明に改善した。
  • 田村 悦代, 北原 哲, 甲能 直幸, 小倉 雅實, 古川 太一, 多田隈 卓史, 多島 新吾
    2001 年 52 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    音声外科手術後に生じる肉芽形成や瘢痕形成は,術後音声を大きく左右する。そこで,肥厚性瘢痕治療薬であるトラニラストの局所投与による肉芽組織形成抑制効果を実験的に検討した。
    方法:0.5%カラゲニン誘発刺激による肉芽組織およびイヌ声帯新鮮創に対して,2.0%トラニラストおよびリポソーム封入2%トラニラストを局所投与し検討した。
    結果:2%トラニラストに比較して,リポソーム封入2%トラニラストは組織内に長く止まり,肉芽組織の増生抑制効果をより促進した。また,イヌ声帯新鮮創に対して局所投与した結果,術後に良好な声帯振動が得られた。
    結論:トラニラストの局所投与により,肉芽組織の増殖抑制効果が認められ,さらにリポソームに封入した形態にして投与することにより組織内濃度が維持され,肉芽組織の増生抑制効果がより増強された。
  • 長谷川 稔文, 木西 實, 毛利 光宏, 斎藤 幹, 天津 睦郎
    2001 年 52 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれは1988年より,咽喉食摘後に食物路の再建に遊離空腸移植を行うと同時に音声再建術として気管空腸瘻形成術を行いQOLの改善を目指してきた。気管空腸瘻発声を行っている10症例を対象とし,内圧測定検査を行い振動源を同定し,空気力学的検査を行い発声機構について検討した。内圧測定検査では基線上に振動波形が記録され,これを振動源とした。振動源は全症例で空腸内に存在し,その位置は症例間では異なっていたが,一例を除いて各症例でそれぞれ一定の位置であった。声の高さは複数の基本周波数が認められた。声の強さは平均75.8 dBSPL,呼気流率は平均129.6 ml/s,振動源下圧は平均18.6mmHg,振動源の抵抗は平均300.2dyne s/cm5であった。以上のことから,気管空腸瘻発声の振動源は蠕動によらない空腸内腔の形態的狭窄部であるといえる。気管空腸瘻発声の振動源の抵抗は,粘膜振動が得られやすいことと気管食道瘻発声のような新声門調節機構がないことから,気管食道瘻発声の新声門抵抗に比較して低値であった。これが気管空腸瘻発声の振動源下圧が気管食道瘻発声の新声門下圧の約半分であることに反映していた。空腸蠕動は振動源に影響を与え声の高さを変化させていた。
  • 楯谷 一郎, 安里 亮, 庄司 和彦, 井上 真郷, 平野 滋, 金子 賢一, 児嶋 久剛, 樋口 加代子
    2001 年 52 巻 1 号 p. 24-27
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    京都大学耳鼻咽喉科で過去4年間に手術を行った甲状腺腫瘍228例のうち,術前の穿刺吸引細胞診でクラスIII(境界病変)の診断を得ていた37例を対象に,術前所見と良悪性との関連について検討した。37例中悪性であったものは17例(46%)と約半数を占めていた。さらに術前の病歴,触診,画像所見から手術除外例を予測し得ないか検討した結果,触診上軟らかく石灰化がない症例,境界明瞭で軟らかい症例では14例中13例が良性とほとんどが良性であったが,濾胞癌の1例を含んでいた。悪性例が半数を占めていたこと,良性の可能性が高い例は見いだせるものの濾胞癌の可能性は否定できないことより,クラスIIIであれば手術適応とするのが妥当と思われた。
症例報告
  • 渡辺 健太, 肥後 隆三郎, 渡辺 剛士, 田山 二朗, 新美 成二
    2001 年 52 巻 1 号 p. 28-32
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    嗄声と甲状軟骨の石灰化腫瘤をきたした74歳の男性症例を報告した。既往歴としてラジウム針を喉頭に埋没させるHarmer法による喉頭癌治療が30年前にあった。1999年夏より嗄声を訴え,耳鼻科を受診した。喉頭鏡下に左声帯前半部に腫瘤を認め,CT検査でも甲状軟骨に高濃度陰影の腫瘤が明らかとなった。放射線誘発の悪性腫瘍も考慮して前頸部切開による生検を施行したが,石灰化や線維化を伴う壊死組織像であり,悪性所見や炎症細胞は認めなかった。30年前に施行されたラジウム針による喉頭癌治療により甲状軟骨に限局的な壊死が生じたものと考えた。
  • 守本 倫子, 川城 信子, 獅山 富美子, 土橋 信明
    2001 年 52 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    先天性二裂喉頭蓋は喉頭蓋が先天的に正中で分断された形を呈しているもので,軟骨の脆弱性も加わって,しばしば重篤な呼吸困難や慢性的な誤嚥をひきおこす。世界でもわれわれの調べた限り20症例しか報告されておらず,大変稀な疾患である。しばしば他のあらゆる部位の奇形を合併することが多い。その中でも最もよく認められるのは手指や足趾の異常であり,約70%の症例で報告されている。また,最も重篤な合併奇形は視床下部過誤腫と下垂体低形成が報告されている。
    今回われわれは,Hirschsprung病の根治術施行後,さらに誤嚥や喘鳴が増悪してきたため,喉頭ファイバーを行い,そこで二裂喉頭蓋が発見された症例を経験した。特にその他に合併した異常は認められなかった。過去の報告においても,合併奇形が多彩なために二裂喉頭蓋の治療が行われなかったり,自然寛解を期待して長期間何も行わずに経過観察されている例も少なくない。われわれは喉頭蓋を正中で縫合して喉頭蓋形成を行ったところ,早期に症状を消失させることができて大変有用であったので文献的考察を加え,報告する。
  • 増田 正次, 吉田 昭男, 川浦 光弘, 吉原 重光
    2001 年 52 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれは喉頭癌に対する放射線治療終了23ヵ月後に大量出血をきたした63歳男性を報告する。患者は放射線治療後,喉頭全摘術は受けていなかったが両側頸部郭清を施行されていた。出血時の左下顎部の疼痛が出血部位を示唆しており,われわれは下咽頭から総頸動脈へとつながる瘻孔を発見した。20単位に及ぶ十分な輸血をしながら総頸動脈の壊死部を結紮切除した。その後47日目に再び出血が起き,下咽頭皮膚瘻が形成されてしまった。われわれは十分な栄養管理の後,喉頭全摘術と大胸筋皮弁による再建術を施行した。
    放射線治療後の頸動脈破裂への対処法として古典的ともいえる頸動脈結紮術がいまだに重要な役割を担っており,再出血の危険を避けるためにも,十分な栄養管理の後に喉頭全摘術と大胸筋皮弁による再建術を積極的に行うべきことをわれわれは強調する。
  • 平松 宏之, 渡嘉敷 亮二, 亀森 健一郎, 古川 欣也, 吉田 知之, 鈴木 衞
    2001 年 52 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    Dumon stentは交換が可能であり,安全で,致死的な合併症についての報告も少ない。今回Dumon stentにより気管腕頭動脈瘻を引き起こした気管癌の症例を報告する。症例は68歳,男性で,喉頭癌に対し放射線治療を施行した約3年9カ月後,血痰を認め来院した。声門下約1.5cmの部位より末梢側に連続する腫瘍を認め,気管癌(中等度分化型扁平上皮癌)と診断された。約90%の狭窄を認め,気道確保のためにDumon stentを挿入し,放射線療法を施行した。約8カ月後より喉頭の浮腫および呼吸困難を認めるようになり,増悪したため輪状甲状切開を行った。その4カ月後に突然喀血し,大量出血のため死亡した。以前撮影したCT,MRIを再度調べたところ,照射による腫瘍容積の縮小のためにステントが移動し,その結果気管腕頭動脈瘻を引き起こしたと考えられた。癌性狭窄の場合,その後の治療によりステントが移動する可能性があり,ステントによる合併症を考慮した上で治療計画を立てる必要がある。
  • 的野 吾, 末吉 晋, 田中 寿明, 藤田 博正, 山名 秀明, 白水 和雄
    2001 年 52 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2001/02/10
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル 認証あり
    食道憩室を伴った先天性食道気管支瘻を経験した。症例は62歳男性で,20歳代に肺炎を繰り返した既往がある。その後は,特に症状はなく62歳になって再度肺炎となる。肺炎の治療を行うも改善の傾向を示さないため精査したところ,食道憩室部にpin-hole状の瘻孔を認めた。食道気管支瘻による難治性肺炎と診断し,胸腔鏡下にて手術を行った。手術所見で瘻管部周囲の炎症はなく,瘻管の切断と食道側の縫合で手術を終了した。瘻管の病理学的検索は行われなかったが,臨床経過と手術所見より先天性食道気管支瘻と診断した。手術治療としては,瘻管の切断で十分であった。
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