日本気管食道科学会会報
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53 巻, 4 号
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寄稿
  • 鈴木 康司, 柳下 三郎
    2002 年 53 巻 4 号 p. 313-318
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
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    現在の嚥下研究の多くは,嚥下運動の急速かつ複雑な時間的経過を3つに分類して行われている。この嚥下運動を3つに分類することを初めて提唱したのが,François Magendie (1783-1855)と言われている。
    Magendieは実験的生理学のパイオニアであり,当初消化の生理学の研究を行い,後に循環,血液,神経へと彼の研究分野は広がって行った。1816年Magendieは“Précis élémentaire de physiologie(生理学の基本的概論)”を出版しており,この中に前述の嚥下運動の分類についての記載がある。
    今回われわれはMagendieのこの記述部分を翻訳し,発表する。本文献に触れるに際し,Magendieが嚥下運動を3つに分類した根拠は何であるかが,われわれにとっての最大の興味であった。しかしながら本文からはそれは読み取れなかった。彼の業績から推し量るに,おそらく解剖学および生理学的な実験をもとに推論したのではないであろうか。いずれにせよMagendieの先見性には驚くばかりである。
原著
  • 井口 芳明, 廣瀬 肇, 西山 耕一郎, 永井 浩巳
    2002 年 53 巻 4 号 p. 319-327
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    喉頭肉芽腫は声帯後部,声帯突起部に好発する非特異的肉芽腫である。原因として気管内挿管後,声の酷使,そして原因の特定ができないものがあるといわれている。今回当院で治療した喉頭肉芽腫について検討したので報告する。対象は1975年4月から2001年6月までに当科を受診し,喉頭肉芽腫と診断した87例である。臨床的項目について挿管の既往のある例とない例に分けて検討した。結果として,肉芽腫の原因は,気管内挿管が契機(挿管性)となったのは28例,挿管のない症例は59例であった。年齢性別では挿管性は女性に多く,挿管のない症例は男性に多かった。発生部位は声帯突起が多く,挿管性は両側が12例,右は11例であった。主訴は嗄声が最も多かった。初回治療は以前は外来で局所麻酔下内視鏡下での鉗除や生検が多かったが,近年は薬物治療が主流となった。初回治療後の再発,増大は,挿管性では28例中3例,挿管のない例では59例中24例で特に初回手術例に目立ち,追加治療は薬物治療が中心であった。挿管性肉芽腫は1回の治療で治りやすいが挿管のない肉芽腫は難治性で,初回治療は鉗除や喉頭微細手術では再発することが多いので薬物治療を選択すべきである。
  • 持続送気用チャンネルの増設(第2報)
    磯貝 豊, 浜田 はつみ, 福田 宏之, 楠山 敏行, 藤本 裕一, 塩谷 彰浩, 大久保 啓介, 齋藤 康一郎, 茂呂 和久, 荒木 幸仁 ...
    2002 年 53 巻 4 号 p. 328-336
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    下咽頭ファイバースコピーの致命的な問題点は,赤玉現象(スコープの最短観察深度よりも手前に粘膜が近接することが原因)と白玉現象(唾液などの分泌液の近接が原因)である。われわれは前報で,既存の処置用ビデオ鼻咽喉スコープの先端に透明フードを装着し,視野角を120°に広げて有効長を500 mmに延長したビデオ下咽頭スコープを試作し,鉗子チャンネルに装着した着脱式の逆流防止弁付き回転T字管から持続送気をおこなう方法について検討した結果,赤玉現象を生じることなくきわめて精細な画像をえることができるが,食道内腔における吸引機能に問題があることを報告した。そこでこの度,スコープの外径を変えずに持続送気用のチャンネルを増設する改良をおこなったところ,吸引機能の問題を完全に解決することができた。また,坐位で検査すると,仰臥位でみられた食道内腔における分泌液の停留と白玉現象が発生せず,持続送気流量も200∼300 ml/分で十分であることが確認された。下咽頭ファイバースコピーにおいては,左右交互に両側の梨状陥凹から挿入して,合計2回観察しないと反対側の病変を見逃す危険性がある。
  • 渡嘉敷 亮二, 亀森 健一郎, 山口 宏也, 中村 一博, 平松 宏之, 伊藤 博之, 大和 明子, 原田 容治, 鈴木 衞
    2002 年 53 巻 4 号 p. 337-342
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    内科で逆流性食道炎と診断され食道炎が未治療の患者24例について,酸逆流により生じるとされている耳鼻咽喉科領域の自覚症状および下咽頭喉頭所見の有無について検討を行った。24例中半数の12例が耳鼻科領域の自覚症状を有しており,もっとも多いものは咽喉頭異常感6例(25.0%),ついで咽頭痛が5例(20.8%),慢性の咳嗽が1例(4.2%)であった。下咽頭喉頭所見は披裂間粘膜の腫脹が20例(83.3%),ついで喉頭後部の発赤が16例(66.7%),梨状窩の唾液貯留が6例(25.0%)あった。人間ドックを受診した50例をコントロール群として設定した。コントロール群で下咽頭喉頭所見をみると披裂間粘膜の腫脹は18例(36.0%)に,喉頭後部の発赤は21例(42.0%)に,梨状窩の唾液貯留は8例(16.0%)あった。逆流性食道炎群とコントロール群を比較すると,披裂間粘膜の腫脹と喉頭後部の発赤において有意差が認められた。逆流性食道炎患者は耳鼻咽喉科領域にも自覚症状や所見を有することが示唆された。
  • 移植気管の電気生理学的特性
    林 秀一郎, 中瀬古 春奈, 楊 天群, 竹内 万彦, 間島 雄一
    2002 年 53 巻 4 号 p. 343-347
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    粘液産生モデルの移植気管と正常気管の電気生理学的特性の違いを検討した。電位差測定時,粘膜側の環流溶液をかえることにより,粘膜面に存在するNa+チャンネル,およびCl-チャンネルの機能を調べた。環流溶液は以下の(1)~(5)を用いて検討した。(1)HEPES溶液,(2)HEPES溶液+アミロライド100μM,(3)HEPES溶液+アミロライド100μM+Cl-フリー(Cl-の代わりに145mM gluconateを用いた),(4)HEPES溶液+アミロライド100μM+Cl-フリー+CPT-cAMP 200μM+フォルスコリン10μM,(5)HEPES溶液。
    結果:(1)の平常状態の環流液を用いた時には,移植気管のほうが正常気管に比べ,電位差は高い傾向を認めたが有意差は認めなかった。また,溶液を(2)~(5)へ変化させた時の電位変化は,移植気管においても保たれていた。以上より,移植気管においてもNa+およびCl-チャンネルの電位変化の検討が行えると考えられた。
症例報告
  • 塚原 清彰, 山口 宏也, 鈴木 伸弘, 新美 成二, 廣瀬 肇
    2002 年 53 巻 4 号 p. 348-352
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    喉頭外傷のひとつに披裂軟骨脱臼症があるが,その頻度は少ない。今回われわれはスポーツ外傷により生じた披裂軟骨脱臼症を経験し,非観血的整復により良好な結果を得たので手術方法を含めて報告する。症例は18歳,男性。主訴は「大声がでない」および「嚥下時のむせ」であった。2001年4月14日,バスケットボールの試合中,肘により前頸部打撲。その後より主訴が出現した。初診時所見,頸部に明らかな異常所見は認めなかったが,聴覚印象的にG(2)B(2)の嗄声を認め,MPTは7秒であった。初診時右声帯は副正中位に固定していた。また,CTおよび3D-CTにおいて右披裂軟骨は内側に偏位していた。以上より右輪状披裂関節脱臼と診断し,2001年6月11日,全身麻酔下に直達鏡下喉頭微細手術を行った。顕微鏡下に両側披裂軟骨の可動性を触診にて確認したところ,左披裂部の可動性は良好であったが,右披裂部の可動性は悪かった。14Frのバルーンカテーテルに支柱となるキュルシュナー綱線を通したものを用いて,正常位へと整復した。術後翌日よりむせるなどの自覚的症状は改善し,聴覚印象的にも嗄声改善を認めた。MPTも19秒と改善した。また術後1カ月目に行った3D-CTにおいて右披裂軟骨は正常に整復されていた。
  • 佐藤 公則, 梅野 博仁, 中島 格
    2002 年 53 巻 4 号 p. 353-357
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    迷走神経麻痺による嚥下障害,誤嚥,発声障害症例に対して,喉頭・下咽頭に脂肪注入術を行った。吸引採取した脂肪を全麻下に喉頭直達鏡下に注入した。注入部位は,声帯,仮声帯,披裂喉頭蓋ヒダ,下咽頭梨状陥凹の内側壁である。これらの部に注入することで,声帯・仮声帯レベルでの喉頭の閉鎖機能を確実にできた。披裂軟骨楕円窩の外側上方にも脂肪を注入することで,披裂軟骨を内転させた。患側の梨状陥凹を狭小化させることで麻痺側の下咽頭梨状陥凹内の食物残留をなくし,咽頭クリアランスを改善させることができた。本法は迷走神経麻痺による発声障害,軽度の誤嚥症例に対して有用な手術法といえた。
  • 廣島屋 孝, 中島 正己, 横堀 学, 永井 浩己, 西山 耕一郎, 中山 明仁, 長沼 英明, 岡本 牧人, 山中 盾, 平山 方俊, 高 ...
    2002 年 53 巻 4 号 p. 358-361
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれはバセドウ病と気管切開術後瘢痕が原因と思われる高度の気管狭窄例を報告した。症例は19歳の男性。多発性交通外傷で受傷,気管切開術を施行された。精査にてバセドウ病と診断された。全身状態軽快後,呼吸困難を訴えたため,当科を受診した。精査にて甲状腺両葉の腫大と頸部気管の狭窄を認めた。バセドウ病の甲状腺両葉の腫大による頸部気管の狭窄と診断し,甲状腺亜全摘出術を施行した。狭窄部位で気管は瘢痕狭窄像となっていたため,狭窄部位の気管前面に開窓術を施行した。術後にTチューブを挿入し,Tチューブを挿入したまま術後2カ月目に退院した。術後約4カ月目に気管切開孔閉鎖術を施行した。現在術後約37カ月を経ているが再狭窄は認めていない。
  • 渡辺 太志, 山本 悦生, 篠原 尚吾, 田辺 牧人, 藤原 敬三, 菊地 正弘
    2002 年 53 巻 4 号 p. 362-366
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    頻回の経皮的エタノール注入療法(PEIT)にても制御不良のため,手術治療を施行した腎性上皮小体機能亢進症の1例を報告した。症例は52歳,女性。腎性上皮小体機能亢進症に対して近医で数度のPEITを施行されたが,コントロール不良のため精査加療目的にて当科を受診した。治療は上皮小体全摘術および前腕移植術を施行した。術中所見では,上皮小体は右上腺を除く3腺が周囲組織と高度に癒着しており,手術操作は困難であった。病理組織検査ではPEITを施行されていた2腺のうち,右下腺で腺内に結合組織の増生を認めたが,左下腺では変性所見は認めなかった。術後,反回神経麻痺などの合併症は認められず,経過良好にて退院となった。術後上皮小体機能は正常化し,1年6カ月が経過した現在再発は認めていない。
  • 菊地 正弘, 山本 悦生, 篠原 尚吾, 田辺 牧人, 藤原 敬三, 渡辺 太志
    2002 年 53 巻 4 号 p. 367-374
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    当科において1991年から2000年までの間に,頭頸部領域の化膿性炎症が縦隔へ波及して生じた降下性壊死性縦隔炎4症例を経験した。全例上縦隔より下方に炎症が進展しており,2例に前縦隔への進展,3例に後縦隔への進展を認めた。治療は適切な抗生物質の投与と適切なドレナージによる排膿であるが,外科的ドレナージとして全例に頸部切開排膿を行い,2例に縦隔操作を加えた。3例は適切なドレナージにて改善したが,1例は十分なドレナージができず死亡した。
    降下性壊死性縦隔炎に対しては,全身状態が悪化する前に適切なドレナージが必要である。
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