日本気管食道科学会会報
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53 巻, 5 号
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特集:気道・食道異物
  • 平林 秀樹
    2002 年 53 巻 5 号 p. 379-387
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    異物症の取り扱いは,気管食道科医にとって最も重要な分野である。異物除去の歴史は人の歴史である。すべての異物症にはそれぞれのエピソードがある。若いお母さんたちは子どもの異物症が大変危険なことは十分承知している。それゆえに,すべての母親は子どもが石をくわえると,慌てて叫んでしまう。驚いた子どもはしばしば異物を吸引する。すべての施設は異物症に対し責任ある最高のトレーニングと経験を積んだチームを作るだけでなく,異物に関する広報も行うべきである。異物症は子どもだけでなく大人も起こす。5歳以下が約80%,3歳以下が70%である。男の子のほうが女の子よりも2倍多い。国によって異物症はその種類,摘出法はさまざまである。日本,米国,ヨーロッパではピーナッツが多いが,エジプトではスイカの種,ギリシャでは乾いたカボチャの種である。異物による消化管穿孔例は過去3年間にわが国では150例を超える報告がある。われわれ気管食道科医は,異物が喉に引っかかるだけでなく,すべての消化管での停滞に注意しなければならない。
  • 大前 由紀雄, 茂木 立学, 杉浦 むつみ
    2002 年 53 巻 5 号 p. 388-393
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    気道異物は,生命予後にも直結するため適切な診断と迅速な対応が求められる。一般的に気管支異物は乳幼児に多く成人には稀であるが,成人例では誤嚥の発症に関連する様々な要因が気道異物の発症にも関連することがある。本稿では,成人の気道異物の症例を呈示し,成人の気道異物の発症に関連する背景につき考察する。
    症例1は,ALSの診断で経過観察中の70歳男性で,嚥下機能検査では咽頭流入と咽頭残渣を呈し,食物片や義歯による気道異物を繰り返した。症例2は,両側声帯麻痺の診断で気管切開術を施行された70歳男性で,痂皮による気管異物のため呼吸困難を呈し気管支鏡下にバスケット鉗子を用いて異物を摘出した。
    気道異物への対応は,迅速な異物の摘出に尽きる。気管・気管支異物は,全身麻酔下にventilation bronchoscopeによる摘出が一般的であるが,成人例ではflexible bronchoscope (FBS)による異物摘出も有用なことがある。一方,成人例では,突発的な気道異物のリスクとなる咽頭流入や咽頭残渣をしばしば認め,気道異物を予防するため嚥下機能の低下に対する適切な対応が求められる。
  • 片山 修, 山田 秀一
    2002 年 53 巻 5 号 p. 394-399
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    下咽頭・食道に異物が介在(停留)する場合を食道異物と定義する。臨床実地においては圧倒的多数例の食道異物が,電子スコープやファイバースコープといった軟性鏡により診断・治療されているため,頻度が増加あるいは減少という一定の傾向にあるかどうかを論ずることはできない。しかし,本学会の働きかけとこれに応えた形の製薬各社の努力の結果,少なくともPTP異物はわが国では激減した。X線透過性異物を含む食道異物の確定診断は,多くの場合,軟性鏡で行われているため,治療も軟性鏡下に完了するのが望ましい。そのためには,硬性鏡時代の知見を背景に,種々の把持鉗子を駆使したり,異物によってはフード,バルーン,オーバーチューブなどの内視鏡装着器具を利用することを推奨する。
  • 工藤 典代
    2002 年 53 巻 5 号 p. 400-405
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    気道異物は即呼吸に影響し,異物の種類や介在期間によっては肺炎を生じ重症化する。啓蒙されているとはいえ,現在でもなお小児,特に乳幼児の救急疾患として重要である。ここでは過去の報告と最近の当科の統計を呈示し,異物の診断から摘出術後の管理にわたり述べる。
    小児の気道異物は食物が90%程度を占め,さらに食物の中で豆類が90%を占め,また豆類の中ではピーナッツが80%以上を占める。年齢は2歳未満が70%程度を占め,なかでも1歳前半が最も多い。異物誤嚥は急激な吸気を伴う動作が加わった際に生じやすい。症状は咳嗽と喘鳴を含む異常呼吸音が最も多く,80%以上を占める。
    診断は異物を念頭に置いた詳細な問診と,聴診が主体であり,つぎに胸部X線撮影,CT,MRIなどの画像,最終的には内視鏡検査を行う。
    摘出は全身麻酔下で行う。主として硬性気管支鏡に麻酔用アダプターを装着しventilation bronchoscopeを用いる。異物の介在箇所は,気管が20%程度,左右気管支は70%以上で左右には特に差はないが,異物が複数存在し介在場所も2か所以上のこともある。術中は手術操作による喉頭・気管粘膜の炎症の誘発など副損傷を生じないよう細心の注意を払い,術後は異物による肺炎や合併症の防止と治療にあたることが重要である。
  • 当科における気道異物症例40例の検討
    畠山 理, 日隈 智憲, 尾藤 祐子, 安福 正男, 山本 哲郎
    2002 年 53 巻 5 号 p. 406-411
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    1980年4月から2002年3月までの22年間に高槻病院小児外科にて経験した40例の気道異物症例につき検討した。男女比は約2:1で男児に多かった。年齢は1歳台が最も多く,2歳以下が全体の88%を占めた。異物の種類はピーナッツが最も多く全体の60%で,豆類全体で80%を占めた。摘出は硬性気管支鏡下に行い,豆類は主にFogartyバルーンカテーテルを使用し,それ以外は異物鉗子を使用した。全例気管支鏡下に摘出しえたが,初回は摘出できず2回目の検査で摘出しえた症例が3例,異物は摘出しえたが気道に炎症ならびに肉芽を形成したために後日再度気管支鏡を要した症例が10例みられた。異物の長期介在例では摘出手技が困難であり,合併症発生の予防には早期診断が重要であると考えられた。
  • 岩瀬 良範, 崎尾 秀彰
    2002 年 53 巻 5 号 p. 412-416
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    気道異物の病態生理は単に気道異物が無気肺を生じるだけでなく,低酸素性肺血管攣縮(HPV)による代償機転が働くこと,異物除去によって再膨張性肺水腫の危険があることを強調した。麻酔管理は,術前から術後まで熟練かつ注意深い技術と状況判断が求められ,その要点は低酸素血症の防止と適正換気の維持にある。特殊な技術として,経皮的心肺補助法(PCPS)とビデオ喉頭鏡の本疾患への応用について紹介した。
原著
  • 澤田石 勝, 高屋 憲一, 木村 道郎, 吉田 淑子, 田澤 賢一, 長田 拓也, 横山 義信, 斎藤 智裕, 斎藤 光和, 田内 克典, ...
    2002 年 53 巻 5 号 p. 417-429
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    細胞の適切な冷却はcytoprotictiveに働き,心,肝,腎を中心にこれまで組織および細胞で種々の基礎的研究がなされ,これが心,肝,脳外科および移植外科学を含め広く臨床面の発展に貢献してきた。冷却効果による細胞の形態学的研究は,主にミトコンドリア,核全体の一括した観察が主体で,核小体もその一部として取り扱われてきた。1983年よりわれわれは,癌に対する温熱化学療法の見地からこれに対する基礎的研究として,本邦でも数少ないヌードマウス可移植食道癌培養細胞株数種を樹立し,これを用いて各種の刺激による核小体の超微形態学的変化を観察してきた。本研究では冷却によって生じる核小体様小体(intracytoplasmic nucleolus-like body: NLB)の形成および核小体が細胞質内に逸脱する現象,いわゆるnucleolar extrusion (NE)を食道癌培養細胞株を使用して,その機序を究明する。核小体(nucleous)はリボゾームの前駆体であるribosomal RNA (rRNA)を合成する核内小器官であり,主に線維中心(nucleolar organizer region: AgNOR),線維成分,顆粒成分および核小体蛋白から構成され,線維中心にはrRNA gene,線維成分には転写された45srRNA,顆粒成分にはそれがプロセシングされた28srRNAが含まれており,線維成分と顆粒成分は線維中心をとり囲みながら網目状の構造(ヌクレオロネマ)を呈している(核小体にはヌクレオロネマの明瞭なopen nucleolus と不明瞭なcompact nuclelousの2種類があり,後者は前者がpackageされたものと考えられている)。各種細胞は細胞周期や種々の刺激によって核小体の形態変化を示すが,なかでも最もこれまで知られているのが,核小体の各成分が分離する核小体分離(SG)と,核小体線維成分を含む核小体小成分の核小体からの逸脱である(microspherulesの形成)。また,同時に細胞質に核小体様小体(intracytoplasmic nucleolus-like body: NLB)が細胞質内に出現することは,1959年代よりすでに超微形態学者により,多くの細胞(正常細胞:処置,無処置,悪性細胞等)において報告されてきた。一方,NLBの一部は核小体由来と考えられ,その前段階である核小体そのものおよびその一部が核膜をすりぬけるかやぶって細胞質内に逸脱する現象,いわゆるNEの報告は少ない。NEのプロセスは瞬時で比較的稀な現象で,超微形態学的に認識することが困難であると考えられている。したがってNLBおよびNEとSG,核小体分離との形態学的関係,さらにNLB形成およびNE現象の生物学的意義は,いまだ明瞭には解析されていない。われわれは各種ストレス,主に制癌剤や温度感受性試験において,SGはネクローシス細胞,アポトーシス細胞において容易に観察される一方,NLBおよびNEの出現は比較的稀であり,低温処置ではSG, NLB, NEが他のストレスより高頻度に出現することに着目した。また株により低温処置感受性も異なり,耐性株でNLBがよく観察される。本研究では明瞭な核小体を有する食道癌培養細胞株を活用し,核小体の(1) NEを示す核小体の核膜,およびNLBと細胞質内小器官との超微形態学的構築,さらにSGとの関係を検索し,(2) 核小体とNLBの免疫組織化学(RNA染色)を解明し,温度変化による核小体の細胞質内逸脱現象の生物学的意義を系統的,詳細に比較形態学的検討した。
症例報告
  • 吉田 邦仁子, 上田 雅代, 浅野 純志, 福島 一登, 丁 剛, 小池 忍, 大島 渉, 日向 誠
    2002 年 53 巻 5 号 p. 430-435
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれは最近1年間に,手術までに時間を要した小児気道異物2症例を経験した。1症例は枝豆誤嚥でX線透過性・舞踏性異物であったが,CTの経時的変化によって局在診断された。他の1症例は明らかな異物誤嚥のエピソードがなかったが,胸部X線にてクリップ誤嚥が診断された。手術までに症例1では誤嚥後9日間,症例2では症状出現後7日間を要した。2症例ともに,全麻下にてventilation bronchoscopeを用いて異物摘出術を施行した。枝豆症例では,膨化・脆弱化し細片化した異物を,吸引操作を行いながら慎重に摘出した。ともに術後経過は良好であった。気道異物は生死に関与する危険性があることを常に自覚して,迅速な対応処置と同時に一般家庭への啓蒙の必要性を再認識することが重要である。
短報
  • 原 浩貴, 村上 直子, 田村 光司, 山下 裕司
    2002 年 53 巻 5 号 p. 436-440
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    両側喉頭麻痺に伴う呼吸困難に対しては声門開大術が必要である。このうちEjnell法は侵襲が少なく術後の喉頭機能も良好なため,近年では第1選択とする施設が増えている。しかし喉頭展開不良例などで喉頭内腔の視野が不良である場合どう対処するか,また糸の結び目の緩みをいかにして予防するかなどの問題点も残されている。
    これらに対し,われわれは喉頭内腔の視野を確保するため硬性内視鏡を使用し,また糸の結び目が緩まないようにエンドボタンと呼ばれるプレートを甲状軟骨と糸の結び目の間に置くようにしている。
    本論文では,われわれが行っている声帯外方移動術の実際と硬性内視鏡やエンドボタンの有用性について報告する。
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