日本気管食道科学会会報
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53 巻, 6 号
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原著
  • 濱川 幸世, 香田 千絵子, 梅野 博仁, 吉田 義一, 中島 格
    2002 年 53 巻 6 号 p. 445-452
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    目的:口腔内逆流を認めた2症例の逆流動態を検討した。
    症例と方法:症例1は眼咽頭型筋ジストロフィーの67歳女性,症例2は皮膚筋炎の76歳男性で,口腔咽頭X線透視造影検査を行い,水様物,半固形物,固形物摂取時の口腔期,咽頭期を観察し,嚥下時と口腔内逆流時の咽頭後壁の厚さの変化と喉頭の上下運動を測定,検討した。
    結果:症例1は,水様物では誤嚥し,半固形物,固形物では嚥下後喉頭蓋谷と梨状陥凹に残留した食塊を口腔内へ逆流させ再度嚥下していた。嚥下時蠕動様運動はみられず,口腔内逆流時は上部,中部咽頭後壁の厚さがほぼ同時に増し喉頭も挙上した。症例2は,水様物では誤嚥と鼻咽腔内逆流が生じ,半固形物,固形物では喉頭蓋谷に送り込まれた食塊を口腔内へ逆流させた後嚥下した。口腔内逆流時,上部,中部,下部咽頭後壁はほぼ同時にその厚さが増し喉頭も挙上,嚥下時は上部から下部咽頭後壁へ向けて厚さが増し蠕動様運動がみられた。
    まとめ:口腔内逆流は半固形,固形物で生じ,その際喉頭は挙上した。口腔内へ逆流動作を行うのは,症例1は咽頭に残留した食塊を再度嚥下するため,症例2は咽頭期嚥下のタイミングを合わせるためであると考えた。
  • 竹村 雅至, 大杉 治司, 東野 正幸, 木下 博明
    2002 年 53 巻 6 号 p. 453-457
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    リンパ節転移個数1個の胸部食道癌の予後因子を検討した。食道癌283例中37例(男性:23例・女性:14例,平均年齢65歳)が転移リンパ節個数1個であった。Mtは3領域へ転移し,反回神経周囲へは7例と多かった。1群リンパ節転移は19例で約半数が2群以上の遠位リンパ節転移例であった。転移リンパ節は10 mm以下が24例で,5 mm以下も10例であった。14例が再発し,血行性転移が10例・リンパ節再発・局所再発が3例・1例であった。3年・5年生存率はそれぞれ57.7%・47.6%で,予後因子はリンパ節転移の範囲,壁深達度であった。多変量解析ではリンパ節転移の程度,壁深達度は独立した予後因子であった。
  • 中村 義敬, 檜山 繁樹, 柏村 正明, 福田 諭
    2002 年 53 巻 6 号 p. 458-464
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    近年,乳幼児の気道管理は気管内挿管が主流であるが中には気管切開を要する症例も少なからず存在し,この際の問題のひとつとして肉芽形成があげられている。よって今回われわれは1988年から2000年まで当科で気管切開を実施した8例と他院にて気管切開が施行された4例の計12例において小児気管切開例の術式と遅発性術後合併症のひとつである気管孔周囲および気管内肉芽形成について検討した。気管切開実施年齢は6カ月から16歳であった。当科で実施した8例の皮膚切開は全例縦切開で,気管壁の切開は原則として超低体重児とカニューレ抜去が可能と思われる5例には縦切開を行い,長期間の気道管理が必要な3例には逆U字切開を行った。気管切開の高さは輪状軟骨,第1気管輪の切開は避けたほうがよいが,将来的に気管再建術も想定しあまり低位での気管切開は避け,第2,第3気管輪の高さで施行すべきと考える。
    気管孔周囲および気管内肉芽の発生については,12例中9例に肉芽の発生をみ,さらにこの9例中7例に気管孔付近よりMRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)を検出したことよりMRSA感染は肉芽形成の増悪因子のひとつと考えられた。
症例報告
  • 佐藤 克郎, 川名 正博, 山本 裕, 佐藤 雄一郎, 花澤 秀行, 高橋 姿
    2002 年 53 巻 6 号 p. 465-471
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    当科で音声外来開設以来13年間に経験した輪状披裂関節脱臼の2例につき,その経過を報告するとともに,輪状披裂関節脱臼の診断,音声機能の評価,経過観察と治療の方針につき検討した。当科の2症例はおのおの頸部への鈍的外傷および気管内挿管により前方型輪状披裂関節脱臼が発生し,音声機能を評価しつつ脱臼の整復を計画していたところ,おのおの発生から1および4カ月後に自然整復された。音声機能検査では,両例とも声門閉鎖不全の所見に加え基本周波数の上昇が認められ,自然整復後はいずれも改善し正常化した。文献的にも本症の自然整復例はある程度みられ,前方脱臼に多い。そこで自然整復の機序を推察すると,披裂軟骨に後方への張力として働く筋は唯一の声門開大筋で,他の筋に比べ働く頻度が高い後輪状披裂筋であるため,前方脱臼は自然整復の可能性が高いと考えられた。気管内挿管や頸部の外傷後に喉頭の症状をきたした症例においては,本疾患をも念頭におき,病歴や局所所見のみにとらわれず画像診断,音声機能検査,筋電図検査などを用いて確実に診断し病態を評価したうえで,容易に反復し施行できる音声機能の経過を参考に治療を計画することが重要と考えられた。
  • その部分的切除と機能的再建
    三橋 敏雄
    2002 年 53 巻 6 号 p. 472-479
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    前頸部腫瘤を主訴として来院した,非常に稀な疾患である喉頭甲状軟骨肉腫を経験した。病理組織検査の結果はlow gradeの軟骨肉腫であった。手術は,まず,皮膚から甲状軟骨板までを一塊になるように切除・摘出した。再建については,喉頭の機能温存を中心に考え,喉頭の前後方向への潰れと内喉頭筋(特に甲状披裂筋)が移植片軟部組織と癒着して起こる筋収縮の制限を最小限にとどめるため,自家鼻中隔軟骨を採取し甲状軟骨切除後欠損部にチタンワイヤーとフィブリン接着剤で固定した。前頸部切除部の再建材料として遊離腹直筋皮弁を選択し,吻合血管には右上甲状腺動静脈を使用した。術後,移植片の生着は良好で,危惧された声門付近の狭窄も特に問題なく,約2週間後には経口摂取開始したが誤嚥などの問題もなく約1カ月で退院した。術後3年半以上経た現在も再発はなく,機能や外見上も特に問題点はみられていない。治療法を検討するうえで,参考にしうる報告の数も過去において決して多いとは言えず,特に術式の決定に迷ったことは否定できない。できれば今後も,世界的に数多くの症例報告を蓄積し,より普遍的な治療法(特に術式)の選択が可能になることが望まれる。
  • 廣田 隆一, 宇野 敏行, 岡野 博之, 板東 秀樹, 豊田 健一郎, 久 育男
    2002 年 53 巻 6 号 p. 480-483
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    顆粒細胞腫は全身に発生が報告されている腫瘍であるが,喉頭では稀である。今回われわれは,喉頭披裂部の喉頭顆粒細胞腫を経験したので報告する。
    症例は44歳男性,近医で喉頭の腫瘤性病変を指摘され,当科紹介受診となった。初診時,左披裂部に直径5 mm,白色隆起性の病変を認めた。喉頭ファイバースコープ下生検で顆粒細胞腫との結果を得たため喉頭微細手術下にCO2レーザーを用いて腫瘍摘出術を施行した。病理組織学的に偽上皮腫性過形成を示す扁平上皮に覆われた腫瘍を認めた。腫瘍内には小型の核を持ち細胞質中に好酸球性の小顆粒を持つ,卵円状の細胞の増殖を認めた。異型性は認めなかった。腫瘍細胞はPAS染色陽性,免疫染色ではS-100蛋白が陽性で病理診断は顆粒細胞腫であった。
    本邦における顆粒細胞腫の喉頭発生例の報告は現在まで10数例である。ほとんどが良性であるが,稀に悪性の報告がある。病理組織学的に良悪性の区別がつきにくいことがあるため,治療には腫瘍の全摘出術を期すべきである。
  • 下麥 哲也, 西元 謙吾, 出口 浩二, 松根 彰志, 井畔 能文, 坂田 隆造, 黒野 祐一
    2002 年 53 巻 6 号 p. 484-488
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    長期気管カニューレ留置により気管腕頭動脈瘻を生じた1症例を報告した。
    症例は神経セロイドリポフスチノーシスを基礎疾患に持つ19歳女性で,呼吸不全に対し気管切開が施行されている。気管切開後3カ月目に,気管切開孔より大量に出血し,当科を受診した。造影CT,血管造影から気管腕頭動脈瘻と診断し,瘻孔閉鎖術,腕頭動脈切除術,自家静脈による血管再建術を施行したが,心不全で死亡した。
    気管腕頭動脈瘻は気管切開後の致命的な合併症の一つである。本症は救命率が極めて低いことから気管切開患者の術後管理はより注意深く慎重に行い,その発症予防につとめることが必要である。
  • 首藤 純, 一宮 一成, 有田 実織, 鈴木 正志, 茂木 五郎
    2002 年 53 巻 6 号 p. 489-492
    発行日: 2002年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    甲状腺片葉欠損に舌根部異所性甲状腺を伴った1症例を経験したので報告する。症例は43歳女性,4年前より遷延する咽喉頭異常感の増悪を主訴に来院した。鼻咽腔ファイバースコピーにて舌根部に軽度発赤を伴う10 mm大の隆起を認めた。超音波,CT,テクネシウムシンチグラムにて甲状腺左葉の欠損を認めたが,舌根部には画像上異常所見は明らかでなかった。生検にて,異型の乏しい扁平上皮下にコロイドを含んだ甲状腺濾胞組織を認め,免疫組織染色にてサイログロブリン陽性であったことから,舌根部甲状腺との診断を得たが,甲状腺機能には問題なく,臨床症状も軽度であったことから,経過観察のみ行った。異所性甲状腺は比較的稀な疾患で,甲状腺原基の下降障害により生じる。舌部,舌根部,舌下部,甲状軟骨前方に発生するものが多く,舌根部甲状腺はそのうち45%を占めるが,甲状腺の片側欠損に伴う舌根部甲状腺症例の報告はわれわれの渉猟し得た限りでは自験例を含め4例と極めて少なく,非常に稀な症例と思われた。異所性甲状腺は稀ながら悪性化も報告されており,今後も定期的な経過観察が必要と思われた。
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