われわれは1976年以来喉頭摘出後の音声再建として気管膜様部形成法すなわち天津式気管食道瘻(気食瘻)形成術を行ってきた。
その方法は気管膜様部からなる気管弁を作製し,気管弁と食道前壁との間を側側吻合した後,気管弁を縦に縫合し瘻孔を形成するものである。1983年からは食物路からの気道への流入を防ぐため,食道後側壁からとった筋肉弁を用いた誤嚥防止術式を併用している。
2002年10月までに神戸大学で天津式気食瘻形成術を行ったのは376例で,297例79%で音声再建に成功した。不成功の原因は気食瘻の閉塞,気食瘻の壊死・脱落,患者の発声意欲の欠如であった。成功例における初発声日は原法,誤嚥防止術式併用例でそれぞれ術後21日,31日で,最長持続発声時間は平均16秒,18秒であった。原法73例では気道流入が見られなかったのは59%だけであったが,誤嚥防止術式を加えた現在の方法では89%と著明に改善された。
下咽頭癌患者の根治手術では通常喉頭全摘と咽頭・食道の部分的あるいは全周性切除が行われる。われわれは切除後の食物路の再建方法に応じた音声再建法を行っている。すなわち粘膜の一次的縫合が可能な場合,残存粘膜が不十分で大胸筋皮弁でパッチする場合には気食瘻形成術を行い,全周性切除により遊離空腸移植の場合は気管空腸瘻形成術を行っている。
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