日本気管食道科学会会報
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54 巻, 5 号
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特集:胃食道逆流症(GERD)と気管食道科領域疾患
  • 木下 芳一, 天野 祐二
    2003 年 54 巻 5 号 p. 327-333
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    胃食道逆流症(GERD)は胃内容物が下部食道括約筋部の逆流防止機構を越えて食道から咽喉頭部に逆流し,食道の逆流物排出機構の低下のために,その粘膜表面に長期間停滞するために誘発される疾患である。逆流物の中で粘膜を傷害する最も強力な因子は,塩酸とペプシンであり,これらが粘膜の知覚神経を刺激したり炎症を引きおこすため,肺,咽喉頭から食道にわたる種々の疾病がおこることになる。したがってGERDが発症するためには,胃内に十分な塩酸とペプシンの分泌があること,下部食道括約筋部の逆流防止機構に障害があること,食道運動機能や唾液分泌による逆流物のクリアランスが低下していることが条件となる。GERDの症状は多彩であるがプロトンポンプインヒビター(PPI)の投与をおこなって塩酸分泌を抑制すると逆流があっても不快な症状や病変は生じなくなるため,呼吸器,咽喉頭,食道の症状を有する例では,標準的な治療に反応しにくい場合には一度は本症を疑ってPPIを投与してみる必要がある。
  • 草野 元康, 森 昌朋
    2003 年 54 巻 5 号 p. 334-340
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    胃酸を中心とした胃内容物が食道内へ逆流することに起因する様々な疾患群を現在gastroesophageal reflux disease (GERD)と呼ぶ。内視鏡的に明らかな逆流性食道炎を診断するのはたやすいが,内視鏡陰性GERDや胸痛や咳そうなどの非定型的症状GERDを診断するには,巧みな問診から始まり詳細な内視鏡検査やpHモニタリング,食道内圧検査など包括的な診断が必要である。PPI testはproton pump inhibitor: PPIを投与し症状の推移を観察する治療的診断法であり,臨床上も有用である。
    GERDの治療は速やかな初期治療および再発をきたさない維持療法によりQOLを保つことが目的である。薬物治療においてPPIは初期治療,維持療法ともに,自覚的症状改善度ならびに内視鏡的改善度でH2RAよりも勝り,費用対効果も優れていることが示されている。
  • 島田 英雄, 千野 修, 西 隆之, 田仲 曜, 木勢 佳史, 釼持 孝弘, 山本 壮一郎, 幕内 博康
    2003 年 54 巻 5 号 p. 341-346
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    GERDに対する治療は,日常の生活習慣の改善も含めた内服治療が基本であり,PPIによる高い治療効果に関しては周知の事実である。しかし,内服治療により改善を認めない症例,大きな食道裂孔ヘルニアを合併する症例や呼吸器症状を伴う症例に関しては外科治療も考慮すべきである。GERDに対する外科手術の難しい点は消化器外科医が頻繁に取り扱う,病変切除を目的した手術と異なり,機能改善を目的とする点である。手術適応の全症例に対し画一的に同一術式を選択することには問題がある。手術による逆流防止機構の修復により,満足のゆく症状改善が得られなければならない。
    そのためにも,各症例の病態を十分に評価し適応を含め適切な術式の選択,また外科医自身も手術技量を向上させるための努力が必要である。
  • 渡邊 雄介
    2003 年 54 巻 5 号 p. 347-351
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    胃酸逆流によって「胸やけ」などの定型的症状のほかにも非定型的症状が出ることは周知の事実である。最近では,咽喉頭異常感,咳,音声障害,咽頭痛などの耳鼻咽喉科領域の症状も注目をされている。またGERDの中でも耳鼻咽喉科領域の症状を呈するものを欧米ではLPRD (Laryngo Pharyngeal Reflux Disease)と呼ぶが,最近日本語病名として「咽喉頭酸逆流症」と決められた。これらのことに関して欧米では約35年前より報告されており,現在まで数多くの報告もある。しかしながらその病態は不明な点も多い。診断に際してはpHモニタリング,内視鏡検査,喉頭鏡検査などがあるが,耳鼻咽喉科を初診している場合には披裂間粘膜肥厚などの喉頭所見を詳細に取ることが大切である。特に咽喉頭異常感には様々な鑑別疾患があり注意も必要である。
  • 位田 忍
    2003 年 54 巻 5 号 p. 352-357
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    胃内容物が食道に逆流する現象を胃食道逆流現象(gastroesophageal reflux: GER)という。GERは健常者でもある生理的なものであるが,逆流により逆流性食道炎,繰り返す肺炎,体重増加不良などを伴う場合は,胃食道逆流症(GER disease: GERD)と呼ばれ,治療の対象となる。小児科領域において,臨床上しばしば遭遇する疾患群である。GERの症状は主として嘔吐などの消化器症状であるが,発生学的に食道と気管は共通原基より形成され,解剖学的にも下咽頭を共有しているため,呼吸疾患との合併がありうる。反復性(嚥下症)肺炎,気管支喘息,乳児の無呼吸発作などの呼吸疾患とGERの関係について検討した結果,これまでの報告同様に,呼吸器症状を呈する乳幼児の多くにGERを認めることが確認された。上気道の閉塞は,その治療でGERが軽快することより,GERの増悪因子であることが示唆された。上気道の閉塞に伴い吸気時に食道が陰圧になることでGERを起こしやすくしていることが推測される。GERDの治療にあっては,気道の形態および機能評価を同時に検索を進めていく必要があり,逆に慢性の呼吸器症状を呈するときにはGERの検索も行っていくことも大切である。
原著
  • 竹内 啓, 二藤 隆春, 肥後 隆三郎, 田山 二朗, 新美 成二
    2003 年 54 巻 5 号 p. 358-364
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    声帯溝症は声帯膜様部に溝状の陥凹が存在し,発声時に声門閉鎖不全を認め,自覚的に発声障害を訴え,他覚的に嗄声を認める疾患である。われわれは1992年から2001年の10年間に東大音声外来を受診した2154人のうち,声帯溝症患者105人を対象に臨床統計学的検討を行った。
    結果:1) 男性81人,女性24人,平均年齢49.0歳。2) 発症年齢は10~15歳,55~60歳代が多い。発症年齢が50歳以上の群は罹病期間が有意に短い。3) 初診時の音声評価は気息性,粗ぞう性の嗄声が特徴でMPTは男性14.3秒,女性12.6秒。MFRはloud voice時,男性412.8 ml/s:女性274.9 ml/s, high voice時は351.4 ml/s:249.8 ml/sであった。4) 音声外科的治療は28人に施行した。延べ治療回数は63回であった。そのうち,collagen注入術は23人に施行し,延べ56回行った。collagen注入術の平均回数は2.3回で,平均治療間隔は約3ヵ月であった。5) 術後の音声評価は気息性,粗ぞう性嗄声は改善し,MPTは約1秒延長した。
症例報告
  • 和田 昌興, 八尾 和雄, 西山 耕一郎, 山本 一博, 越野 樹典, 佐藤 賢太郎, 都川 知之, 廣瀬 肇
    2003 年 54 巻 5 号 p. 365-369
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれは,喉頭に発生したサルコイドーシスの1症例を報告した。症例は66歳,女性。内科にてサルコイドーシスの治療としてステロイド治療を施行された8年後に嗄声を自覚し,当科を受診した。間接,直接喉頭所見にて右声帯から仮声帯にかけてのび漫性の腫脹を認めた。全身麻酔下,喉頭直達鏡下に腫瘍を除去し,欠損部を一針縫合した。病理組織学的検査では,ラングハンス型巨細胞を伴う非乾酪性肉芽腫を認め,ラングハンス型巨細胞内には,星状小体が散見された。手術後嗄声は改善し,2年を経過した現在再発は認めていない。
  • 山田 南星, 平松 隆, 村井 道典, 田中 雄一
    2003 年 54 巻 5 号 p. 370-374
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    1966年,Eversonらは癌の自然退縮を定義している。今回,この定義にあてはまる喉頭癌症例を経験したので報告した。症例は81歳男性。嗄声,嚥下障害,咽喉頭異常感を自覚し受診となった。声門上に,表面が白色で所々に暗赤色部が混在する腫瘍を認めた。CTでは,辺縁のみに造影効果を認める腫瘍が,喉頭蓋喉頭面から声門上に広がっていた。早期胃癌も見つかったが,喉頭癌,胃癌とも治療を希望されず外来経過観察となった。腫瘍は白色の部分が消えるとともに次第に縮小し,視診上消退していった。その後再発をきたしたが,放射線治療にて腫瘍は消失した。胃癌の退縮は認めなかった。過去の報告で悪性腫瘍の退縮例は散在的にみられたが,喉頭癌において自然退縮の報告は,本邦で2例目である。本例は,経時的に経過観察し,その変化を記録できた点で貴重な症例であった。今後,自然退縮を念頭において,様々な見地から経過を追ってゆく必要があると思われた。
  • 市村 彰英, 小川 恭生, 山口 太郎, 吉田 知之
    2003 年 54 巻 5 号 p. 375-381
    発行日: 2003年
    公開日: 2007/09/25
    ジャーナル 認証あり
    脂肪肉腫は軟部悪性腫瘍の中で最も頻度の高い疾患の一つで,好発部位は下肢,後腹膜,鼠径部である。一方,脂肪肉腫が下咽頭に原発することはきわめてまれであり,渉猟しえたかぎり17例の報告があるのみであった。今回,われわれは下咽頭に発生した脂肪肉腫の1例を経験したので報告する。
    症例は57歳男性で,嚥下時の違和感を主訴に来院した。ファイバー検査で下咽頭左側に腫瘤を認めたため,直達鏡下にダイオードレーザーを用いて被膜ごと剥離摘出した。摘出標本は病理組織学的に脂肪腫と診断された。しかし,1カ月後に再発したため,ダイオードレーザーを用いて腫瘍を切除したところ,高分化型の脂肪肉腫と診断された。このため咽喉頭摘出術および両頸部郭清術を施行した。術後経過は良好で,手術後32カ月経過した現在,再発は認めていない。
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