日本気管食道科学会会報
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56 巻, 6 号
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原著
  • 吉田 知之, 中村 一博, 清水 重敬, 竹之内 剛, 岡本 伊作, 渡嘉敷 亮二, 伊藤 博之, 平松 宏之, 塚原 清彰, 高田 大輔, ...
    2005 年 56 巻 6 号 p. 451-457
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    Docetaxel (以下DOC) は放射線に最も感受性のあるG2/M期に同調することから放射線増感作用を有している。DOC併用放射線療法 (weekly) の第I相試験の結果, 用量規制因子は粘膜炎, 推奨用量は10 mg/m2であったが投与スケジュールについては検討課題とされている。そこで喉頭温存率向上を目的として放射線増感作用だけでなくDOC本来のCytotoxicな作用も期待できるBi-weeklyでのbolus投与量を検討し, DOC隔週投与による放射線併用療法の忍容性について有害事象の発現を指標としてMTDとDLTを決定した。対象はStage IIおよびStage IIIのT2N1下咽頭癌症例, またはStage IIおよびStage IIIの喉頭癌症例とした。方法はDOCを放射線照射開始日より隔週 (原則としてday 1, day 15, day 29) に投与し, 同時にday 1より2 Gy/dayを週5日間, 30 Fr, Total 60 Gy照射した。DOCのlevel 1を30 mg/m2とし5 mgのstep upとした。Level 3でのDLTは粘膜炎と好中球減少でMTDは40 mg/m2, 推奨用量は35 mg/m2に決定した。とくに下咽頭癌では照射範囲の広さのためGrade 3以上の粘膜炎, 嚥下障害が出現した。一次治療効果も良好で第2段階臨床試験における推奨用量として適当であるものと考えられた。尚この臨床試験はIRB (Institutional Review Board) の許可を受けて行われた。
  • 千々和 秀記, 坂本 菊男, 梅野 博仁, 中島 格
    2005 年 56 巻 6 号 p. 458-464
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    1989年から2001年までに当院で手術加療を行った下咽頭扁平上皮癌, 一次根治症例T3・T4 114例 (T3 : 58例, T4 : 56例) を対象とし, その治療成績について検討を行った。1) 114例中5例 (4%) に局所再発, 109例中14例 (12%) にリンパ節再発を認め, 制御率は良好であった。2) 術後上咽頭に照射を行った88例中1例 (1%), 行ってない26例中4例 (15%) に局所再発を認め (p = 0.002), ルビエールを含めた上咽頭への照射が重要であると考えられた。3) 被膜外浸潤 (+) 50例のうち照射を行った42例中5例 (12%), 行っていない8例中4例 (50%) にリンパ節再発を認め (p = 0.01), 被膜外浸潤があれば照射が必要であることが再認識できた。4) pN (+) 76例中16例 (21%), pN (-) 38例中1例 (3%) に遠隔転移を認め (p = 0.01), pN (+) 症例に対して維持化学療法を併用していくべきと考えられた。5) 死因は遠隔死が17例 (15%) であり最も多かった。
  • 山本 壮一郎, 幕内 博康, 島田 英雄, 千野 修, 西 隆之, 木勢 佳史, 釼持 孝弘, 原 正, 三朝 博仁, 大上 研二
    2005 年 56 巻 6 号 p. 465-469
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    食道癌治療前後にスクリーニング検査として消化器内視鏡検査を行い, 7症例8病変の下咽頭癌を表在癌として発見した。平均年齢は70.5歳, 全例男性であった。観察方法は上部消化管内視鏡検査の通常観察を行い粘膜変化を捉えた。発見動機は隆起性病変が6病変, 粘膜発赤が1病変, ヨード不染が1病変であった。すべてが下咽頭に位置していた。治療方法は8病変のうち6病変に対して内視鏡的粘膜切除術 (EMR-C法) を行った。小不染帯多発を示した1例に対してアルゴンプラズマ凝固療法を施行した。残る1例は範囲が広いため内視鏡治療を止め放射線治療を施行した。切除病変の組織型はすべて扁平上皮癌であった。断端は6例中4例 (66.7%) が陽性であった。EMR-C法による合併症や治療関連死は認めなかった。再発死亡は観察期間1~41カ月 (中央値17カ月) で2例に認めた。頸部リンパ節再発と頸部リンパ節再発および肝, 肺への転移が原因であった。下咽頭癌に対する内視鏡的粘膜切除の導入は臓器や機能温存に優れているが, 手技の困難性や長期予後がまだ明らかでないためさらなる検討を要する。
  • 阿吾提 伊地力斯, 中村 治彦, 尼亜孜 買地尼也提, 田口 雅彦, 川崎 徳仁, 大平 達夫, 加藤 治文
    2005 年 56 巻 6 号 p. 470-475
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    肺癌の確定診断において細胞診の果たす役割は大きいが, 癌細胞の形態的診断には熟練を要するため, 何らかの客観的判定法が有用と考えられる。肺癌細胞では染色体の数的異常が頻繁に認められることから, 細胞分裂間期核の染色体の数的異常をfluorescence in situ hybridization (FISH) 法で解析することで悪性細胞の同定が可能となる。当院で確定診断を目的として気管支洗浄細胞診検査を受けた肺癌10例について, 採取細胞の3番および17番染色体の数的異常を解析し, 細胞診の結果と比較した。細胞診, 染色体解析ともに6例が陽性と判定されたが, 前者が偽陰性で後者が陽性であった例と, その逆が各1例存在した。両者ともに偽陰性は2例あった。肺癌細胞診における悪性細胞検出の客観的指標としてFISHは有用であり, 従来の細胞診の補完的役割を担うことができると考えられた。
  • 中村 一博, 吉田 知之, 武藤 孝夫, 鈴木 伸弘, 渡邊 雄介, 渡嘉敷 亮二, 鈴木 衞
    2005 年 56 巻 6 号 p. 476-483
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    喉頭枠組み手術 (甲状軟骨形成術, 披裂軟骨内転術) では術中の音声モニタリングを施行することが望ましいことから, 主に局所麻酔が選択されてきた。しかし, 術中の音声のモニタリングは不可能であるが, 気管挿管による全身麻酔下に披裂軟骨内転術を施行している施設もある。
    今回われわれは喉頭枠組み手術に無挿管自発呼吸下での全静脈麻酔 (total intravenous anesthesia : TIVA) を用い, 良好な術中音声モニタリングと術後音声が得られたのでここに報告する。
    症例は2002年12月から2005年4月までに東京医科大学八王子医療センター耳鼻咽喉科頭頸部外科において喉頭枠組み手術を施行した14例である。
    TIVAでは鎮静薬としてプロポフォールを, 鎮痛薬としてペンタゾシンを用い, 麻酔深度の指標にはbispectral index (BIS) モニターを使用した。前投薬は投与しなかった。入室後ペンタゾシン15~30 mg/bodyを静注, プロポフォール10 mg/kg/hrの静脈内持続投与を開始し, 無挿管自発呼吸下で意識消失させた。入眠後, プロポフォール4~6 mg/kg/hr持続投与で麻酔を維持した。声帯を内転させる際にプロポフォールの持続投与を中止し, 覚醒させ発声させた。発声させながら声帯の位置決めをした後, 再びプロポフォール持続投与を開始し意識を消失させ, 閉創した。
    14例全例において良好な術中管理と術後音声が得られた。プロポフォール持続投与中のBIS値は60前後であったが, プロポフォール投与中止後226±66秒でBIS値は全例90以上となり, 術者との声帯位置決めの会話も鮮明に記憶していた。全例において術中の疼痛の訴えはなかった。術後, 最長発声持続時間 (maximum phonation time : 以下MPTと記す) は全例改善した。
    無挿管自発呼吸下TIVAによる麻酔は, 従来の気管挿管による全身麻酔と局所麻酔の長所を兼ね備えた麻酔法であり, 術中覚醒下の音声モニタリングが必要な喉頭枠組み手術に有用である。
症例報告
  • 木村 美和子, 萩澤 美帆, 中嶋 正人, 二藤 隆春, 田山 二朗
    2005 年 56 巻 6 号 p. 484-488
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    ガス壊疽はガス産生を伴う壊疽性の軟部組織感染症であり, クロストリジウム属に起因するものと非クロストリジウム属に起因するものとに大別される。従来, 頭頸部領域には稀とされてきたが, 最近報告例が増加し, 強い病原性を呈する可能性があり非常に注意を要する。今回われわれは齲歯が原因と予想される頸部から縦隔まで進展した非クロストリジウム属に起因する頸部ガス壊疽の症例を経験した。本症例は皮下に握雪感を伴い, ガス産生菌によって引き起こされた, 急速に進行する軟部組織の壊死性感染症であり, ガス壊疽と診断した。造影CTにて両側頸部, 縦隔に著明なガス像と膿瘍形成を認め, 術前の病変の進展範囲の判定に有用であった。受診同日に局所麻酔下に気管切開を施行し, 気道確保後, 全身麻酔下に頸部膿瘍切開排膿術, デブリードメント, 縦隔ドレナージを施行し, 術後も呼吸器科と連携して約2週間十分に抗菌薬投与し, 救命しえた。ガス壊疽は症状の進行が非常に急速であり, 炎症の波及の範囲を適切に判断した迅速なドレナージと抗菌薬投与が重要であると考えた。
  • 上田 大, 中野 宏, 池淵 嘉一郎, 松井 雅裕, 島田 剛敏, 四ノ宮 隆, 中井 茂, 久 育男
    2005 年 56 巻 6 号 p. 489-494
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    気管原発の腫瘍の約半数は腺様嚢胞癌が占めるが, 気管腫瘍の発生頻度は低く, 気管, 気管支, 肺の悪性腫瘍の0.5%以下である。今回, われわれは診断に難渋した気管膜様部腺様嚢胞癌の1例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告する。
    症例は62歳, 男性, 主訴は嚥下困難。初診時, 耳鼻咽頭, 頸部に異常所見を認めず, 左声帯の軽度の可動制限を認めた。CT, MRIにて気管後方, 頸部食道右側, 椎体前面に大きさ40×30 mm大, 境界明瞭, 内部不均一に造影される腫瘤を認めた。当初は食道由来の良性腫瘍を疑ったが, 頻回の穿刺吸引細胞診にてclass V, 腺癌疑いの結果を得た。タリウムシンチにて早期相では病変部に一致して取込みを認め, 遅延相にて排泄が不良であった。甲状腺機能, intact PTH, PSAは正常範囲であった。以上より, 甲状腺濾胞癌をまず疑い, 術前放射線療法ののち, 甲状腺全摘術, 腫瘍摘出術, 気管切開術を施行した。摘出標本にて腺様嚢胞癌の診断を得た。術後, 追加照射を施行したが, 多発性骨転移, 肺転移も出現したため, 死亡した。本症例のように壁外性に浸潤するタイプの気管原発の腺様嚢胞癌は診断に苦慮することが多く, 注意を要すると考えられた。
  • ―特に患者, 家族の障害の受容と治療のゴールについて―
    伊藤 裕之, 加藤 孝邦
    2005 年 56 巻 6 号 p. 495-500
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/17
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    この論文は, 降下性縦隔炎の術後に嚥下障害を起こした患者の報告である。
    患者は, 61歳の糖尿病のある患者である。魚を食べた時に咽頭痛があった。翌日, 耳鼻咽喉科医を受診した。異物は発見されなかったが, 2日後に頸部が腫脹し, 頸部膿瘍と診断された。気管切開術が施行された。頸部と縦隔の排膿のために頸部切開術が施行され, 5日後に縦隔切開術が施行された。その後, 敗血症性ショックになり心停止を起こし, 低酸素脳症になった。救命されたが, 嚥下障害と固縮による四肢の運動障害が後遺症になった。喉頭摘出術が勧められたが, 患者は音声の喪失を受け入れられなかった。発症5カ月後に当院に入院した。咽頭食道透視検査では舌骨, 喉頭の運動障害が認められ, 大部分の造影剤を誤嚥した。患者と家族は喉頭摘出術を拒否した。輪状咽頭筋切断術より喉頭挙上術が有用と思われたが, 頸部の癒着や全身状態が不良のために行えなかった。患者は音声を希望したので, 気管切開孔を閉鎖した。気管切開孔を閉鎖した後, 肺炎を起こし, 患者は喉頭摘出術を受け入れた。嚥下障害の治療方法を決める時には, 患者や家族の障害の受容を考慮すべきである。
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