日本気管食道科学会会報
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57 巻, 3 号
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原著
  • 佐藤 克郎, 山本 裕, 高橋 姿
    2006 年 57 巻 3 号 p. 257-261
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    甲状軟骨形成術I型は声門閉鎖不全に対する手術的治療として確立したものであるが,甲状軟骨開窓部への挿入材料にはさまざまな素材が選択されてきた。当科では当初シリコンブロックを用いていたが,医療材料としての認可等の問題点を考え,ゴアテックス®シートに切り替えた。そこで,2種の挿入材料の差異による音声機能検査成績を比較検討した。術前の成績と術後の成績にはシリコン群とゴアテックス®群間で有意差はなかった。呼気流率と声の強さは両群で手術により有意に改善し,最長発声持続時間(MPT)はシリコン群で有意に改善していた。手術前後の検査値の差異を「改善度」とし,両群で比較したところ,MPTのみシリコン群がゴアテックス®群より有意に改善していた。以上,音声機能検査成績はシリコン群が若干良好であったが,社会的にも今後は医療材料として認可のあるゴアテックス®の使用が望ましい。挿入材料にゴアテックス®を用いて,より音声機能検査成績を良好に改善させる手術手技の開発が重要である。
  • 折舘 伸彦, 目須田 康, 西澤 典子, 森 美果, 中丸 裕爾, 本間 明宏, 古田 康, 福田 諭
    2006 年 57 巻 3 号 p. 262-267
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    本邦では逆流性食道炎罹患率とHericobactor pylori感染率について逆相関を示唆する報告が多いが,咽喉頭異常感,慢性咳嗽,嗄声などの咽喉頭酸逆流症状を訴える患者におけるH. pylori感染率についての報告はまだない。われわれは咽喉頭酸逆流症状にて北海道大学病院耳鼻咽喉科を受診した患者のうち血清H. pylori抗体を測定し得た67例を対象としてH. pylori抗体陽性率,咽喉頭酸逆流症状,酸抑制治療への反応性との関連を検討した。対象患者群の血清抗H. pylori抗体の陽性率は61.2%であり,H. pylori抗体陽性群と陰性群の間には,患者背景,治療前の自覚症状の各項目において有意差を認めなかった。Kaplan-Meyer解析により咽喉頭症状改善率についてはH. pylori抗体陽性群は陰性群に比べ酸抑制治療に対する反応が良好であるが,食道症状については両群間に有意差を認めないことが示された。
  • 本橋 玲, 渡邊 雄介, 渡嘉敷 亮二, 中村 一博, 鈴木 衞
    2006 年 57 巻 3 号 p. 268-272
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    Gastroesophageal reflux disease(以下GERD)とHelicobacter pylori (以下H. pylori)感染は負の相関との報告が多く,H. pylori感染はGERDの促進因子ではなく防御因子である可能性が指摘されている。酸逆流により耳鼻咽喉科領域に症状を呈する病態をlaryngopharyngeal reflux disease(以下LPRD)と呼ぶ。今回われわれは,LPRDとH. pylori感染に負の相関があるか否かについて検討した。わが国の過去の報告の合計から算出した健常者のH. pylori感染率は74.2%(271/365)であり,これをコントロールとした。今回対象としたLPRD患者のピロリ菌感染率は26.1%(36/138)であり,コントロールと比較して有意に低かった(p<0.01)。その結果LPRDとH. pylori感染は負の相関であることが示唆された。
  • 塚原 清彰, 吉田 知之, 渡嘉敷 亮二, 伊藤 博之, 清水 顕, 平松 宏之, 鈴木 衞
    2006 年 57 巻 3 号 p. 273-276
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    1994年4月から2003年10月までに東京医科大学病院耳鼻咽喉科にてTHP動注化学療法併用放射線療法にて一次治療を行った中咽頭側壁型扁平上皮癌のうち腫瘍体積の大きいT2,T3およびT4症例の25例を対象とし,局所制御率について検討した。舌扁桃溝または臼後三角への進展がない症例ではTHP動注化学療法併用放射線療法60-70 Gyでの根治を目指し,放射線終了後必要と判断した場合サルベージ手術を行った。舌扁桃溝または臼後三角へと深く進展している場合は,THP動注化学療法併用放射線療法40 Gy後に計画手術を行った。25例中22例(88%)で局所制御が可能で,副咽頭リンパ節を含め再発は見られなかった。THP動注化学療法併用放射線療法は中咽頭癌局所制御に寄与できると思われる。
  • 千々和 秀記, 進 武一郎, 坂本 菊男, 梅野 博仁, 中島 格, 藤田 博正, 末吉 晋, 森 直樹
    2006 年 57 巻 3 号 p. 277-282
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    1989年から2003年までに久留米大学病院耳鼻咽喉科および外科で根治手術を行った頸部食道癌38例についてリンパ節転移に関する検討を行った。1) 転移率が20%以上であったリンパ節はNo. 101が18例(47%),No. 102が9例(24%),No. 104が9例(24%),No. 106recが8例(21%)であった。リンパ節転移率と予後(5年生存あり,3年生存あり,なし)から新しいリンパ節群分類を考案した。その結果,No. 102,106recは2群から1群,No. 104は1群から2群となった。2) 転移を4個以上認めた6例中4例(67%)に,3個以下認めた32例中5例(16%)に遠隔転移を認めた(p=0.007)。3)転移を2部位以上に認めた17例中7例(41%),1部位以下に認めた21例中2例(10%)に遠隔転移を認めた(p=0.02)。4)被膜外浸潤を認めた18例中8例(44%)に,認めなかった20例中1例(5%)に遠隔転移を認めた(p=0.004)。転移リンパ節を4個以上,2部位以上,被膜外浸潤を認めた症例に対しては化学療法を併用する必要があると考えられた。
症例報告
  • 岡本 伊作, 中村 一博, 吉田 知之, 竹之内 剛, 鈴木 衞
    2006 年 57 巻 3 号 p. 283-287
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    声帯溝症の治療には,側頭筋膜移植術,シリコン注入術,脂肪注入術,音声治療,など多数の報告がある。今回われわれは,甲状軟骨形成術I型+II型を施行し,奏効した症例を経験したので報告する。症例は72歳男性,主訴は嗄声であった。聴覚印象はG(3)R(2)B(3)A(1)S(3),MPTは8秒,F0は191 Hz,ストロボスコピーで両側声帯遊離縁に溝を認め声帯溝症と診断し,溝のより深い左側にI型を施行した。術後気息性嗄声は改善したが,ピッチに関しては満足が得られなく,また溝がわずかに残存していたため,左側のI型の再施行と両側のIV型を追加した。術後はG(1)R(1)B(0)A(0)S(0),MPTが25秒,F0は223 Hzに上昇した。以上より甲状軟骨形成術I型は声帯溝症の声門閉鎖不全を解消するのに有用であった。また,IV型を追加することでより患者の満足がいく音声が得られた。
  • 三枝 英人, 中村 毅, 愛野 威一郎, 松岡 智治, 小町 太郎, 粉川 隆行
    2006 年 57 巻 3 号 p. 288-297
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    近年,今まで健常と思われていた小児においても胃食道逆流によってさまざまな咽喉頭病変の発症することが明らかになってきた。このうち,喉頭痙攣と声門上狭窄は急速進行性で,生命の危機に繋がるため重要である。しかし,その診断·治療の指針は未だ明らかではない。
     今回われわれは胃食道逆流により急性喉頭狭窄を発症した小児4例を経験した。症例1は,8カ月女児で固形物を摂取後に喉頭痙攣を呈するようになった。症例2は12カ月男児で喉頭痙攣とともに中枢性無呼吸を合併した。症例3は7歳女児で喉頭痙攣と無呼吸,体重減少を伴った。症例4は5歳男児で窒息寸前に至るほどの声門上狭窄を反復した。ゲップや吃逆,唾液の反復嚥下,乾性咳嗽などのGERD関連症状と,生活·食習慣について両親に詳しく問診を行ったところ,全例で何らかの症状や問題点のあることが確認された。喉頭内視鏡検査では全例で披裂部-披裂間部を中心とした粘膜の発赤·腫脹を認めた。頸部側面X線検査では全例で頸部食道壁の腫脹が確認された。VTR上部消化管造影検査では喉頭痙攣の3例で食道蠕動の低下,声門上狭窄例で高度の胃下垂,胃排泄能の低下のあることが指摘された。以上のことから,GERD関連症状の有無と生活·食習慣の問題点について両親に詳細な問診を行い,声門後部を中心とした咽喉頭所見,頸部側面X線による頸部食道壁の腫脹の有無を確認することが,急性喉頭狭窄を呈する小児の胃食道逆流例についての,簡便で,かつ有用な診断方法であると考えられた。加えて,VTR上部消化管造影検査は食道蠕動や胃排泄能などの上部消化管機能異常を検出する上で有用な検査法であると思われた。
     治療については,小児の成長,成熟を考慮すると,酸分泌抑制剤を中心としたGERDの薬物療法とともに,生活·食習慣に対する指導を行うことが重要であると考えられた。
  • 中村 一博, 吉田 知之, 鈴木 伸弘, 竹之内 剛, 岡本 伊作, 渡嘉敷 亮二, 鈴木 衞
    2006 年 57 巻 3 号 p. 298-306
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
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    咽頭食道異物は外来診療において遭遇することの比較的多い疾患である。通常は経口的,経内視鏡的に摘出可能であるが,異物の種類によっては頸部外切開が必要となることもある。今回われわれは外切開による摘出を必要とした下咽頭頸部食道異物の3例を経験したので報告する。
     症例1と2は義歯の紛失が主訴であった。CTと単純X線にて下咽頭頸部食道に義歯を認めた。同日,全身麻酔下頸部外切開にて摘出した。
     症例3は食事中の突然の顔面頸部腫脹を主訴に当院救命救急部を受診した。初診時のCTにて頸部皮下気腫,縦隔気腫,下咽頭頸部食道異物を認めていたが救命的処置を優先し,第11病日に当科を受診した。同日緊急切開排膿術,異物摘出術を施行した。多量の膿汁と頸部食道粘膜壊死を認め,食道外に蟹の殻が存在していた。第78病日に敗血症で死亡した。
     下咽頭頸部食道粘膜は薄く鋭利な物質で容易に穿孔する。誤飲した異物についての詳細な問診が重要である。有鉤義歯の鉤が陥入している場合,無理に抜こうとすると消化管穿孔の原因となる。症例3は皮下気腫から縦隔膿瘍,敗血症となり不幸な転帰をたどった。迅速な診断が重要である。
     下咽頭食道異物症例では診断の遅れが致命的になることもある。詳細な問診,迅速な診断,適切な処置が重要である。
  • 高山 賢哉, 高山 明美, 佐藤 英幸, 赤坂 圭一, 一和多 俊男, 濱島 吉男, 長尾 光修
    2006 年 57 巻 3 号 p. 307-311
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル 認証あり
    胸部X線写真にて腫瘤影を呈さず,肺嚢胞壁に沿って浸潤増殖した肺腺癌の1手術例を報告する。
     症例は65歳,男性。近医にて平成11年7月左下葉の肺嚢胞を指摘され,この1年間に2度肺胞内感染の既往があった。今回血痰が出現したため平成15年1月精査加療目的で当科に紹介された。胸部レントゲンでは左下葉に約60×50 mmの嚢胞を認め,平成11年の胸部レントゲン所見に比べその嚢胞は増大し,壁は不整に肥厚していた。気管支鏡検査にて左底幹気管支に血性分泌物の付着を認めたが,気管支の狭窄や粘膜の異常は見られなかった。左底幹気管支の洗浄液で細胞診が陽性であったため肺嚢胞に併発した肺癌を疑い,平成15年3月左下葉切除術を施行した。病理所見では嚢胞壁に沿って浸潤増殖した中等度分化型の乳頭状腺癌であり,胸部レントゲンで嚢胞壁の不整肥厚像をきたしたものと考えられた。肺嚢胞の経過観察中に壁肥厚が認められた場合には悪性疾患の合併を念頭に入れる必要がある。
  • 原 聡, 岩江 信法, 長谷川 稔文, 米澤 宏一郎
    2006 年 57 巻 3 号 p. 312-317
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル 認証あり
    甲状腺腫瘍の終末像の一つに気道閉塞があり,姑息的治療とはいえステント留置による気道確保の持つ意義は大きい。甲状腺腫瘍患者では未分化癌などを除き気道が確保されていれば,担癌状態で比較的長期生存が期待でき,これは肺癌·食道癌患者に行うステント留置の場合と大きく異なる。長期留置に耐え得るよう,ステントの種類·位置の選択をCTや内視鏡等で事前に十分検討する必要がある。今回われわれは甲状腺腫瘍による気管狭窄に対して気管ステントを留置した3症例を経験したので報告する。
     根治治療が困難な気管狭窄を伴う甲状腺腫瘍症例に対するステント使用が補助的治療として有用であり,QOLの向上に役立つものと考えられた。
  • 児嶋 剛, 庄司 和彦, 池上 聰, 岸本 曜, 高橋 淳人
    2006 年 57 巻 3 号 p. 318-325
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル 認証あり
    甲状腺癌の気管浸潤例では気管合併切除が必要になることがある。高齢者の気管再建には手術侵襲,周術期の安全性を考慮すると二期的再建が気管端々吻合より安全性が高く適している。今回われわれは高齢者に対し耳介軟骨を用い二期的に再建を行った2症例について報告する。症例1は83歳女性。甲状腺癌の気管浸潤による呼吸困難を認め,甲状腺全摘術および気管壁部分切除を行った。4×1.5 cmの気管欠損に対して耳介皮膚軟骨複合弁を遊離移植し再建をした。症例2は81歳女性。甲状腺癌の気管浸潤および気管内への出血を認め甲状腺右葉切除および気管壁部分切除を行った。気管壁欠損部が大きかったため一度皮下に耳介皮膚軟骨複合弁を埋め込んで生着してから再建を行った。この方法は移植片の確実な生着を期待でき安全である。
用語解説
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