日本気管食道科学会会報
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58 巻, 6 号
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原著
  • 中村 一博, 一色 信彦, 讃岐 徹治, 長井 慎成, 金沢 英哲
    2007 年 58 巻 6 号 p. 519-526
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
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    右側喉頭麻痺は,左側に比べると頻度は低い。反回神経の走行が,解剖学的に左側が長く胸腔内を走行するため左側に麻痺が起こりやすいと考えられている。頻度が少ない右側喉頭麻痺の特色と術式について検討した。
    症例は1994年から2006年に一色クリニック・京都ボイスサージセンターにて手術を施行した片側喉頭麻痺110例のうち,右側喉頭麻痺の35例である。年齢は17歳から75歳(平均49.4歳),性別は男性22例女性13例であった。麻痺の原因は,甲状腺手術16例,頸部迷走神経鞘腫手術5例,特発性3例,縦隔迷走神経鞘腫手術3例,脳腫瘍3例,以下食道癌手術,頭部外傷,頸椎手術によるものが各1例ずつであった。
    術式は声門間隙の広いものは披裂軟骨内転術(Arytenoid Adduction:AA)を,狭いものには甲状軟骨形成術1型(1型)を選択した。声門間隙が広くかつ萎縮の強いものにはAAに加え1型を併施した。まずAAまたは1型またはAA+1型にて声帯正中移動を施行した。その後,甲状軟骨と輪状軟骨の接近テストを施行し,音声の改善を認めた10例には甲状軟骨形成術4型(4型)を追加した。4型追加症例は麻痺の原因疾患より,輪状甲状筋機能不全が疑われた症例であった。手術前後の音声の評価は最長発声持続時間(MPT)とAlternating Current/Direct Current Ratio (AC/DC比)を用いた。
    術後のMPTは1例のみ不変であったが34例は改善した。AC/DC比は1例を除き増加した。
    片側声帯麻痺で輪状甲状筋機能不全の疑いがある際には声門閉鎖不全の解消のみならず声帯前後方向の緊張が必要である。まずAAや1型,またAA+1型により声帯正中移動させ,その上で患者の音声をモニタリングし,術中にオプションとして4型の併用の選択を考慮することは重要である。
  • 春日井 滋, 渡辺 昭司, 赤澤 吉弘, 大塚 崇志, 富澤 秀雄, 信清 重典, 肥塚 泉
    2007 年 58 巻 6 号 p. 527-532
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれは1985年から2005年までの21年間における食道異物237症例の統計を行い,異物の種類や,摘出方法の変遷を認めたので報告する。
    平均年齢は49.5歳(最少8カ月,最高91歳),性差は男性90例,女性147例であった。異物全体の内訳はPTP(37.6%),魚骨(24.5%),コイン(13.1%),義歯(8.0%)と,過去の報告で一番多かったコインが三番目となった。年齢分布は10歳未満と50歳以上に多く,二峰性を示した。10歳未満では圧倒的にコインが多かった。一方,中高年ではPTP,魚骨,義歯,肉片の順に多かった。
    介在部位は第1狭窄部が全体の約84.4%を占めた。
    摘出方法は全身麻酔下,直達食道鏡によるものが79.7%(237例中189例)と大半を占めていたが,2003年以降内視鏡による摘出が82.9%(35例中29例)と急激に増加していた。摘出方法の変化は内視鏡の器具の進歩がもたらしたと考える。
症例報告
  • 中村 毅, 三枝 英人, 愛野 威一郎, 大久保 公裕
    2007 年 58 巻 6 号 p. 533-536
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    近年,本邦においても,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増加が懸念されている。COPDの薬物療法には,吸入抗コリン薬が,単独でも十分な効果があり,全身的副作用が少ないことから多く使用されている。われわれは,最近開発された長時間作用型の吸入抗コリン薬(チオトロピウム)の使用により,喉頭内腔が湿潤性を失い嗄声をきたした症例(“喉頭乾燥症”と仮称した)を経験したので報告する。
    症例は,60歳の男性。2カ月前から,声の出し難さと,嗄声が出現し,改善しないため,当科を受診した。喉頭内視鏡で観察を行ったところ,披裂間部および声帯後方に痂皮を伴う粘膜の湿潤性低下を認めた。詳しく問診を行ったところ,2カ月半前から,COPDに対して長時間作用型の吸入抗コリン薬(チオトロピウム)が投与されていたことが判明した。そこで,同薬を中止したところ,約1カ月で,喉頭内視鏡所見と嗄声は完全回復した。
  • 木村 美和子, 二藤 隆春, 萩野 昇, 田山 二朗
    2007 年 58 巻 6 号 p. 537-544
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    再発性多発性軟骨炎は多彩な病態を呈し,その中でも気道病変が予後を左右するとされる。今回われわれは声門下狭窄をきたした再発性多発性軟骨炎の2例を経験した。症例1は60歳女性で主訴は嗄声,喉頭内視鏡検査にてポリープ様声帯と声門下狭窄が認められた。徐々に労作時の呼吸困難が出現し,耳介に発赤腫脹を認めた。耳介軟骨からの生検にて再発性多発性軟骨炎と診断された。ステロイドパルスを施行し一旦呼吸症状は落ち着いたが,その後呼吸困難が増悪したため気管切開術を施行し,現在も経過観察中である。症例2は18歳男性で嗄声を主訴に当院を受診し,経過中に湿性咳嗽,労作時の呼吸困難が出現した。喉頭内視鏡検査で声帯の可動制限および声門下狭窄が確認され,鞍鼻も認められた。呼吸困難が増悪したため気管切開術と同時に気管軟骨より生検し,再発性多発性軟骨炎と診断された。ステロイドパルス施行し咳嗽,痰は落ち着き,現在も経過観察中である。2症例とも経過観察中に呼吸困難を生じ,気管切開術を余儀なくされた。本疾患の死因としては喉頭気管病変が最多とされており,気道の観察と管理が重要であると考えられた。
  • 佐藤 公則
    2007 年 58 巻 6 号 p. 545-551
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    ビデオエンドスコープ(電子内視鏡)は内視鏡の先端に超小型半導体撮像素子カメラ(CCD:Charge Coupled Device)を装着し,細径でありながら高精細画像が得られる。上部消化管ビデオエンドスコープを経鼻挿入し頸部食道異物摘出術を外来で行った。
    使用機種は送気・送水・鉗子チャンネル付き(処置用)と付かない(観察用)ビデオスコープである。先端径は5.3mmと4.1mmである。
    本法の利点は1)モニター上に高精細画像が得られ的確な診断と微細な処置が行える。2)先端径が細いため患者に与える苦痛が少ない。3)鎮静や全身麻酔を行わず,耳鼻咽喉科外来の診察椅子の上で,仰臥位で処置が行える。4)経鼻内視鏡により咽頭反射が強い患者でも処置が行える。5)明瞭な画像を観察しながら内視鏡を明視下に挿入できるため,安全な処置が行える。本法の欠点はどの程度の大きさの,どのような形状の頸部食道異物まで摘出できるかという限界がある。
    経鼻ビデオエンドスコピーによる頸部食道異物摘出術は,外来で行える食道異物摘出術の選択肢の一つであり,外来手術としての食道異物摘出術の適応が拡大される可能性があった。
  • 進 武一郎, 千々和 秀記, 宮嶋 義巳, 梅野 博仁, 中島 格, 末吉 晋, 藤田 博正
    2007 年 58 巻 6 号 p. 552-555
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    今回,われわれは頸部食道に発生した原発性頸部食道腺癌を経験したので報告する。症例は76歳の女性で,主訴は咽喉頭違和感であった。内視鏡検査を施行し,頸部食道に正常食道粘膜で被われた隆起性病変を認めた。食道造影検査では,頸部食道に長さ4cmの全周性の陰影欠損像を認めた。細胞診で腺癌と診断されたため,喉頭温存下に頸部食道摘出術,遊離空腸再建術を行った。組織学的診断は高分化型腺癌であった。腫瘍は粘膜下層に主座をおき,筋層浸潤を認めたが,上皮は正常な扁平上皮で被われ,異型は認めず,食道固有腺より発生した原発性食道腺癌と診断した。食道腺由来の原発性食道腺癌は粘膜下腫瘍像を呈することが多く,良性腫瘍との鑑別に際して,考慮すべき疾患の1つであると考えられた。
  • 木村 隆広, 大久保 淳一, 平川 治男
    2007 年 58 巻 6 号 p. 556-560
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    気管・気管支異物は危険性が高く,迅速かつ適切な対応が必要である。多くの異物は硬性気管支鏡や軟性気管支鏡により摘出されるが,摘出に難渋する例もある。今回,われわれは気管切開孔より摘出した例を経験したため,これを報告する。
    症例は56歳,男性。既往歴,脳梗塞と脳出血。胃瘻栄養がされていたが,少量の経口摂食が可能であった。ある日,肉片を誤嚥し,重度の呼吸困難が出現した。異物は気管分岐部直上に存在したが,あまりに大きいため硬性気管支鏡や軟性気管支鏡では声門下の通過は困難と思われた。急速な窒息に備え,経皮的心肺補助法(PCPS)を準備したが,使用せずに自発呼吸下,気管切開孔より摘出し得た。
  • 富岡 利文, 福家 智仁, 宮村 朋孝, 山田 弘之
    2007 年 58 巻 6 号 p. 561-567
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    高齢者甲状腺癌では,遠隔転移とともに,周辺臓器浸潤を有する,いわゆるhigh-risk癌の率が高くなってくる。high-risk癌でも,特に,気道浸潤例では,近々の呼吸困難が患者のQOLを低下させることから,積極的手術が求められる。最近手術をした,80歳前後の高齢者high-risk癌の2例を提示する。いずれも,反回神経,気管への浸潤を認め,マイクロ下に温存を試みるも,最終的に神経合併切除を余儀なくされた。術後の嗄声,誤嚥,年齢を考慮して一期的に甲状軟骨形成術I型を併施した。術後の嗄声は軽度で,誤嚥は認めなかった。長期生命予後が約束されない,高齢者high-risk癌では一期的な対応にて患者への十分な利得をもたらしていることを強調したい。
  • 齊藤 寛, 盛川 宏, 平林 秀樹, 馬場 廣太郎, 春名 眞一, 小林 哲, 三好 新一郎
    2007 年 58 巻 6 号 p. 568-573
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    降下性壊死性縦隔炎の2症例を経験した。症例1は79歳女性,頸部腫脹を主訴に近医受診し,CTにて頸部から上縦隔にかけて膿瘍性変化認められ,当科を紹介受診した。同日緊急で深頸部,開胸ドレナージ術を施行した。術後はドレーンを介して洗浄を行い,抗生剤,グロブリン製剤の投与を行い,軽快した。症例2は70歳女性で基礎疾患として糖尿病があり,顎下部膿瘍にて近医入院し,膿瘍切開術を受けたが頸部腫脹が改善せず,呼吸苦出現したため当院紹介された。緊急気管切開術を行いCTにて上縦隔に膿瘍形成が認められたため頸部および開胸ドレナージ術を施行した。術後は症例1と同様に創洗浄,化学療法を行い軽快した。降下性壊死性縦隔炎と診断した場合,早期の切開排膿術が予後を大きく左右すると思われた。
  • 高柳 博久, 小森 学, 中山 次久, 米本 友明, 部坂 弘彦, 森山 寛
    2007 年 58 巻 6 号 p. 574-581
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/25
    ジャーナル 認証あり
    特発性縦隔気腫は比較的まれな疾患といわれているが,報告は徐々に増えている。この理由としてCTの性能の向上,普及があげられる。 当院でも最近3年間に6症例を経験した。6症例は全員男性であり,平均年齢は16歳であった。発症の誘引は運動が4例,ないものが2例であった。全例入院にて安静,抗菌薬投与を行い,経過良好にて退院となった。平均入院期間は9.6日であった。今回自験例6例と過去20年間の本邦報告例を合わせた220例の臨床的検討を行った。
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