日本気管食道科学会会報
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59 巻, 3 号
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原著
  • 高野 真吾, 木村 美和子, 二藤 隆春, 肥後 隆三郎, 田山 二朗
    2008 年 59 巻 3 号 p. 295-303
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
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    喉頭外傷は,障害の部位,程度,受傷からの期間等により治療法が異なり,一貫した対応法がないのが現状である。今回過去12年間に当科を受診した喉頭外傷40例を急性期群15例(受傷から14日以内に受診),慢性期群25例(受傷から15日以降に受診)にわけ,それぞれTroneらによるGroup1から4までの重傷度分類を用いて検討した。年齢は19~63歳,平均34.3歳であった。Group1~4はそれぞれ10例,12例,13例,5例であった。急性期群の15例中,4例にステロイドの全身投与を行った。急性期群で気管切開を施行した例は認めなかった。慢性期群の25例中,12例が急性期に他院で気管切開を施行された。内訳は,Group2で2例,Group3で5例,Group4で5例であった。慢性期群25例のうち,10例に対して機能再建手術を行った。うち術後も3例で気管孔が開存しており,3例ともGroup4症例であった。軽症例では機能改善が得られた例も認めたが,Group4では喉頭機能再建が困難であった。症例ごとに喉頭の状態を適切に評価し,慎重な治療計画を立てることが重要である。
  • 木村 美和子, 二藤 隆春, 今川 博, 田山 二朗
    2008 年 59 巻 3 号 p. 304-310
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
    ジャーナル 認証あり
    声帯内注入術は声帯充填術の一つであり,声帯萎縮による嗄声や誤嚥の改善を目的として行われる。筋層の萎縮を補正するのが基本であるため,反回神経麻痺による萎縮が良い適応となる。注入材料として理想的なものは未だ存在せず,現状ではアテロコラーゲンや自家脂肪,自家筋膜などが用いられるが,それぞれに長所,短所があり,それらを理解した上で使いこなすべきである。アテロコラーゲンは,異種タンパクであるためアレルギー反応の可能性があり,吸収率が高いことから複数回の注入が必要になる等の短所があるが,注入手技が多彩で簡便であるため使用しやすく,外来で局所麻酔下に容易に注入できるという長所がある。今回われわれは声帯麻痺による萎縮に対して声帯内コラーゲン注入術を施行した全症例を2年以上経過観察した群と観察期間2年未満の群とに分けて長期経過を検討した。
    1990年1月から2005年12月に当科で一側声帯麻痺に対して声帯内コラーゲン注入術を施行し,最低3カ月以上経過観察し得た121名を対象とし,2年以上経過観察した群は39名で,観察期間2年未満の群は82名であった。声帯内コラーゲン注入術を施行後,両群においていずれも最長発声持続時間(以下MPTと略),平均呼気流率(以下MFRと略)は統計学的に有意に改善した。注入前のMPTとMFRを両群で比較すると有意差はなく,注入後も同様に有意差を認めなかった。
    声帯内コラーゲン注入術を施行した一側声帯麻痺症例を検討し,注入後2年以上経過した群と2年未満の群に分けて音声機能の変化を調査した。その結果,注入後2年以上経過しても,注入前より有意差をもって良好な音声を示し,声帯麻痺症例においては注入されたアテロコラーゲンは長期的にある程度安定した効果が得られると推定された。
  • 中村 一博, 一色 信彦, 讃岐 徹治, 金沢 英哲
    2008 年 59 巻 3 号 p. 311-317
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
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    片側喉頭麻痺の手術治療にはいくつかの選択肢があるが,大きく分けると喉頭枠組み手術と声帯注入術に分けられる。全身麻酔下に施行する声帯注入術と喉頭枠組み手術では術中の音声モニタリングが不可能である。一方,局所麻酔下に施行する喉頭枠組み手術では,術中の音声モニタリングにより,細かな調節性に優れる。故に当クリニックでは伝統的に局麻下の喉頭枠組み手術を施行してきた。
    今回われわれは,一色クリニック・京都ボイスサージセンターにおいて片側喉頭麻痺に対し喉頭枠組み手術を施行した症例について検討した。症例は1994年から2006年までに当クリニックにおいて片側喉頭麻痺に対して喉頭枠組み手術を施行した110例である。男性66例,女性44例,平均年齢は52.9歳であった。麻痺側は左が68.8%,右が31.2%であった。麻痺の原因疾患は甲状腺腫術,食道癌手術,肺癌手術,縦隔手術,特発性,脳腫瘍などであった。術前術後の音声の評価には最長発声持続時間(MPT)とAlternating Current/Direct Current Ratio (AC/DC比)を用いた。術式の選択は声門間隙の大きいものには披裂軟骨内転術(Arytenoid Adduction:AA)を,声門間隙の小さいものには甲状軟骨形成術1型(1型)を選択し,声帯の緊張が足りない場合にさらに甲状軟骨形成術4型(4型)を追加した。術式の追加は術中に音声モニタリングにて判断した。
    術式のうちわけは1型単独:45例,1型+4型:13例,AA単独:6例,AA+1型:39例,AA+1型+4型:7例であった。110例の平均MPTは術前5.9秒,術後13.5秒であった。AC/DC比は2004年6月以降の42症例で測定されており,術前平均は24.4%,術後平均は46.2%であった。
    片側喉頭麻痺の術式の中で,局麻下喉頭枠組み手術の治療効果は確実であり有用である。
  • 西田 直哉
    2008 年 59 巻 3 号 p. 318-329
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
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    内喉頭筋の加齢変化を,筋線維数,筋線維径,筋収縮タンパク組成,神経下装置の形態について成熟ラットと加齢ラットで比較することにより検討した。加齢により,前筋では筋線維数,筋線維径ともに減少していたが,内筋では筋線維数は減少していたものの,筋線維径には有意な変化はなかった。後筋では筋線維数,筋線維径とも有意な変化はなかった。筋収縮タンパク組成に関しては,加齢により前筋ではタイプIIBの減少とタイプIIAの増加がみられたが,内筋や後筋ではそのような変化はみられなかった。また,神経下装置の1次シナプス間隙の形態については,前筋では加齢により迷路型が減少し陥凹型が増加していたが,内筋や後筋では有意な変化はみられなかった。加齢群の前筋において未熟な形態の神経下装置が散見され,remodelingが頻繁に生じていると推察された。
    以上の結果より,内喉頭筋のうち前筋は加齢変化を受けやすいが,内筋や後筋はあまり影響を受けず機能障害をきたしにくい構造と考えられた。これは前筋が声帯の筋緊張を調節しているのに対し,内筋や後筋は呼吸や嚥下など生命活動維持に必須の機能を果たしているためと推察した。
  • 佐藤 克郎, 山本 裕, 渡辺 順, 早坂 修, 高橋 姿
    2008 年 59 巻 3 号 p. 330-337
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
    ジャーナル 認証あり
    1988~2006年の19年間に当科音声外来を受診した1,430例につき臨床的に検討した。疾患の内訳は声帯麻痺が18.0%と最も多く,以下声帯ポリープ(12.6%),声帯結節(11.7%),声帯溝症(12.0%),喉頭に器質的病変のない音声障害(9.8%),慢性喉頭炎(8.5%),ポリープ様声帯(6.1%)と続き,正常例も11.5%みられた。喉頭癌,喉頭良性腫瘍,声帯溝症,声帯麻痺は男性に多く,声帯結節,声帯ポリープ,ポリープ様声帯は女性に多い傾向がみられた。声帯結節は小児に,声帯ポリープとポリープ様声帯は中年,声帯溝症と声帯麻痺は高齢者で多い傾向があった。成年の声帯結節,声帯ポリープ,ポリープ様声帯,声帯溝症,声帯麻痺の5疾患の音声機能検査成績を男女別に検討したところ,声門閉鎖不全は検討した女性の声帯溝症を除く全疾患で有意に認められ,声の強さの障害は男女とも声門閉鎖不全の高度な声帯麻痺で,声の高さの障害は男女とも声帯の質量と弾性の変化が大きいポリープ様声帯および男性の声帯結節,声帯溝症,声帯麻痺で有意差がみられた。
症例
  • 石田 良治, 立松 正規, 関 伸二
    2008 年 59 巻 3 号 p. 338-341
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
    ジャーナル 認証あり
    急性喉頭蓋炎は,時に急速な気道狭窄を起こし,気道確保を要する場合があり,その対応によっては窒息死に至る症例も報告されている。今回われわれは,発症後約3時間で窒息状態に至った急性喉頭蓋炎の1例を経験したので報告する。症例は52歳女性。2007年3月15日14時30分頃より軽度の咽頭痛を自覚し,近医で急性喉頭蓋炎と指摘され,同日18時5分に当院を受診した。来院後約5分で呼吸停止をきたした。即座に輪状甲状膜切開による気道確保を行い蘇生し得た。しかし,第3病日より声門下狭窄を生じ,切開孔閉鎖まで約40日を要した。輪状甲状膜切開は急性上気道狭窄には有用であるが,特に上気道炎症性疾患においては術後早期より声門下肉芽を生じる危険があり,適切な時期での気管切開,気管内挿管による気道確保が重要と考えた。特に急性喉頭蓋炎においては,本症例のように急速に悪化することも念頭において初診の段階からの入院を含めた厳重な経過観察および気道確保に対しての的確な判断が必要と考える。
  • 猪 健志, 正來 隆, 落合 敦, 大橋 健太郎, 岡本 牧人
    2008 年 59 巻 3 号 p. 342-346
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
    ジャーナル 認証あり
    気管切開術を必要とした幼児の喉頭異物を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例は1歳9カ月女児,異物はプラスチック製の星型で声門から声門下にかけて嵌頓していた。マッキントッシュ型喉頭鏡をかけて異物摘出を数回試みているうちに呼吸状態が悪化したため,緊急に気管切開術を施行した。気道確保後に喉頭顕微鏡下で異物を摘出した。気管切開術は気道確保と手術手技の両方の面で必要であったと考えられた。術後,合併症の1つである気管軟化症を認めた。原因として術後の気管支炎,幼児ならではの気管脆弱性が考えられた。幼児気管切開術後の気道管理の重要性をあらためて認識させられた。
  • 中川 秀樹, 永竿 万貴, 甲能 直幸, 楠山 敏行, 福田 宏之, 小川 郁
    2008 年 59 巻 3 号 p. 347-353
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
    ジャーナル 認証あり
    単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染により咽喉頭,とりわけ咽頭に病変を生じうることは知られているが,その臨床経過や検査所見等について詳細に検討された報告は少ない。平成16年から平成18年までの3年間に当科を受診した成人症例のうち,咽喉頭粘膜に所見を認め,ウイルス特異抗原あるいは血清抗体値の測定によってHSV感染と考えられた14例について検討した。男性7名,女性7名,平均年齢は29.9歳。内視鏡的所見にて口蓋扁桃や咽頭後壁のみならず,軟口蓋,舌根部,喉頭蓋,梨状窩,披裂部,披裂喉頭蓋襞等に広範に認められる白色の粘膜疹が特徴的であり,喉頭蓋の腫脹や声帯運動障害が認められる例もあった。口唇ヘルペスや歯肉炎等の,HSV感染として典型的とされる所見が認められた例は半数以下であった。特異抗原検査によって2型と診断されたものが2例あった。衛生環境の向上による成人における抗体保有率の低下等の要因により,本疾患は増加傾向にあると考えられている。日常臨床において遭遇する咽喉頭炎症例の中に占める割合も決して少なくないと推測され,咽喉頭の診療に際しては念頭に置く必要のあるものと考えられる。
  • 佐藤 克郎, 渡辺 順, 富田 雅彦, 高橋 姿
    2008 年 59 巻 3 号 p. 354-360
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2008/06/25
    ジャーナル 認証あり
    根治切除をし得た頸縦隔型脂肪肉腫の1例を経験したので報告する。症例は78歳男性,71歳時に検診の胸部X線写真で異常を指摘,近医胸部外科のCTで縦隔脂肪腫として経過観察されていた。77歳時に呼吸困難感が出現し,CTとMRIで頸部から後縦隔に連続する巨大な腫瘍影を認め,脂肪肉腫の疑いで同科にて右開胸下縦隔腫瘍摘出術が行われた。病理組織診断は脂肪腫であったが臨床的に脂肪肉腫が否定できず,頸部腫瘍の加療目的に当科を紹介された。前頸部U字切開により手術を施行,いくつかの腫瘍塊が癒着して咽頭後間隙に存在した腫瘍を頸部両側からのアプローチで周辺臓器を温存し全摘した。術中迅速病理組織診断は脂肪腫であったが,永久病理組織診断で高分化型脂肪肉腫と診断された。術後3年3カ月再発を認めていない。本疾患は周囲への浸潤傾向は強くなく,手術で十分な安全域確保が困難でも術後照射を併用して根治可能である。頸部や縦隔で脂肪肉腫が疑われる症例においては,部位や進展範囲で躊躇することなく周辺臓器を温存して全摘を行うことが診断確定,治療,術後の方針決定において有用と考えられた。
用語解説
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