日本気管食道科学会会報
Online ISSN : 1880-6848
Print ISSN : 0029-0645
ISSN-L : 0029-0645
61 巻, 4 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • 宮本 真, 森 有子, 中川 秀樹, 田村 悦代, 新美 成二, 福田 宏之
    2010 年 61 巻 4 号 p. 345-352
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    声帯麻痺は,喉頭疾患のうち比較的頻度の高い疾患であり,その臨床統計や治療成績はこれまでにも数多く報告されている。今回われわれは,2001年1月から2008年12月までの8年間に東京ボイスセンターを受診した声帯麻痺症例の臨床的検討を行った。期間中外来を受診した声帯麻痺は458例,男性229例 (50.0%),女性229例 (50.0%) で,年齢は4歳から90歳 (平均年齢54.6歳) であった。麻痺側は右側138例 (30.1%),左側295例 (64.4%),両側25例 (5.5%) であった。原因別では術後症例は262例 (57.2%) で,非術後例は特発性75例 (16.4%) を含め196例 (42.8%) であった。混合性麻痺は29例 (6.3%),麻痺の完全回復した症例は28例 (6.1%) であった。
    治療は,音声治療から開始した症例,手術治療を先行させた症例など患者の希望をふまえつつ症例によって行った。
  • 斉田 晴仁, 大橋 一男, 原 克俊
    2010 年 61 巻 4 号 p. 353-360
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    蒸気吸入療法は,薬剤を使用せず副作用の心配もないことから,古くはHippocratesの時代から民間療法として行われている。鼻疾患では,有用性が認められているが,咽喉頭領域では医学的な検討が充分行われていない。今回,水,電気も不要な鉄の酸化反応により発生した熱を使う携帯型蒸気吸入器を用い,歌手や俳優,教師等での就業直前の声のケア効果について,吸入前後での音声検査,EGG (Electroglottography),カラーハイスピードカメラによる声帯振動と喉頭気道液の動態について調べ検討した。
    1.正常声帯例での音声検査は,吸入後APQ,PPQ,NHRは低くなり音声が改善しEGGOQは低くなった。
    2.正常声帯例では,喉頭気道液は,声帯上で紡錘状液柱を形成し回転運動を起こし,吸気時には気道液が声帯縁を覆うように落下した。これは,川井田らの成犬摘出喉頭等での実験説を支持する結果であった。
    3.吸入後,気道液は声帯前連合部位にも水かき状に分布し,声帯振動に伴う伸展運動を認めた。これはEGGOQが低くなったことと関係すると思われた。
    4.声帯縁中央が膨隆する症例では,吸入後EGGOQが増加した。これは,吸入で補充された気道液が,膨隆部位に付着し質量を増やすことで声帯振動の開閉速度に影響を与えたためと思われた。
    5.携帯型蒸気吸入器は,症例により声の改善が認められ,これは喉頭気道液の動態改善によるものと推測された。
  • 山内 彰人, 大木 雅文, 加藤 央, 岸田 櫻子, 北野 睦三, 熊谷 譲, 中井 淳仁, 福岡 久代, 田山 二朗
    2010 年 61 巻 4 号 p. 361-367
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    今回われわれは,2003年から2007年に当科外来を受診したウイルス性混合性喉頭麻痺症例を対象に臨床的検討を行った。検討症例は8例 (男性7例,女性1例),平均年齢は61±8歳 (25~86歳) で,6例に嚥下困難,5例に嗄声を認めた。声帯麻痺側に左右差はなく,7例が完全麻痺,1例が不全麻痺であった。全例が水痘帯状疱疹ウイルス (VZV) の再活性化によるものと考えられた。咽頭麻痺が全例,複数の脳神経障害が3例で見られた。6例が抗ウイルス剤投与,6例がステロイド投与,5例がリハビリテーション,2例が手術を受けた。声帯麻痺は発症から平均5.3±1.7カ月 (1.0~13.0カ月) の間に2例が治癒,5例が改善し,1例が不変であった。脳神経障害は発症から平均3.6±1.0カ月 (0.5~8.0カ月) の間に6例が治癒し,2例が改善した。嚥下造影 (VF) を行った7例中1例は正常,1例は口腔期障害,5例は口腔咽頭期障害を認めた。7例中4例で誤嚥が見られたが,経過を追った3例全例で誤嚥は消失した。ウイルス性混合性喉頭麻痺の脳神経障害は高率に改善するが,声帯麻痺は遷延し不全麻痺が残存する傾向にあり,ウイルス性が疑われた症例ではVZV感染を想定し,早期に抗ウイルス薬を投与すべきと考えられる。
  • 中村 一博, 塚原 清彰, 吉田 知之, 稲垣 太郎, 清水 雅明, 豊村 文将, 岡田 拓朗, 鈴木 衞
    2010 年 61 巻 4 号 p. 368-374
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    披裂軟骨内転術 (AA) はその手術手技の煩雑さゆえに,術者が単独で執刀することがためらわれる術式である。そのため,小規模病院の常勤医一名の環境ではやや選択しにくいと考えられている。一方,全身麻酔下声帯注入術は術者が単独でできる術式であるが,声門間隙が広い症例など適応には限界があり,AAを選択したい症例も多い。今回われわれは,AAを術者単独で施行する手術手技と器具を工夫し,単独群と複数群を比較検討した。
    症例は2001年1月から2009年6月までに当科でAAを施行した23例のうち,AAに甲状軟骨形成術I型 (I型),甲状軟骨形成術IV型 (IV型) を併施した16例である。男性10例,女性6例,平均年齢は60.4歳であった。術式はAA+I型が13例,AA+I型+IV型が2例,AA+IV型が1例であった。術者単独で施行したのは6例 (単独群),術者と第1助手以上の複数名で施行したのは10例 (複数群) であった。麻酔は全静脈麻酔が14例,局所麻酔が2例であった。
    単独群では,脳外科手術の頭皮固定用に使用するゴム付きフックと開創器を使用した。筋肉と血管の処理にはベッセルシーリングシステムと超音波凝固切開装置を使用した。内転後のボイスモニタリングの際には喉頭内視鏡を使用し,音声所見と喉頭所見による位置決めも単独で施行した。複数群では第1助手が筋鉤や内視鏡などを操作した。手術時間と最長発声持続時間 (MPT) にて2群間の評価を行った。
    手術時間は単独群では平均138.0分,複数群では平均130.7分であった。MPTは単独群で術前平均3.5秒が術後平均20.5秒に,複数群では術前平均4.5秒が術後平均19.9秒に改善した。単独群と複数群の間には有意差はなかった。
    AAは手術手技と器具の工夫により,手術時間を延長することなく,術者単独で施行できる術式であると考えられた。
  • 石永 一, 大津 和弥, 湯田 厚司, 竹内 万彦
    2010 年 61 巻 4 号 p. 375-380
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    2007年より2009年までの間に,当科で喉頭癌に対し4例のSCL-CHEPあるいはSCL-CHP手術を行う経験を得た。3例は照射非制御例に対してSCL-CHEPを行い,1例は前治療なしでSCL-CHPを行った症例であった。SCLの合併症としては声門下肉芽を呈し再手術を要した。全例良好な嚥下機能を獲得し,気管カニューレ抜去を行いえた。SCL-CHEPあるいはSCL-CHPは喉頭機能温存治療として安全に行いうる手術術式であり,特に声門癌の照射非制御例に比して有効と思われた。
  • 深堀 光緒子, 千年 俊一, 前田 明輝, 梅野 博仁, 中島 格
    2010 年 61 巻 4 号 p. 381-387
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    近年,中咽頭癌に対する選択的動注化学療法の有用性についていくつかの検討がなされているが,治療方法やその効果は施設によって異なっている。今回,当科で行った中咽頭癌に対する選択的急速動注化学放射線療法の治療成績について報告する。対象は,2002年12月から2008年12月までに治療を行った中咽頭癌14症例で,病期分類はII期が3例,III期が3例,IV期が8例,亜部位別には側壁型6例,前壁型5例,上壁型3例,であった。動注はCDDPを使用し,投与回数4回 (1回/週) を基本として行った。総線量は60~81.4 Gy (平均65.3 Gy) で,腫瘍の縮小効果に乏しかった症例を含めて全例で治療を継続した。結果,原発巣に対する奏効度はCRが12例 (85.7%),PRが2例 (14.3%),リンパ節に対する奏効度はCRが4例 (57.1%),PRが2例 (28.6%),NCが1例 (14.3%) であった。転帰は,原発巣死4例 (28.6%),リンパ節残存2例 (14.3%),非担癌生存7例 (50%),他病死1例 (7.1%) であった。また,亜部位別の局所制御率は側壁型75%,前壁型66.7%,上壁型33.3%であった。選択的動注化学療法は局所制御と機能温存の面から進行前壁型癌で良い適応となると考えられた。側壁型・上壁型に対しては,局所制御や有害事象の問題および技術的な面からも適応を慎重に決定すべきと考えられた。
症例
  • 細川 清人
    2010 年 61 巻 4 号 p. 388-394
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    【症例】77歳,女性。平成20年3月中旬から嗄声を自覚し,前医受診。喉頭腫瘍疑いにて4月上旬当科紹介受診。
    【治療前所見】右仮声帯の浮腫および右喉頭室の腫脹を認めた。CTでは甲状軟骨の内側に不自然に空虚な領域を認めた。肺野条件下での冠状断CT所見では右傍声門間隙に気嚢胞を認め,内側型laryngoceleと診断した。
    【経過】再診時やや増大傾向を認めたため第7病日に入院し,第12病日に気管切開術およびラリンゴマイクロサージャリー下にて嚢胞開窓術を施行した。術中,嚢胞内部から少量の白色液とともに気泡の排出を確認した。
    【術後経過】術後1日目は右梨状窩から仮声帯にかけて比較的高度の浮腫を認めた。術後3日目にカニューレを抜去し,術後15日目で退院した。術後約2年のCTでは傍声門間隙に小結節影を認めるのみであり,現在のところ気嚢胞の再発を認めていない。
    【総括】ラリンゴマイクロサージャリー下での嚢胞開窓術は内側型laryngoceleに対して低侵襲かつ有効な術式である可能性を示唆する症例と考えられた。
  • 戎本 浩史, 西山 耕一郎, 杉本 良介, 厚見 拓, 山本 光, 大上 研二, 飯田 政弘
    2010 年 61 巻 4 号 p. 395-401
    発行日: 2010/08/10
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル 認証あり
    バルーン拡張法 (バルーン法) は輪状咽頭筋弛緩不全による嚥下障害に対するリハビリテーション法である。今回われわれは,他診療科において各種嚥下リハビリテーションを行われていたにもかかわらず,嚥下障害の改善がみられなかった2症例に対して,バルーン法により,嚥下障害の改善がみられた症例を経験したので報告する。
    いずれの症例もバルーン法にて即時効果を認め,常食が経口摂取可能になるまで改善した。バルーン法は通常,透視下に行われることが多いが,われわれは喉頭ファイバー下に行うことで食道入口部を明視下におき,安全かつ確実に手技を行うことができた。嚥下内視鏡検査による誤嚥の診断とともに,耳鼻咽喉科が嚥下障害の診断・治療にかかわることの利点を確認できた。
用語解説
feedback
Top