日本気管食道科学会会報
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62 巻, 5 号
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特集:気管食道科領域におけるリハビリテーション
音声のリハビリテーション
  • 新美 成二
    2011 年 62 巻 5 号 p. 433-439
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    音声障害の治療は外科的アプローチ (音声外科) と非観血的治療に大別される。非観血的治療として,発声法の矯正を主とした「音声治療」と発声習慣の矯正と発声環境の整備を中心とした「声の衛生」が2つの柱とされている。従来音声治療の方法は多数報告されており,選択に苦慮することが多い。音声治療は音声障害の原因となっている発声機構の異常を考慮して,手法を選ぶべきである。つまり,音声障害が発声機構の過緊張によるものなのか,低緊張によるものなのか,声の調節の障害なのかの見極めが大切である。
    音声障害の予防,治療後の再発の防止のためには正しい発声法と良好な発声環境が必要である。「声の衛生」とは発声法の矯正と発声環境の整備の両者を含む概念である。音声障害の治療を開始する際に,声の衛生の指導は欠くことのできない大切なステップである。
    音声治療が今後発展するためには,音声の評価法の確立が必要である。治療効果を客観的に評価し治療効果を正しく判断することができて初めて発展があると考えている。
  • 田口 亜紀
    2011 年 62 巻 5 号 p. 440-444
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    発声障害に対する音声治療およびリハビリテーションについて,適応,治療の実際および音声治療法を中心に述べた。音声治療は問診,喉頭の観察,検査,治療の順で診療を行う。問診は,患者の訴えや声に対する要求を知る上で非常に重要である。職業や音声酷使の状況の聴取も必要である。喉頭の観察には,声帯振動を詳しくみるために喉頭ストロボスコピーを用いた方がよい。検査は空気力学的検査や音響解析に加えてvoice handicap index (VHI) などの自覚的評価を参考にするとよい。音声治療を開始する前に,声の衛生指導を行う。衛生指導では特に守られていない項目を重点的に指導する。音声治療法には大きく分けて症状対処的音声治療と包括的音声治療の二つに分類される。症状対処的音声治療には声帯の緊張を変える訓練,声の高さを変える訓練,声の強さを変える訓練がある。一方,包括的音声治療にはvocal function exercise,resonant voice therapy,アクセント法があり,いずれも日常生活への般化を目的としている。これらの治療法を組み合わせてリハビリテーションを行う。音声治療を行うにあたり,医師と言語聴覚士 (ST) が情報を共有し,連携を保ちながら診療をすすめることが大切である。
  • 鈴木 康司
    2011 年 62 巻 5 号 p. 445-452
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    音声・構音障害を呈する可能性のある神経筋疾患は数多くある。われわれ耳鼻咽喉科医の下を直接訪れた患者や,声や話しことばの異常で他科から紹介された患者の声や話しことばの特徴から,神経筋疾患の存在を疑うことも少なくない。また診断の確定した神経筋疾患の病態の評価や治療を依頼されることは日常的である。
    近年耳鼻咽喉科医と神経内科医やリハビリテーション科医との連携が深まりつつある。したがって音声障害をはじめとして言語,嚥下,聴覚などの各種障害に対して的確なアドバイスができる耳鼻咽喉科医が求められるであろう。
    今回は一般診療で遭遇する代表的な神経筋疾患の病態と,その音声の特徴,さらに音声訓練について述べる。
呼吸のリハビリテーション
  • 石崎 武志
    2011 年 62 巻 5 号 p. 453-462
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    近年になって科学的エビデンスに根差した呼吸リハビリテーションのガイドライン (ステートメント) が公表され,推奨項目の重みづけもされてきている。多岐にわたる包括的 (comprehensive) 呼吸リハビリテーションプログラムは多職種の混成チームによるチーム医療がこれをサポートする。このサポートは患者の全臨床経過におよぶので,地域医療連携の緊密化はもとより,患者と患者家族の受け入れも必須となる。
    呼吸リハビリテーションの最終ゴールはCOPD患者などの呼吸困難の軽減,運動耐容能の改善,そして健康関連QOLとADLの向上である。ようやく,わが国でも普及し始めた呼吸リハビリテーションを,より広範に臨床応用するために呼吸リハビリテーション (理学療法) 治療手技のなおいっそうの標準化と患者個々に対応する個別化プログラムの工夫とが求められよう。
    さらに,社会的認知が本療法の普及の支えになるので,医療関係者や地域社会に啓蒙活動を継続し続けることも肝要である。これまでの呼吸リハビリテーションは主としてCOPDに焦点をあてて発展してきたが,他の慢性呼吸器疾患に対する効果の可能性も示唆される報告も散見され始めているので,今後の検討が期待される。
  • 中村 博幸
    2011 年 62 巻 5 号 p. 463-469
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    術前呼吸ケアの目的は全身状態の改善および術後の重篤な肺合併症を予防し早期離床を達成することである。このため術前評価と術後合併症を予測し,術式による呼吸機能障害の程度を把握する。喫煙者は非喫煙者と比較して有意に術後肺炎の発症が多いため少なくとも術前1カ月以上前に禁煙させることが推奨される。気道クリアランスについてのシステマチックレビューでは排痰法の有用性についての高いエビデンスは示されていない。このため個々の排痰法は患者の病態に合わせその利点,欠点を理解し施行することが重要である。またインセンティブスパイロメトリーは手術後に日常的に使用されているが,術後の有用性について高いエビデンスは示されていない。ところで肺癌,食道癌,頭頸部領域の癌は喫煙との関与が濃厚でありchronic obstructive pulmonary disease (COPD) を合併していることが多い。COPDにおける気流制限と術後肺合併症の頻度は関連するため,COPD合併例では術前から呼吸機能の改善も含めた包括的な呼吸ケアを実施する意義は大きい。これまで術前からの吸気筋トレーニングを含めた呼吸ケアは術後肺合併症を低下させることが多数報告されている。今後は質の高いエビデンス構築が必要である。
  • 近藤 哲理, 市川 毅
    2011 年 62 巻 5 号 p. 470-476
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    咽喉頭領域は,摂食動作,気道への異物進入阻止,咳嗽での呼出圧発生に重要な役割を果たすとともに,これらの協調作業にも関わっている。舌癌の亜全摘では口腔期と咽頭期の嚥下障害を念頭に置いた訓練が必要であり,咽頭癌では咽頭期を中心とした訓練が行われる。気管切開患者では胸腔内ガスの圧縮ができないために咳嗽力が減弱する。食道癌では肺機能改善のため術後早期からの歩行が促され,気道分泌物吸引でも,盲目的なカテーテル挿入による縫合部の傷害回避のために,気管支鏡による選択的吸引や,非侵襲的陰・陽圧式咳嗽補助装置が使用される。食道癌手術では挙上期誤嚥を起こしやすく,吻合部がある頸部食道や下咽頭に液体が貯留あるいは排出し難いことにより下降期型誤嚥も起こしやすいので,食事開始時期には食物の粘度と弾性の調整も必要である。頭頸部領域に限らず,閉塞型睡眠時無呼吸患者が手術を受ける機会は多く,舌根沈下を抑制するために側臥位や半座位が勧められる。抜管後は早期から経鼻持続陽圧呼吸 (nCPAP) を実施する。
嚥下のリハビリテーション
  • 藤島 一郎, 金沢 英哲
    2011 年 62 巻 5 号 p. 477-484
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    気管食道科領域の疾患に基づく嚥下障害の対応は,原因疾患の治療が前提となる。これらの疾患の嚥下障害の特徴を捉え,有効なリハビリテーションを実践すれば,患者の嚥下機能改善やquality of life (QOL) を向上することができる。多くの場合,機能的な原因による嚥下障害に対して使用される食品調整や体位の工夫,各種機能訓練が有効である。また,気管食道科領域を扱う外科医は,機能外科手術の持つ効果と限界について習熟している必要がある。
  • 大前 由紀雄
    2011 年 62 巻 5 号 p. 485-493
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    嚥下姿勢の工夫は,さまざまなタイプの嚥下障害症例に広く実践されている。嚥下障害に対する姿勢や頭位の指導は,食塊の流入状況や咽頭腔の形態を変化させることで誤嚥のリスクを軽減することを目指した工夫である。病態に応じて適切な姿勢を選択することで,誤嚥防止に有効な手段となるが,嚥下障害の病態を的確に診断し適切な嚥下姿勢を選択することが重要である。最近では,嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査で嚥下障害の病態や嚥下姿勢の有効性を確認するのが一般的となっている。
    頸部前屈位は,最も広く指導されている嚥下姿勢である。頸部前屈位では,喉頭蓋に食塊が貯留しやすくなるため,嚥下反射の惹起遅延を呈する症例に有用である。患側への頸部回旋位は,健側への食塊流入を優位にすることで誤嚥や咽頭残留のリスク軽減に繋がる。後屈位は,重力を利用した口腔から咽頭への食塊移送に有用である。これらの嚥下姿勢を組み合わせて指導するのも有効である。
    嚥下時の体位や頭位の指導は,咽喉頭腔の解剖学的な位置関係を変化させることで誤嚥のリスクを軽減する工夫であるが,個々の嚥下姿勢は明確に規定されていない。今後,嚥下姿勢の定義を明確にし,その効果を検証することが求められる。
  • 藤本 保志, 中島 務
    2011 年 62 巻 5 号 p. 494-500
    発行日: 2011/10/10
    公開日: 2011/10/25
    ジャーナル 認証あり
    頭頸部癌手術後の嚥下障害に対するリハビリテーションにおいては,身体機能のみならず活動制限や参加制約に対しても取り組むことが重要である。このような多面的な取り組みのためには医師単独でなく,言語聴覚士,看護師らとのチームアプローチが望まれる。
    機能障害は切除された部位が担当した機能から予測されるが,予測される機能予後に基づいて術前から訓練計画を立てる。手術前からのリハビリテーションは訓練効果をあげるのみでなく,精神的ケアにも役立つ。手術直後は誤嚥予防,肺炎予防が中心となるが,創治癒後には積極的に訓練を開始する。訓練は基礎的訓練にひきつづき段階的摂食訓練を加えていくが,その指導においては適切な機能評価 (病態診断) に基づいて,病態に応じた訓練法の選択や,摂取可能食品群の理解が必要である。さらに,代償不可能と判断される場合には喉頭挙上術や輪状咽頭筋切除術,披裂軟骨内転術などの手術治療も考慮する。
用語解説
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