日本気管食道科学会会報
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63 巻, 1 号
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原著
  • 津田 武, 廣瀬 正幸, 佐野 光仁
    2012 年 63 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    大阪府立母子保健総合医療センターでは喉頭機能不全を伴う重症心身障害児の治療を行っている。今回われわれは当科で喉頭気管分離術を施行した小児症例の臨床的検討を行った。対象は1982年1月から2010年10月までの過去28年間に当科にて気管切開術を施行した症例94例であり,その内訳は男性51名,女性43名であった。年齢は中央値56カ月(3~155カ月)であり,施行年齢が1歳未満の症例の内訳としては月齢3カ月1例,4カ月2例,6カ月3例,7カ月1例,9カ月2例,11カ月4例,12カ月3例であった。原疾患として最も多かったのは神経・筋疾患に伴うもので79例であった。気管切開術と同時に手術を受けた症例は52例,追加手術として喉頭気管分離術を受けた症例が42例であった。経過として94例中現在も入院中の症例が3例,入院中に死亡した症例が9例,退院した症例が82例であった。死亡症例の内訳として8例は原疾患の悪化によって,1例は腕頭動脈気管瘻による出血が原因で死亡した。退院症例の詳細な内訳として35例が転院,在宅へ移行した症例が47例であった。
    また気管孔の状態として94例中35例は上記のとおり転院の経過となったため不明であった。追跡調査が可能であった症例は死亡例9例も含め59例全例気管孔の閉鎖は行うことができなかった。
    術後の合併症としては肉芽形成が6例であり,気管狭窄が1例,腕頭動脈気管瘻が1例,気管皮膚瘻が1例あった。
  • —治療効果と意義—
    山田 弘之, 谷山 岳司, 福喜多 晃平, 荒木 真美佳, 杉山 智宣
    2012 年 63 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    17例の陳旧性片側声帯麻痺に対して神経再建術を施行した。麻痺の病悩期間は3カ月から8年にわたっていた。17例全例で,麻痺側声帯は中間位に固定しており,極度の声帯萎縮を認めていた。術前の最長持続発声時間 (MPT) は1秒から4秒 (平均2.1秒) であった。16例では反回神経と頸神経ワナとの吻合を,1例のみ間置移植による再建を行った。15例において麻痺側声帯の副正中位への移動が認められ,同じ15例で声帯の萎縮改善が認められた。2例を除いた15例においてMPTの著明な改善が認められ,9秒から24秒 (平均14.3秒) であった。この手術の適応は,反回神経の末梢側断端が温存されていること,少なくとも12カ月の生命予後があることが求められる。反回神経再建は,陳旧性片側声帯麻痺に有効な治療法である。
  • 西川 仁, 石田 英一, 日高 浩史
    2012 年 63 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    放射線療法および放射線化学療法時に気管切開を要した喉頭癌・下咽頭癌症例の転帰と,喉頭温存率,気切孔の閉鎖率,気切孔閉鎖不可の理由,気切孔閉鎖が可能な術前要因を検討した。
    2003~2008年に磐城共立病院で,根治的な放射線化学療法もしくは放射線療法に気管切開を要した喉頭癌4例と下咽頭癌9例の計13症例を対象とした。
    生存例は5例 (38%) であり,下咽頭癌症例の生存は1例 (11%) であった。喉頭温存率は69% (9/13) であったが,気切孔閉鎖率は全13症例で23% (3/13),最終生存5名中では40% (2/5) であった。気切孔閉鎖不可の理由として,原病死例が多く,生存例でも遷延する喉頭浮腫等の上気道狭窄が主であった。気切孔閉鎖が可能となる術前要因は,有意差は認めなかったが,T2症例および声帯麻痺のない症例に高い関連を示した。
    放射線療法および放射線化学療法時に気管切開を要した喉頭癌・下咽頭癌症例の転帰は悪く,喉頭温存可能の生存症例であっても気切孔閉鎖の可能性は低い。喉頭温存目的に放射線療法を希望される患者・家族には気切孔閉鎖の現状を治療前に説明していくことが治療後の信頼関係維持に大切と考えた。
  • 南 和彦, 市丸 和之, 佐藤 進一, 土師 知行
    2012 年 63 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    喉頭全摘後の代用音声は,食道発声,人工喉頭,気管食道瘻発声などがある。喉頭全摘後の音響分析による音声機能評価はほとんどされていない。ボイスボタンを装着し,音声を獲得できた症例について多方面から音声機能評価を行ったので報告する。
    1999~2008年に喉頭全摘術後にボイスボタンを挿入し,2011年3月にボイスボタン発声が可能であった10例を対象とした。全例とも男性で,平均年齢は69.1歳,ボイスボタンの平均使用期間は6年3カ月であった。自覚的音声機能評価法としてはVHI-10を使用した。MPTと発話明瞭度の測定に加え,音響分析としてPPQ, APQを測定し,音読時のサウンドスペクトログラムと平均ピッチの経時的変化を調べた。
    発話明瞭度が良い症例ではMPTが長い傾向にあり,APQ, PPQといった他覚的音声機能検査も良好な結果を認め,より自然なイントネーションでの発話ができていた。ボイスボタンによる発声が可能となった患者は発話明瞭度に個人差はあるものの理解可能なレベルにあり,日常生活でボイスボタンによる発声を使用していた。特別な訓練を必要としないボイスボタンによる発声は音声獲得率も高く,喉頭全摘後の患者のQOLの観点から有用であると考えられた。
症例
  • 松下 武史, 矢吹 健一郎, 陰里 ゆうみ, 原野 浩, 佃 守
    2012 年 63 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    慢性リンパ性白血病 / 小リンパ球性リンパ腫 (以下CLL/SLL) が声門下への節外浸潤を認めた1例を経験した。症例は当院血液内科でCLL/SLLと診断,経過観察とされていた72歳女性で,吸気性喘鳴を主訴に当科 (耳鼻咽喉科) を受診した。喉頭ファイバースコピーおよび頸部単純MRIで声門下に左右対称性の隆起性病変を認め,喘鳴の原因と考えられた。気管切開術にて気道確保を行った後,経口的に声門下病変の生検を施行した。病理組織検査では,粘膜下組織に異型を伴うCD5·CD20陽性,CD3陰性のリンパ球系細胞の浸潤が認められ,CLL/SLLの節外浸潤と診断した。Cyclophosphamideの内服を開始して声門下の腫脹は一旦軽減し継続加療中である。
  • 和田 忠彦, 田中 信三, 平塚 康之, 隈部 洋平, 山原 康平, 小山 泰司
    2012 年 63 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    頭頸部癌術後の合併症として,咽頭・食道皮膚瘻の形成は決してまれではない。瘻孔が生じた場合,局所処置による保存的治療または局所・有茎皮弁による外科的治療にて閉鎖可能なことが多い。しかし,今回われわれは胃管挙上による咽頭・食道再建後,遅発性に胃管皮膚瘻をきたし,治療に難渋した症例を経験したので報告する。
    症例は58歳女性。下咽頭癌と胸部食道癌に対し,咽喉頭食道全摘と胃管挙上による食道再建を施行した。術後,頸部に50Gyを照射した。その後,局所再発・遠隔転移を認めなかったが,6年後に気管孔上方に唾液瘻を生じた。局所皮弁による瘻孔閉鎖術を2回施行したが閉鎖はできず,DP皮弁による瘻孔閉鎖術を行った。しかし,術後5カ月で胃管皮膚瘻の再発を認めたため,頸部胃管の切除と遊離空腸による食道再建を施行した。現在術後2年4カ月経過し,瘻孔の再発なく順調に経過している。
  • 大木 雅文, 大畑 敦, 菊池 茂
    2012 年 63 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    尋常性天疱瘡は難治性の口腔病変を呈するさまざまな原因疾患の一つにあげられる。今回われわれは口腔・咽喉頭病変を呈した尋常性天疱瘡5症例を経験し,その口腔・咽喉頭病変について検討を加えた。症状は咽頭痛,嚥下時痛,皮疹,鼻出血,嗄声,口腔内水疱,歯肉出血など多彩であり,必ずしも皮膚病変は認めず5例中3例は粘膜病変のみであった。粘膜病変は軟口蓋が一番多く,喉頭蓋,歯肉,鼻腔,喉頭蓋谷,喉頭披裂部などに白苔を伴うびらん病変や出血を伴う粘膜病変などが出現した。血清学的検査にて抗デスモグレイン3抗体が全例で陽性,抗デスモグレイン1抗体は3例で陽性であった。ステロイドの内服加療により症状は軽快した。尋常性天疱瘡の初発症状は粘膜症状のみであることが多く,診断の際に耳鼻咽喉科医師の役割は大きい。難治性の口腔・咽頭・喉頭病変を呈した際には尋常性天疱瘡も念頭に診断することが必要と考えた。
  • 柴山 将之, 大脇 成広, 神前 英明, 竹澤 公美子, 清水 猛史
    2012 年 63 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    症例は58歳男性, 咽頭異物感のため近医を受診した。下咽頭に腫瘤を認め生検を施行された。病理検査にて小細胞癌と診断され当院に紹介された。頸部造影CT検査や,PET-CT検査にて,頸部リンパ節転移を認めた。下咽頭原発小細胞癌T2N2bM0と診断した。また上部消化管内視鏡検査にて早期食道癌 (扁平上皮癌) の合併を認めた。既往歴に高血圧,狭心症,糖尿病があり,その精査の間S-1内服を2週間行った。S-1内服により腫瘍の縮小を認めた。S-1内服終了後,肺小細胞癌の治療 (IP療法) に準じて化学療法を施行した。化学療法は腎機能が低下していることを考慮し,CDDPをnedaplatinに変更した。1コース施行後,下咽頭の腫瘤,リンパ節とも消失しCRと判定した。続けて,2コース目の化学療法を施行し,同時に頸部に放射線治療 (66Gy) を施行した。その後,食道癌治療のため消化器内科へ転科しESDを施行された。現在外来にて経過観察中であるが治療後2年間無病生存中である。
  • 吉岡 哲志, 清水 敏也, 加藤 久幸, 櫻井 一生, 内藤 健晴
    2012 年 63 巻 1 号 p. 58-63
    発行日: 2012/02/10
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル 認証あり
    頸部気管に発生した腺様嚢胞癌に対して,PCPS (経皮的体外循環システム) 下に摘出術を施行した症例を経験した。症例は69歳女性。咽頭の違和感と嗄声を主訴に初診。咽頭および喉頭に特記すべき所見を認めず,内科にて経過観察された。しかし喘鳴および呼吸苦が増悪し,2カ月後に当科にも再診した。上気道病変を疑い検索したCTと気管支鏡にて声門直下の気管内に腫瘍を認め,前壁から発生し内腔の4/5径を占拠していた。気管内挿管および気管切開は困難と考え,PCPSを使用した。手術は,第5気管輪で気管を横切開し,下方から腫瘍を確認した。術中迅速病理診断で腺様嚢胞癌の診断を得た。気管前壁側約1/3周を摘出・第1-5気管輪の高さで気管皮膚瘻とした。上方前壁側で断端陽性であった。術後放射線治療の後局所皮弁および右耳介軟骨にて硬性再建し,現在再発を認めない。気管腫瘍は比較的まれな疾患であるが,呼吸苦が増強し発見された折には既に増大しており対応に苦慮することがある。本症例も同様であり,教訓とすべきと考える。また部位によって治療法の綿密な計画と工夫が不可欠であるが,本例ではPCPSにより安全で確実な操作が可能であり有用であったと考えられた。
用語解説
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