日本気管食道科学会会報
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63 巻, 3 号
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原著
  • 門田 哲弥, 嶋根 俊和, 森 智昭, 金井 英倫, 藤居 直和, 小林 斉, 寺崎 雅子, 三邉 武幸
    2012 年 63 巻 3 号 p. 225-230
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
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    頭頸部癌における重複癌の部位は食道,胃,肺の順に多く,また食道癌からみても重複癌は,頭頸部癌が多いと報告されている。重複癌の報告は高齢化社会と内視鏡検査や画像診断の進歩により増加傾向にある。問題となるのはどちらから治療を行うのか,また同時に治療を行うかの判断である。これまでにわれわれは進行した頭頸部癌に対して機能温存,根治を目的としてS-1,Nedaplatin/放射線同時併用療法 (以下SN療法) を行ってきた。
    今回2005年4月から2011年3月までの6年間に頭頸部癌と食道癌の重複癌をSN療法にて治療した9例について同時治療の有効性を検討したので報告する。
    頭頸部癌の内訳は喉頭癌3例,下咽頭癌6例であり,食道癌の内訳は頸部食道 (Ce) 3例,胸部上部食道 (Ut) 3例,胸部中部食道 (Mt) 3例である。結果はCR率100%,奏効率100%,再発率33.3%であり,同時治療も一つの選択肢になると考えられた。
  • 麻生 丈一朗, 梅野 博仁, 佐野 仁紀, 永田 圭, 前田 明輝, 千年 俊一, 中島 格
    2012 年 63 巻 3 号 p. 231-239
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
    ジャーナル 認証あり
    内視鏡による咽頭・頸部食道損傷は頻度こそ少ないが,早期に適切な処置を行わなければ重篤化するおそれがある。通常咽頭・頸部食道損傷に対する外科的処置方法としては,可及的早期に頸部外切開を行い,可能であれば損傷部を一期的に縫合閉鎖する。また膿瘍形成を認める場合には,頸部切開創を開放創とし,時期をみながら経口摂取を開始させ,異常がないことを確認してから開放創を二期的に縫合閉鎖するのが一般的である。今回われわれが経験した上部消化管内視鏡検査で下咽頭穿孔から頸部皮下気腫,および縦隔気腫をきたした症例では,穿孔径が大きく,さらに穿孔部周囲には膿汁様唾液が貯留していたため,自然閉鎖,および一期的縫合閉鎖は困難と判断した。しかしながら膿瘍形成には至っていなかったため,頸部外切開創を開放創とせず,新たな外科的処置として咽頭皮膚瘻を形成することで穿孔部の安全で早期の閉鎖が可能になり,さらに気腫形成部への感染の波及を予防できた。このように咽頭・頸部食道損傷症例において創部感染を認めるが,膿瘍形成には至っていない場合には,創処置を行うことで比較的早く確実な創閉鎖が可能であると考えられた。
  • 前田 明輝, 千年 俊一, 梅野 博仁, 千々和 秀記, 三橋 拓之, 中島 格, 藤田 博正
    2012 年 63 巻 3 号 p. 240-246
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
    ジャーナル 認証あり
    下咽頭癌救済手術症例の病理像を観察し,原発巣の浸潤様式を検討した。対象は1989年1月から2010年12月までに救済手術を行った下咽頭癌17例。検討項目は治療成績,転帰,病理組織像とした。全体の5年粗生存率37%,死因特異的5年生存率45%,局所制御率54%であった。術後合併症は17例中12例 (71%) に認めた。転帰は生存6例,原発巣死8例,肺転移死1例,他因死1例,合併症死1例であった。喉頭浸潤は17例中11例 (65%) に認めた。癌は粘膜下から進展し,多彩な病理像を呈していた。
  • 中原 晋, 吉野 邦俊, 藤井 隆, 上村 裕和, 鈴木 基之, 西山 謹司
    2012 年 63 巻 3 号 p. 247-253
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
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    下咽頭癌における喉頭温存は治療目標の一つであり,近年は化学放射線同時併用療法 (CRT) が多用されている。しかし,原発巣に関してはT1-2であれば放射線単独療法 (RT) でも制御良好とされており,CRTとRTにおける原発制御効果の違いは不明瞭である。今回われわれは,2007年1月~2009年12月の3年間に大阪府立成人病センターで放射線治療を開始した下咽頭癌101例 (RT : 52例,CRT : 49例) において,特に原発制御に関する検討を行った。全体の2年無再発原発制御率はRTで69%,CRTで84%であったが有意差を認めなかった。T4 (RT : 1例,CRT : 4例) はすべて遺残または再発していたため,T1-3で検討すると2年無再発原発制御率はRTで70%,CRTで91%となり有意差を認めた。原発制御率に影響を与えうる因子としてCRTが有意にRTより優れていたのは,T分類がT1-3 (特にT3) の場合,亜部位が梨状陥凹の場合,先行頸部郭清を施行している場合であった。また,CRTにおいて高用量シスプラチン (目標:80mg/m2×3回) を投与した場合は,2回相当分以上投与しなければ良好な原発制御が得られない可能性が示唆された。
症例
  • 鈴木 久美子, 倉富 勇一郎, 宮崎 純二, 佐藤 慎太郎, 島津 倫太郎, 井之口 昭
    2012 年 63 巻 3 号 p. 254-261
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
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    気管内挿管の数カ月後に,声門下を主座とする喉頭膿瘍を発症した2症例を経験した。症例1は41歳女性で,火災による気道熱傷に対し気管内挿管を施行され,退院の2カ月後に呼吸苦と嚥下痛を主訴に当科を受診した。両声帯固定と声門下の膿瘍を認めた。気管切開にて気道確保を行った後に喉頭微細手術を行ったが,膿瘍の改善がみられなかったため,再度手術を行った。膿瘍は声門下後方に存在したため,気管切開孔から,副鼻腔内視鏡手術用の硬性内視鏡を用いて視野を確保し鼓膜切開刀で切開排膿術を行った。症例2は73歳男性で,全身麻酔下に胃切除術を施行された後,喉頭肉芽種を発症し加療を行っていた。術後4カ月にて夜間喘鳴と咳嗽が出現し,喉頭内視鏡による観察で声門下後壁に膨隆を認め,喉頭微細手術にて切開排膿術を施行した。
    喉頭膿瘍は近年ではまれな疾患であり,免疫能低下例や気管内挿管との関連が示唆されている。症状や他覚的炎症所見に乏しく,緩徐に進行する例もあるため,注意が必要である。
  • 天津 久郎, 大石 賢弥, 和田 匡史, 井口 広義, 山根 英雄
    2012 年 63 巻 3 号 p. 262-268
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
    ジャーナル 認証あり
    顔面鈍的外傷後の縦隔気腫や喉頭浮腫に遭遇する機会は稀であるが,初期診断,初期治療が適切になされなければ致命的状況になりうる。今回われわれは顔面鈍的外傷後に縦隔気腫,喉頭浮腫を発症した症例を経験したので報告する。症例は68歳男性。飲酒後,自転車で走行中に転倒して下顎体右側から頬部を打撲した。徐々に咽喉頭違和感,発声困難が出現し,前医で喉頭蓋,披裂部の浮腫を指摘され大阪市立大学医学部付属病院に搬送となった。来院時,顔面にのみ擦過創を認めた。内視鏡検査で喉頭蓋,披裂部の腫脹を認めた。CTでは眼窩底骨折,眼窩内側壁骨折,眼窩内および副咽頭間隙,縦隔に気腫像を認めた。緊急入院とし気管切開を行い,絶飲食の上,抗生剤投与を行った。喉頭蓋腫脹の消失,CTで縦隔気腫の消失を確認し気管切開カニューレを抜去して第29病日退院となった。本症例では頸部捻転により咽頭粘膜に裂傷が生じ副咽頭間隙・縦隔気腫を形成したと考えられた。また喉頭浮腫は頸部捻転による循環障害,炎症により生じたと考えられた。頭頸部外傷症例では,頸部・胸部症状の有無にかかわらず喉頭浮腫,縦隔気腫をも念頭において適切な対応が必要であると考えられた。
  • 西川 仁, 日高 浩史, 小林 俊光
    2012 年 63 巻 3 号 p. 269-275
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
    ジャーナル 認証あり
    喉頭真菌症はまれであり,乳幼児での症例はさらに少ない。今回われわれは,治癒したものの喉頭の変形と嗄声症状を残した幼児喉頭カンジダ症の1例を経験したので報告する。
    患者は4歳7カ月の女児で,既往歴に白血球接着不全症がある。主訴は嗄声,吸気時の喘鳴で,喉頭粘膜の浮腫性腫脹と散在性の白苔を認めた。培養検査等で診断がつかず,経過観察中,症状が悪化し,粘膜腫脹の増悪,肉芽腫形成,声帯腫脹による声門の狭小化を認め入院となった。入院時培養検査にてCandida albicansが同定され,抗真菌薬の全身投与と局所投与を行ったが,短期間では症状・所見は改善せず,陥没呼吸や努力性呼吸は遷延し,気管切開術も検討した。最終的に保存的治療にて治癒せしめ,気道狭窄症状は軽快し,第18病日に退院となった。しかし,退院2年6カ月後も粘膜の瘢痕性肥厚による喉頭の変形や,嗄声症状を残している。
    喉頭カンジダ症は全身状態の良い患者には治癒できる疾患であるが,遷延化すると粘膜の腫脹や肉芽腫形成にて気道狭窄を起こす。その後治癒せしめても,瘢痕性肥厚による喉頭の変形や嗄声症状を残しうるため,早期診断の上治療を行うことが望ましい。
  • 戎本 浩史, 酒井 昭博, 大上 研二, 槙 大輔, 杉本 良介, 飯田 政弘
    2012 年 63 巻 3 号 p. 276-280
    発行日: 2012/06/10
    公開日: 2012/06/25
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    喉頭全摘後の代用音声としてPROVOX2®などのボイスプロテーゼは広く普及しているが,稀に発声困難な例も認められる。今回われわれは,PROVOX2®挿入後に咽頭収縮筋の過緊張が原因と考えられる発声困難例を経験した。
    症例:59歳男性。臨床経過:声門上癌T3N2bM0の診断で,喉頭全摘術,両頸部郭清術を行った。咽頭粘膜欠損部は縦1線に2層縫合し同部を咽頭収縮筋でカバーした。音声再建を希望されたため,二期的にPROVOX2®挿入術を行った。以降発声訓練を行ったが発声不能であった。下咽頭,食道入口部を嚥下造影にて精査したところ,発声時にシャント口側の狭窄が確認された。狭窄部は咽頭収縮筋縫合部に一致し,咽頭収縮筋の過緊張による発声困難と考えられた。透視下に1%キシロカイン®を狭窄部周囲に局注したところ,狭窄は速やかに改善し発声可能となった。以降再狭窄をきたすことなく良好に経過している。まとめ:喉頭全摘術の際に,縫合した咽頭収縮筋の過緊張が音声再建時には発声困難の原因となり得ると考えられ,注意を要すると考えられた。
用語解説
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