日本気管食道科学会会報
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66 巻, 4 号
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原著
  • 島津 倫太郎, 青木 茂久, 倉富 勇一郎
    2015 年 66 巻 4 号 p. 245-249
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    われわれはこれまで逆流性食道炎 (gastroesophageal reflux disease : GERD) モデルラットを作製し,上・下気道の組織学的変化を観察および報告してきた。今回,そのモデルラットを術後50週以上にわたり長期間観察して得られた下気道における病的変化について報告する。術後10週では変化を認めなかったが,術後20週で膠原線維の増生を伴った基底膜の肥厚を認めた。術後50週ではその病態がさらに進行し,肺胞および細気管支内腔が膠原線維によって充満してヒト肺線維症に類似した病理組織像を呈した。この結果から,胃酸逆流は,肺線維症の発症または増悪因子の一つである可能性が示された。
  • 岡 愛子, 吉田 充裕, 佐藤 進一
    2015 年 66 巻 4 号 p. 250-254
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    当科で2009年から2013年の5年間に気管切開を施行した2歳以下の乳幼児41例 (男児27例,女児14例) について,術後の合併症と言語発達に注目して検討した。術後の合併症として多かったのは気管内と気切孔周囲の肉芽形成で,重複例も合わせて19例 (46%) に認めたが,その後多量出血や窒息で死亡した症例はなかった。肉芽や痰によるカニューレ閉塞は4例 (10%),カニューレ誤抜去は2例 (5%) で認め,それぞれ1例ずつ死亡例を認めた。気管内肉芽形成群では肉芽非形成群と比較して術前のCTで皮膚と気管前壁の距離の平均が短かった。これは皮下の厚みが薄いとカニューレが傾きやすくなり,先端が気管前壁に当たって肉芽を形成してしまう可能性が考えられた。このような症例ではカーブの緩やかなカニューレを選択するなどの対策が必要である。気切孔周囲の肉芽は術後1カ月以内の比較的早期に形成することが多く,術後の気切孔周囲の感染や炎症が関係していると思われ注意が必要である。気管切開後の言語発達について新版K式発達検査を行っていた10例で検討したところ,知能面で問題がない症例では言語発達遅滞を認めなかった。
  • 鈴木 法臣, 竹田 加奈子, 近藤 陽一, 守本 倫子
    2015 年 66 巻 4 号 p. 255-261
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    小児気管切開患者のカニューレ抜去を行うにあたり,当科では画像検査・カニューレのサイズダウンと閉鎖練習を事前に行っている。しかしながら,事前評価が十分と考えて抜去した症例のなかには,抜去後に呼吸状態が増悪した症例をこれまでに経験してきた。安全な小児気管切開患者のカニューレ抜去方法を検討するために,当科にて気管切開後の管理を行った354例を検討した。抜去できた症例は110例 (約30%) だった。抜去後に呼吸状態に関するトラブルは13例に認められた。その内訳は ① 抜去から数カ月以上経過して睡眠時のCPAP装着を要した症例が3例,② 抜去・気管孔閉鎖後の呼吸状態の増悪のため再気管切開を行った症例が5例,③ 一度抜去を試みたものの,数時間以内に呼吸状態が増悪しカニューレ再挿入を要した症例が5例,であった。呼吸状態が増悪した原因として,舌根沈下による上気道狭窄,気管前壁の内腔への陥入による気管狭窄,気管軟化症などが原因として考えられた。抜去前には,全身麻酔下での内視鏡検査やDynamic CTなどの画像検査を組み合わせて声門下や気管も含めた気道評価を行うことで,安全な抜去が可能かどうかの判断につながると考えられた。
症例
  • 物部 寛子, 持木 将人, 滝沢 克己, 岡田 和也
    2015 年 66 巻 4 号 p. 262-266
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    頭頸部癌術後合併症として咽頭皮膚瘻または喉頭皮膚瘻を生じることがあり,術前放射線照射による創傷治癒能力の低下を配慮して治療にあたるが,時として閉鎖に難渋することがある。今回われわれは,放射線化学療法後再発rT3症例に対する喉頭部分切除後に生じた喉頭皮膚瘻,高齢者での照射後再発rT1症例に対する喉頭全摘後に生じた咽頭皮膚瘻孔に対し,perifascial areolar tissue (PAT) を用いた瘻孔閉鎖を行い良好な経過を得たので報告する。術後咽頭皮膚瘻,または喉頭皮膚瘻に対しては,その瘻孔の大きさにより単純縫縮やhinge flapなどの局所皮弁の工夫,大胸筋皮弁,DP皮弁などの有茎皮弁,または陰圧閉鎖療法や今回のようなPATの使用があげられる。PATは骨・腱露創に対する自己組織による被覆材料として報告され,悪性腫瘍摘出後の死腔充填や髄液漏閉鎖などにも応用される。主に外腹斜筋や大腿筋膜上から採取可能な水平方向の血管網を有する組織であるが,われわれ耳鼻科医には鼓膜形成・鼓室形成術への使用としてなじみが深いものであり,有茎皮弁や遊離皮弁と比較し採取手技が容易で採取部位の犠牲や全身侵襲が少ないなどの利点があり,試してもよい方法と思われる。
  • 山名 一平, 武野 慎祐, 橋本 竜哉, 槙 研二, 柴田 亮輔, 塩飽 洋生, 島岡 秀樹, 山下 裕一
    2015 年 66 巻 4 号 p. 267-272
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    高齢者咽頭食道憩室の2切除例を報告する。症例1 : 86歳男性,嚥下時の違和感を主訴に来院した。上部消化管内視鏡検査および食道造影検査で咽頭食道左側に2×2 cm大の憩室を認め,憩室内には多量の食物残渣を認めた。症例2 : 83歳女性,嚥下障害を主訴に来院した。上部消化管内視鏡検査および食道造影検査で咽頭食道左側に5×5 cm大の憩室を認め,憩室内には多量の食物残渣を認めた。憩室は巨大であり気管と甲状腺左側に広く接していた。手術はいずれも左頸部切開アプローチによる輪状咽頭筋切開を伴う食道憩室切除術を行った。2症例ともに術後嚥下障害は認めず経口摂取は良好であった。食道憩室切除術は,嚥下障害などの有症状例に対しては,高齢者であっても積極的な適応となりうる。
  • 川﨑 泰士, 和佐野 浩一郎, 富里 周太, 行木 英生, 鈴木 法臣, 行木 一郎太
    2015 年 66 巻 4 号 p. 273-277
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    頭頸部領域において中咽頭静脈奇形は比較的稀な疾患である。症例は66歳男性で咽頭違和感を主訴に受診し,中咽頭後壁に静脈奇形が疑われ,深部は一部で椎前筋膜に達していた。治療は手術を選択し,術前の頸部造影CTで腫瘤の増強効果が微弱であったため,血管塞栓術は行わなかった。経口的アプローチで行い,完全摘出することができた。術後も特に問題を認めず退院となった。咽頭の静脈奇形は摂食の際の出血や窒息,誤嚥のリスクがあり,治療法には手術,レーザー,硬化療法などがある。静脈奇形の局在が中咽頭後壁の正中付近にあり比較的小さい場合,低侵襲に摘出できる経口的アプローチは扁桃摘出術に慣れた耳鼻咽喉科医にとって有効な治療法の一つになりうると思われた。
  • 小野 麻友, 大脇 成広, 大江 祐一郎, 清水 猛史
    2015 年 66 巻 4 号 p. 278-283
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    硝子化索状腫瘍 (hyalinizing trabecular tumor) は,細胞診の際に乳頭癌との鑑別が問題とされる比較的まれな腫瘍である。今回われわれは,甲状腺硝子化索状腫瘍の手術例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は75歳男性。胸部CTを施行した際に甲状腺左葉に腫瘤形成があり当科を紹介受診した。頸部エコーでは甲状腺左葉に15 mm大の境界明瞭な腫瘤形成を認めた。FNAの結果,class IIIで悪性を否定できない結果であった。甲状腺左葉峡切除術+D1郭清を施行したところ,病理検査でサイトケラチン19が陰性で,硝子化索状腫瘍と診断された。本疾患は良悪に関して結論に至っていないことから,2005年の甲状腺取扱い規約ではその他の腫瘍に分類されている。
  • 近藤 敦, 小柴 茂, 関 伸彦, 高野 賢一, 黒瀬 誠, 氷見 徹夫
    2015 年 66 巻 4 号 p. 284-290
    発行日: 2015/08/10
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル 認証あり
    今回われわれは骨髄異形成症候群 (MDS) を合併する甲状腺乳頭癌症例に対して,総頸動脈の切除,再建を含めた根治手術を行った。症例は45歳の男性。前医にて高度貧血と甲状腺腫瘍が見つかり精査加療目的で当科転院となった。貧血は骨髄生検の結果MDSの診断となった。甲状腺腫瘍は穿刺吸引細胞診にて甲状腺乳頭癌の診断となり,CTおよび超音波画像で右総頸動脈浸潤が疑われた。甲状腺乳頭癌cT4bN0M0 stage IVbの術前診断にて甲状腺全摘術,右頸部郭清術,気管切開術,右総頸動脈切除および再建を行った。頸動脈切除再建を伴う手術は脳梗塞発症のリスクもあり,疾患の予後も鑑みて手術適応を検討する必要がある。またMDS合併症例の手術においては,血球減少にともなう合併症を念頭においた周術期の管理が重要と考えられた。
用語解説
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