日本気管食道科学会会報
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68 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:たばこと気管食道科
  • 藤井 隆
    2017 年 68 巻 5 号 p. 327-333
    発行日: 2017/10/10
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル 認証あり

    喉頭癌はたばこ関連癌のひとつであるが,非喫煙患者の占める割合が2.7%と極めて少なかったことからたばこの影響を非常に強く受けている癌と考えられ,禁煙による癌の一次予防が可能であると考えられていた。わが国の成人男性の喫煙率は1960年代には80%以上であったが,この半世紀の間に着実に低下し,2016年には29.7%と30%を下回るようになった。女性の喫煙率も漸減し18%から9.7%へ低下してきた。1960年代,喉頭癌の年齢調整罹患率 (/10万人) は2.8と,口腔癌と中・下咽頭癌を合わせた罹患率よりも高く,頭頸部癌の代表的疾患であったが,この間に,喉頭癌の罹患率は2.8から2.1に漸減した。同じ頭頸部癌の中でも,口腔,中・下咽頭癌は各々,1.2から3.8へ,0.1から1.7へ,0.2から1.6へと上昇し,喫煙率の低下を反映するように罹患率の低下を認めたのは喉頭癌のみであった。喉頭癌では喫煙率の低下が直接的に発癌率低下につながり,癌の一次予防がうまく進んできたものと考えられた。喉頭癌の一次予防の成功のためには,今後も積極的な禁煙運動の継続が重要である。

  • 黒澤 一
    2017 年 68 巻 5 号 p. 334-338
    発行日: 2017/10/10
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル 認証あり

    タバコによって起こる非悪性疾患にも目を向けるべきである。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は肺癌と並ぶ呼吸器タバコ病の代表である。緩徐な不可逆性の気道閉塞の進行を示し,呼吸不全に至らせる。予防はタバコを吸わないことである。COPD患者が禁煙すれば進行は鈍化するが,炎症はくすぶり続けると想定されている。喘息では,喫煙は増悪因子として知られる。ニコチン依存症を背景に,悪いと知りながら,喫煙し続ける人が多い。子供の喘息には親の喫煙による受動喫煙が大きく影響している。その他,間質性肺炎,呼吸器感染症,等,悪性疾患のみならず多くの呼吸器および耳鼻咽喉科疾患などが喫煙に関連している。

  • 坂口 浩三
    2017 年 68 巻 5 号 p. 339-347
    発行日: 2017/10/10
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル 認証あり

    国際がん研究機関(IARC)はたばこ煙の中に70種類の発癌物質を同定している。発癌性の強い物質の代表にニトロソアミン類,多環芳香族炭化水素(PAHs)がある。日本人での喫煙によるによる肺癌の相対発生危険度は男性で4.4倍,女性で2.8倍といわれている。夫が喫煙者である場合,非喫煙者である妻の受動喫煙による肺腺癌発生リスクは2.03倍と報告されている。

    喫煙が扁平上皮癌,小細胞肺癌発生との関連が強いのは既知のことであるが腺癌や大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の発生にも有意に関与していることがわかってきた。肺腺癌におけるK-ras遺伝子変異は喫煙と関連が強い。若年性肺癌ではCYP1A1多型等の代謝遺伝子的因子の関与がたばこ煙の感受性を高めている。

    COPD患者は非COPD患者と比べて3~4倍肺癌発生頻度が高く,肺癌を発症した場合は全生存期間が有意に悪い。IIPs合併肺癌の外科治療では術後のIIPs急性増悪(AE)のリスクがある。近年7項目よりなるリスクスコアにより適切な症例選択がなされるようになった。喫煙者の肺癌は悪性度が高い傾向があり周術期合併症の頻度も増す。同じIA期肺癌でも非喫煙者は全生存期間が長い。喫煙者でも中年以前に禁煙することによりたばこの身体への危険性はかなり回避できるといわれている。

  • 辻田 美紀, 北村 晶
    2017 年 68 巻 5 号 p. 348-351
    発行日: 2017/10/10
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル 認証あり

    喫煙は呼吸・循環器機能を含め全身に影響を与えることは広く知られている。しかしながら,周術期禁煙の意義は十分に理解されておらず,多くの施設では明確な禁煙指導の実行がされていない。日本麻酔科学会では2015年に周術期禁煙に対する姿勢を明確にし,外科系各科に働きかけるために「周術期禁煙ガイドライン」を策定した。周術期においては,喫煙者は非喫煙者に比べ,死亡,肺合併症,心合併症,創傷治癒の遷延などのリスクが高くなることが示されている。術前禁煙の期間と効果としては,禁煙後2日での酸素需給の改善,3週で創合併症の減少,4週で呼吸器合併症の頻度低下が報告されており,より長い禁煙期間で効果が高い。手術予定患者にはできるだけ早く術前禁煙を達成させることが重要である。

  • 後藤 励
    2017 年 68 巻 5 号 p. 352-357
    発行日: 2017/10/10
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル 認証あり

    喫煙(禁煙)が医療経済学的に重要なのは,喫煙の社会的費用が大きいことと禁煙の費用効果が高いことによる。喫煙の社会的費用は関連疾患の寄与危険度を基に計算される超過医療費,治療や早期死亡による失われた時間の価値を測る生産性損失の2つを考慮することが一般的である。喫煙と関連の低い疾患も含めると,禁煙による関連医療費の削減は寿命延長による医療費増加に相殺され累積生涯医療費は増加するという議論も以前からある。しかし,通常の医療経済評価では結果に不確実性が増すなどの理由から,非関連医療費は考慮しない場合が一般的である。その場合,禁煙は費用削減的(比較対照に比べ健康も改善し費用も減る)な経済評価結果になる場合も多い。社会的費用,経済評価の研究を進め,喫煙(禁煙)の医療経済への影響と対策を分析するためには,臨床家と医療経済研究者の密接な共同研究が不可欠である。

  • 磯村 毅
    2017 年 68 巻 5 号 p. 358-367
    発行日: 2017/10/10
    公開日: 2017/10/25
    ジャーナル 認証あり

    喫煙は個人的な趣味・嗜好の問題ではなく,喫煙病(依存症および喫煙関連疾患)という全身疾患であり,喫煙者はニコチン依存症という疾患に罹患した積極的禁煙治療を必要とする患者である。ニコチン依存症の臨床的課題は,禁煙開始の困難さと再喫煙率の高さに集約される。禁煙に無関心あるいはすぐには禁煙する気のない患者には,米国医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality: AHRQ)の禁煙治療ガイドラインにおいて,動機づけ面接(Motivational interviewing: MI)や5Rのアプローチが推奨されている。一方,禁煙を希望し禁煙外来に受診した患者に対しては,禁煙補助療法(薬物療法)として,非ニコチン経口薬のバレニクリンと,貼付薬によるニコチン置換療法が行われる。薬物療法により禁煙外来での禁煙導入の成績は向上しているが再喫煙率は高い。認知行動療法をはじめとする心理療法の併用が行われるとともに,喫煙に関する脳科学の知見(薬物報酬過敏化説・失楽園仮説など)に基づく心理教育が試みられている。

用語解説
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