GPSは食道癌を含むさまざまな固形腫瘍で予後因子となり得ることが報告されている。しかし,食道癌再発例におけるGPSの意義に関しては不明である。今回,食道癌術後再発例を用いて,再発時のmodified GPS (mGPS) と予後の関係について検討した。対象は2010年4月から2016年12月までの52例の食道癌根治術後再発例とした。これら症例の病理組織学的所見や再発時期,予後とmGPSの関係を検討した。mGPS 0は31例,mGPS 1,2は21例であった。mGPS 1,2は複合再発例が多く (p<0.05),再発時症状を有している症例が多かった (p<0.05) 。再発診断までの期間には差がなかった。全例の生存期間中央値は293日で,mGPS 1, 2がmGPS 0に比べて有意に悪かった。食道癌術後再発例の再発診断時のmGPSは再発形式と関連し,予後規定因子になり得る。
気管孔レティナは気管切開後の気管孔保持のために使用される。気管カニューレに比較し気管内腔への刺激が少ないこと,交換頻度が少なくて済むこと,ベルトでの固定が不要であることが利点である。今回,当科において気管孔レティナを使用している42例を対象に,レティナ管理の経過,合併症について評価した。男性23名,女性19名,レティナ使用開始時の年齢は11~83歳 (平均55.6歳) 。気管切開が必要となった原因は両声帯麻痺,気管狭窄症,喉頭腫瘍による気道狭窄,誤嚥防止手術後であり,レティナの使用期間は1~400カ月 (中央値18.5カ月) に及んだ。経過の中でレティナ使用を継続している症例は45.2%,気管孔閉鎖が得られた症例は33.3%,カニューレによる気管孔管理に変更された症例は19.0%,喉頭摘出のため永久気管孔を行った症例は2.4%であった。合併症は気管切開孔周囲の肉芽が16.7%,繰り返す脱落が14.3%,気管内腔側壁の瘢痕形成が9.5%であった。なかでも気管内腔側壁の瘢痕形成はレティナ使用による特異的な合併症と思われた。レティナには先に述べた利点があるが,合併症,特にレティナ脱落に対する理解と対応が必要である。定期的な観察と適切な対応を行えば多くの患者に安全な気道管理法と考える。
誤嚥予防にはさまざまなものが報告されているが,療養型病床群においてはそれらの対策が十分に行えないのが現状である。われわれは誤嚥予防として黒胡椒に注目した。黒胡椒は咽頭へのサブスタンスPの放出を増加させることにより嚥下反射を改善して誤嚥を予防することが報告されている。今回,黒胡椒そのものを使用して誤嚥リスクを減らし抗菌薬使用および誤嚥性肺炎発症率を低下させられるか検討した。【対象】当院療養型病床群に入院している患者35名のうち32名。【方法】患者を2群に分け,60日ごとに黒胡椒使用群と非使用群を交換して両群に黒胡椒を使用し,120日間での発熱,抗菌薬使用を比較することにより誤嚥性肺炎の発生率を比較した。【結果】期間中に37.5℃以上の発熱を認めた症例は28例で,2日以上の発熱と誤嚥性肺炎を認め抗菌薬を使用した症例は11例であった。黒胡椒を使用した群は発熱例11例で,抗菌薬使用例は2例であり,有意に抗菌薬の使用頻度および日数を抑制した。【結語】黒胡椒は安価かつ容易に療養型病床群での抗菌薬使用を減少させた。
症例は80歳女性,悪性リンパ腫治療後再発を繰り返しながらも約7年間寛解状態を維持していた。突然の呼吸苦を主訴に救急搬送され,声門下に限局した腫瘤として再発が判明し,緊急気管切開を要した。気管切開時に行った腫瘤の生検の結果,悪性リンパ腫の再発であることが判明した。術後1カ月程度で悪性リンパ腫の再発に対して救援化学療法を開始し,腫瘤は消失し寛解状態となった。
声門前部橋状癒着症は,声帯膜様部の中央付近が癒着し,音声障害を呈する比較的まれな疾患であり,多くは原因不明であるとされている。今回,嘔吐を契機として発症し,全身麻酔下で癒着部を切離した症例を経験した。症例は48歳,男性。飲酒後に嘔吐し,翌日から失声状態となった。徐々に有響性の声が出るようになったが,嗄声と咽喉頭違和感が残存したため,精査目的に当院を紹介受診した。喉頭ストロボスコピーにて,声帯膜様部の癒着と前方の非癒着部が観察され,声門前部橋状癒着症と診断した。全身麻酔下喉頭微細手術にて橋状癒着部を切断し,断端の瘢痕組織を鉗除した。術後に再癒着することなく経過し,自他覚的に音声は改善した。感冒や嘔吐などのあとに音声障害が遷延する症例では,声帯膜様部癒着の可能性も念頭に置き,喉頭ストロボスコピーを用いた詳細な評価を行う必要がある。
症例1 : 81歳,男性。下血を契機に横行結腸癌と診断された。術前スクリーニングの上部消化管内視鏡で早期胃癌と診断され,横行結腸癌術前に内視鏡的粘膜下層剥離術 (以下ESD) を先行した。ESD施行後,内視鏡抜去時に上切歯列より30 cmから下部食道にかけて粘膜下血腫の出現を認めた。内視鏡刺激により生じた粘膜下血腫と診断し,保存的治療を行い軽快した。症例2 : 73歳,男性。心筋梗塞の既往がありバイアスピリンを内服中,また慢性C型肝炎の診断で経過観察中であった。夕食後からの心窩部痛を主訴に前医を受診し上部消化管内視鏡で中部食道から食道胃接合部にかけて粘膜下に血液貯留と出血を認めた。食道静脈瘤破裂の疑いにて当院救急外来に救急搬送となった。当院で施行した緊急上部消化管内視鏡では上切歯列より25 cmから食道胃接合部にかけて粘膜下血腫の形成と接合部付近に裂傷および粘膜脱落を認めた。特発性食道粘膜下血腫と血腫の脱落と診断し,入院のうえ保存的加療を行い軽快した。特発性食道粘膜下血腫と内視鏡刺激による食道粘膜下血腫の成因の異なる2例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
気管食道瘻は稀であるが気管切開術後の合併症のひとつであり,その外科的治療としてさまざまな術式が報告されてきた。今回われわれは,気管切開術後に生じた気管食道瘻に対し,胸鎖乳突筋弁を用いて閉鎖した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は68歳女性。5カ月前に他院で心臓手術後,抜管困難となり気管切開術が施行された。嚥下障害により胃瘻管理となった後も嚥下性肺炎を繰り返すため,当科を紹介され受診した。初診時所見では,声門下肉芽と両側声帯外転障害を認めるものの発声は可能であった。その後嚥下造影検査および気管内視鏡検査を施行したところ,気管食道瘻が認められた。手術は,瘻孔の食道側と気管膜様部側をそれぞれ直接縫合閉鎖した上で,胸鎖乳突筋弁を閉鎖部に充填・補強した。術後11日目より嚥下リハビリを開始し,術後20日目に退院,その後も瘻孔の再形成なく,胃瘻を抜去,常食が摂取可能となっている。気管カニューレのカフによる圧迫やカニューレ交換時の機械的刺激が瘻孔形成の原因と考えられた。胸鎖乳突筋弁を用いた低侵襲な術式で良好な結果を得た。
症例は75歳女性で,前胸部の腫脹を主訴に前医を受診し針生検で甲状腺濾胞癌の転移の診断のため,当科紹介となった。CTで前縦隔に18 cm×11 cm大の胸骨,鎖骨,肋骨へ浸潤する病変を認めた。甲状腺腫瘍は右葉に1 cm大の結節を認め,頸部から縦隔への複数のリンパ節転移を認めた。PETで両側上腕骨,左腸骨への転移も認め,甲状腺濾胞癌T1N1bM1 stage IVCと診断となった。縦隔の病変は大血管への浸潤を認めず摘出可能と判断し,術後放射性ヨード内照射治療 (RAI治療) のための減量目的と,今後の大血管への浸潤の可能性,呼吸機能への影響を考慮し手術を行った。手術は,縦隔腫瘍を胸骨,鎖骨,肋骨と一塊に摘出し,甲状腺全摘術と両側保存的頸部郭清術と縦隔リンパ節摘出を施行した。胸壁はポリプロピレンメッシュで再建した。巨大縦隔病変の病理組織検査は濾胞癌の縦隔リンパ節転移が胸壁浸潤をきたしたものであった。RAI治療は左視神経周囲への転移を認め失明のリスクがあり施行できなかった。分子標的薬を開始したが有害事象のため投与3カ月で中止となった。術後31カ月間経過し担癌生存中である。甲状腺分化癌の胸壁病変に対しての手術は再建を要することがあるが,十分考慮すべき治療の選択肢である。