日本気管食道科学会会報
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69 巻, 5 号
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特集:アルコールと気管食道科
  • ─広域発がん現象─
    玉置 将司, 大橋 真也, 武藤 学
    2018 年 69 巻 5 号 p. 275-281
    発行日: 2018/10/10
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル 認証あり

    アルコール摂取は,食道扁平上皮癌および頭頸部扁平上皮癌の主要な危険因子である。特にアルコール代謝産物である「アセトアルデヒド」はDNA損傷や染色体異常を誘導し,食道,頭頸部の発がんにおいて中心的な役割を果たすと考えられている。アセトアルデヒドは主に肝細胞内のアルコール脱水素酵素1Bによりエタノールから生成され,次いでアルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)によって酢酸へ代謝される。ALDH2には,遺伝子多型があり,東アジア人の30〜40%が保有する変異型ALDH2ではALDH2活性が低下しているため,アルコール摂取後の血液,唾液,呼気中のアセトアルデヒド濃度が上昇し,この病態が食道および頭頸部における発がんリスクと強く関係している。さらに,食道扁平上皮癌および頭頸部扁平上皮癌はしばしば同時性または異時性に多発し,「フィールド癌化現象」として知られている。本稿では,アセトアルデヒドにより誘導されるDNA損傷を中心に,食道および頭頸部におけるアルコール発がんの機序について最近の知見を含め概説する。

  • 川北 大介, 澤部 倫, 松尾 恵太郎
    2018 年 69 巻 5 号 p. 282-289
    発行日: 2018/10/10
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル 認証あり

    本論文では,アルコールの頭頸部癌への影響について,既存の報告を参考にまとめを行った。まずアルコールは頭頸部癌の確立した発症因子であり,部位別では中下咽頭癌への影響が強いとされている。また短期間でのアルコールの高用量摂取が,少量・長期摂取よりも発症リスクを上げるとの報告がある。禁酒による頭頸部癌発症リスクへの影響については,20年以上の禁酒で非飲酒者と同程度まで軽減できるとするが,重要な点として喫煙との交互作用を考慮する必要がある。アルコールの頭頸部癌発症リスクを考える上では,人種ごとのアルコール・アルデヒド脱水素酵素遺伝子多型の保有率の違いについて考慮する必要がある。最後にアルコールの頭頸部癌生存への影響は,現段階では不明確であり喫煙・飲酒関連疾患による他病死の影響を考慮する必要がある。

  • 西川 裕作, 東田 有智
    2018 年 69 巻 5 号 p. 290-296
    発行日: 2018/10/10
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル 認証あり

    アルコールは多くの疾患の発症や増悪に関わっており,呼吸器疾患においても同様である。誤嚥性肺炎や睡眠時無呼吸症候群はその代表的なものであり,慢性的に飲酒を行っている患者においては注意を要する。またあまり認知されていないが,気管支喘息においてもその増悪因子として重要である。アルコール誘発喘息の機序はアセトアルデヒドを酢酸に代謝させるアセトアルデヒドデハイドロゲナーゼ(ALDH)の活性を低下させるALDH22遺伝子の存在により血中のアセトアルデヒドの濃度が上昇することにある。アセトアルデヒドには肥満細胞からヒスタミンを遊離させる作用があり,その作用によりヒスタミンの血中濃度が上昇し喘息発作が誘発される。また一部の薬剤や食物の中にはアセトアルデヒドの代謝を阻害するものがある。それらによってもアルコール誘発喘息は促進される。この遺伝子は日本人を含むモンゴロイド人種に多く,白人や黒人にはほとんどないとされる。アルコール誘発喘息の診断にはALDH22遺伝子の検査や負荷試験が有用である。その予防にはアルコール含有物質の摂取の回避と薬剤治療としては従来の喘息治療に加え,抗ヒスタミン薬の投与やDSCG(クロモグリク酸ナトリウム)の吸入などが有効とされている。

  • 堅田 親利, 田邉 聡, 山下 拓
    2018 年 69 巻 5 号 p. 297-304
    発行日: 2018/10/10
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル 認証あり

    飲酒に関連したエタノールとアセトアルデヒドはヒトへの発癌性があり,飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝・大腸・女性の乳癌の原因となる(WHO, IARC)。少量の飲酒で顔が赤くなる体質のALDH2ヘテロ欠損型と,飲酒量が増加しやすいADH1Bホモ低活性型は,飲酒によって食道癌と頭頸部癌のリスクを高める。飲酒後は,呼気中と唾液中のアセトアルデヒド濃度が上昇し,アセトアルデヒドは唾液を介して食道粘膜に付着する。このアセトアルデヒドにより,食道粘膜はDNA障害をきたす。食道に多発異型上皮を有する場合,背景食道粘膜内のTP53癌抑制遺伝子変異の頻度は高い傾向がある。ヨード色素内視鏡検査を行うと,食道内の多発異型上皮を多発ヨード不染帯として認識できる。多発ヨード不染帯は,アルコール関連発癌に特徴的な発癌様式である多発重複癌発生(field cancerization)の強力な危険因子である。JEC試験(Japan Esophageal Cohort study)では,食道癌内視鏡治療例に禁酒・禁煙指導を行ったところ,禁酒には異時性食道癌発生を抑制する予防効果があった。

  • 遠山 朋海, 樋口 進
    2018 年 69 巻 5 号 p. 305-312
    発行日: 2018/10/10
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル 認証あり

    2014年にアルコール健康障害対策基本法が施行された。アルコール使用障害特定テスト(The Alcohol Use Disorder Identification Test:AUDIT)を用いた2013年の全国調査では,AUDIT 16点以上(潜在的アルコール依存症)は男性4.6%,女性0.7%であった。しかし,アルコール依存症患者の多くは専門治療を受けていない。新しい「アルコール・薬物使用障害の診断・治療ガイドライン」では,依存症を専門としないプライマリケア医やレジデントが軽症依存症者に対応する際にも有用な内容となっている。原則的に完全断酒の継続が推奨されるが,ケースによっては飲酒量低減も治療目標になり得ることが指摘されている。今後はプライマリケアと専門医療機関の連携が強化され,治療ギャップを埋める取り組みが行われ,ポピュレーション・アプローチが主流になると考えられる。減酒薬ナルメフェンの国内第3相臨床試験が終了している。多量飲酒者が飲酒頻度と量を減らした場合の食道・頭頸部癌予防効果,禁煙との相乗効果も重要な研究課題である。

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